第一章6話 『エンカウント』
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騎士団詰所で、王国騎士団に所属する騎士モンクシュットの協力を得て、ナズナたちはまずは貴族街に向かうことにした。
前回のことを念頭に置くならば、アセビと接触するのはいつも商業街であったため、まず第一に商業街へと向かうのが最善だと思われたが、ここで商業街に行こうというのはあまりにも怪しすぎる。
ナズナは貴族街に怪しい人物が居ると言ったためここで別の場所にというのは敵の一味だとも捉えられかねない。
ここは大人しくモンクシュットが見回ることに賛同しようと思う。
その見回りの最中に気付いたことだが、モンクシュットは貴族、商人、平民問わず様々な人と友好的に接しており、その逆もまた然りだった。
これは王国騎士であるというのもあると思うが、それだけで片付けられることではないと思う。モンクシュットの人柄も現れているのだと思う。どんな種族、職種、年齢の人にも笑顔で接しているので、普段からもこうなのだろう。
これでナズナの懸念点の一つ、俺よりも言うことが信用されているという点はクリアされた。これなら、モンクシュットが居ればナズナの発言にも信憑性が生まれる。
そしてもう一つの懸念点、
「ぶっちゃけ、モンクシュットって強いの?」
もう一つの懸念点とはアセビと交戦した場合だ。
この作戦においてのモンクシュットの戦闘力は何よりも重視される。
ナズナが戦闘面としては全くもって使い物にはならないという点を考慮すると、何としてもモンクシュット単騎でアセビを攻略してもらわねばならない。
ナズナの質問にモンクシュットは考えながら低く唸り、口を開く。
「まあ、強いと思うよ。剣の鍛錬を怠ったことはないし、魔法もちょっとしたものだからね」
はははと笑いながら、左手を腰に携えた剣にあて、右手には冷気を纏わせながらそう言うモンクシュットからは絶対なる自信が見て取れる。
恐らく、モンクシュット自身が言った強いと思うというのは嘘でも誇張でもないのだろう。初見の気迫も考えると、モンクシュットの言葉は信じてもいい。
王国の人から騎士として信用されているというのはモンクシュットにそれだけの実力も備わっているということだ。
それにしても、冷気を纏ったその右手。
「やっぱ、モンクシュットも魔法使えるんだな」
モンクシュットのそれが魔法なのだとすると、アセビに触れられて力が抜けたのも魔法の力なのだろう。触れられただけで力が抜けるなんて魔法しか考えられない。
「まあね。ナズナは何属性の魔法を使うんだい?」
「何属性の魔法?冗談言うなよ。俺は18年間、魔法なんかとは無縁の生活を送ってきたんだから、魔法なんか使えるわけないだろ」
ナズナの言葉にモンクシュットは目を丸くする。事実、魔法なんて使えるはずもないのが常識の地球出身だからナズナの発言は至極当然の発言のはずだが、今いるこの世界においては口にするべきで無かった。ただでさえ怪しいのにも関わらずさらに怪しまれてしまう。
「君はとことん不思議な奴だなぁ。強い弱いはあれども、みんな何かしらの属性に適性を持っていて、魔法が全く使えないなんてことはありえないはずだけど......」
モンクシュットによると、この世界に生きるある程度の知能を持つものであれば、モンクシュットの氷を扱う魔法だったり、アイリスの治癒魔法のように何かしらの魔法適正が備わっていると言う。
その為、現在この世界に生きているナズナが魔法を使えないと言い放ったのはありえないことなのだ。
なのでモンクシュットが疑問に思うのも当然だ。ナズナは格好こそ王都で見られるような服装とは違うものの、この世界とは別の世界から来ていることは当然伝えていないし、モンクシュット自身もそんなことは思っていないはずだ。格好のことを加味してもこの世界の別の国から来たと考えるのが妥当だ。
だが、ナズナの不用意な発言によってモンクシュットの協力が無くなることだけは避けたい。何か、話題を変えねば。
「そう言えばさ、騎士の家系って言ってたけどやっぱり親も騎士なのか?腰の剣も他の騎士とは違うよな?」
苦し紛れに、モンクシュットの思考を遮るように話題を変える。腰の剣について気になったのは事実だ。他の騎士よりも立派な、柄が濃紺色の剣を腰に掛けていたため少し変わっているとは思っていた。まあ、左肩に竹刀入りのケースをかける俺も変わり者に見られているかもしれないが。
「ああ、祖父も父も立派な王国騎士だったよ」
そう答えたモンクシュットは、表情が少し暗くなり空を見上げた。まるで、もうこの世にはいない人を悼んでいるかのように、見上げていた。
「だったってことはもう引退したりしてるのか?」
「祖父はね。父は、もうこの世にはいない。この剣もその父の形見さ」
剣を撫でるモンクシュット。穏便な話題転換をするつもりが、見事にモンクシュットが抱える地雷を踏みぬいてしまったかもしれない。その表情は、悲しんでいる表情というよりはどこか怒りの表情にも見えた。
「その、悪い」
