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残機5つの高校生  作者: 和泉 楓
第一章 『焦燥と異世界』
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第一章10話『アンコール』

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 モンクシュットが放った氷の大魔法は周囲の気温を急激に下げるほどで、モンクシュットの正面には直線上に薙ぎ倒され凍らされたいくつかの家屋が砂塵の隙間からちらほらと見える。

 その向こうからは、アセビの姿はもちろん気配すらも感じない。

「手応えは?」

「十分だ」

 力強く頷いたモンクシュットを見て、張り詰めていたものが緩む。客観的に見ていただけのナズナもやったと思ったが、それだけでは少し不安だ。しかし、モンクシュット自身が手ごたえありというのならば安心していいだろう。

 あとはどこかで凍っているか倒れているかしているアセビを探して問い詰めるだけだ。

「にしても凄いな」

 すっかり日も落ちた貧民街に出来上がった氷の壁を見ながらナズナが言葉を漏らす。

 今まで生きてきた中での知識から引用するならフィヨルドのようなものだ。あれは自然が長い時間をかけて作り上げた傑作だが、眼前に広がる氷壁はたった一人の人間が自身の持つ力を使いほんの数十秒で作り上げたもの。今日でナズナの中の常識は大きく塗り替えられている。

 いくらアセビとはいえこの規模の魔法を回避できるとは思えない。

「まあ、僕の持っている魔力のほとんどを使い果たしてしまったから、今は少し休ませてくれ」

 流石のモンクシュットも少しふらついている。

 ナズナが来る前もアセビとの戦闘で魔法をかなり使いながら戦っていたし、ナズナが来てからも魔法は使用していた。そして先ほどの大魔法の使用。

 それはその場に自立できなくなるほどに自分の中にある魔力を使い果たす魔法だ。言葉の通り最後の切り札と言えるものなのだと思う。

 その為、この大魔法を打つのですらギリギリだった現在のモンクシュットは、しばらく活動する程の体力は残っていないのだろう。

 体力回復のためにモンクシュットは片膝を着く。

 その姿はいつどんなことがあっても動きやすいようにという意味で、両膝や尻を着いて休まないあたり、騎士としての意識の高さを感じる。

「ああ、動けるようになったら言ってくれ。アセビを探すのはそれからにしよう」

 この魔法が決まったと考えるのであればアセビもしばらくは動けないはずだ。モンクシュットが動けない中、慌てて探すよりも、今は回復を待った方が賢明だろうと考える。

 しばらくの沈黙が流れる。ナズナ的には初対面ではないものの、アイリス的には初対面。話の話題が無い。2人とも地面を見つめたままピクリとも動かない。

 ナズナ的にはここで以前の周回の話を出してしまえば前回の時の二の舞。ならばここはモンクシュットの回復を待ってから今後のことを話し合った方がいいだろう。


 と、考えていた時だった。ナズナの背中に悪寒が走った。

 それはナズナも以前向けられたことのあるもの。

 砂塵の向こうから感じるそれは、おぞましく、モンクシュットの魔法の影響とは違う寒気。これは気温の低下によるものでは無く、


 殺気。


 ヒシヒシと、痛いほど熱烈に感じるそれは確証はないが、ナズナに向けられたものでは無い。そうナズナの直感が告げている。

 だとすれば標的はただ一人。この場合標的になるのは。

「危ない!」

 砂塵の向こうに、月明かりに照らされる影一つ。そして、砂塵を突き破り、閃光のごとく向かってくる刃。

 ナズナは咄嗟に、その凶刃からアイリスを庇って前に立つ。

「うっ......」

 うめき声が漏れる。投擲され、突き進む刃はナズナの左肩、右脇腹、左太ももを射抜く。左肩に掛けていた竹刀が落ちた。着ているジャージにはにじみ出た血液が大きなシミを作っている。思わず右膝のみを着くが、その痛みで意識が飛びそうになるのをナズナは唇を噛んで何とか堪える。

