第二章1話 『目覚めは快調』
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柔らかい。そんな感触と共にナズナは目を覚ました。
寝ぼけた目に飛び込んできたのは真っ白な天井。首だけを動かせば火のついた燭台。この世界の文明レベルを考えれば電気を使うことはないと思っていいため、おおよそ魔法で照らされているのだろう。
ゆっくりと上体を起こしてから自分自身の現状を確認する。
今いる場所に覚えはない。候補はいくつか見当たる。モンクシュット、もしくはアイリスの屋敷だ。しかし、目覚めたときに目に入った天井は見覚えが無い。
そして、ナズナの中に残っている一番新しい記憶は貧民街にてアセビの凶刃をその身に受けた影響で出血多量となって意識を失ったことだ。その時に死んだ。ナズナはそう思っていた。
死んだ?
そこまで考えて意識が完全に覚醒する。ナズナは慌てて自分の体を確認する。よくよく見てみれば服装は高校指定のジャージではなくバスローブのようなものを纏っていた。
そのバスローブを少し緩めてナイフを刺されていた場所を確認する。
「塞がってるな......」
三か所全て確認するもそこに傷跡は一切見当たらない。恐らくアイリスが治癒魔法をかけてくれたのだろう。モンクシュットは自身の魔法は氷だと言っていたし、他の騎士が来て治療するにしてはあの時のナズナには時間が無い。
それにしても、現代医療でもこんなにきれいに塞ぐなんてことは、縫い合わせているのでできないと思う。この世界の治癒魔法はここまで高度なものなのだろうか。
また、別段体のどこかが悪いとかも全くないのでやはりアイリスに治癒魔法をかけられた後、もしくは、
「また戻ったとかじゃないよな」
そう考えて冷や汗をかく。もう一つ考えられるのは残機を消費してまた戻ったということだ。
アイリス救出劇をもう一度最初からやり直しなんてことはさすがにごめんだ。あんな苦労はもうしたくない。
しかし、アセビのことは気がかりだ。アセビが自分の首を切って自死を選択したことはその目にしっかりと焼き付けられている。もしも、もう一度戻ったのならば、次はアセビもどうにかして救いたい。
もう一度行動するにせよ、先のルートが解放されたにせよ、現在の場所を確認することが最優先だろう。
「まずはこの屋敷を探検してみるか」
ベッドから降りて、脇にあったスリッパをはいてまずは目覚めたこの部屋から徘徊する。
壁にかかった燭台と部屋の隅に置かれた観葉植物。そしてナズナが目覚めたベッド。壁も天井も白く、床は白を基調とした内装だ。何ともシンプル。それゆえに高貴さを感じる。
陽光の差し込む窓辺は埃一つないため、ナズナが眠りこけていた間も掃除されていたことがわかる。
そんな窓辺に手をかけて、両方開くタイプの窓を片方開ける。
「すっげぇ」
窓の外に広がるのはアイリスのいた屋敷の庭よりも立派な庭が目の前に広がっている。それを目にして、思わずナズナの口からは感嘆の声が漏れる。
目の前に広がった庭の中心には噴水があり、所々に真っ白な東屋。規則正しく並ぶ生垣も、一面に広がった芝も、どれもきれいに整えられている。
それゆえに、窓を開けたときに部屋へと吹き込んでくる風がとても爽やかで、ナズナの気分爽快だ。
ここはやはり、ナズナの知っている場所ではないことも同時に理解する。部屋の内装だけだったら、以前にお邪魔したアイリスの屋敷でナズナがお邪魔していた部屋とは別の部屋という可能性もあったが、外の風景が全く違う。
辺りに他の貴族の屋敷も見当たらないため、もしかしたらここは王都ではないのかもしれない。
三分ほどその庭を眺めてから、窓を開けっぱなしにしてその場を離れる。面倒だったわけではなく、喚起のためである。
その後、乱れたベッドのシーツをピシッと直してから、部屋に一つだけある扉のドアノブに手をかける。
未知の場所というのはいつだってワクワクするものだ。しかし、同時に不安にもなるものだ。現状、ナズナが得ている情報はアイリスの屋敷ではないということだけ。あの時にナズナが死んでしまったのか、そうでないのかもわからない。スタートに戻ってしまっていたとしたら一刻を争う状況であることは否めないし、生きていたのだとしたらナズナは誰に拾われて、ここは誰の屋敷なのかもわからない。
それならば、せめてあの時の峠を乗り越えて次のステップに進んでいてくれと願いながら、ドアノブをひねり、扉を開く。
当然と言えば当然なのだが、扉を開いた先は廊下。長い長い廊下。端っこは見えるには見えるもののかなり遠い。