「いいよ、もう割り切ったことだ。僕の話なんかよりも君の話を聞かせてくれ」
「俺の話?」
「君は不思議なことだらけだからね。まずは、そうだな、出身地はどこなんだい?君の肩にかかって
いる物は訓練用の木刀には見えない」
モンクシュットの表情は先ほどとは一転して、ナズナという未知に対して目を輝かせる。好奇心旺盛な子供のような顔だ。
しかし、出身地ときた。これはまた聞かれたくないことを聞かれた。竹刀に関しては別に話してもいいと思うが、出身地についてはここでも下手なことは言えない。
「あー、その言いにくいんだが、実は俺、あんまり記憶がないんだよね」
「記憶が無い......それはもしかして迷い子というやつかい?」
「そうそう、それ」
一度アイリス相手にも通用した、記憶喪失のフリ。その時にアイリスが言っていた、記憶が無く、行く当ても持たない人のことを迷い子と呼称するということを覚えておいてよかった。
残念だ、と肩を落とすモンクシュット。実際、ナズナに向けた好奇心はものすごいもので、その気持ちには一転の曇りもなかったのだろう。
そんなモンクシュットをまあまあと宥めている最中に二人はは貴族街へ着いた。
日は傾き始めていて、二人が見上げる空はオレンジ色に染まっている。
「もう夕刻か。すまない、今日は細かいところまでは見て回れないね」
「だな」
長話をしてしまったことを謝るモンクシュットには申し訳ないが、本当に重要なのは今日ではなくて明日だと思う。前回のループでのアセビの言葉を信じるならば、アイリス殺害を結構するのは明日のはずだ。
しかしそれも、商業街で発生するアセビとのエンカウントイベントがなかったため断言はできない。
今持っている情報は確定した情報ではないため、今の俺にはアイリスの無事を祈ることしかできない。
「今のところ怪しい人物は見かけないね」
様々な貴族のものであろうお屋敷が並ぶ厳かな雰囲気で委縮してしまうナズナを他所に、モンクシュットはえらく落ち着き払っている。騎士という仕事柄、貴族と接する機会も多いためこのような場所には慣れているのだろう。
「おお、そうだな」
そんなモンクシュットとは対照的にナズナは額に冷や汗をかき、言葉も震えている。前々回も貴族街を歩いたはずなのだが、その時はこの場とは異なるアイリスの柔らかい雰囲気に当てられていたため、政争や陰謀がどす黒く渦巻く貴族街という認識は全くなかった。
「大丈夫かい?声が少し震えているようだし、表情も少し硬いな」
「あ、ああ全然大丈夫」
この貴族街の空気に加えて、それにビビっているのがモンクシュットにバレバレであることにも動揺を隠しきれずにぎこちない返しになる。しかし、いい加減ビクビクしている暇ではないと両手で頬を叩いて喝を入れる。その後、もう一度頬に手を当てて表情筋をほぐす。
「いい表情だ」
モンクシュットの呟きにナズナは少し顔を赤くする。モンクシュットとしては聞こえていようがいまいが関係のない呟きだったのかもしれないが、ナズナにとってはその呟きがえらく心に刺さったのだ。間違いなくモンクシュットは強い。そのモンクシュットに褒められたという事実が今のナズナには自信として必要だったからだ。
「止まって」
先ほどとは打って変わって表情の緩んでしまった俺をモンクシュットが右手で壁を作り静止する。その右手にぶつかってモンクシュットの表情を見てみたがほんの3分前の緩い表情は無く、警戒心をあらわにした、戦う騎士といった印象を受ける顔だった。
「何かあったのか」
「この屋敷、何か変だ」
そう言ってモンクシュットが指した場所。その場所には見覚えがある。
「ここって......」
そこはまさしくアイリスが住む屋敷。まさかとは思うが、そこにアセビがいるというのだろうか。アセビがアイリスを殺すのは明日のはずではなかったのか。
「姿を見せろ。暗殺者よ」
モンクシュットが門の向こうに、咎めるように呼びかける。当然俺には何が見えているのか、何を感じているのかはさっぱりわからないが、モンクシュットがそこに何かを感じているというのが何よりの証拠だ。
モンクシュットが何かを感じて急に後ろを振り向く。そこに立っていたのは。
「王国騎士にはかなわないね」
その声に背筋が凍る。振り向くとそこに立っていたのはあの青年。目のクマ、猫背、覇気のない喋り方。そして、手に握られたナイフ。俺を二度殺した男を誰でもない、俺自身が間違えるはずが無い。それでもやはり目は見えない。モンクシュットには見えているのだろうか。
それにしても最悪だ。仮説が全部狂っている。昨日もナズナがエンカウントイベントを起こしたからこそアイリス殺害が明日になっていただけで、あの時にアセビが口にした「作戦に変更はなし」というのはすでに変更された作戦から変更しないというだけだったのだ。
その点でいえば商業街に行こうと言わなくてよかったが、作戦を練れなかったのは痛い。
「アセビ......!」
アセビと、四度目の望まぬエンカウントを果たした。
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