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不真面目な騎士  作者: 青石めい
本編
3/25

第二話 トーナメント

 王国騎士団選り抜きの精鋭達による、年に一度の技を競う祭典、トーナメントの季節になった。

 トーナメントは、3日間にかけて階級、年齢、種目ごとに分けられた部門別に開催され、全騎士団員の中から選ばれた者だけが出場出来る。

 かくいう私も僭越ながらそのリストに名を連ねており、同僚であるエリックと共に毎年出場している。私達は年齢、階級、所属が同じため、当然同部門で出場になる。


 普段は穏やかで、争いごとを好まない性格のくせに、エリックは何故かこの時期だけ私をやたらライバル視してくる。


 今回の開幕式でも、全出場者が国王陛下、王女殿下の名の下に変わらぬ忠誠と公正な試合を宣誓し、解散するタイミングで「今年こそは負けないからな」と語気も荒く宣言された。その並々ならぬやる気に満ちた様子に、試合前から気圧されてしまったほどだ。


 ―――うん?これまでの戦績?

 そう、彼の台詞からもお分かりのように、5年連続私の勝ち越しである。去年は優勝こそ逃したが、何を隠そう剣術において私は騎士団の中でも指折りの使い手なのだ。

 代々名のある騎士を輩出して来た血筋ゆえだろう、過去に若年部門では2年連続優勝したこともある。とはいえ年々、他の騎士達との体力や筋力の差が開いて来て、楽々勝ち進むことは難しくなって来ているけれど。


 エリックからしたら、せっかくの華々しい舞台で想い人に自分の雄姿をアピールする絶好の機会だものね。気合が入るのも頷ける。それにやっぱり、普段は任務中私を不必要に女扱いして差別することはないけれど、女に負けっぱなしというのは彼のプライドに触るのかもしれない。

 騎士団の中には、色々な人間がいて、当然紅一点の私を快く思わない存在もいる。そんなことはいちいち気にしないけれど、エリックからの評価だけは別だ。


 ―――もし、彼が女だてらに騎士になった私を煙たく思っていたとしたら、私はとっくに今の地位を辞して、他の令嬢と同じように将来の夫のための花嫁修業に勤しんでいただろうか?


 でも分かってる。そんな仮定の話は無意味だ。彼は騎士の私をいつだって称賛してくれている、だからこそ正面からライバル宣言をしてくれるのだ。

 

 彼が私を誇りに思ってくれている限り、私は彼の理想の騎士であり続ける。





 ―――私専用に用意された仕度部屋、私は姿見に自分を映す。


 そこに映るのは、やたら縦に長く、カモシカのように全身が引き締まった女だ。柔らかな肩や腰のカーブもなく、細い筋肉がシャープなラインを浮き彫りにしている。

 さらしを巻いた胸の上部はうっすら骨が浮くほど肉がそぎ落とされており、もし腰まで届く長い髪がなければ、少年と見紛われてもおかしくない。薄手の襦袢を身に着けその上に、軽量化された鎖帷子を装備する。そしていつもの騎士の制服に袖を通す。最後に毎日丁寧に梳かす髪を首の付け根辺りで一つにまとめると、銀製の簪で留めた。


