数学
基礎科学のしょっぱなの節に数学を持ってきました。
数学はほとんどすべての学問の基礎になっています。少なくとも現代では。
最近では、言語、文化、文学や芸術でさえ、数学を駆使した解析によっていろいろなことが判明していたりもします。絵画をAIで学習して作風を再現する、なんてのもまさに数学が芸術の世界に踏み込んだ例です。
そのような超応用的な話はとりあえず抜きにして、科学の基礎としての数学のお話。
1+1は2になります。
これは数学の原理のひとつです。加法と呼ばれます。
馬鹿にしてんのか、と石を投げる前に。
では、5+3はなんになりますか?
答えはもちろん8ですが、では、さっきの「加法」をどういう風に応用すれば、この答えを導けるでしょうか。
実は、案外難しい問題なんです。
と言うのが、先ほどの加法の説明、1+1=2ということは示しましたが、2+1=3ということを示していないからなんです。いや、何が言いたいかというと、数学の「最初の決まり作り」は思っているほど簡単じゃないってことなんです。
この例でいうなら、たとえば、Nと言う数字があったら、それはN個の「1+」を合わせたものとし(最後の「+」記号は省く)、「+」で結ばれた一連の式は、その中に入っている「1」の個数に等しい、というように定義しなおしてあげれば、5+3=1+1+1+1+1+1+1+1となり、この式に含まれる「1」の個数は8個なので、答えは8になる、と導けるようになります。あるいは、N+Mという表記があった場合、その式はNよりM個大きい数に等しい、という定義にしておけば、さくっと5+3=8と導けます。1+1=2という説明では加法を説明できていないのです。
けれども、一旦決まりを決めてしまえば、誰がやっても同じやり方で同じ答えが出るようになります。大切なのはまさにその点で、決まりを決める、そのやり方を決める、という、サイエンスの中でももっとも原始的な考え方が、数学には含まれているということです。他のやり方がダメというわけではありませんが、ぶっちゃけて言うと、物事のルールを決めるときに数学をツールとして使うのが一番楽なんです。
だから、物語の中でも、数学を駆使しておけば、なんだかそれらしくなります。
たとえば、新しいタイプの人工知能を作っているとき、その知能出力を予測するある定式の中に、ax^2/r^3という項が現れたとします。一方、ある新しい機能材料のモース硬度を予測する定式の中に同じようにax^2/r^3という項が現れたとしましょう。「AIの賢さ」と「材料の硬さ」。一見無関係の二つの事象で全く同じ項が出てきたとなると、それは何か関係があるかもしれない、と考えるわけです。式を変形して強引に代入してみると、新機能材料にかかる機械的圧力と電流密度と添加物濃度がAIの賢さに関係しているなんてことが分かったとしたら、どうでしょう。全く関係がないと思っていたのに、そのAIの論理回路の一部に新機能材料を使い、所定の圧力や電流を加えることで一気に賢いAIに進化しました。数学という共通ツールを使うことで、こんな空想を繰り広げることもできてしまうんです。
大丈夫。
自分さえ納得できる「決まり」を見つけられればいいんです。
数学は、無軌道に発散してしまう物語に確かな方向性を与えてくれます。
空想物語として無茶な妄想をするからこそ、数学というツールをエンジンにして飛び出してしまいましょう。
数学の光さえ当たっていれば、たとえ別宇宙の異世界に飛んで行っても必ず着地できる地平があるはずです。