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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

囚われ少女の囚われる前のお話

作者:ヒデハム

 精神感応(サイコ)装置(マシーン)
 第4次産業革命の担い手であるその概念が生まれたのは、私がまだ赤子ですらなかったときです。

 感応波、想起子、支配場、魔力。
 それらは全てある現象を説明する複数の仮説に登場する物理学用語です。

 その現象は、俗に魔術と言われています。
 発展しすぎた科学は魔法と区別できないという言に(のっと)ってオカルティックな名前をつけられたそれは、原理を解明される前に私たちの日常に根付きました。
 私のような産業革命後の世代にとって普遍とは言わずとも特殊ではない程度には身近な存在です。

 というのも、魔術の発見と時を同じくして現れた魔物(これも俗な呼び名です)に対抗するために魔術が必要だからです。
 魔術を扱う者は魔術師と呼ばれ、政府の管理下で魔物対応の任にあたります。
 ヒーローさながらに魔物を処理する魔術師に子どもは憧れ、魔術の才を認められたらそれを目指すように育てられました。

 しかし魔術という現象は未だその真理の一片さえ明らかにされていません。
 その現象を引き起こしているのが、波なのか粒子なのか場なのか力なのか、その見当がつかないのが物理学の現状です。

 そんななか、ある企業が精神感応技術を用いた新型車を発表しました。
 それは魔術師でない一般人の持ちうる最小限の精神感応波を読み取って思考のみで車を制御するという未知の技術でした。
 結末を言えば、運転の安全性やコスト面の問題でその新型車は実用化されませんでした。
 ですがその技術は魔術に懐疑的だった産業界に大岩を投じるものでした。
 これを第4次産業革命と言います。

 もっとも大きな影響があったのが人工知能分野です。
 こちらでは精神感応技術以前から魔力と思考の関係について研究が行われていました。
 そこにヒトの精神を読み取る技術が投じられたことで一気に研究が進展し、つい数年前に精神原基というヒトの精神のモデルとなるモノが再現できるようになりました。
 ただしこれは発展途上の技術であり、実験施設の外へ応用するには至っていません。

 私たちの身の回りではむしろ精神感応技術を用いた種々の機械が活躍しています。
 それらを総称して精神感応(サイコ)装置(マシーン)と言います。

 その最たるものがVRゲーム機です。
 社会的必要性という点では下位に属する娯楽用品に、政府は何の施しもしませんでしたが、それに心血を注ぐ人々が成し遂げました。


 私はそれに心を囚われました。
 魔術の才があったがために実質的にそれ以外の道を閉ざされていた私には、何の(しがらみ)もない新世界はとてもとても魅力的でした。

 魔術の専門学校に通いながら、家に帰ればすぐにゲーム機(サイコマシン)に頭を(うず)め、向こうで戦いを繰り広げる。
 ……皮肉にも、と言うべきでしょうか、魔術師になることを毛嫌いしている私が、学校で習った戦い方を最も実践しているのです。
 ゲームのためという不純な動機を隠して真剣に授業を受けていた結果、私はそこそこ優等生という扱いになってしまいました。
 学級長の役職を押し付けられ、ゲームの時間が削られてしまったのは痛恨事でした。

 ゲームの中で親友ができ、弟子を持ち、たくさんの友人ができ、あるいはいなくなっていきました。
 ただただ戦いに明け暮れる日々。それは満ち足りたものでした。

 しかしそれを断ち切る出来事がありました。
 去年の夏のことです。
 ある戦い、私たちの勝ちが堅い状況で、仲間の1人が危機に陥りました。
 見捨てれば確実に彼女は死ぬ。
 私が助ければおそらくは無事、しかし私自身が身代わりに死ぬ可能性がある。
 私は後者を選びました。

 その判断は純然に数字です。1人を助けるのに50%の確率で1人死ぬならば、助けるのが善手である。それだけのことです。

 彼女の目の前に躍り出た瞬間、私は直感で自分の死を悟りました。
 死ぬといっても本当に死ぬわけではなく、仲間たちと会えなくなるというだけです。
 いい仲間たちでした。
 そう心の中で呟いて、敵の攻撃を受けました。

『い、いやああぁぁぁぁあああああああ』

 死亡判定を受けてから接続が切れるまでの短い間に、その悲鳴を聞きました。
 強い感応波を伴った心の叫びでした。
 助けた仲間が上げたそれは、魔術師の卵であるが故に高い感受性を持つ私にとって強烈なものでした。
 接続が切れて現実世界に引き戻された私は、しばらく放心状態で身動きが取れませんでした。