廊下は壁は部屋と同じく白。しかし、部屋とは違いかっこいい紋様のような印のようなものが窓と窓の間に描かれている。また、床に真っ赤なカーペットが敷かれており、いかにも偉い人のお屋敷ですよと言った雰囲気を醸し出している。
窓の反対側にはたくさんの同じデザインの扉が並んでいる。恐らく、ナズナが目覚めた部屋と同じような部屋が多いのだろう。また、その扉の間には花瓶と絵が飾られている。
「誰かいないのかな」
とても広い。しかし、隅々まで掃除がされている。そんな屋敷にも関わらず、人の気配が全く感じられない。人の歩く音、話す声、生活音。そう言ったものを一括りにした人の気配が、ナズナの立つこの廊下まで、全く届いてこない。
「どうしたものか......」
ナズナは腕を組んで考える。勢いで部屋を出てみたのはいいものの、今後のプランを決めていない。
どこを行けばどこに着くのかも全くわからないため、冷静になって考えてみれば部屋に戻って、誰かが様子を見に来るのを待った方が賢明な判断だった。
ナズナは、静かな廊下で、しかめっ面で考える。そんな時、グーと低い音が廊下に響いた。
「腹が減ったな」
少なくとも丸々一晩。長かったら一日飛び越したりもしているかもしれないため、ナズナの空腹ゲージはマックスに近いため、ナズナの腹が何かよこせと騒ぎ立てるのも当然と言えば当然だ。
「キッチンを探すか」
ここはひとまず、部屋に戻るという選択肢を頭の中で消去し、目標を『何か食べられるもの』に定めて、長い長い廊下を歩き出した。
「全然着かねぇ」
空腹の腹をさすりながら、長い廊下を、重い足取りで歩く。二十分ほど廊下を歩き続けてはいるものの、全く目的地に着かないどころか人にすら合わない。同じところをぐるぐるとしているというわけではないのだが、如何せんこの屋敷が広すぎるのだろう。
扉を全く開かないというのもいけない点なのかもしれない。
しかし、それも仕方がないと言えば仕方がない。鶴の恩返しの話にもあるように、不用意に扉を開くのは危険なことなのだ。厳密にいえば状況は違うのかもしれないが、扉を開けた先で誰かが着替えていたりだとか、何かとても貴重な物が置かれている部屋で、その部屋を見てしまったら最後、生きては帰れないだとかがあるかもしれない。
それに、敵のアジトという考えも捨てきれないのも効いている。
このように、現状についての情報を何一つとして持ち合わせていないし、これだけ歩いても特に何も得られていないナズナでは、ただ当ても無く歩くのが精いっぱいなのだ。
「人っ子一人いねえし......部屋に戻るのも手だな」
そう呟いてナズナは後ろを振り替える。振り返った先の景色は変わらず廊下。そして扉、扉、扉。特に道を覚えるでもなく、似たような風景の廊下を歩いていたため、もともといた部屋などとうに戻れなくなっていた。
この状況を受けてナズナは苦肉の策に出ることにした。
「誰かいませんかー!」
古来から、人を呼びたいのならば手招きか叫び声と相場は決まっている。......別に決まっていないのかもしれないが、叫ぶのはとても有効な手段だ。
ならばなぜここまでその叫ぶという手段を封印していたのか。それはここまで何度も言っているようにここがどこだかわからないからだ。
しかし、そんなこともお構いなしに叫ぶという選択肢を取るほどにナズナの腹は空いている。
先ほどから歩いている最中もずっと腹が音を立てている。背中とおなかがくっつきそうというのはまさにこのことだろう。
「誰かー!いませんかー!」
返事は一向にない。ここまでくると、誰も住んでいないという説が濃厚になってしまう。あんなにも綺麗に掃除が行き届いていて、誰も住んでいないとなると、ここは。
「幽霊屋敷か何かか?」
「もう、そんなわけないじゃない」
「本当に幽霊出た!」
ぽつりと漏らした独り言に、思わぬ形の返答が帰ってきてしまい、まさか本当に幽霊が出たのかと、青ざめた顔のナズナは慌てて振り返りながら距離を取るように飛ぶ。
「幽霊って......失礼だと思う」
後ろから声をかけてきたのは、フワフワのパジャマに身を包んだアイリス。ナズナに幽霊と言われて、肩を落としている。
「お、おお、おはよう」
正直小便をちびりそうなほどビビッてしまったナズナは、動揺を隠しきれない。
「うん、おはようナズナ」
「ここは、どこ?」
ふんわりとした笑顔で挨拶を返すアイリスに、軽口を行ったりする間も無く、現在ナズナが抱えている一番の問題をぶつける。
「ここは、お父様のお屋敷よ」
「お父様......」
