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残機5つの高校生  作者: 和泉 楓
第一章 『焦燥と異世界』
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第一章7話 『恩人以上』

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「なんで俺の名前知ってんの」

 先ほどまでは覇気のなかったアセビの目がほんの少し何かを孕んで俺を見据える。それは警戒の念か、はたまた殺意か。汗が吹き出し、毛が逆立つ。俺は蛇に睨まれたかのように身が竦んでししまう。

 ナズナが、今回は一度も遭遇していなかったアセビの名前を出したのは一種のプレミに値する。それはアセビにいらぬ警戒をさせてしまい、今後の行動が激化しかねない。

「君はここで何をしようとしていた」

 そんなナズナを他所にモンクシュットは腰の剣に右手を掛けて臨戦態勢に入る。その姿は一部の隙もなく、口調はいたって冷静。しかし、その声色は怒気を含んでいるように低く威圧する声色になっている。

 そして、右手を左の腰に携えた剣に添えている。いつアセビが間合いに入ってきてもいいように、そして間合いに入ったらすぐに剣を抜けるように、全神経を尖らせながらアセビに問いかける。

 今、ナズナが何をしても、モンクシュットの邪魔になってしまうのだと、ナズナの直感がそう告げている。

 そこに恐怖心が付与された結果、ナズナが選んだのは沈黙。正確には声を出そうにも喉に詰まって声が出ない。

「言う必要あります?この手に持ったもの見て」

 そう言って、ナイフを人差し指と親指でつまみ、顔の前で遊ばせる。

 頬を緩めて声色は柔らかい。その行動の真意は、モンクシュットの問答に真面目に答えるつもりは無い。さらには、ナイフをくるくると回して、挑発をするような態度をとる。

「そうか、愚問だったな」

 しかし、モンクシュットはいたって冷静に、会話を進める。騎士であればこの手の挑発をするような悪党を相手にすることも多かったのだろう。

 しかし、臨戦態勢は一切解くことは無く、それどころかモンクシュットの間合いが少し広がった気すらしてくる。

「武器を捨て、両の手を頭の後ろに組め」

 モンクシュットがアセビに対して降伏を要求する。戦闘が無ければナズナにとってもベストだ。アセビの実力は確か。モンクシュットを信用していないわけではないのだが、ナズナはアセビに2度も殺された身であるため、極力アセビとの戦闘は避けたいと考えていた。

 しかし、アセビがこの要求を呑むとは到底思えない。アセビだって捕まりたいはずなど到底ない。ここで捕まらなければチャンスはいくらでもあるのだから、逃げる隙を見せたらすぐにでも逃げるに違いない。

「嫌ですよ。捕まりたくないですもん」

 両手をひらひらとさせながらモンクシュットへの挑発を続けるアセビ。やはり、降伏する気はないらしい。

 しかし、モンクシュットの表情は変わらず、感情が波立っている気配もない。ただただ冷たい目をアセビに向け続けている。

 アセビは捕まる気はないし、モンクシュットだって逃がす気など毛頭ない。だからと言ってモンクシュットが先に斬りかかってしまえばアセビに隙を突かれて逃げられてしまう可能性すらある。

 その為、この2人の押し問答は平行線のまま終わりを迎えることはないだろう。

「はあ......じゃあ俺は」

 大きくため息をついてから、アセビが膝を曲げる。顎をあげて上を見る。何をする気なのだろうか。考えられる行動は跳躍と突進。

 しかし、先ほど歩いてみたナズナの体感では跳躍したところで飛び越えて逃げられそうなものはない。それもそのはず、この辺りには貴族の屋敷しかない。

 そして次に突進。こちらは自殺行為に等しい行為だ。モンクシュットは未だ臨戦態勢を解いてはいない。そんなモンクシュットに自分から突っ込んでいくことはありえない。

 そのため、アセビの行動が何につながるのかが全く見当もつかない。

「逃げるとしますか」

 高く飛んだ。ナズナの中にある身体能力に対する常識、ひいては地球に住む人類の持つ常識ではありえないほどの跳躍を見せて、ナズナたちの頭の上を超えて屋敷の屋根へと着地した。

 その行動はナズナが思考の中で捨ててしまった選択肢。ナズナの常識の中では捨ててしまうのが当然の選択肢であった。そのため、反応が遅れた。第一反応していたとしてもその跳躍に対して何かできたとは思えない。