 確認してみると、ナズナの体を突き刺したのは黒いナイフ。

「まさか......!」

 疾駆する黒い影は砂埃の壁を勢いよく突き抜けてアイリスのもとへと一直線に向かってくる。その手には見慣れたナイフ。ナズナにも突き刺されているナイフ。その影はもちろん。

「アセビ......!」

 モンクシュットが自分に意識を向かせようと走る暗殺者の名を呼ぶ。

 しかし、アセビはアイリス以外の2人には目もくれず、標的に向かって一直線に、明確な殺意をもって進む。地を駆けるその体は氷から無理やり剝がしたのだろうと思える傷が至る所にあり、服にまで大量の血がにじんでいる。アセビの左肩は外れていて、走る際にその腕を振ることすらままならないように見える。

 だが、アセビは止まらない。血を振りまきながらもアイリスに向かって足を回す。その姿に狂気すら覚える。アセビはモンクシュットの横をすり抜けてさらにスピードを上げる。モンクシュットも体を動かそうとするが、足に鉛を埋め込まれたかのように動けない。

 このままでは確実にアイリスは死ぬ。今までのアセビの能力の予習と、モンクシュットの協力。そしてあれだけの大魔法。出せるものは全部出し尽くしたのは明確だった。

 手負いのナズナには目もくれず、アイリスのもとへと走り迫るアセビ。一方のナズナは思考を回すことに注力する。

 3度死んだ。2度同じ相手に殺された。1度屋敷での惨状を見た。そして4度目。今までの経験を総動員した今回すらも状況は絶望的。

 しかし、今のイチノセナズナには課せられた至上命題がある。自分自身に誓ったことがある。


 ただ、アイリスを守る。


 ナズナの目の前までアセビが迫る。ナズナの後ろにいるアイリスを確実に殺すため、ナイフを持った右腕を振り上げる。ここでナイフを投擲しなかったのは恐らくコントロールの不安からだろう。先ほどアイリスを庇ったときにナイフが刺さった場所はいずれも一撃で殺せるような場所ではなかった。

 万全であればナズナは確実に急所を射抜かれていた。

 アセビだって、これが最後の一撃。決死の一撃。これを防げばまだ勝機はある。

 ナズナは痛みをこらえ、残された最後の力を振り絞って、無傷の右腕で力強く竹刀を握りしめて、大きく薙ぎ払うように、アイリスを守るように振った。

 響くような甲高い音ではなく、生々しい鈍い音が鳴った。

 ナズナが振った竹刀はアセビの手首にあたり、握力を失った手からナイフが落ちる。ナイフを失ったアセビの動きが一瞬止まる。その一瞬の動揺を、あいつが見逃すはずが無い。

「『氷よ、封じよ』」

 アイリスの目の前でアセビの動きがぴたりと止まる。

 腰から上の左半身、そして首から上だけを残してアセビを凍らせたのはもちろんモンクシュット。凍らされたアセビは牙を抜かれた獣のように動きを止めた。


「間に合った」

 右手を掲げながらゆっくりと、モンクシュットが歩いてくる。

「本当に、ナイスタイミング」

 息絶え絶えのナズナに、モンクシュットは力ない笑顔で返す。モンクシュットも限界を超えた行動だったのだろう。

 今度こそ戦いは終わった。しかし、やるべきことが終わったわけではない。アセビを捕らえた今、アセビに聞きたいことは山ほどある。ナズナは足に刺さったナイフを抜いた。腹に刺さったナイフは抜くと危険と聞いたことがあったので抜かないでおいた。

