01 すべての始まり
「さーんっ、にーっ、いーちっ、ぜろ!いっくよー!」
あたしの名前は、アレン。今ルームのみんなで隠れんぼをしてるの。あたしが鬼。
「ガウル、みーっけ!!」
「うわ!?」
隠れんぼは好きだ。なんでか知らないけど、あたしは前から人を見つけるのがとても得意だった。あたしはカーテンを思いっきり開けた。
「シスリー、ダスク!みーつけた!」
「ゔぇ!?もう!?」
「ふん、最初から勝つ気なんてないし」
あたし達は家族でもなければ血の繋がった兄弟でもない。
年もバラバラ。
でもあたし達の共通点、それは不治のビョーキにかかってるってこと。
「そこの天井裏にヴォルトいるでしょ?」
「ちくしょう、なんで分かるんだよ!!」
「へへーん!」
今、このルームは全部で6人いる。ビョーキが治った子は元いた島に帰るから、その時によっている人数は違うけど今は6人だ。もう4人捕まえたから…
「さーて、残るは…(‼︎)」
あたしはワンピースの裾を引っ張られていることに気づかなかった。
「アレン、お腹空いたよぉ…」
それは、ルームで最年少のハーヴィだった。あたしはハーヴィの両肩に手を置いた。
「ハーヴィ、つっかまえた!」
「んー?」
「ハーヴィ、隠れんぼは出てきちゃダメなんだぞ!」
「そうよ!」と、ガウルやシスリーが言っても、ハーヴィはただあたしにお腹が空いたと縋りついていた。本当に可愛らしい弟だ。
研究所での生活は本当に楽しい。
みんながいるから、辛い治療も耐えられる。
でも…あたしだけ、違うんだ。
「はーいみんなー、お遊びはおしまい!」
「「カノンさん!!」」
あたし達はカノンさんの周りに集まった。
カノンさんはとにかく美人だった。
黒髪長髪で、スラっとしてて、声も透き通ってて、優しい。
カノンさんはレイブン先生の娘で、先生のお手伝いをしている。みんなカノンさんが大好きなんだ。
「今日は週に1回の検査の時間よ。準備を始めてちょうだい」
「えーー、嫌だよ検査〜〜〜!!」
「注射痛いし…薬ニガイし…もう行きたくない!」
いつもの如く、ヴォルトとダスクが駄々をこねる。
そしてまたいつもの如く2人の頭をシスリーがボコんと殴る。
「あんた達ほんとバカね!?レイブン先生は私たちのビョーキを治すためにわざわざここに連れてきてくれたんだよ!じゃないと、ママやパパにビョーキを移しちゃうから!」
「分かってるよそんなこと!!」と、ダスク。
「じゃあ行かなきゃ!ママとパパに会いたくないの!?」
「2人とも、落ち着いて!」 ガウルが仲裁に入る。
2人が落ち着いたところでカノンさんが話を始めた。
「先生はね、みんなに1日でも早く治ってもらえるように頑張ってるの。好きで痛い想いをさせてる訳じゃないのよ?」
その優しい声が、あたし達の恐怖心を和らげてくれる。
「ビョーキ治ったら…ママとパパに会えるの?」
「勿論よ。先に出て行った子供たちはパパとママの元に戻っているわ。だから、みんなも頑張ろう!それに…検査が終わった人から私がご褒美にアメちゃんをあげる!」
アメちゃん!みんながその言葉に反応する。
カノンさんがくれるアメは本当に美味しいんだ。
「おれ…頑張る!」「俺も!!」「私も頑張る!ママとパパに会うんだ!」
カノンさんはニコっと微笑んだ。あたしはカノンさんのこの笑顔が大好きだ。何よりもカノンさんの笑顔で、皆頑張ろうって思えるんだ。
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検査は1人1人時間をかけて行われる。あたしはドアをノックした。
「アレンです。お願いします」
「入りたまえ」
あたしはドアをゆっくりと開けた。
「よく来たね、1048。さぁ、今日も治療を始めよう。そこの机に横たわってくれ」
この人が、レイブン先生。
この研究所の所長で、あたし達のビョーキを診てくれてる。
片方ずつ義眼に義手、義足までつけているから見た目はかなり怖い。
でもカノンさん曰く、実力は確かみたいだ。
これまでも何人もの子供たちを治してあげてる。
ちなみに1408というのは、あたしの検査番号だ。
「今日はいつもと違う薬を入れてみよう。ちょっと痛いかもしれないけど我慢するんだよ」
「はい…」
――長い長い検査が終わった。
「今日はここまでだ。お疲れ様」
「先生…あたし、どうですか?」
「どうだ、ワクラバ?」
この研究所にはもう1人、助手のワクラバがいる。
レイブン先生とは長い付き合いのようだ。
「えぇ…非常に良い状態です。レイブン様」
「そうか…!」
「えぇ、ブラッド・フラワーの力に頼らずとも先生の腕にかかれば…!」
「そこまでだ、ワクラバ。患者の前だ」
「おっと、これは失礼」
2人はとても嬉しそうに顔を合わせた。あたしは何のことかさっぱり分からなかった。
そんなあたしを察してレイブン先生は