 翌日、再びゲームに没入しようとゲーム機を手に取ったとき、あの子の悲鳴がフラッシュバックしました。
 心拍数が上がり額に汗が(にじ)むのを感じて、その日はゲームをするのをやめました。
 それ以降も何度か同じことを繰り返し、私はもうあの世界へ行くことができないのだと感じました。

 どうして死んでしまったのか!
 なんで約束を破ったのか!
 もっと良い選択肢は無かったのか!
 彼女の声と私自身の後悔が混じり合って、耳を塞いでも(てのひら)を貫く悲鳴に心が壊れそうになりました。

 さらに数週間してこの症状はPTSDではないかと思いましたが、医者にかかるには世間体が悪いので誰にも言えませんでした。


 ゲームと仲間たちという人生の片輪を失って、私は現実でも坂道を転げ落ちるように落ちぶれていきました。
 中学3年の私は学校を休みがちになり、成績もみるみるうちに下降、先生方や同級生のみなさんには大きな心配をかけてしまっています。






――――――――――

「…はぁ、はぁ」
「こなた、大丈夫?」
「……問題、ありません」

 私は数週間ぶりに学校に来ていました。
 体調ははっきり言って、悪いです。
 にもかかわらず登校したのは、今日が戦闘実技試験の日だからです。

 魔術学校の試験は年に3回、戦闘実技・術式実技・筆記の3つがあります。
 そして今日は中学3年の三学期の戦闘実技、3年間の集大成であり、高校の振り分け試験を兼ねています。
 休むわけにはいきません。

「こなた顔真っ青だよ、本当に大丈夫なの?」

 そう言って私の顔を覗き込んでくるのは、隣のクラスの竹中沙也香さん。
 去年のクラスメイトで、副長を務めていました。
 私が学級長でしたのでよく2人で仕事をしていました。

「大丈夫ですから、はぁ、はぁ、」
「次っ!白鳥!」

 私の名前が呼ばれました。

「じゃ、行ってきますね」
「でっでも!」
「いいから」

 試験官の前に立つ、ただそれだけのことが私には負担です。
 動悸を無理矢理押さえつけて魔力で体を支えて耐えます。

「3年D組、白鳥こなた。よろしくお願いします」
「それでは試験内容を説明する」

 試験課題は毎回変わります。
 今回は広大な裏山での単独行動です。
『飛行機が墜落した。乗員乗客が50名前後。山には魔物の存在も確認されている。現場に急行し、生存者の捜索と安全の確保を行え』
『エリアを12分割し各エリアを1人が担当する。捜索完了のタイムと捜索状態により成績を決定する』
 おおよそこのような設定です。

「何か質問はあるか?」
「ありません」
「では試験を開始する。白鳥こなた、午前10時42分、はじめ!」

 指定エリアに向かって走りだします。

 身体強化の術式を使って、5分で1km先のエリアに到着しました。

「術式、はぁっ、はぁっ、かいじょ、はぁっ」

 吐き気がします。
 あまり体力も魔力も無駄にできません。

「エレメンタリシュート!」

 さっそく魔物が襲いかかってくるのを距離を取って仕留めていきます。
 距離と障害物の配置を見切って1匹ずつ1匹ずつ処理します。

 この魔物たちは本物ではありません。試験のために魔術師が作り出したゴーレムです。
 本物ならこんなに簡単にあしらうことはできません。

 魔物が視界からいなくなった後、魔力で周辺をスキャンし生存者を探します。
 反応は2つ。
 まずは近いほうの反応を確認しに行きます。

 ほどなく発見できました。
 意識は無いようでしたので、周囲に結界を張って安全を確保します。

 さて2人目のほうはと立ち上がったときでした。

「いやああぁぁぁぁあああああああ」
「ひゃっ!?」

 悲鳴。
 身体に力が入らなくなってしゃがみこんでしまいました。

「くっぅぅ、はぁ、はぁ」

 息が荒い。
 胸が痛む。
 間違いありません。悲鳴のせいです。
 あの子の悲鳴に胸が締め付けられるようです。
 人一倍寂しがりやのあの子を置いて先に逝ってしまった私への糾弾の声。

「誰かぁぁ、助けぇてええぇ」

「違いますっ!」

 違います。全く違います。
 あの子はそんなことを言いません。助けてなんて叫びません。自分のために泣いたりしません。
 私たちの誰よりも頑張り屋で、誰よりも天邪鬼(あまのじゃく)で、誰よりも……

 私は足に力を込めて立ち上がります。

「痛ぁぁいいいぁい、だ、だれかぁぁあ」
「うるさいです!」

 めまいがする。動悸が激しい。
 だからなんですか!

