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月立淳水の科学カタログ  作者: 月立淳水
10.架空の科学

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完全堕落世界は作れるか

 完全堕落世界とは、世界のすべての人が働かずに堕落してすごすことができる世界である!

 さて、そんな世界は作れますか。いや、人間の本能とか情緒とかその辺のことを一切無視して考える、という前提で。

 完全堕落世界としてまず第一に誰もが思い浮かべるのが、すべての生産行為をロボットが代替することにより、人間は一切労働せずに食っていける世界です。

 ただ、この世界が実現するため(またはした後の)絶対条件として、貨幣的なモノが消えている、という条件がついてきます。

 なぜなら、ロボット政府がロボット行政を敷くためにお金を必要としないからです。すべての公共事業はロボット下請けが実施するので支払いは必要ありません。政府が支払いを必要としないのであれば、市場にお金が出てきません。民間に投資需要はないですから、中央銀行→市中銀行ルートの金融も止まります。ていうかそもそも銀行が消えます。今市場に出回っている物理的な紙の紙幣がすべてになってしまうのです。

 Bットコイン的な民間通貨は残るかもしれませんが、それが通貨として通用するかは疑問です。生きていくために必要なものが無償で配られることが必須なので、モノに全く価値がつかなくなってしまうからです。芸術品や嗜好品には価値がつくだろう、と考えられるかもしれませんが、「どの程度のお金とつりあうのか」という基準がなくなります。「これは300万円のツボです」と言った時、おおよそ一年間寝て暮らせるレベルのお金につりあうツボなんだな、と想像できますが、もし暮らすことのコストがゼロになったら、そのつりあう相手を別のものに求めなければなりません。それはやはり芸術品や嗜好品ということになるでしょう。そしていずれの芸術品や嗜好品も、完全堕落人間のうちのごく一部が堕落生活に飽きたときに暇つぶしに生産するもの。そういった需給が極めて不安定なもの同士しか結びついていない通貨、その価値がどの程度なのかはいずれコミュニティ単位でフラグメント(分断化)していきます。一応インターネット的なもので地域的な垣根が取り払われている前提で言うなら、ここで言うコミュニティとは「地理的属性を超えた同好の士」、つまり、世界ツボ好きの会の中での価値と世界猫好きの会の中での民間通過の価値は全く異なり、お互いに口座残高の数字に見出す価値が違うために直接交換が難しくなるだろう、ということです。

 閑話休題。

 要するに、生活に必要なすべてのものが「完全に無価値」にならないといけない、ということが逆説的に言えちゃいます。もし価値があれば、通貨との交換性とそれに伴う必需品の偏在が発生します。すなわち「通貨を稼ぐ人と稼がない人の間に生活レベルの差が生じる」→「働くことにインセンティブが生じる」→「働かない人は生きていけない」ということが順々に起こるのです。

 では、生活に必要なものとは、一体何か。

 空気。

 水。

 食べ物(動植物)。

 材料。

 エネルギー。

 廃棄。

 だいたいこんなもんですかね。

 空気は今でも無価値です。誰も空気にお金を払いません。空気に関しては完全堕落生活の条件を満たしています。一方、水は、そうではないみたいですね。真水はどちらかといえば貴重な資源です。水の豊富な国でも家庭まで水を送ることにお金を払うのは普通のことですし、水が少ない国では水源をめぐって戦争(=非常に高いコストでの買いつけ)が行われています。

 では、水を無価値にするにはどうすればいいか。一番簡単な方法は、ほぼ無尽蔵の海水を淡水化し、世界中のありとあらゆる場所に送り届ける水道管網を整備維持すればよさそうです。エネルギーと資材(材料)が無限と仮定すれば、これは実現できそうです。水を無価値にする条件は、エネルギーと材料が無限にあること。

 食べ物。食べ物はどうにも、何らかの動植物等の生き物からしか作れなさそうです。人間の生存に必須のたんぱく質や糖類を完全に無機的に合成するのはちょっと難しい感じがします。ただ、植物さえ育てられれば、その他の動物はどうにでもなりそう。つまり、水と空気と光が無限にあればよさそうです。空気はすでに無価値。先ほどの理屈で水も無価値になったので、あとは光。エネルギーがあれば光は無限に生み出せます。エネルギーが無限にあれば食べ物も無価値化できそうです。

