ゾンビちゃんとお出掛け
ドラッグストアって、生野菜を売っていれば完璧なんですけれどね。
皆様ご機嫌、ゾンビの春野樹里です。
みんな、蜂蜜リキュールのゾンビって覚えてた?
ふふ、良いのよ。
私なんてお酒を飲むことしか出来ないゾンビだもの。
さて、そんなゾンビの私ですが、現在しっかりと靴下とスパッツ、運動靴に名言Tシャツを装備して、背中にはリュックを背負っています。
ええ、御察しの通りお出掛けでございます。
昨日はギラギラの快晴でしたが、今は6月。
先日梅雨入りした事もあり、今日は生憎の曇天。
私は好きですけれども。
会社も心配ですけど、今は近くの薬局に眼帯や食料と飲料水を手に入れに行かねばならないのです。
さて、取り敢えずお隣さんも誘って見たのですけれど、彼は来ないみたいです。
つれないですよね、ちょっとムカついたので、消臭剤かけてやりました。
ちなみに、私の武器は牛刀と中華包丁。
昨日研いだので、切れ味は保証します。
ベルトには物入れを括り付けて居るだけなので、咄嗟に使えないと困るので、中華包丁はそのまま持ってます。
スコップとかバットの方が、ゾンビ映画っぽいですよね、残念。
ついでに探して見ましょうか。
さて、目指すはドラッグストア。
徒歩3分の距離で、私はかなり立地の良さに感動しています。
ふふーん、と鼻歌を歌いながら道を歩きます。
やっぱりアパート暮らしだと声が出せないし、カラオケは皆無だし、歌いたくなりますよね。
ゾンビパニックなので、変な人に見られる事も・・・。
何やらゾンビが此方を確認して、目が合っちゃいました。
どうやら、私の歌に反応している様です。
近くの小石を投げて見て、音に反応して確認を行っている様子。
まぁ、ゾンビパニックが始まって、ゾンビも新鮮ですし、聴力等は生きているのでしょう。
さて、ドラッグストアに着きました。
けれども、お店の前にはゾンビが集まっていて、何やら揉めている様です。
相変わらずアーアーしか聞こえないので、何を言っているのか分からないけれど。
ゾンビ達の隙間をぬって進むと、入り口にバリケードが作られていました。
自動ドアのガラスは割られていましたが、商品棚で何とか塞いでいる様子です。
もしや、生存者がいるのでしょうか?
「あの、もしかして感染してない人間がいるのですか?」
「アー」
隣の主婦の格好をした方に声をかけて見ましたが、駄目ですね。
というか、この主婦の両目が白目になってました。
周りを見てみると、ちらほらと私の様に充血している瞳の中に、白目を向いている方が居ます。
身体が痛み出して来ているのでしょうか?
私もその内白目になるのかなぁ、嫌だなぁって思いつつ、元々色白の人ってゾンビに間違えられそうだなぁなんて考えて現実逃避をしていました。
顎に指を当てて考えていると、ふとバリケードの隙間から此方を見ている目に気がつきました。
真っ白な白目に、黒い瞳。
どうやら彼は感染していない様子ですね。
「こんにちはー、お買い物に来たのですけれど今日はやってないみたいですね?」
「ひ、ひっ!喋った!」
「そりゃ喋りますよ、私は感染していますけどまだアーアー言う程回ってないみたいですし」
私が肩をすくめると、彼は息を呑みました。
私と顔見知りのドラッグストアの店員さん。
毎回炭酸水とサラミを買う私ですから、覚えている様子ですね。
「き、君も感染しているのか?」
「ええ、と言うか、感染してないと襲われてますよ」
彼の声に反応したのか、周りのゾンビは棚を叩きます。
それに怯えた様に、中に引っ込んでしまいました。
どうにも今日は中に入れそうもないですね、わざわざ棚を壊して中に入るなんて、中ボスみたいな事もしたくありません。
そんな事をウンウン悩んでいると、ドラッグストアの袋が上から投げられ、私は無意識に受け取ってしまいました。
「すまない、此方も食料に限りがある。渡せるのはそれだけだ、本当にすまない」
袋の中には、私が何時も買っている炭酸水とサラミ。
多分、私はゾンビになって、食料なんて渡す必要が無いのに。
彼はくれた。
「いーえ、ありがとうございます。それでは、さようなら」
「その、ありがとうございました」
彼と私は、ただの店員と客の関係、それだけ。
私は踵を返して、ゾンビの波を掻き分ける。
うーん、次は業務スーパーかな。
貰った荷物をリュックにしまい、私は次に業務スーパーに向かう。
ちょっと、視界が滲むのはきっと気の所為。
だって、私はゾンビなんだから。
ゾンビウィルスは、仲間を増やすか、代謝が急増するか何方かで人を襲います。
この作品のゾンビウィルスは、前者なので人肉が目的ではありません。