 悲鳴の発信源へ走りました。
 隣のエリアに侵入して数十秒のところでした。

「いやっ、いやぁぁ」

 おそらくは悲鳴の主である女子生徒、そしてその足に食らいつく熊。
 辺りは血塗れでした。

 あの熊はゴーレムでも魔物でもなく本物の野生の熊です。
 まだ春が遠いこの時期に熊が出るとは、悪い意味でレアケースです。
 冬眠中に空腹で目覚めたのでしょうか。それともこの試験の騒がしさでしょうか。

 そんな熊と遭遇して冷静さを欠いた結果がこれなのでしょう。
 野生動物からは魔術を使えば逃げることは簡単。適切な距離を取れば狩ることもできます。
 しかし襲われている女子生徒はおそらく魔術ができるだけで戦いが苦手だったのでしょう。
 そういう生徒は多いです。

 問題は、助けるべきか否か。
 あのときとは逆です。
 今すぐ手を出さないと彼女は死ぬでしょう。
 手を出せば、低い確率で2人とも助かりますが、失敗すれば2人とも死ぬでしょう。
 数字で言うならば前者を選ぶべきです。

「いやああぁぁぁああああ」
「あの子なら…!!」

 あの子の顔が思い出されます。
 誰よりも仲間思いなあの子なら、その行動は間違いなく後者でしょう。

「いま助けます!エレメンタリシュート!」

 基礎にして最優の魔術、エレメンタリシュート。
 魔力の塊をぶつけるだけのそれは、同じく魔力の塊である魔物に最も効果が高い。
 けれど生きた動物である熊には石を投げられた程度にしか効きません。

 グゥー

 今は石で充分です。

「さあ、かかってきなさい」

 大木を背にして杖を構えます。
 心臓が壊れんばかりに鳴っています。でもあの締め付けられるような感覚とは違います。
 心地良い鼓動です。

 グゥワアアアァ

 先に動いたのは熊のほうでした。
 気絶した女子生徒を放って、私のほうへ走ってきます。

「エレメンタリシュート!」

 土を蹴る前足に一撃を加えましたが効きません。

「エレメンタリシュート!」

 頭を狙い撃ちしました。
 しかし熊は減速せずに私へ突進してきます。
 それを私は上へジャンプして避けました。

 頭部の精神体へのショックで視界が塞がった熊は木の幹に突っ込んで激突しました。
 頭をぶつけて動けないでいる熊に上から飛び降り蹴りつけます。

「くっ、浅い……」

 靴裏に魔力でトゲを生やして突き刺そうとしましたが、少し熊の毛皮に刺さっただけで分解されて消えてしまいました。
 授業で習った通りです。肉体と精神体を併せ持っている動物には純粋な魔力攻撃は効果が薄い。

 なら物理成分を増やすのみ。

「『天の高きから奈落の深くまで、人の欲望は際限なし。我願う。万物の一片をここに与え給え』」

 使う術式は創造系東方式略式詠唱。
 生み出すものは弾丸。

「創作術式!HEIAPファイアッ!!」

 ガゥァァアアア

 効きました。
 弾は着弾部の肉を穿ち毛皮を燃やしていきます。
 自分の体を覆う炎を消そうと地面を転がる熊。
 やがて落葉へ燃え移り、冬の森を焼いていきます。

 やってしまいました。失敗です。
 熊は炎を嫌うだろうと焼夷効果のある弾にしましたが、森で使うデメリットを考えていませんでした。
 半年も戦いから離れたことで判断に甘えが生じているのでしょうか。

 ガアアアアア

 火だるまになった熊が吠えています。

「まだ動きますか……『天の高きから奈落の深くまで、人のゴホッゴホッ『天の高きからならく、ゴホッゴホッ、い、いきが」

 煙に咳き込んで詠唱ができません。
 そればかりか呼吸さえ怪しくなってきました。

 グゥワアアアァァ

 倒れこんだ私に熊が近づいてきます。
 意識が朦朧(もうろう)として身体の自由が利きません。
 足に噛み付かれたと思った瞬間、天地が反転して背中を地面に叩きつけられました。