 材料。希少元素からありふれたものまで、ロボット自身の修理のためにたくさんの資源が必要ですし、その他、人が生きていくためのインフラや設備をノーコストで作るには材料が無価値でなければなりません。材料は地球を掘り掘りしていくといつかなくなってしまいそうですが、一方、「人間の数に上限がある」という条件を課すと、また違ってきます。人間一人当たりに必要な材料の上限はおのずと決まってくるからです。つまり、地中から掘り出した材料の総数>人間の数×一人当たりに必要な材料という不等式が成立すれば、材料は無限にあるのと同義です。使い終わったあらゆる設備は完全完璧原子の最後の一個までリサイクルされ、次の設備に使われればよいのです。それを実現するためには、理屈上は、すべての物体を原子単位まで分解し原子一個一個を分別し再貯蔵するという過程があれば可能となります。このプロセス、エネルギーが無限にあれば可能です。つまり、エネルギーが無限にあれば材料は事実上無限=無価値になります。

 では、結局ここにすべてが集まってきちゃったエネルギー。無限のエネルギー源を作れるでしょうか。理屈上は不可能です。エネルギーは何をどうやっても宇宙の中の総量が決まっています。なので、無いところからエネルギーを取り出すことはできません。もう少し地に足の着いた話をするとしても、人間が取り出せるエネルギーは、過去何億年をかけて溜め込まれた化石エネルギーか、何十億年か前に作り出されて少しずつ減ってきた残りかすの核エネルギーか、真空を一億五千万キロメートルも旅して降り注ぐ太陽光エネルギーか、この三つだけです。化石エネルギーは必ず尽きます。核エネルギーは、まあ、残りかすエネルギーのほうはすぐに尽きるでしょうが、もっとアグレッシブに取り出す方(核融合)については実現すればしばらくは大丈夫かもしれません。ただ、水や食べ物や材料を無限化するのに必要な量を使い続ければたちまち枯渇するでしょう。太陽光は述べるまでもありません。地球に降り注ぐ太陽光エネルギーは弱すぎです。ゴミです。地球の投影面積にゴミを敷き詰めて燃やしたほうがまだたくさんのエネルギーを取り出せます。そのくらい、地球という遠く離れた位置で受け取れる太陽光エネルギーは微々たる物ということです。

 太陽を完全に囲んだ内面ミラーボールを作り、その反射の焦点から地球にエネルギーを輸送するようなシステムを作れば、少なくとも十数桁違いのエネルギーを確保できる見込みはあります。今地球で確保できるエネルギーに比べれば、おおよそ無限と言えるレベルかもしれません。うーん、無限エネルギー、エネルギーの無価値化は、これで達成したということにしますか。妥協。妥協の産物。太陽の寿命という上限付きの妥協。月を丸々すりおろしてアルミとシリコンの鏡にしてもそんなミラーボールを作れるかどうかというところですが、まあ、その結果はほぼ無限エネルギーですから、そのくらいの努力はできることにしましょう。妥協。

 で、ここまで隠していましたが、廃棄の問題があります。モノを捨てないで生活することはできません。もちろん、捨てたものすべて、原子レベルでリサイクルするということで解決しているように見えますが、もう一つ捨てなければならないものがあります。それは、エネルギー。この世のありとあらゆる仕事をする系は、熱=エネルギーを捨てずに仕事をし続けることはできません。エネルギーは高きから低きに流れ、そのエネルギーの流れこそが「意味のあるエネルギー」です。その流れによって機械の歯車が回りコンピュータチップは計算し原子分解機は原子を分解選別するのです。高度なシステムほどたくさんのエネルギー流を必要とします。つまり、たくさんのエネルギーを捨てる必要があります。

 皆さんあまり意識していませんが、今の文明、使い終わったエネルギーのほとんどすべてを大気と海の中に捨てています。大気と海の熱容量(エネルギーを蓄える能力)が無限に近いので気付きませんが、実際は、使い終わったすべてのエネルギーは大気と海を暖めています。もしエネルギーが無限になったら。海は瞬く間に沸騰し大気はプラズマ化して宇宙へ飛び去ってしまいます。地殻さえ溶け沸騰し最後はコアまで星間ガスとなるでしょう。捨てる先だけはどうしようもないのです。

 嘘です。アレがありますよね。はい、ブラックホール~。ブラックホールだけは、いくらエネルギーを投げ込んでも温度が上がりません(やや嘘だけど)。ただし、ちょっとだけその穴が大きくなります。とはいえ、太陽を全部すりつぶしてエネルギーにして投げ込んだとしてもたいして大きくなりません。元のブラックホールの大きさにもよりますが、数メートルとか数キロメートルとか、その程度大きくなるくらいのものです。月の軌道あたりの位置にブラックホールを一つ置いておけば、エネルギーを無限(本稿定義)に捨てることができます。

 ということで、よく自称知識人の言う「AIやロボットで人間は働かなくてよくなる」という完全堕落世界を作るための条件が整いました。

 月を完全にすりおろして太陽を囲むミラーボールを作り、月がなくなったところにどっかから調達してきたブラックホールを置いてください。

 簡単ですね。

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