 モンクシュットの肩を借りて立ち上がる。立ち上がってからはモンクシュットに負担をかけるわけにはいかないので痛いのを我慢しながら自立する。

「さあ、質問に答えてもらおうか」

 モンクシュットがアセビを見つめる。アセビには先ほどまでの気迫は無く、牙の抜かれ、覇気のない、ナズナが初めて会った時と同じような印象を受ける。

「答えられる範囲ならな」

 口調は変わらないが、声色も大きさも明らかに弱っているのが見て取れる。凍らされていなければとっくに倒れているだろう。

「あの方を殺すように命令したのは誰だ」

「言えない」

「なぜだ」

「守秘義務だ。だが、いずれわかる」

 淡々と質問するモンクシュット。その質問にアセビは即答する。2人の問答はこれまでの戦いの激しさとは別の緊張感がある。

「何でアイリスを狙った。教えろ!」

 そこにナズナが割って入る。ずっと聞きたかったこと。アイリスはなぜ狙われたのか。アセビが言っていた首を突っ込んではいけないこととは何のことなのか。

 その内容は守秘義務だと答えられた質問。しかし、今のナズナにそんなことを考えている余裕はない。

「じゃあ、少しだけ教えてやる。アイリス・シューアは本名じゃない。本当の名前は、アイリス・ロサ・グレーテ」

「ロサ?グレーテ?」

 ナズナには聞きなじみのない名前だが、ナズナの隣のモンクシュットは口を半開きにして、目を見開いている。それは典型的な驚愕の表情。

「それは、まさか」

 モンクシュットから絞り出されるようにして出てきた質問に対してもアセビは機械的に答えるのみ。

「アイリスは王族だよ」


 アセビが淡々と語る衝撃の事実。アイリスは王族だったというのは、この世界にあまりなじみのないナズナですら衝撃を受けた。これまでの経験の中で、現在の国政は王が病に倒れたため不安定になっているというのは知っている。

 しかし、そのことに一番驚いているのは他でもない、

「私が、王族......」

 アイリス自身だろう。手で口を覆ったまま全く動かない。それぞれが違った反応を見せる。そんな3人のことなど気にも留めず、アセビは話しを続ける。

「市井で噂されているように近々、国王は譲位する。理由はこれも国民が噂していることとほぼ同じだ。そして、次期国王を選び、神に謁見するための選定が行われる」

 国王の譲位。そして次期国王を選ぶための選定。ナズナには訳の分からないことが多すぎる。国王が病を患っているというのは以前の世界でアイリスから聞いた。そして、選定。これらをアセビが話したということの意味。それは、

「アイリスが、選定に参加する権利を持ってるってことか」

 アセビが口にしていた首を突っ込んじゃいけないことは選定。アイリスが命を狙われる理由は王族だから。しかし、どこか釈然としない。

「王族だからと言ってなぜアイリス様が狙われた」

 心の靄を晴らしたのはモンクシュットの声。

「他の王族の方が命を狙われたという話は聞いていない。ではなぜアイリス様だけが狙われたんだ」

 王国騎士としてここまでの優秀さを誇るモンクシュットが言うのだから他の王族に命の危険があるというのは報告に上がっていないのだろう。釈然としなかったのはそこだった。なぜ、狙われたのがアイリスだったのか。

「それは、彼女の出自に関係している」

「私の、出自?」

 動揺を隠しきれないアイリスがようやく口を開いた。自身すらも知らないアイリスの出自。しかし、モンクシュットは心当たりがあるらしい。

「緋眼でないこと、か」

「ああ、そうだ。だが、もっと言えば翆眼であることだ。王族は皆、瞳の色は赤。だが、あんたの瞳は緑。あんたがどんな生まれかどうか、俺も詳しいことは知らない。詳しいことはサントリナ・シューアに聞いてくれ」

 サントリナ・シューア。またもナズナの知らない人物の名前だが、シューアという家名。恐らく、アイリスも以前口にしていたお父様のことだろう。

「質問はもうないのか」

 だんだんとアセビの口調が弱くなっていくのが分かる。正直聞きたいことはたくさんあるが、どれから聞いていいかわからない。

 アイリスは質問どころではなさそうだし、モンクシュットが問い詰めないということはここで聞く必要はないのだろう。この後、正式に王国騎士団に送り取り調べをすればいいだけの話だ。なので特別、俺が聞いておくようなことはない。

 ここで無駄に時間を使ってアセビが死亡し、この後何も聞けなくなってしまうことの方が大きな問題だ。

「無さそうだな」

 アセビが一通り顔を見てから続ける。

「これが最後だ。王位継承権を持っている限り。そして、その瞳が緑色である限りあんたが命を狙われることに変わりはない。俺の雇い主は必ずあんたを殺しに来る。そう言う奴だ。その運命を変えたければ選定に参加しろ。玉座を目指せ。俺はあんたを殺す目的でしばらくあんたのことを見てた。そして、命を狙った俺が言うのもなんだが、あんたは優しい。いい王様になれるよ。だけど、その翆眼は大きなハンデになる。そのハンデを覆してほしい。俺だって魔法で隠さなきゃこの目だ」