 目が霞みます。
 私はここで死ぬのでしょうか……?
 でも今度は誰も悲しみの声を上げてくれません。

 私の頰に水滴が落ちてきました。
 はじめは自分の涙かと思いました。
 けれどそれは冷たく、ポツポツと立て続けに落ちてきます。

「あ、め、?」

・・・・・・

・・・・

・・

――――――――――

 気がついたときには保健室でした。
 私の口には酸素マスクが装着され、左腕には点滴のチューブが入っている感覚があります。

「わたしは……」

「あら、起きたかしら?」

 私の呟きに、保健室の先生が気づきました。
 ここには何回も来ているので私と先生は顔馴染みです。

「自分の名前は分かる?」
「白鳥こなたです。あの、」
「なあに?」

 自分の名前を答えてから、私は試験中に起きたことを思い出しました。

「あのあと…どうなりましたか」

 言いながら、これでは意味が通じないだろうと感じて、後半は小声になってしまいました。
 先生は少し首を(かし)げてから話しはじめました。

「試験官の先生方によるとね、初めはいつもの山火事だと思ったそうよ。生徒の誰かが炎系の魔術を暴発させたんじゃないかって。それで消火のために2人で飛んで行ったわ。
 そのうち1人が慌てて戻ってきて、とにかく来てくれって私の腕を掴んで飛行魔術を使ったときは死ぬかと思ったわ。私空飛んだことなかったんだもの。
 火事の現場に降りてみてびっくり、倒れた生徒が2名もいて、しかも1人は片足が無くて、もう1人は大火傷を負いながら熊に咥えられているじゃない。
 先生方も動転したらしくて、火を消して熊を殺す以外に何もできていなかったわ。
 そのあとは私が軽く手当てしたあと、ここまで運び込んで今に至るわ」

 先生が一気に話すので、頭の中で情報を咀嚼(そしゃく)するのにしばらく時間がかかりました。

「あの子は…?」
「もう1人の子?その子なら隣のベッドで寝てるわ。足の動脈からの失血量が多いからまだ要注意だけど、自己再生も始まってるし、峠は越えたと思っていいわね。ただ足が切断されてるから完治までは数週間くらいかかるわね」
「そう…ですか…」

 自分の目から涙が溢れるのを感じます。
 本当に良かったです。
 私は、今度こそ、ちゃんと助けることができました。

「だ、大丈夫?急に泣き出したりして、何があったの?」
「いえ……良かったです…。私もあの子も、死んじゃうんじゃないかと、思って…」

 私は本格的に泣き出してしまいました。
 涙が止まりませんでした。

「すいません、ありがとう…ございました…」
「そう、どういたしまして。落ち着いたら何があったのか教えてちょうだいね」

 なんとかお礼の言葉を捻り出しました。
 先生は他のベッドを見に行きました。

「こなた!大丈夫!?」

 保健室の扉をガラッと開けて誰かが入ってきました。
 声から察するに竹中さんでしょう。
 あまり泣き顔を見せたくなくて右手で顔を拭いましたが、マスクが邪魔であまり効果はありませんでした。

「こんなに泣いて、怖かったよね。苦しかったよね」

 やはり心配させてしまったらしく、竹中さんは赤ん坊をあやすように私の頭を抱きしめました。

 …………竹中さんは着痩せするタイプのようです。酸素マスクが無かったら窒息死していたかもしれません。邪魔なんて思ってすいませんでした。

「こーら。魔術師とはいえ怪我人なんだから、はしゃぐのは完治してからにしなさい」
「はーい」

 先生が竹中さんを注意してようやく解放されました。
 完治してからという言葉で、まだ治りきっていないことが分かりました。
 どこだろうと体のあちこちを動かすと、右膝だけ動きませんでした。

「竹中さん、私の右脚はどうなっていますか?」

 角度的に見えないので竹中さんに聞きます。

「えーっと、膝がギプスでぐるぐる?」
「あなたの右膝はね、熊に噛み砕かれて酷い状態だったわ。皮膚や筋肉が裂けて、折れた骨が外から見える、所謂(いわゆる)複雑骨折ね。一歩間違えれば清水さんと同じで千切れていたでしょうね」

 私の思っていたよりも大怪我だったようです。
 でもそんな状態からでも魔術師の怪我は治ります。精神体が肉体に作用してあるべき状態へ戻そうとするからです。
 そこだけは素直に魔術の才能に感謝できます。

