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月立淳水の科学カタログ  作者: 月立淳水
7.情報・通信

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19/32

情報ってなんじゃ

 情報の語源は「敵情報告」だそうです。それは明治(中略)なのです。

 このように、状況や消息を表す手段が「情報」ですから、情報は必ず通信とセットです。「何か」を知らない人に見せることでその人が「何か」を知った状態になれるもの、それが情報。だから、情報の送り手と受け手がいることが情報の定義の根幹になければならず、すなわち、情報があっちからこっちへ移動する=通信が行われる、ということも自明と言えるわけです。

 逆に、通信によってあっちからこっちに移動させてもその内容が変わらないもの、を情報と定義するのも面白そうですね。

 とかく、情報とはいろんな科学や哲学の深いところに根をはった概念のため、きっちりと定義しようとすると必ずどっかしら方面から文句をつけられる定義になってしまいそうです。

 という前提を置きながらも、筆者自身が興味ある「情報」の定義分野として、情報通信分野と熱力学分野があります。

 情報通信分野はそのものずばり情報そのものを扱う分野ですから、一般的に「情報学」と言った時には、誰もがこのイメージを思い浮かべると思います。

 一方、熱力学的な情報というのは、一般の人は思い浮かべるのは難しいですが、重度のSFオタクや科学オタクなら、むしろこちらのイメージを思い浮かべることのほうが多いのではないでしょうか。たとえば、ブラックホールの情報問題、など。

 世間一般の問題で言えば、情報とは0/1で表されるビットの組み合わせ、なのでしょうが、あるいはもっと広範に、誤りなく送り手から受け手に伝えることのできるけれども物質の実体の移動を伴わないもの、みたいに表せるのではないでしょうか。こうすれば、音も光も幽霊も情報です。ある素粒子レベルに小さいものが持っている量子状態も、それを観測する(送り手とする)ことが可能なら、情報です。逆に、観測によって状態が一定していないようなものは、情報とは言えません。

 もちろん、受け手がそれを受け取れることも情報の大切な要素と言えます。ただ、送り手が送り手となりえるものを情報と定義するならその送る手段を時間逆転すれば受け手の手段になりますから、これはある意味で自明となります(自明とならない問題は後述)。

 ……で。

 とても大切なことなのですが、なんと、情報は保存します。

 絶対に壊れて消えることはない、とされています。少なくとも量子論的な意味では。

 たとえばあるところに0か1かのどちらかを情報として持っている謎のビット装置があったとします。

 この装置の中に保存されているのが0なのか1なのかは分からないです。

 この装置は、電池で動いています。電池が切れるとビットは消えます。

 電池が切れた後のビット装置は0でも1でもない状態になります。つまり、電池があったころの情報は消えてしまいます。

 早速の矛盾。どうしてくれよう。

 実は、電池が切れてビットの情報が消える、その瞬間をもっとズームアップして観察すると、謎が解けます。

 たとえば、その装置の中には、鉄のボールが一つ入っていて、0なら左へ、1なら右へ、電磁石で吸いつけられていたことにしましょう。鉄のボールが乗っているレールは真ん中が少し凹んでいて、0でも1でもない場合はその真ん中の凹みに落ち込むものとします。

 どちらかに吸いつけられていたボール、電池が切れて、カターンと真ん中のくぼみに落ちてしまいます。でもそのとき、たとえば、左に吸いつけられていたボールが真ん中(右向き)に動くと、その反力として、装置全体、装置をすえつけている建物、建物が乗っている地球、そういった大きな視点で見たシステム全体が、左向きにわずかに動きます。ボール自身は何も情報を表していないけれども、システム全体を完全に観測すると、直前にはボールが左側にあった「情報」がまだ残っているんです。

 これは、ボールを使ったメモリだけでなく、電気でも磁気でも、すなわち「保存則に従う物理法則を活用したメモリ」である限り、必ず周囲に痕跡を残すということです。

 要するに情報は消えない。

 でも、やっぱり良く考えてみると、ボール式ビット装置の情報は消えちゃったとしか思えません。なぜなら、地球まで含めたすべての系に散らばった情報を受け取ることができないから。つまり、情報が情報たるべき要件の一つである「受け手が受け手となれる手段があること」を満たしていないように思えます。

 情報はどこかに消えてしまったわけでもないのに受け取る手段がなくなってしまったことで情報ではなくなってしまった……。

 なぜ受け取れないのか。そこを今度はズームアウトして考えて見ましょう。

 ボールが右に動いた。反力で地球が左に動いた。理屈上は観測できます。でも、地球はそれ以外にもいろんなものを乗せています。人。車。猫。大仏。大仏は動きませんが(モノによっては動くかもしれませんが)、人や車や猫はせわしなく動き回っています。ボールが動くよりもよほどたくさん地球を揺り動かしています。

 ボールの影響が観測できなくなるのは、そのときです。ボールの影響よりもよほど大きな予測不可能な動きがたくさんあるから、ボールの情報は消えてしまったように見えるのです。

 これを、情報工学ではS/N(信号対ノイズ比)と言います。お、急に情報屋っぽい言葉が出てきたゾ。

 S(信号)がN(ノイズ、その他のかく乱源)よりどれだけ多いか、という比率で、S/Nが1なら、信号とノイズは同じレベル。同じレベルならもう読めなくなってもよさそうですが、試してみれば分かりますが(どうやって)、S/Nが1くらいなら、薄目で見ると案外情報は読み取れちゃったりするものです。人為的に作った情報はそれ自身に人為的なパターンがあるから、というのが読み取れちゃう理由なんですが、その辺はめんどくさいので省略。ともかく、S/Nがある閾値を下回ると、情報は情報として復元不可能になります。情報工学的には、その閾値が情報が消滅するポイントになります。

 で、実はこれが熱力学と関係があるらしい。というのは、ここまで読んできた皆さんならなんとなく勘づきますよね。情報というのは割と純粋な物理的現象で、特に情報が情報であるためにはS/Nが重要で、このうちNの部分は「予測不可能なランダムな現象の集まり」なんですから、これは、熱力学で言うところの乱雑さ、あるいは「価値の無さ」、一言で言えばエントロピーとすごく深く関わっていることが想像できるのではないでしょうか。

 ということで、実は、情報学的な「情報量」は時に「エントロピー」と呼ばれることもあり、なんとこの「エントロピー」と「熱力学的なエントロピー」が、ある定数を媒介にイコールで結ばれるらしいんです。そうすると、ある情報装置が消費する電力や廃熱(の理想的な限界値)を、扱う情報量から推測できてしまったりという面白世界が現れます。

 こんな風に、情報を物理的な現象としてちゃんと定式化できるようになると、今度は、それが通信で伝えられるときにどこでどんな風に影響を受けてどこまでなら情報が情報として伝わりうるのか、なんてことがきっちりと数学で計算できるようになります。IT=インフォメーションテクノロジー、といっても、その土台はどこまで行っても物理学なんです。

 SFのテーマの中でも今一番の隆盛は情報と生命なのかな、と思うわけですが、情報も、こんな観点できっちりと物理的な現象としてその限界を定義してあげれば、それ自身が面白い物語をつむぎだしてくれそうな、そんな気がしてきますよね。

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