02 真実とウソ
「今日は、スター・カメリアについてのお話をします」
「「すたーかめりあ??」」
あたし達は揃って首を傾げた。
カノンさん達はよくこうして、あたし達に授業をしてくれる。
「知ってる!契約花でしょ?」とシスリーが手を上げた。
「スター・カメリアと契約を結ぶことで、超人的な能力を得ることができるの!空を飛んだり、地面を泳いだり!」
「何それ!!すごい!!」
「俺も空飛んでみてェ!!」
あたしとヴォルトは目をキラキラさせて話に食いついた。
「よく知ってるわね、シスリー」
「へへっ、お母さんがよくダスクと私に絵本を読み聞かせてくれたんだ。でもお伽話でしょ?」
「えー!?ウソなのー!?」
「えー…」
ハーヴィもがっくりしたような声を上げた。
するとカノンさんは
「いえ、スター・カメリアは実在するわ」と言った。
「そうなの!?」
「えぇ。父はそのスター・カメリアの遺伝子を組み替えてみんなの治療を行ってる。見つけるのには苦労したみたいよ。それに、世界にはスター・カメリアと契約を結んだ"ブルーマー"がたくさんいるの」
「へー!!」
「じゃあさ、ブラッド・フラワーは??実在するの??(‼︎)」
ガウルが質問をすると、カノンさんは間髪をいれずに
「その言葉を安易に口にしてはいけません」と強く叱った。
「え、どうして…?」
「なんでもよ。さ、この話はおしまい!」
「えーーーー」
カノンさんはそれ以上話をしてくれなかったけど、あたしには十分すぎるほどワクワクする話だった。
研究所で育ったあたしにとって、外の世界は未知そのものだ。
カノンさんから、みんなから、たくさんの話を聞いた。
ここは雪しか降らないけど、1日も降らないところの方が多いんだって。
海って知ってる?島と島の間を塩水が結んでるなんて信じられない!
外にはどんな人がいるんだろう。どんな冒険が待ってるんだろう。
あたしはきっと外へ出るんだ。
ビョーキを治して、みんなと、一緒に。
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目を開けると、白色灯が眩しく突き刺さった。
「うっ…!」
思わず目を細める。
あたし以外誰もいない。カノンさんは?皆は?
ガシャン!!
体を動かそうとしたが、手首と足首に錠が付けられていた。
「無理に動かん方が身のためだぞ?1048」
「いやまったく…体が傷つく」
レイブン先生とワクラバが部屋に入ってきた。
「あんた達…!みんなはどこにいるの!?」
「まぁ落ち着け。いろいろ聞きたいことはあるだろうが、まず始めにこの研究所の真実を話してやろう」
「真実…?」
レイブンはコクっと頷き、隣の部屋を指さした。
「あの獣達に見覚えはあるか?(⁉︎)」
壁は透明な板でできていて、中の様子が分かるようになっていた。
あたしの中の記憶がフラッシュバックされる。
「ガルルルル…」
「ガウル…シスリー…!」
最初に見た時よりもさらに毛深く、恐ろしくなっている。でも…苦しんでる。
「ほう、お前の目には奴らがまだ人間に見えるのか」
「2人を離して…!!」
「あぁ、離してやるとも。奴らは失敗作だからな(⁉︎)」
そして、ビリリリリ!!!と強い電気ショックが流れる。
「「グワァァァ!!!?!?!」」
耳を塞ぎたくなるような断末魔と共に、2人は…ピクリとも動かなくなった。
ショックのあまり、あたしは嘔吐してしまった。
その口をワクラバがきれいに拭き上げる。
「スター・カメリアの遺伝子から人工的に能力を移植する"人工能力研究所"…それがこの施設の正体だ(⁉︎)」
「……だましてたの?……ずっと…!」
「そうさ。手頃のガキを誘拐してモルモットにしていた」
「じゃあ…あたし達のビョーキは…??」
「全てウソさ!お前たちは病気でもなんでもない(⁉︎)」
あたしは歯を食いしばった。こんなに怒りを覚えたことはない。
「みんな家族に会いたがってた!!治ったら、絶対に会いに行くって!!カノンさんだって…」
