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月立淳水の科学カタログ  作者: 月立淳水
6.機械・ロボット
17/32

水コンピューター

 唐突かもしれませんが。

 昔、水コンピューターを設計したことがあります。

 あれは、学生のとき。ちょっとした科学系のサークル、というか、ぶっちゃけちゃえば宇宙科学で遊んじゃうサークルに所属していたんです。ロケットとか衛星をごっこで設計してみたり、宇宙物理学だのなんだのの勉強会をしてみたりしてみなかったりするようなゆるい活動で。

 さて、ある年の学園祭で、展示として『水』にフィーチャーした展示場を作ろうぜ、ってことになったんですね。水(H2O)に関するいろんな小ネタをパネルにしたり冊子にしたり、水に関係する体験型実験装置をいろいろと置いてみたり。割と小さな子供向けで。大きな講義室を丸々借りて、全面にビニールシートを敷き詰めて(結果としてこれが正解。当然の帰結として展示物の性格上、床は水浸しになりました(笑))。

 そんな中で、水コンピューターを作ろう、と言い出したんです。私が。

 電気回路と水路は似ている!

 というのが当時の私の持論でして。紆余曲折あってね、ロボット工学が専攻だったはずが、いつの間にか熱力学+流体工学が専門になっていたんですけど、流路の方程式と電気回路の方程式が、とてもよく似てるんですよ(ついでに言えば流体力学の方程式と電磁気学の方程式も形がそっくり)。だから、これ、作れるでしょ、と。

 誰も賛同者がいなかったので、サークルノートにしこしこと論理ゲートの設計図を一人で書き付け始めまして。知ってる人は知ってると思いますが、コンピューターを作る論理ゲートって、NAND回路一種類をうまく組み合わせれば案外何とかなるんですよ。なので、とにかく水路でNANDゲートを作ろう、と。

 できました。設計図上は。

 で、いざ製作しようと思ったんですけどね、流路をどうしてもループさせて揚水ポンプを設置しなくちゃならない構造があったりして。高い位置に巨大な水槽を置いてその水圧だけで駆動することを志向していたので、その部分もうまくタービンポンプで動かしたりできるっちゃできるんですが、とてもじゃないですがホームセンターで手に入るような部品じゃないし、何しろ、部品点数を数え上げただけで一番簡単な1ビット加算回路(半加算器)だけで数十万円分は必要でしてね。

 そんなわけで、水コンピューターは幻となりました。

 でも、電気の流れって、どうにもつかみどころが無くていまいち不気味に思う人も多いかもしれませんが、水の流れだったら割と直感で理解できますよね。実は方程式の形自体は、電気も水もほとんど同じなので、良く分からない電気の仕掛けを水の流れとして理解してみるというのは、理解を深めたりさらに妄想を広げたりするには良い試みだと思います。

 たとえば、電球のことを考えてみます。

 その前に、電気回路と水の流れの読み替え方。電気回路はざっくりと言うと「電圧」「電流」「抵抗」「電力」といった言葉で理解できます。これらを水で具体的にイメージすると、電圧は「水の高さ」、電流は「水の流れの速さ」、抵抗は「パイプの狭さ」、電力は「(流れも含めた)水の重さ、勢い」あるいは「その勢いで水をぶつけられたらどのくらい痛いか(笑)」。

 電球は、高いところに置いた水を、パイプに通して低いところに流れ落としている単純な水路です。電球の光る部分は「抵抗」ですので、パイプが少し狭まっています。パイプが狭いので、上から落ちてくる水の流れはそれほど速くありません。でも、狭まっているところに差し掛かると、急に狭くなるので流れがぐんと速くなります。その速くなっている部分、もしそこを輪切りにして出てくる水を頭から受けると、とても痛いです。激流です。つまり、「電力」がとても大きいことを意味します。狭いところはやがて終わり、パイプが広がると、また水の流れは緩やかになります。ここは、受けても痛くありません。大丈夫です。つまり、電球は、高い水槽→太いパイプ→細いパイプ→太いパイプ→排水溝、という単純な水路と等価です。

 電球が光るとき、それは、電力が大きい部分が大きな熱を発して高温になるからです。ロウソクが光るのと同じ。ただ熱いから光る。水の場合は、流れが激しいところは摩擦熱が大きいので、熱くなります。さすがに水なので光るほど高温にはなりませんが、どこかが熱くなるとすれば、それはやはり細いパイプ部分です。つまり、パイプを細めてあることで、そこが効率よく温められて光るようになるということです。

 では、もっと強く光らせる、つまり、途中のパイプが狭まっている部分を輪切りにして水を受けた時、もっと痛くなるようにするにはどうすればいいでしょうか。

 もっとたくさんの水が勢いよくドーンと落ちてくるイメージ……。

 そう、狭まっているパイプをドーンと太くしちゃえば、一気にドーンと水が落ちてきますね。パイプを細くして流れる速さをもっと速くしてあげたほうがよさそうな気がしますが、直感で言えば、より痛そうなのは、ものすごく太いパイプからドドーっと流れ落ちる水です。

 そして、その直感は正解です。より強く光るには、回路全体の抵抗を小さくしてより大量の電流が流れるようにした方が良いのです。ただし、最初のパイプを太くして流れが穏やかになってほしい部分の流れも激しくなってしまいそうです。実際の電球でも、あんまり「光る部分」の抵抗を小さくしてしまうと、光らなくていい部分まで高温になり、回路全体が損傷する恐れが出てきます。ほら、なんだか水で電気回路が理解できちゃいそうじゃないですか?

 というのを進めていくと、水コンピューターが出来上がります。

 そうやって出来上がった水コンピューターをどうやって料理するかは、あなたの妄想力次第。

 古代エジプト文明にコンピューターの役割を担う巨大な水路があった……なんてひとネタ、どうでしょう?

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