 そして、それはモンクシュットの間合いにも入っていなかった。モンクシュットの間合いはナズナの憶測にはなるが、1歩踏み込んでから剣を振るったときの距離だろう。その憶測が幸か不幸か正解していたのだろう。モンクシュットですら虚を突かれる。

 その間にアセビは屋敷の屋根の上を走り、少しずつ遠ざかっていく。

「どうすれば......」

 屋根の上を走るアセビを睨みつけながら、口から言葉が零れる。

 もちろんナズナには2階建ての屋敷の屋根にほんの一瞬で登れるような跳躍力はないし、地面を走って追いつく脚力もない。ナズナの持ち得るものでは、アセビを追うための策がない。どうすればいいのか。思考を巡らせる。

 しかし、王都の地理も分からず、追いつくための力も戦う力もないナズナの頭に策が浮かぶことはない。

「僕が追おう」

 そんなナズナとは違い、咄嗟に、屋根の上を逃げるアセビに対しての対抗手段を講じるモンクシュットの声に、はっとする。

 今の自分は1人ではないと思い知らされる。

「ナズナは中の安全確認を。それが済んだらすぐに追ってくれ。僕があいつに追い付いたら魔法で合図を送ろう」

 わかったと答えるよりも早く、モンクシュットが屋根へと飛び乗る。当然だが、こちらもものすごい身体能力だ。そして、モンクシュットはアセビの後ろ姿を追って屋根の上を駆けていく。

 屋根の上を走るモンクシュットの後ろ姿に視線で言葉なきエールを送り、俺は屋敷の扉に向かう。そのエールは直接届くことはないのだが、無言の同意でナズナの心は通じているに違いない。その証拠にモンクシュットが小さく頷いた気がした。

 門を抜けて、扉に手を掛けようとしたとき、自分の手がひどく震えていることに気が付いた。

 距離にしてほんの20メートルほど。それよりも短いかもしれない。それにも関わらず冷や汗をかき、息が切れて、自分の心臓の音がスピーカーで爆音でそれも耳元で流されているのかと思うほどに聞こえてくる。

 思い起こされるのはあの時の光景。血にまみれた惨状。あの時とは何もかもが違う。第一、アセビの持っていたナイフに血はついていなかった。それを信じるのであれば、まだ屋敷内の惨状は起こっていないはずである。

 それでも、この扉を開けてみるまでは真実はわからない。もうすでに事が済んでいたらどうしよう。悪い結果ばかりがナズナの頭の中をぐるぐると巡っていく。

 そんな思考を押し殺すように、アイリスは無事だ、大丈夫だ、と自分自身に言い聞かせながら、一つ大きく息を吐いて扉に手をかける。

「頼むから、無事でいてくれ」

 ナズナが恐る恐る扉を開くと、そこには一人の少女が居た。

 大きな口を開け、片手は扉に伸ばしていながらも、もう片方の手で口元を抑える少女が居た。金髪に翡翠の瞳。間違いなく、アイリスの姿だった。


「ア......」

「どうかされましたか?」

「アイリス!」

 ナズナは喜びのあまり、アイリスの両の肩をつかむ。その華奢で細い肩を掴んだ手のひらから伝わってくる温もりに、アイリスが生きているということを確認する。その優しい暖かさに、ナズナの目からは予期せず涙が溢れる。

「はい、アイリスですが、あなたは?」

 アイリスが無事であるという事実を確認したナズナの声に、アイリスは驚きと疑問の心で問いかける。

 一度もあったことのない人物は、なぜ自分の名前を知っているのか、この人は果たして何者なんだろうか。そして、なぜ泣いているのか。

「よかった......無事で」

 ナズナ目からはの涙が溢れて止まらない。正直アセビとこの屋敷の前で遭遇してしまったときは一貫の終わりかと思ったが、アイリスはこうして、五体満足の状態で立っている。 アイリスを殺させないという目的は達成した。しかし、作戦が成功したわけではない。アイリスの肩を離して、涙を袖で拭い、真剣な顔を作り直す。

「あの、外が騒がしいみたいでしたが何かあったのでしょうか?」

「ああ、これから大事なことを伝える。信じられないかもしれないけど、全部本当のことなんだ」

 一つ、咳ばらいをして心の平静を取り戻す。前回のように信じて貰えなかったらなんて考えている暇はないのだ。ナズナがアイリスを見つめると、アイリスもまた真剣な目でナズナを見ていた。

