プロローグ
初めて投降させて頂きます。拙い文章ですが、少しでもお楽しみ頂けたら幸いです。後の展開で、戦闘シーンや人が死ぬ残酷な描写が出て来ます。苦手な方はご注意下さい。
―――別に、確固たる強い意思があったわけでも、どうしてもそうせねばならない必然性があったわけでもない。
いや、確かに私が剣術を習い始めた10歳当時、我がヴィクセン伯爵家には私しか子供がいなかったため、代々騎士を輩出してきた家柄である都合上、女であっても私が騎士としての訓練を受けることに意義はあったのかもしれない。だが少なくとも私の父がそれを私に強制したわけでもないし、過去も現在もこの国の女騎士が私一人であることを鑑みても、そもそも娘の私を騎士にするという発想は父にとって一番初めに浮かぶ案ではなかったはずだ。
だから、これは他の誰でもない私自身の選択なのだ。
私、ルーシア・ヴィクセンは伯爵令嬢にして、この王国の唯一の女騎士だ。12歳で見習い騎士として王宮に上がるようになり、その2年後正騎士としての栄誉を賜った。異例の抜擢だったが、私が王国騎士団師団長の父から剣の手ほどきを受けていることを耳に挟み、興味を持った国王の鶴の一声がきっかけだった。目に入れても痛くないほど可愛がっている王女エメセシルの護衛に付けたいがためだ。それ以降、王女付き近衛騎士隊の一人として勤めている。
前述の通り、何も私がすごい正義感に燃えていたとか、騎士の家に生まれた責任感からとかで騎士になったわけではなく、実際はほんの成り行きだった。剣術を始めたことも、もっと子供じみた不純な動機からだ。幼馴染であり初恋の人であるカーシウス伯爵家三男エリック・カーシウスが騎士としての訓練を受け始めて遊ぶ時間が減ったから、彼と少しでも共通の時間を持ちたくて私も始めた、そんな単純な理由からだった。
それが周囲や自分自身の予想以上に適性があったらしい。父が何度も、お前が男だったら総帥の地位も狙えただろうに、とぼやいているのを聞いたくらいだ。
そんな私とエリックは、家柄、年齢も近く父親同士が親しいということから、ごく当たり前のように婚約者同士になった。同じく王女付き近衛騎士隊に属する彼と私は、周囲には理想のカップルに見えるらしい。
―――実際はそんなこと、全然ないのに。