 そう言って露わになった、月明かりに照らされたアセビの目、初めてはっきりと見えたその目はアイリスのものと同様に緑に輝いていた。

 そのアセビから発せられた屈託のない言葉。しかし、それ故に重くのしかかる言葉。

 そして言葉の中にもあった翆眼のハンデ。今思えばナズナはアイリスが一般の国民と話しているのを見たことが無い。あの日、俺を屋敷まで運んだのはアイリス曰く大通りにいたおじさんだと話していた。

 だが、それは俺が実際に見たわけじゃない。アセビの言葉の通りだとして、俺の憶測が正しいのであれば、あの日屋敷まで俺を運んだのは他の誰でもない、アイリス自身だったのではないだろうか。

「じゃあ」

 ナズナの思考を遮るようにしてアセビの言葉が聞こえる。懐に左手を入れている。その行動はこれまで幾度となく見てきた光景。アセビがこの行動をするときは決まってあれを取り出す時だ。

「サヨナラだ、アイリス」

 アセビは懐からナイフを取りだした。そしてそれを自分の首筋に当てる。

「待つん......」

 モンクシュットの静止の声は一瞬遅く。アセビは自分の首を掻き切る。

 目の前を真っ赤な血しぶきが支配し、アイリスに壁になるように立っていたナズナとモンクシュットにかかる。この期に及んで、アセビは最悪の結末を選んだ。

 だらんと垂れる左腕。うつむいたままの顔。アセビの体はすでに力が入っていなかった。モンクシュットとの戦闘で大ケガを負っていた体に最後は自分自身でとどめを刺したのだ。

「嘘だろ」

 こうして、王都でのアイリスを巡った一件は3度の死もって何とも後味の悪い終わりを迎えた。


「騎士モンクシュットの名のもとに、アセビの死亡を確認した」

 しばらくの時間が経ち、アセビの鼓動をモンクシュットが確かめたうえで、アセビの死が確認された。戦いは終わったのだ。今度こそ、緊張の糸を緩めた。

 この結果が良かったのか、悪かったのか、それはナズナ自身も分からない。ただわかるのは、アイリスの命は救われたということだ。その事実に、大きく息をついた時だった。

「あれ?」

 足元がおぼつかない。頭がぼーっとする。目の焦点が合わず、世界が反転したかのようにも見えてくる。

ナズナの眼前に急速に地面が近づいてくる。否、ナズナ自身が倒れている。緊張と衝撃展開から何とか意識を保っていたナズナだったが、それが途切れたことによって意識が維持できなくなっていた。

 やばい。これは非常にまずい。3度経験した感覚。死の感覚。傷口から命が溢れてく感じがする。ナイフが刺さった箇所が心臓の鼓動に呼応するように波打っている感覚がする。

 痛い。痛い。痛い。痛みと死の恐怖がナズナを支配する。視界にはもはや何も残っていない。体は徐々に体温を失い、機能が失われていく。

目を開ける力も無く、瞼を閉じる。

体は動かず、心すらも自分の死を受け入れ始める。

「ナズ......しっか......」

「ダメ......死ん......嫌......」

 最後に残った聴覚だけがぼんやりと2人の言葉を拾う。


 せっかくここまでこぎ着けたのに。もう一回、やり直しか。次こそは、アセビも救わなくちゃな。

 こうしてナズナの意識は暗闇へと落ちていった。


『おめでとうございます、残機が回復しました。残機、あと5です』

次の瞬間、ナズナの頭の中には機械音が祝福を告げていた。

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[良い点] 死に戻り系統といいますか、生き返ることを武器に主人公が戦っていくという作品はほかにもありますが、読んでいて興奮したのはこの作品が初めてです。もっともよいと思ったところは文章を用いた演出です…
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