 「ルーシア様、ご準備はお済でしょうか?そろそろ、会場の方へ移動をお願い致します」


 部屋のドアがノックされて数刻後、遠慮がちに小姓が呼びかけてくる。


 私は、もう一度姿見の前で襟を正し全身をくまなくチェックする。

 そこには、鋭い目つきの背の高い、厳格そうな女騎士。


 「いいわ。今行きます」


 靴音を響かせながら、私はドアの方へ向き直った。


 「―――これより、下位騎士青年の部、地上戦の準決勝試合を始める。東塔より、エメセシル姫付き近衛騎士隊所属、エリック・カーシウス、前へ!」

 「はっ!」


 審判騎士の号令に、エリックが競技場東塔出口から、中央まで進んで来る。わぁっとギャラリーから歓声と声援が飛ぶ。


 「エリック、がんばれよー!」

 「男を見せろー!」

 「雪辱を晴らせ!」


 「―――次に、西塔より同じくエメセシル姫付き近衛騎士隊所属、ルーシア・ヴィクセン、前へ!」

 「はいっ!」


 名を呼ばれ、私も声を発し、西塔出口を抜け審判と対戦相手の待つ舞台へ進む。

 さらに歓声が広がり、会場は興奮と緊張感に包まれる。


 「ルーシア様ー!応援してます!」

 「ひょー、いつ見ても美人だなー!」

 「姉御ー!愛してますー!俺と結婚して下さーい!!」


 ・・・私への声援にひやかしが多いのはいつものことだ。

 その上エリックと私が婚約関係にあることは周知の事実なので、私達の試合は他のに比べて娯楽的な色合いがさらに強まる。


 中央まで進み、エリックと私は正面で向き合うと、騎士の礼を交わす。

 

 いつになく凛々しい表情をしているエリックの、真剣な視線を受け止め、別の意味で心臓が跳ねあがらないように意識して気持を落ち着ける。

 ・・・こういう時、必要以上に顔が強張ってしまい、あとで周囲から血も涙もない冷徹な鉄の女騎士とか呼ばれる羽目になるのよね。


 そして、審判騎士の横に控えている小姓から試合用の刃を落とされた剣を受け取る。


 剣を鞘から抜き放ち、一度互いに打ち付ける。キン、という音が弾け、審判騎士の「はじめ!」という号令と同時に私達は一度飛び退り距離を取る。


 最初に仕掛けたのは私からだ。


 私の剣術の特徴は、何といっても速さ、そして剣舞のように流れる動きで相手の予測を翻弄する連続攻撃だ。

 だが、さすが幼馴染であり同僚のエリック。私の攻撃の癖はよく見抜いており、次の攻撃に移らせまいと、しっかり私の剣を受け止める。


 力技では到底敵わないため、私はまた間合いを取り、次の連続攻撃を繰り出す。その度に、エリックは正確に私の剣を受け止め、薙ぎ、受け流す。

 エリックの剣が上段から振り下ろされる、それを私は剣で弾き軌跡を逸らすと同時に横に飛び避ける。


 何度も鋼が打ち合う激しい音が飛び交う。


 例年になく、私に付け入る隙を見せず正確に弾いて来るエリックに私は内心舌を巻いていた。体力が続く間は、エリックの攻撃が私に当たることはない。速さでは圧倒的に私に分があるのだ。だからいつもなら、彼の防御が崩れたすきに私が彼の急所に剣を突きつけ、試合が終わる。

 だが、今日は有効な攻撃を与えられないでいる。長期戦になって、私がもろに彼の剣を受けるような羽目になれば、力でねじ伏せられてしまうだろう。

 運動量が多い分私の方が体力を削るのも早い。だんだん私は焦って来ていた。


 「ルーシア!今年こそ勝たせてもらうぞ!」

 「っ、まだ!今年も負けられないわ!」


 エリックはだんだん手ごたえを感じ始めているのだろう、初めは防戦に徹していた彼も次第に攻撃に力を入れ始める。

 でも、生憎と攻撃の合間に隙が出来る癖はまだ克服出来ていないようね。


 一度、正面からエリックの剣を受け止める。が、間髪入れず体の重点をずらし、相手の勢いを空に逃がす。勢い込んで前のめりになるエリック。


 ―――もらったわ、今年も私の勝ちよ!


 私は瞬時に剣を構え直し、振りかざす。


 「くそっ!」


 エリックは慌てて体の向きを変え、防御の姿勢を取ろうとする。でも、遅いわ!


 振り下ろす切っ先が、日の光を反射し鋭い閃光を放つ。それを見て、瞬間的に違和感を感じた。抜き身の、鋭利な刃先は―――!

 刹那、私はほとんど反射的に剣先の方向を変えた。


 スパッ、という軽い音を立ててエリックの騎士装の袖が切れた。


 戦闘を前提に、分厚く丈夫な生地で作られた制服だ。刃が落とされている模擬戦用の剣ではたやすく切れるはずがないのに。


 私は思わず動きを止め、呆然と切れた彼の袖を見つめた。


 「ルーシア?!」


 動きを止めた私の意図をすぐに察し、エリックも自分の剣を降ろし、自分の袖と私を見比べる。


 よく見ると、私の剣は切っ先と刃元は他の試合用のものと同様、刃は丸く削られている、しかしその中腹に不自然な輝きを放つ、未加工の鋭利な刃先がその存在を主張していた。


 ―――どういうこと?!


