プロローグ マイナーな神様に・・・
初めまして。
結城 緋色です。
リスカミ(リスタートは神々の悪戯!)スタートです。
目が覚めると、辺りは真っ白な空間だった。
起き上がり辺りを見渡すが永遠と真っ白な空間が続くだけで人っ子一人見当たらない。
「気がついたかい?」
突然耳許で声に、俺は飛び上がるほど驚き、声のした方を見る。
すると、さっき辺りを見渡した時には、人っ子一人いなかった筈の空間に、人が立っていた。
耳許で聞こえた声に驚いて振り向いたはずなのに、振り向いた先に立つ人との距離は5メートル程離れていた。
(・・・おかしいな?声は耳許で聞こえたのに・・・)
そう訝しんで、改めてその人に目を向けると、そこにはもう人はいない。
気付くと、既にその人は、俺の横に胡座を掻いて座っていた。
俺は、ギョッとなり咄嗟に身構えようと腰を浮かすが、手で動きを制される。
「座って」
それは不思議な感覚だった。
涼しやかな声で腰を下ろすよう言われると、その声に無意識の内に俺は腰を下ろしている自分がいた。
間近で向き合う。
その人は中性的な面立ちをしていて、その美しさは人離れしたものだった。
「僕は天之御中主という」
その声に彼が男性だと分かる。
「君の世界の神の独りだ」
・・・アメノ・・・聞いたことのない名だったが、彼の話を受けいれることに違和感は無かった。
彼の美しさと、その周囲の空気・・・雰囲気は人間離れしていて、神と言われた方が逆にしっくりとくる。
「アメノ・・・えーっと、・・・神様」
「・・・今、僕の名前思い出そうとして諦めたよね?」
ヤバっ!神様の気分を害したみたいだ。
そりゃあ、自分の名前覚えられてなかったら、良い気はしない。況してや相手は神様。自尊心も高そうだ。
でも、アメノなんちゃらなんて名前の神様なんて聞いたことないし・・・そりゃあ、天照大神や月読命みたいなメジャーな神様なら知っているけどさ。神様マニアでもない俺はマイナーな神様の名前なんて聞いたこともないさ。
「・・・マイナーって・・・」
あれっ!罰当たりなことを思っていたら、心の中を見られていたらしい。
俺は罰が悪そうに視線を逸らす。
「天照に月読か・・・確かに有名だよね・・・でも僕だって・・・いや、いい」
知られてるよね?みたいや視線を送ってきたから、思いっきりジト目で返したら、神様拗ねちゃったよ。面倒臭いな・・・
「俺がアホで覚えられないだけですよ。名前覚えるの苦手なんで、神様って呼びますね」
適当にフォローを入れる。
「それで、その神様が俺に何の用です?」
しゃがみ込んで、のの字を書いていた神様は、その言葉にパッと顔を上げた。
「あぁ、そうだった。」
思い出した思い出したと、手を叩く。
「実はね何となく分かっているかもしれないけど、君は死んだんだ」
「・・・死んだ」
見たことのない真っ白な空間に神様・・・
もしかしたら、此処があの世では?と、頭の隅を掠めていたが、改めて口に出して言われると、ショックを受けるものだ。
死んだ事への実感なんて、まるで無い。
「・・・俺、死んだんですか?何かこう実感が湧かなくて・・・」
「確かに君は死んだ。ただ実感が湧かないのには理由がある」
「理由?」
「そうだ。君は自分の名前を言えるかい?」
「俺の名前?」
(そんなの簡単だ。俺の名前は・・・・)
答えようとしたところで、俺は固まった。
自分の名前が出で来ない。
ていうか、名前どころか自分のことを一切思い出すことが出来ない。
「どうしたんだい?君の名前は?」
そんな俺の様子を見て、神様は促すように続けた。
その顔は何故か何かを期待しているような表情を浮かべている。
「・・・思い出せん!」
ダメだ。