その時、ハッとした。まさか…そんなはずは…
そんなあたしを見て、レイブンが恐ろしい事実を話した。
「察したと思うが、カノンも共犯だ。俺の研究内容をやつは全て知ってるからな(⁉︎)」
あたしは掠れた声で
「うそだ…!」と言ったが、
「嘘ではない。あいつはこの真実を全て知った上でお前たちと接し、俺の研究を手伝っていた」と一蹴された。
「うるさい!!!もうあんたの言葉なんか何も信じない!!!」
「アレン(‼︎)」
入り口から入ってきたのは、カノンさんだった。
「カノンさん…」
あたしは震える声で彼女の名前を呼んだ。
カノンさんはただ目を逸らして、何も返してくれなかった。
「2人の様子はどうだった?」
「泣き喚いていますが、薬の投与は抜かりありません」
「良い良い。直にあの3人も野生の力が発現するだろう…」
あたしは今にも泣き出しそうだった。
「あとは頼んだぞ、カノン」
「はい、お父様」
甲高い笑い声と共に、レイブンとワクラバは部屋から去っていった。
カノンさんは無言でモニターと向き合っていた。
「カノンさん…」
カノンさんの動きがピクッと止まる。
「ウソって言ってよ…」
「…嘘じゃない。全部演技だった。すべては父の研究を完成させるため。あなた達には悪いことをしたわ」
「あたしの知ってるカノンさんはこんなことしない!!」
「聞き分けの悪い子ね。演技だと言ったでしょう?あなたが知ってる私は、本当の私じゃない」
カノンさんはあたしの方を向いて言葉を続けた。
「驚いたでしょう。絶望しているでしょう…2人があんなにも早く獣化するとは思わなかったけれど、これはいずれは知るべき真実だった」
カノンさんはいつものより不気味に笑った。
そしてあたしに近づき、顔を両手で優しく包み込んだ。でも…その手は少し震えていた。
「泣かないで、アレン。愛しい子。怖かったわよね。でも安心して、あなた達もすぐ2人と同じ場所は逝けるわ」
どうしてだろう。言っていることはカノンさんじゃないのに…心が叫びたがってることを、あたしは言った。
「どうして…ウソを吐いてるの?(‼︎)」
そう聞くと、カノンさんは首を傾げた。
「…だから言ったでしょう?あなた達に嘘を吐いてたのは…」
「違う。カノンさん、自分にウソついてる(⁉︎)」
図星だったのか、カノンさんは目を見開いてあたしを見つめた。
…あたしは昔から、隠れんぼが得意だった。
うまく言えないんだけど、人の周りにモヤみたいなものが見えるんだ。「気配」に近い。
普段それは人を包むように纏ってるんだけど、怒ったり、ドキドキすると、それに合わせるように大きく揺らぐんだ。
だから、隠れんぼでは簡単に人を見つけることができた。
でも他のみんなには見えないみたいだったから、誰かに言ったことはなかった。
「まさかあなた…"心波"を感じれるの?」
「え…?」
「そっか…そっか…!」
カノンさんは涙を流しながら、でも嬉しそうに笑った。気配が、いつものカノンさんに戻った。
「私はこれまで…何人もの子供たちの命を見捨てた。ガウルもシスリーも…見殺しにした。それでも私を…私を信じてくれる?」
答えは、最初から決まってる。
「信じるよ。だって、カノンさんだもん(‼︎)」
そう言うと、カノンさんは余計涙が溢れてしまったようだ。
「…私は父を止めるためにここにいる。…恥を承知で頼むわ。お願い、アレン。父を助ける、手伝いをしてほしい(‼︎)」
〜あまり役に立たないキャラの裏設定〜
※()の中はラボ在籍年数
・ガウル 10歳 (3年) しっかり者、リーダー的存在。
・シスリー 9歳 (2年) 姉貴肌、ダスクの姉。
・ダスク 7歳 (2年) 甘えん坊(特にシスリーに)、シスリーの弟。
・ヴォルト 6歳 (2年) やんちゃ、よくアレンと喧嘩する。
・アレン 5歳 (5年) 元気はつらつ!髪の毛が水色。
・ハーヴィ 4歳 (1年) 掴みどころがない雲みたいな子。みんなのお気に入り。