パーティー結成で地味チート その1
この主人公は臆病という程ではないにしても、基本的にビビりです。平和平穏を好んで、注目されるのには慣れてません。ついでに、チートっぷりにも無自覚な為、自己評価も低め。
そんな主人公が初めて他者からの評価を耳にする事になり、さらにビビります(笑)
そんなパーティー結成編、はじまり、はじまり~♪
冒険者ギルドは年中無休の24時間営業らしい。受付の人も、まばらにではあるけど、冒険者らしき人もいて、冒険者証ももらえた。
「あ、それと、ゴブリン退治の依頼をやってきたんですけど。」
「はい。褒賞金の受け取りですね。討伐証明部位はお持ちですか?」
「ええ。袋を用意してなくて、こんな形で持ってくる事になってしまいましたけど。」
言いながら、葉っぱで包んでいたゴブリンの右耳を出す。
すると、何故か受付の中年男性がフリーズした。
え?こんな風に持ってくるのってダメ?
「え、あ、し、失礼しました。え~、数を確認させていただいてよろしいですか?」
「あ、はい。一応38匹分あるはずです。」
俺の言葉の直後、後ろの方で座っていた他の冒険者さん達がざわつく。
「おい、聞いたか?38匹だと?」
「マジかよ?木の冒険者証を受け取ったトコだろ?」
「一体何人で狩ってやがったんだ?」
えっと、何かマズイ事をやらかしてしまったんでしょーか・・・?先輩冒険者に目を付けられるような事態は全力で遠慮させていただきたいんですが・・・
周りの反応に若干ビビっていると、耳の数を数え終わった受付中年男性が
「素晴らしいですね。状態から見ても、間違いなく全て本日狩られた物で38匹分です。失礼ですが、お一人で?」
「あ、は、はい。」
さらに背後がざわつく。い、居心地悪ぃ・・・
「なるほど。では、まずは褒賞金です。一匹30エニーとなりますので、1140エニーのお支払いとなります。また、同日で20匹以上を討伐された場合における特別手当てが500エニー支給されます。どうぞお確かめください。」
「ありがとうございます。確かに。」
特別手当てなんかあるのか。思わぬ追加報酬にちょっとラッキーな気分♪でも、そんなのがあるなら最初に教えておいてほしかったとも思う。言えないけど。
「タカシ様の腕前はもう木級ではありませんね。いくらゴブリンとはいえ、わずか1日で38匹も討伐されるのですから。」
え?そういうものなの?まぁ、なかなか出てこないもんな。見つけるだけでも一苦労だったし。対象を見つけるのも実力として判断されるのだろう。あんな鈍い生き物なんて多少の数がまとまったところで、不意を打たれたりしない限りはどうという程のものでもないだろうし。
「すぐに鉄の冒険者証に切り替えさせていただきます。少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。急ぎませんので。」
「ありがとうございます。では、一旦失礼します。」
そう言って受付中年男性は俺の冒険者証を持ってカウンターの奥に引っ込んでいく。
鉄級って結構簡単になれるもんなんだな。見つけられるかどうかなんてほとんど運だし。そう考えたら、この世界に来ていきなり用無し宣言&ポイ捨てされた時は神様を恨んだけど、俺の運もそう捨てたものでもないよな。神様、恨んだりしてごめんなさい。謝るので、どうか変なトラブルだけは発生させないでね。
少し待って、鉄の冒険者証を受け取り、冒険者ギルドを後にする。
褒賞金と特別手当てで、資金が無一文から一気に1640エニーだ。ぶら下げの革袋は買うとしても、他は現状で必要な物は大体揃ってるから散財する事も無いだろう。あ、でも、着替え用にもう2セットくらいは服を買っておいた方がいいか。討伐に行く度に濡れ鼠でウロウロするのも嫌だし。
まぁ、それは明日にして、今日はもう休もう。余裕ができたから、今回も銀月亭で宿泊だ。可能なら連泊予約をしてしまってもいいよな。
それから4日間、ひたすらゴブリンとコボルトを狩りまくった。コボルトは顔が少し犬っぽいという以外はほとんどゴブリンと変わらない。討伐証明部位は牙で、報酬も同程度。あ、勿論、初回討伐の次の日に革袋と着替えは購入済みだ。もう濡れ鼠で歩き回るのは嫌だし。
しかし、俺は相当に運がいいらしい。連日、団体さんに遭遇。団体さんにぶつかるまでの時間はただの散歩と化してたけど。
団体さんのおかげで、資金も現在合計で5825エニー。