 私はキッと私にこの剣を渡した小姓を睨み付ける。ビクッと肩を跳ねさせたその少年は、向けられた視線に訳も分からず目を白黒させる。


 ―――違う、この子は絡んでいない。だとしたら、武具管理官の落ち度か?職人のミス?

 

 「ルーシア、お前の剣は・・・」


 「ええ、一部刃を残されているようね。あのまま切りかかっていたら、あなたの腕をバッサリいっていたわ」


 自分で言いながら、その事態の恐ろしさに背筋がゾッとした。


 突然試合を中断した私達にギャラリーもざわめく。


 「なんだ、どうしたー?」

 「まだ決着ついてないぞー、まじめにやれよー!」

 「エリック、ぼーっと突っ立ってんなよー!負けっぱなしでいいのかー?」


 やんややんや、好き勝手に野次をとばすギャラリーを無視し、私は審判騎士に向き直る。


 「審判殿、故意か、アクシデントか分かりませんが、私の剣は一部刃が残されたままです。これでは試合を続けられません」


 「何だと?本当か!」


 審判騎士が、確認のために駆け寄って来る。


 「俺の剣は不審な点はありません」


 確かに、エリックの剣は間違いなく試合用のものだった。やっぱり、たまたま私が受け取った剣が管理がずさんな代物だっただけなの?でも、何かが引っかかる―――。


 「何でこのタイミングなんだ?」


 エリックも、何か腑に落ちないように呟いた。


 ―――偶発的な事故だったとしても、タイミング的に秀逸すぎる。


 このトーナメントの全試合の中で、私達の対戦は特に注目度が高い。下手をしたら各部門の決勝戦以上に。

 何しろ、王国唯一の女騎士の試合で、しかも対戦相手が同僚であり婚約者でもあるエリックだ。純粋に迫真の試合を楽しむ者もいれば、私達の背景に下世話な興味を持つ輩もいる、これ以上ない余興なのだ。


 そして、皮肉なことに騎士の祭典であるのにも関わらず、この時期は一年で一番警備の薄い日でもある。王国中の騎士が観戦のために結集しており戦力が集中しているのに、不正防止のため、一部の警備役を除き、観戦者は帯剣を許されていない。

 そして舞台に最も近い来賓席には、国王陛下、王女殿下をはじめ主要王侯貴族が観戦している。


 誰かが仕組んだ―――!?


 「陛下!!!」


 突如、エリックの鋭い声が響いた。ざわめく会場にいても、空間を切り裂くようなはっきりとした、緊迫した声音だった。


 反射的に来賓席を見ると、国王陛下の近くにやけに小柄で地味な恰好をした、ともすれば周囲に背景として溶け込んでしまいそうな印象の薄い男が不自然なくらい寄っていた。


 エリックが剣をその男に向けて投げた。その狙いは違わず男に向かって真っすぐに飛んでいく。


 「くそっ!」


 陛下の間近まで寄っていた男は、焦ったように飛んで来た剣を振り払うように手を動かした。そこにギラリと光るものがある。ナイフ!暗殺者?!


 「何者だ!」


 陛下の間近に控えている人間の内で、最も早く反応したのが陛下の従兄でもあられるバレン公爵だった。公爵は、陛下を庇うように暗殺者との間に割って入る。しかし、当然公爵も今日は帯剣を許されていないので、丸腰だ。体ごと陛下の盾になるおつもりなのだ。


 ああ、暗殺者の動きの速いこと!エリックの剣を弾いた男は、ほとんど隙のない動きで陛下に向かって、正確には陛下を庇うバレン公爵の懐に飛び掛かる。武術の心得のあるらしい公爵は、とっさに両腕をクロスさせ、男の動きを正面から受け止める。だが小さいとはいえ、鋭い刃が公爵の左腕に突き刺さる。


