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月立淳水の科学カタログ  作者: 月立淳水
5.素粒子論
15/32

ヒッグス粒子

 今回はヒッグス粒子。

 話題の。

 標準モデルがどうとかこうとか難しい話は書きません。書けません。ただ、ヒッグス粒子云々が抱えている面白い謎について書いておこうと思います。

 書かないとは言いましたが、最低限のおさらい。

 ヒッグス粒子は、いわゆる『標準モデル』と呼ばれる素粒子物理学のフレームワークで予想された粒子の一つです。端的に言えば、『あらゆる素粒子に質量を与える』とされています。

 実のところ、この『標準モデル』自体は、完璧な理論ではありません(なので『理論』ではなく『モデル』と呼ばれています)。たとえば、ニュートン力学では、1kgの物体を1Nで加速した時の加速度は1m/平方sと決まっていますが、これにたとえて言うなら、標準モデルは、1kgの粒子を1Nで加速した時の加速度は【比例することは分かってるんだけどだいたい0.01~10000の間ってことしか予想できない】というようなものです。

 ヒッグス粒子も【存在しないとモデルが崩壊するんだけどその質量エネルギーはよくわからん】という難儀な存在。長い間見つからずに困っていて、実は人類が作り出せるエネルギーでは絶対に見つからないんじゃね、なんていう先鋭的な説さえ出てくるほどだったんですが、ちょっと前、めでたく発見されました。

 ということで標準モデル大勝利、ということになったわけですが、ここまでが前置き。

 ヒッグス粒子の発見で、ヒッグス粒子がどのように物質に質量を与えるか、っていう仕組みが脚光を浴びることになって、ご存じの方も多いかと思うところなのですが、大体こんな感じに説明されます。

~~~

 ヒッグス粒子と相互作用する素粒子は、本来は光速で飛んでいるのだけれど空間に満ちたヒッグス粒子にぶつかって跳ね返りながら飛ぶことになるため、光速以下の速度になる、この『飛びにくさ』が『質量』として観測される。

~~~

 直感的に説明しようとした結果こんな説明になっているのかと思いきや、実は標準モデルの中では実にこの通りにメカニズムが作用しています。もちろん、ぶつかって跳ね返ったり、なんてのは比ゆ的な表現で、実際は、質量をもつ粒子は超短い時間の中でヒッグス粒子の生成と消滅が起こる反応に巻き込まれ続けているのである瞬間にその素粒子を加速しようとすると周りのヒッグス粒子も引きずって加速することになり、加速が鈍らされる=質量として観測される、ということになります。

 さてここで一つの事実。

 実は、『質量』には二種類あります。慣性質量と重力質量です。

 前者は物体の動かしにくさ。ヒッグス機構で説明される質量です。

 後者は、物体同士が『重力』という力を及ぼしあう程度を表したもの。

 さあこれで、ヒッグス機構の難点が見つかりました。

 現代物理学のすべての理論は、『慣性質量=重力質量』という前提で成り立っていて、これに間違いは無さそうです。

 実のところ長らくその理由は分からないで来ました。一般相対性理論では『慣性質量=重力質量』を『原理』とし、理由を考えることを禁止しています。

 ここで、ヒッグスによる慣性質量付与の仕組みが正しいらしいと分かったことで、おかしなことが起こっていることが分かります。

 質量とは、ヒッグス粒子との相互作用により『運動が邪魔される』ことにより生じる見かけのものである、つまり、『質量なんて幻なんです』と言っているようなものなんです。

 ところが、一方で、重力質量はきっちりと重力を発生させている。

 単に『ヒッグス粒子に邪魔される度合い』が大きいことと、重力という遠距離力を発生させるパワー、これがイコールで結ばれていることは実に不可解ですね。

 次世代理論ではこれを説明する試みがいろいろと出ているようですが、どの理論が正しいのか(あるいは正しい理論は一つもないのか)、まだ誰にも分かりません。もしかすると人類は永遠にその理由を知らずに終わるかもしれません。

 また、もし『慣性質量=重力質量』でない物質や状態を作れるとすると、とてつもないエネルギーを生み出せる可能性もあります。『慣性質量=重力質量』である理由が分からないということは、そうでない系を否定することもできないということですから(もしそうなら一般相対性理論が否定されるわけですけど、つまり、一般相対論が成り立たない系がどこかにあるかもしれないってこと)。

 ということでここにSFのタネがありそうです。いろいろひねくって遊んでみてください。

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