アンナちゃんにはまだ恩返しとしての支払いはしていない。金銭的な援助を小分けにすると、その度に気を遣わせてしまいそうだからだ。できれば、アンジェさんの病気の治療に充分な額を用意したい。アンジェさんが働けるようになれば、生活も少しは楽になるだろうし、アンナちゃんもホエン君も嬉しいだろう。
そんなわけでまだまだ稼がないといけないんだが、4日目、つまり昨日行った森の探索で大きな問題が発生した。
討伐に出る時は朝方、まだ薄暗い内に出発して、夕方に戻ってくるようにしていた。街道に灯りらしき物は一切設置されていないので、夜に外を彷徨く事になるのはヤバイと考えたからだ。
しかし、昨日は街に着いたのはとことん遅くなってしまった。月が空の高い位置に来ていたからもう真夜中だ。
何故そんなに遅くなったかというと、お察しの通り、森の中で迷ったのだ。面倒になって、途中から目印代わりに自然破壊をするのを怠ってしまったのが原因だ。
夜の森はヤバイ。マジで何も見えない。何回木にぶつかり、茂みにひっかかって転んだか。幸い、月が出てきて少し視界が効くようになった時に、目印代わりに切り払っていた枝や茂みを見つけられたから外には出れたし、モンスターに襲われる事も無かったから無事で済んだけど、あんな暗闇の中で大勢に襲われたら、いくら動きが鈍い相手でもヤバかったかもしれない。
何か灯りになる物を持っていこうかとも考えたが、あの暗闇の中で灯りなんか持って歩いていたら、確実に目立つ。そうなれば、襲われる危険性も増す。さらに、少々の灯りを持っていたとしても、あの深い闇の中では足下を照らす以外には大して役にも立たないだろう。デメリットの方が大き過ぎる気がするから、対策としての灯りは却下だ。無いよりはマシだとは思うから、買いには行くけど。
そもそも迷わないようにすればいいのだが、あの闇を一度経験してしまった身としては、万が一の備えをしないというのは有り得ない。月が出るまでの僅かな時間だったけど、本ッッッッッ気で死ぬかと思った。
一番の対策としては、方位磁石などの方角を正確に示してくれる道具を手に入れる事だろう。しかし、残念ながら、この世界にはそういう物は無いらしい。昨日の内に冒険者ギルドでそれは確認済みだ。自分で作ろうにも作り方も分からないから、これはもう諦めるしかない。
では、他の冒険者達はどうやって方位を確認しているのかというと、当人の感覚頼りだそうだ。昨日いた受付の人に、<何言ってんだ?こいつ。当たり前だろう>という顔をされてしまった。どうやら、この世界の住人は方向感覚が強いらしい。それでも迷う時は迷うものらしいけど、それも自己責任という事で冒険者達は探索に出ているというのだから、皆様逞し過ぎる。まぁ、この世界の人達に比べて、つい最近まで現代の日本で生きてきた俺の闇夜に対する耐性や方向感覚が無さすぎるだけなのかもしれないけど。
なので、現実的な対策としては、誰かとパーティーを組むという事になるのだが、これはこれで厄介な問題がある。
褒賞金の分け前云々は、最悪俺が妥協すればいいとしても、異世界人である俺はまだこの世界の常識や知識が全くと言っていい程に無い。当たり前の事を当たり前にできないというのは、絶対にトラブルの原因になる。かと言って、異世界から来ましたなんて言っても、まず間違いなくすぐには信じてもらえない。それはアンナちゃんで立証住みだ。薬草の加工を見せれば信じてもらえるかもしれないが、普通の人にはできない事を安易に誰彼構わずやって見せるのは危険だ。道具屋のおっさんみたいに、相手が何も知らないのを良いことに悪い事を考える人間はどこの世界にもいるのだから。
どうしたもんかなぁと、一人グルグルと思考の堂々巡りをしながら、宿で遅めの朝食を済ませて街に繰り出してみた。昨日の帰りが遅かったのと疲れ果ててしまっていたのが重なって、目を覚ますともう完全に明るくなっており、今日の狩りは中止にしたのだ。また遅くなったりしても嫌だし。
フラフラと街中探索をしていると、やたらと大きな建物を発見。銀月亭よりも二回りは大きいように見える。奥行きは分からないけど。
前に街中をブラついて時間潰しをしていた時には見つけられなかった事を考えると、多分この辺にはまだ来た事がなかったんだろう。うん、やっぱり自分の感覚を信じるのはないな。街中ですら把握できてないのに、大体把握した気になってたんだから。
しかし、デカイ建物だな。何なんだろう?ここ。