頭の中で記憶を辿ったり、一つ一つ名前を上げてみたりしたが、全くといって自分の名前は思い出せない。というか、自分の名前どころか、自分のことの一切を思い出すことが出来ない。
「よし!成功だ!」
頭を抱える俺を尻目に、神様はガッツポーズで大喜びしている。
「・・・」
「あぁ!ごめん。ごめん」
無表情に見つめる俺に気付き、頬に冷や汗を滴しすと、大きく“うぉっほん!”と咳払いをしながら、詫びを口にする。
神様といえど、能面のような面でジト~っと見つめられると、流石に居心地が悪いらしい。視線を逸らし必死に誤魔化している。
その姿と誤魔化し方は、まるで昭和のお笑い芸人のコントのようだ。
「本来、人は死んだらあの世に直行するものなんだ」
気を取り直して、神様は話始めた。
「・・・ここはあの世じゃないんですか?」
辺り一面真っ白で俺が思っていたものとは違ったが、ここがあの世だと思っていた。
「違うよ!」
あっさりと神様は首肯する。
「そもそもあの世が何なのかを君は知っているのかい?」
神様は苦笑しながら、俺に尋ねた。
あの世なんて当然行ったこともなければ、何なのかなんてなおのこと知るはずもない。
「・・・死んだ後に行く所では?」
答えに困りながら俺が答えると、神様はうーんと唸りつつ、
「それじゃあ、四十点だね」
と、肩を竦めると、こう続けた。
「君は織田信長を知っているかい?」
あの世の話が、織田信長の話に変わった・・・ますます何のことか分からなくなりながらも、俺が、
「はい」
と、答えると、
「会った事も無いのに何故知っている?」
と、突然鋭い口調で切り込んで来た。
確かに俺は神様が言うように織田信長と会ったことは無い。
しかし、情報として織田信長が何をしたのかは知っている・・・
そう答えると、神様はその答えに満足したのか、大きく頷いた。
「うん、そうだね。会った事の無い織田信長・・・でも本を読んだり、勉強したりすることで、情報として織田信長の事を知ってはいるよね?」
今度は、俺がその言葉に頷く。
「織田信長という人間の事が本であったり、絵であったり、といったデータで残っていて、それを見る事で織田信長という人間の事を君は知ることが出来る・・・あの世というのは、それなんだよ!」
「・・・それって?」
話を聞いている内に恐ろしく感じ、俺は口にするのを躊躇った。
そんな俺を気にもせず、神様はあっさりと続けた。
「データだよ!」
死ぬと人の魂は、あの世へと送られる。
魂とは、その人の生前のデータであり、あの世というデータファイルに入れておく事で人間のデータを管理しているという。
「神っていったって地上の全ての出来事を把握している訳じゃない。人間一人一人の事なんて尚更だ。・・・でも、そういった情報も必要になる時があってね・・・そんな時、あの世というデータベースで管理しておけば、直ぐにデータを引き出せるだろう?天国や地獄ってのは、データを区別して分かりやすくする為のものなんだ・・・まあ、Indexみたいなものかな?」
良い事をした人間を天国、悪い事をした人間を地獄という付箋で区別して纏めておけば分かりやすいと、神様はいう。
「君は死んだ。そして君に記憶が無いのは、既に君のデータはあの世に送られているからだよ・・・もし君にデータが残っているならば、僕は改めて君をあの世に送らなくてはならない」
あの世にデータだけ渡して、此処に連れてくるのは、結構骨が折れることなのだと、神様は俺に告げた。
あの世の管理は、それ担当の神様がいて、バレると煩いらしい。
俺の記憶が無いと知った時に、喜んだのはその為らしい。
「何故そんなことを?」
そんなリスクを犯してまで、俺を此処へと連れてきたことに対し、どんな目的があるのだろうと不安を覚えながら、俺は神様に尋ねると、神様は笑いながらこう答えた。
「君に転生して貰うためだよ!」