「全治どれくらいでしょうか?」
「今日明日中。ただし治ってからも無理は厳禁よ。再試験も遅らせるよう言っておくから安心して」
「あっ、忘れてた。試験長から伝言。白鳥こなたさんの試験は条件付き合格とする。条件は事故の詳細を報告すること。評価点は報告内容で決定する。だって。報告は怪我が治ってからでいいそうよ」
「そうですか」
「あら、良かったじゃない」

 正直に言うと、合否に興味がありません。
 さすがに失格となると実家の両親にまで心配をかけてしまうので避けたいですが、そうでないのなら不合格でも今は構いません。再試験で合格すればいいんですから。

 それよりも1つ、気になることがあります。

「ちなみに、あたしは合格でーす。しかもタイムは校内8位タイ!」
「そう、すごいですね」
「あれ?反応薄い?」

 ちょっと受け答えが雑すぎました。
 自分の成績に興味がないからと別のことを考えていました。

「ごめんなさい。少し眠くなってきました」
「ああ、こっちこそごめんね。まだ再生中だもんね」
「そうね。白鳥さんはゆっくり休みなさい。それが今のあなたの仕事よ。竹中さんはもう教室に戻りなさい。きっとクラスのみんなが待ってるわ」
「はーい。こなたが心配してたより元気そうで安心したわ。顔色も良くなったみたいだし。じゃ、またね」
「ええ、またね。………………顔色?」

 竹中さんが保健室から出て行って、その際のセリフに私は自分の頬を触ってみました。
 よく分かりません。

「先生、私そんなに元気そうですか?」
「そうね。普通に戻ったというのが正しいかしらね」
「そんなに不健康そうでしたか?」
「それはもう。顔は土気色で目に光がなかったし俯きがちだったし。職員会議でも成績が急に下がってきているって聞いてたから、自殺の危険があるってことで気にしていたのよ。たまにカウンセリングじみたこと聞いてたでしょう?」

 そういえばそんなことを聞かれたことがありました。
 スランプの原因がゲームだとは打ち明けられませんでしたが、先生は親身に話を聞いてくれていました。

「今は血色も良いし、何か吹っ切れたようね」
「はい」

 今なら、戻れるでしょうか、あの世界へ。

「参考までに、その何か、教えてはくれないかしら?」
「いえ、参考にならないでしょうから……」

 ああ、本当に眠くなってきました。
 一度休みましょう。
 どのみち怪我が治るまでは帰れないでしょうし。
 そして帰ったら、また…………。







――――――――――

 2日後の夜、
 ようやく帰宅許可が出て、私はすぐに家へ帰りました。
 目的はもちろん、あの精神感応装置(ゲーム機)です。

 手に取るとまた鼓動が高鳴るのが分かります。
 ですがそれは恐怖ではなく、興奮と緊張による心地良い鼓動です。

『い、いやああぁぁぁぁあああああああ』

 装置に頭を埋めると、またあの子の悲鳴が聞こえてきました。
 その声を甘んじて受け入れます。
 私はもうあのときの選択を後悔しません。
 ただ、あの子に一言謝らなければなりません。
 置いていってしまってごめんなさい、と。
 そしてまた一緒に戦いましょうと言いましょう。


 装置の(わき)のダイブスタートのボタンを押すと、私の精神はゲームの世界へ接続しました。


 虹のゲートを抜け、目に映ったのはおよそ半年ぶりの自室(ガレージ)です。
 メニューを開いてフレンドリストの名前を見つめます。
 暗転した4つの名前。
 相棒、親友、弟子、友人。
 いつか彼ら彼女らと再会できる日まで、私は戦い続けるでしょう。
 そしてそれからも。

 親友(あの子)の名前を指でなぞります。
 そういえば私が死んだ(リタイアした)後、親友(ライバル)相棒(好きな人)と2人きりになったのでした。
 どうしましょう。胸がムカムカします。
 もしかしてあのとき見捨てていれば……こういうことを考えてはいけませんね。後悔はもうしないと決めたのですから。

 さて、久しぶりに戦場へ赴くとしましょう。
 腕が錆びついてないと良いのですけれど。







――――――――――

 このときの私は想像もしていませんでした。

 仲間たちと再会することになる半年後、この世界に精神を囚われることになるとは。










なんか続編あるみたいな終わりですが、まだ続編は未定です。

短編は書くの楽やわー。連載の百倍楽やわー。

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