 「ぐぅっ!」

 「バレン公爵!」


 エリックの機転のあと、私とエリックはほぼ同時に駆け出していた。

 見るとやっと警護役の騎士達―――私達の同僚のマクシミリアンも姫様の傍で控えていたようだ―――が、慌てて曲者の乱入に対応を始めた。


 私達からは来賓席は少し距離があり、辿り着くまでの間警護役騎士達と暗殺者の格闘が繰り広げられている。しかし、やたらすばしっこい奴のようで、警護役は多勢にも関わらず遊ばれている。

 当然、一部の騎士がすでに陛下とエメセシル様の守りを固めている。良かった、殿下達は無事だ。


 「ルーシア!」

 「分かっているわ!」


 エリックの呼びかけに、私は短く返事をして来賓席のフェンスを駆けのぼるため、膝を落とした彼の肩を足場にして跳躍した。


 複数の騎士に追われていた暗殺者の後ろ手に回って、背後から飛び掛かり切り下ろした。男のくぐもった悲鳴が響く。ああ、中途半端な剣だから致命傷は与えられない。私の剣は男の背中一部に筋を作っただけだった。だが、敵の動きを止めるのにはそれで充分だった。


 ダンッ、と私の後に続いてフェンスを飛び越えたエリックが力任せに男にタックルをし、その体を地面に組み伏せた。


 「誰の差し金だ!」


 男は、エリックに押さえつけながらもその懐から何かをまた取り出そうとしている。別の武器?それとも火薬か何かか?!


 ガッと、とっさに別の騎士がその暗殺者の腕を踏みつけ動きを封じる。見覚えのない騎士だ。バレン公爵付きの者だろうか?

 やたら俊敏で無駄のない動き、よほどの実力者と思える。トーナメントに出場者でも過去に見たことはないけれど・・・印象的な野生の狼のように鋭い目つきをしている。


 ―――ともあれ、襲撃者はそのまま捉えられ、暗殺は未遂に終わった。主君を傷つけられた公爵の騎士が激しく憤りながらその身柄を引っ立てて行った。


 私達はその後試合を再開する気にはなれず、結局二人とも辞退したため今回のトーナメントは入賞を逃すことになった。私達の決着も翌年に持ち越された。


 競技場を離れた私達はすぐさま、思いがけない暴力的な流血場面に遭遇し、ショックを受けているだろうエメセシル様の元に駆け付けた。


 「エメセシル様!ご気分はいかがですか?」


 姫様の私室への入室を許された私達は、部屋のソファで青い表情でもたれかかるように腰掛けられている姫に近寄る。


 「ルーシア!エリック!」


 私達の顔を見て、エメセシル様の頬に少し血の気が戻る。お可哀そうに、本当に怖い思いをされたのだろう大きく澄んだエメラルドのような瞳がみるみるうちに潤みはじめる。


 その姫の傍らで、姫様付き侍女エレナが安心させるように手を握り体を支えている。その近くには今日の警護担当だったマクシミリアンも硬い表情で控えていた。


 「姫様、怖かったでしょう」

 「もう俺達が傍におります。不審な輩など一切近づけませんので、ご安心下さい」


 エレナから引き継ぐように、私が姫の傍まで寄り片膝をついて目線を合わせると、大粒の涙をこぼしながらエメセシル様は私に抱きついてきた。


 「ああ、ルーシア、そうなの、本当に怖かったわ。あの者は何なのかしら、お父様を狙っていたの?それとも王族に恨みがあるのかしら」

 「まだ私にも詳細は分かりません。今、バレン公爵の騎士が取り調べをしているはずです」


 小さく柔らかな少女を抱きしめ背中をさすってやる。ふわりと、花のような香りが鼻孔をくすぐり思いがけなく同性にも関わらずどきりとする。何とも庇護欲を刺激する、可愛らしいお方なのだ。


 ちら、とすぐ隣に突っ立っている我が婚約者殿の表情を盗み見ると、何とも複雑そうな顔をしていた。ちょっと、私相手にやきもち焼かないでくれる?