アイリスが口にしたお父様。何度か耳にはしたことがあったが、その実態はまだ知れない。
ただ、アイリスがいるということを考えると、味方。少なくとも無条件で敵となるという可能性は少ないと考えていい。
「俺ってどのくらい寝てた?」
ナズナは重ねて質問を畳みかける。
「うーんと......昨日は丸一日寝てた、かな」
予想はしていたものの、そうと直接告げられてしまうと自分を少し軽蔑する。
しかし、そうと聞いてほっとすることもある。
アイリスがナズナの名を呼んだということは、少なくとも今回ナズナは死んでいない。死んでいたとしたら、アイリスがその名を呼ぶはずはないのだ。
「どう、体は平気?あれだけの大ケガを治療するのは初めてだから......」
顎に手をついて考えてるナズナの思考を遮って、アイリスが治療したものとしての健康チェックをする。
「ああ、おかげさまで体は絶好調!むしろ寝すぎてってくらいだ」
ナズナは、グッと両手でマッスルポーズをして、元気だということをアイリスに示す。
その様子を見て、アイリスは口元を手で押さえて微笑む。
その笑顔に、ナズナは満たされていた。自分の命を投げうってまで、つかみたかった未来が目の前に広がている。守りたかった笑顔が、そこにある。
アイリスの笑顔につられて、ナズナの顔も自然と笑顔になる。その時だった。
グゥと先ほどよりも重い音が二人きりの廊下に響いた。
「お腹、空いたのね」
優しい顔を浮かべるアイリスのその気遣いがつらい。
その恥ずかしさから、ナズナは顔を真っ赤にする。
「じゃあ、キッチンに行きましょうか」
アイリスがぎゅっとナズナの手を取って歩き出す。
少し子供っぽく見られているのは大変恥ずかしいが、知り合いがいないという異世界特有の点に感謝しながら、アイリスの歩みに引っ張られるようにナズナも歩き出した。
「......おかしいわね」
不思議そうに腕を組むアイリス。
「えっと、もしかして」
この状況から考えられることと言えばもう一つしかないだろう。
「このお屋敷のこと、あんまり詳しくない感じ?」
ナズナが迷い続けた先で出会ったアイリスもまた、迷子になっていた。それしか考えらえない。
「えっと......うん」
アイリスは少しためらいながらも、ナズナの仮説の正しさを証明するように、耳まで真っ赤にしながら深く頷いた。
八方塞がりである。
考えてみればアイリスが住んでいたのは王都の屋敷であったため、この屋敷の構造については知らないのだろう。
「決めた」
俯いたまま、小さくつぶやいたのをナズナは聞き逃さなかった。それと同時に少し嫌な予感もする。
「虱潰しに調べてみましょう」
そんなアイリスの姿を見ながら、ナズナは以前の周回を振り返る。
アイリスは少し強引なところがあると、ナズナは感じていた。その強引さはナズナ自身も経験がある所であり、ナズナも別にそれを悪いことだとは思っていない。逆に美点だとすら思っている。
しかし、今回はパワープレイが過ぎる。
「行くよ、ナズナ!」
再びがっしりとナズナの手をつかんで、アイリスは歩き出す。通り道にある扉を一つ残らず開けていきながら歩く。
そんなことをしながら十分も経っていないくらいの時だった。
「えいっ」
たった今開かれた扉のことをアイリスはもはや意識すらしていなかったかもしれないが、その扉は今までの扉とは違って、扉には紋様。壁に描かれているものとは違って、家紋のような物にも見える。
その向こうに広がるのは、今までの客間のような部屋とは全く異なる光景。ナズナたちの目の前に広がるのは無数の本。歴史書や魔導書の類のものだろうか。しかし、高い高い本棚は、とてもじゃないが一室に収まるはずはなく、部屋自体が他の部屋とは違い、大きく見える。
「わあ、すごい数の本......」
それはアイリスですら思わず感嘆の声を漏らしてしまうような光景。学校の図書館よりもはるかに多い本の壁に、ナズナも目を奪われる。
「あれ、お客さん?」
本棚の背後から現れたのは、髪の毛も、目も、洋服も、肌も、すべてにおいて白い、ナズナよりも少し身長が低い少年。
「あら、ヘレニウム」
「あ、アイリス。久しぶり」
その少年をアイリスはヘレニウムと呼び、中々親しげに話している。
「そこのお兄さんは初めましてだよね」
少年はナズナの方を向く。
「僕はヘレニウム。お兄さんの名前は?」
「俺はイチノセ・ナズナ。よろしくな、ヘレニウム」
ナズナが右手を差し出すと、その手をヘレニウムも握り返した。
第二章開幕しました。
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