「君は命を狙われている。誰の差し金かもわからないし、目的も分からない。それを突き止めに俺は今から実行犯を捕まえに行く。絶対にいい知らせを持ってくるから、君はここで待っていてほしい」

 言いきった。頭の中はごちゃごちゃになりながらも言い切った。あとはアイリスの返答を待つだけ。信じて貰えないのならば信じて貰えるまで何度でもこの真実を伝える。そんな覚悟をナズナは持っている。

 アイリスは言葉を発することなく、顎に手を当てて、何かを考えるようにしてうつむいている。無理もない、急に命の危険を知らされたら誰だって困惑する。

 そして、アイリスは10秒ほど考え込んで、「信じる」とうなずいた。

 その返答はナズナが待ち望んだもの。歓喜の雄たけびをあげたくなるほど求めていたもの。

 しかし、アイリスの一言で現実に引き戻される。

「雪......?」

 アイリスが外を見ながら呟いた言葉に疑問を持つ。昼間の王都は暖かく、季節は夏、もしくは春のどちらかだと思っていた。

 ナズナが慌てて振り向くと、貴族街から離れた場所、大通りよりも商業街よりも向こう。恐らく貧民街であろう場所に現れた、空を突きささんばかりに上へと伸びた氷の柱が見えた。

 氷の魔法で作られた氷の柱。モンクシュットは追い付いたら魔法を使って何かしら合図を送るから、それに向かってきてほしいと言っていた。そして、モンクシュットは氷の魔法を扱うと、ここに来る道中での会話の中で言っていた。

 それらを加味すると、王都に突如として現れた氷の柱は、モンクシュットが俺に向けて送った合図、そして道しるべと考えていいだろう。

「俺、行かなきゃ」

「待って!」

 体を翻して、氷の柱へ向けて走り出そうというナズナのジャージの上着の裾をつかんで引き留める。

「なんで、ここまでしてくれるの?私はあなたの名前も知らないし、あなただって私と会うのは初めてのはず。それなのに」

 初めて会ったという認識は、今回の世界においてのアイリスにしてみれば適切な回答だ。

 だがそれ以前、ナズナの記憶の中にしか残らない世界では、もうすでに命を救われている。

 例え、ナズナ以外の誰も知らなくても。ナズナ以外の誰の記憶に残っていなくても。それでも、確かに彼女は。

「君は、俺の恩人だからさ」

 それはずっと伝えたかった言葉。ろくな感謝も言えないままに命を奪われてしまった彼女にどうして言いたかった言葉。このためにナズナは言葉通り自分の命を投げうってまでも王都を奔走したのだ。

 笑みを浮かべてそう言うナズナの言葉にあっけにとられた表情を浮かべるアイリス。そんな彼女を置いて、ナズナは再度体を翻し、貧民街へ向けて走り出す。

 知識も、戦闘能力も皆無の俺に何ができるのかは俺自身が一番わからない。それでも、俺自身の目で事の顛末を見届けなければならない。

 様々な種族がごった返す大通り。種族、年齢、性別。誰一人として同じ人はいない。しかし、今とっている行動は同じ。王都に突如として現れた氷の柱に目を奪われて立ち止まっている。

ナズナはそんな人込みをかき分けながら、氷の柱を目掛けて走る。

 そして、大通りと全く変わらない光景の商業街を抜けて、貧民街へと突入する。

 見覚えのある貧民街に到着したナズナの目に入ったのは、地面に突き刺さった氷柱のようなものや、冷気を帯びた草木、点在している家やテントまでもが氷漬けになっている。また、モンクシュットにはじかれたであろうアセビのものと思われるナイフも散乱していた。その中心に佇む2人。そのほかに人の気配はない。元々人が住んでいないのか、もうすでに避難を終えたのか。

 そんなナズナを他所に、両者ともに武器を構えており、今は激しい戦闘の小休止。一種の膠着状態ともとれる。なのだが、

「お疲れじゃないっすか」

 2人が浮かべている表情には差があるように見える。アセビは幾分か余裕のある表情を浮かべており、その余裕を見せつけるかのようにモンクシュットを挑発する。

だが、その一方でモンクシュットの表情はどこか険しい表情にも見え、息も少し切れているようだった。

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