 「あなた達の試合、本当に楽しみにしていたのに」


 私の胸から顔を上げた姫が、不満げな表情で口をとがらせた。その可憐な薔薇色の頬は、まだ涙で濡れている。ああ、女の私にまで色香を発揮しないで頂きたい。


 「勝負は、来年に持ち越しですね。全く、今年こそいい線行ってたと思ったのに」

 「あら、あの剣のことが無ければ、結局は私が勝ってたと思うわ」


 苦笑しながらおどけたように言うエリックに、私は呆れたように口を挟む。


 「分からないだろう」

 「分かるわよ。私に腕を打たれて痺れたあなたの首筋に私が剣を突きつけて、試合終了、だったと思うわ」

 「やけに具体的だな」

 「いつものパターンじゃない」


 あっけにとられたように初めは私達のやりとりを、目を丸くして見ていた姫様が、やがてくすくすと笑いはじめる。ああ良かった、いつもの姫様に戻って来たみたい。

 見ると、侍女のエレナも笑いたいのをこらえているような、真面目な顔との中途半端な表情をしていた。口元がぴくぴく震えている。


 「エリック、少し話がある。ルーシア、ちょっと姫様の警護をしばらく頼めるか?」


 ふいに、マクシミリアンが私達に呼びかけた。その表情は相変わらず固い。おかしいな、普段の彼は近衛騎士隊の年長のムードメーカーとも呼べる存在で、いつもなら率先して、場を和ます役を買って出てくれるキャラクターなのに。

 けして有力とは言えない、地方の子爵家の出の彼だが、その剣技と親しみやすい性格を買われて、以前はは亡き王太子殿下付き近衛騎士、そしてその後姫様付き近衛騎士隊に抜擢された異例の経歴の持ち主である。たしか、病弱な妹を領地に残していて、その妹のための希少な薬代に、給料のほとんどを使っているという家族思いでも知られた人情家だ。


 「・・・?いいわよ、当たり前じゃない」

 「姫様、ほんの半刻ほどお傍を離れることをお許し下さい。何かあればすぐに駆け付ける距離にはおりますので」


 どこか神妙な面持ちで姫の許可を乞う彼に、狐につままれたような心地なのは私だけではないらしい。促されるまま、マクシミリアンと共に退室して行ったエリックの表情も、戸惑いの色が見え隠れしていた。


 ―――後から、エリックが私に語ってくれたことによると、マクシミリアンが私達に何らかの警告をして来てくれたようだ。


 どうやら王国内に、特に騎士団の中に次代の王であるエメセシル様の婿を国外から迎え入れることに不満を持つ一派がいるらしい。

 男系王位継承者がいない場合にのみ、直系王族の女性が既婚であれば王位継承権を得ることが出来るというのは、元々法律が定めるところだが、女王の配偶者は何も国内の人間に限定されている訳ではない。

エメセシル様と隣国のアレクス様との婚姻には法律上何の問題もない。しかし、保守派貴族からしたら100年続く由緒正しい王家の血に外国の血が混じることを良く思わない者がいてもおかしくはない。

 とはいえ、今回のアレクス様との婚姻は、国内貴族に王配の資質を満たす人間で、地位や年齢が釣り合う者がいなかったため、聡明で政治経済に明るく、幼少より帝王学を身につけられていたアレクス様を、国王陛下御自ら隣国の国王陛下に三顧の礼を持って成立させた婚約なのだ。しかも、当のお二人の関係性も良好と、本来けちのつけようがない条件なのに。


 そもそも、2年前のユリウス殿下の夭逝さえなければ、王位継承問題自体湧いて出てくることすらなかったのに・・・。


 それとも、以前は現国王陛下の安定した治世の下、一枚岩だったこの国の貴族達の間にいつの間にか亀裂が生まれていて、それが裏で繋がっているのだろうか?例えば、ユリウス殿下の突然すぎる死にも関わりがあるような―――。


 ―――私の脳裏に、先日の建国100年祝賀会のダンス中のエリックとの会話がよぎる。

 彼は一見穏やかで、下手するとのんきにも見られがちな柔和な雰囲気をしているが、その実とても頭が切れ、こと任務に関わることには勘が冴える男なのだ。


 それに、トーナメントの試合中、刃を残した不自然な剣を紛れ込ませた人間についても気になる―――どうやら、一波乱起こることは避けられそうにないみたい。


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