そんな風に思いながら建物を眺めていると、中から目付きの鋭いおっさんが出てきた。
「いらっしゃいませ。ジライ商会に何かご用命でしょうか?」
うわ、なんかメッチャ警戒されてる。
「あ、いえ。この街には初めて来たもので少し散歩をしていたら、こちらが立派な建物なものでつい見入ってしまいましてね。」
「おや、左様でございましたか。これは失礼を。」
俺の言葉に一気におっさんの言葉から険が取れる。ふぅ、危ない危ない。下らないことで揉め事なんて御免だもんな。
「申し遅れました。私、ジライ商会のデューイと申します。よろしければ、中をご覧になられませんか?質の良い奴隷を取り揃えておりますので。」
にこやかにいうデューイとやら。ここ、奴隷売場だったのか。
「ありがとうございます。でも、残念ながら、今は手持ちが乏しい状態でしてね。」
差し障りのない理由でやんわりと拒否の姿勢を示してみる。金が無いとなれば、相手も興味もなくしてくれるだろう。どうにも奴隷というのは、俺にとって抵抗が強いのだ。
「いえいえ、勿論、すぐにどうこうという話ではございません。しかし、お客様は冒険者の方でございましょう?それでしたら、ご存知の通り、パーティーに奴隷は必須でございます。今後の為のご参考にという事でいかがでしょう?お気に召された者がいましたら、短期間ではございますが、お取り置きもさせていただいておりますので。」
パーティーに奴隷が必須?ギルドではそういうパーティーもあるって説明だったんだけど。でも、このデューイって人が嘘を吐いてるわけじゃないようだ。
断る理由も思い付かず、デューイさんに連れられてジライ商会に入っていく。
あれぇ?なんで嘘じゃないって思ったんだろ?
まぁ、いっか。奴隷なんて高くて買えやしないだろうし、買う気もないしな。
応接間のような所に通されて、促されるままに着座する。ふっかふかのソファーだ。部屋の調度品も高価そうだけど、なんとなく品のある感じで、かなり寛げてしまう。儲かってんだろうなぁ。
「失礼ですが、お客様は奴隷は初めてでございますよね?」
「あ、はい。一人でやってますし。」
俺の返答に、何やら納得したように頷くデューイさん。
「では、間違っていた場合は大変失礼な事と承知の上でお伺いしますが、タカシ リュウガサキ様でいらっしゃいますか?」
!?!?
なんで俺の名前を!?俺、何かしたっけ!?初対面だよな!?
軽くパニックな俺の様子を見て、デューイさんは微笑みながら言葉を続ける。
「やはりそうでしたか。そのご様子ですと、ご自身が話題になっている事はご存知ないようですね。」
ワダイ?ワダイって何?
話題作とかの話題?
え?
どして?
なんで!?
ここに来ていきなり用無し認定された、注目とか無縁の脇役人生まっしぐらなモブ男その1ですよ!?
なんかマズイ事してましたか!?謝るので勘弁していただきたい!!
「冒険者登録をして間も無く、多数のゴブリンをたったお一人で、しかも、僅かな時間で討伐され、即日で木級から鉄級に昇級。まぐれや偶然では無いという証拠に、連日ゴブリンやコボルトを無数に無傷で狩っていく期待の新人とのお噂を耳に致しております。ショートソードを携えた黒髪黒眼単身の冒険者と言えば、タカシ リュウガサキ様以外にはいらっしゃいませんよ。」
何かとんでもない噂になっているらしい。誰が期待の新人だって?これはきちんと否定しておかねば。実力に見合わない噂は絶対に何かトラブルの原因になる!
「い、いえ、そんな大したもんじゃないですよ。運良く群れを見つけられているだけで。」
「謙虚な方ですね。大概の冒険者は己の実力を誇示されて、中には私共のような商売人を見下すような方々もいらっしゃるというのに。真の強者は傲らずということでしょうか。」
否定したのに、なんかとんでもなく持ち上げられてるぅぅぅぅっ!?
今回、初発動した能力は【看破】。相手が発した情報が嘘か真かを見抜くというものです。あくまで情報が対象なので、感情は見抜けませんが、冒険や戦闘に置いては、情報は生死を左右する場合もあるものなので、とんでもなく重要かつ貴重な能力・・・なのですが、主人公はまたもや自覚無し。
話が進むに連れて主人公のチートな能力が増えていってますが、まだまだ増えます。自覚はなかなかしてくれませんが(笑)
そんなご都合主義な主人公ですが、また次回もお付き合いいただければ幸いです。
批判・批評・ご指摘はお手柔らかにお願い致します。メンタルは豆腐より脆い作者ですので。