「大丈夫、君たちは特別なんだ。特に君は、ね。必ず私が治して見せよう」と言った。
「また来週」「はい…ありがとうございました」
あたしは検査室を出た。
ルームに戻ると他の子たちは検査に疲れてか、ぐっすり眠っていた。
そこにはカノンさんもいた。カノンさんはあたしを見つけると
「アレン、お疲れ様。これ」と渡してくれたのはご褒美のアメちゃんだった。
「ありがとう!カノンさん!」
「顔が疲れてるわね、今日も大変だったんでしょう?」
「まあね。でも大変なのはみんな一緒だから。あたしも頑張れるんだ」
あたしはアメちゃんを頬張りながら言った。今日はいつもよりすっぱい味がした。
「ねぇ、カノンさん」
「…なに?」
「ガウルにもヴォルトにも、シスリーにもダスクにも年下のハーヴィにも、動物の耳とかしっぽとか。ちりょーの効果が出てるのに、どうしてあたしには出ないの?あたし、カノンさんに助けられて生まれた時からここにいるんでしょ?なのにどうして?」
前にカノンさんが教えてくれた。
レイブン先生はあたし達の中に動物の力を宿らせることによって、内側からビョーキを治すと。
実際、みんなにはその効果が出ている。ビョーキが治ってると喜んでる。
でもあたしだけ…少しも出る気配もないんだ。
「誰に聞いてもみんなちゃんと答えてくれないじゃん。あたし…怖いの」
あたしは涙ぐみながら聞いた。
カノンさんはあたしの頭を優しくさすりながら
「そうね…アレンも大きくなったことだし、そろそろ話してあげていいかもしれないわね」と言ってくれた。
あたしは息を呑んだ。ついに話を聞けるんだ。
カノンさんが真実を話そうとしてくれた…その時。
「うっ……ゔぅ…!!!!(⁉︎)」
さっきまで寝ていたガウル、そしてシスリーがうめき始めた。2人の声でヴォルト、ダスク、そしてハーヴィも目を覚ました。
「嘘…でしょ」
カノンさんは顔を真っ青にしていた。
「ヴゥゥゥゥ…!!」
「ガウル??姉ちゃん??」
ダスクが2人に手を伸ばそうとした。
「危ない!!!(⁉︎)」
「ヴァァァァ!!!!」
間一髪のところでカノンさんはダスクを守った。
襲ったのはなんと、姉のシスリーだった。
ヴォルトもハーヴィを抱えて慌てて2人から離れた。
誰だ…あれは。
2人とも全身毛深くなっている。まるで本物の…獣のように。
「カノンさん!!!」
カノンさんは腕から血を流していた。
「姉ちゃん!!姉ちゃん!!!」
ダスクは必死にシスリーに声をかけるが、声はまるで届いていなかった。カノンさんがシスリーに近づこうとするダスクを必死に守っている。
「アレン!!ヴォルト!!ハーヴィ!!3人とも部屋の外へ!!私は大丈夫だから!!」
「カノンさん!!」
「ヴゥゥゥゥ…(‼︎)」
獣化したガウルがあたし達3人の方に近づいてきた。
ガウルが襲う直前、あたしはガウルがハーヴィのいる方を狙うように感じた。
なんで分かったのか分からない。ただ、そんな気がしたんだ。
「ヴァウッッ!!!!」
予想通りガウルはハーヴィとハーヴィを抱えたヴォルトを狙った。
あたしは近くにあった消火器を持ち上げ、ガウルにぶつけた。
「キャンッッ!?ウゥゥ……」
ガウルがあたしに狙いを定めた。
(どうしよう…)
「アレン!!!」
「アレン逃げて!!!」
遠くからカノンさんの声がするが、シスリーが行手を阻んで動けない状態だ。
あたしはどうしようもできなくてただ叫んだ。
「ガウルやめて!!あなたはこんな事をする人じゃない!!お願い、元のガウルに戻って!!!」
その時。
プシューーー (‼︎)
後ろからガスのようなものが噴射された。
レイブン先生と助手のワクラバだ。
「下がってなさい、ガスを吸ってしまうから」
ワクラバにガスをかけられたガウルはその場でバタンと倒れた。奥にいたシスリーも倒れている。
ダスクがシスリーを一生懸命起こそうとしている。
カノンさんが声を堪えて涙を流しているのが見える。
後ろにいたレイブン先生に連れられてあたしはルームの外に出た。
「ねぇ…あのガスはなに??」
「睡眠ガスさ。あーなっては誰にも止められないからね」
「どうして2人はいきなりこんな風になってしまったの?」
「いきなり?いいや、2人はなるべくしてなったのさ(??)」
レイブン先生は2人に…いや、全員に向けて言った。
「おめでとう諸君!!これより晴れて!君たちは最終ステージに移行することができる!!」
あたしは怖くなってこの場から逃げようとした。
でも、飛び道具のようなもので足枷を付けられてしまって動けなくなった。
「うっ…!」
ここはバッサム島。島の中心に唯一建つこの"研究所"だけが、あたしの世界だった。
「さて…始めるか、ワクラバ」
「承知致しました、レイブン様」
初めまして、御稲荷 薫と申します。
ブラッド・フラワー始まりました。
ご愛読いただければ、幸いです。