初依頼で無自覚チート
主人公がようやく街の外に出ます。やる事をやったら戻ってきますが。
前回の最後の方の悩みも解決されます。
あ、今回は少し長めの話です。
それでは、はじまり、はじまり~♪
「お疲れ様でした、タカシさん。」
冒険者登録や装備の準備を終えた事を報告すると、アンナちゃんは笑顔で労ってくれた。
ホント、いい子だよなぁ。
「ありがと。とりあえず、明日から依頼の為に動こうと思ってるんだけど、他にやっておいた方がいい事ってあると思う?」
「ん~・・・私が聞いたことのある範囲だと、多分もうないです。詳しい人だったら分かるかもしれないですけど・・・」
「そっか。うん、ありがとね。んじゃ、また近い内に顔見に来るよ。」
「え?あの、タカシさん、泊まる所ってあるんですか?」
痛い所を突く子である。手持ちの金銭に余裕は全く無いので、宿代が足りなかったら野宿しようと考えてたんだけど。
「宿に泊まるつもりだから大丈夫だよ。」
さすがに、年頃の女の子の家には転がり込めない。俺が落ち着かない。年齢=彼女いない歴の23歳を舐めんなよ。
「そんな。もったいないですよ。うちでよかったら泊まっていってください。ベットも何も無いですけど、雨風くらいは凌げますし。」
「いや、ホント有難い話なんだけど、何て言うか・・・その・・ね?」
歯切れの悪い俺の物言いに、頭の上に?マークを浮かべるアンナちゃん。君はホントにもう少し警戒心というものを持つべきだと思います。
俺が遠慮していると思ったんだろう。アンナちゃんはアンジェさんに許可を取りにいってしまい、アンジェさんも快く了承してくれる。
いや、お母さん、少しは娘の心配をしてください。年が離れているとはいえ、アンナちゃんはメチャクチャ可愛いんですよ?俺的には全然セーフゾーンですよ?ロ○コンと言われようが、可愛いもんは可愛いのである。無論、手を出すつもりなど微塵も無いけど、俺も男である。シチュエーション次第では理性がブッ飛ぶ可能性は全く否定できない。
そんな事をかーなり遠回しに言ったところ、アンナちゃんは茹で蛸になってしまい
「そ、そんな、わ、私なんて全然・・」
何やらブツブツ言いながら俯いてモジモジしてらっしゃる。
なに、この可愛い生き物。持って帰りたい。
まぁ、そんなこんなで、俺はアンナちゃんの家を後にした。
アンナちゃんは宿代が足りなかったら必ず戻ってきてくださいと、最後まで俺の心配をしてくれていたが、かなり恥ずかしそうだった。
邪な考えを捨てられなくてごめんなさい。
それから、再び街の中心と思われる広場に到着。空はもう夕闇に染まっていた。
残り131エニーで一泊できる宿ってあるんだろうか?この世界の金銭感覚がイマイチ分からない。なんとなく、生活必需品は安めで、それ以外の物は高いってな感じというくらいは分かるんだけど。
とりあえず、屋台のおっちゃんに教えてもらった銀月亭とやらを探して歩いてみる。
歩くこと十数分、それらしき建物の前に到着。突き当たりって軽く言ってたけど、遠いよ、屋台のおっちゃん。
しかし、立派な建物である。ちょっとしたホテルみたいだ。オススメなだけはある。あるんだけど、これ、絶対金足りなくね?一泊何万とかしそうなんだけど。
まぁ、ダメ元で金額だけ聞いてみようか。受付が綺麗な女の人ではありませんように。
中に入って、カウンターの品の良さそうな中年男性に声を掛けてみる。
「すみません。こちらは一泊おいくらでしょうか?」
「はい。一泊お一人様120エニーとなります。」
おぉっ!ギリギリセーフ!
「夕食と朝食はこちら奥の食堂でお出ししております。ご希望のお客様にはお部屋までお持ちする事も可能です。お湯をご希望の場合はタライお一つ5エニーでご用意致します。ご入浴をご希望でしたら、50エニーとなります。尚、貴重品の管理はお客様ご自身でお願いしておりますので、ご了承くださいませ。」
「120エニーで食事付きなんですか?」
「はい。銀月亭自慢の料理をご用意させていただいております。」
朝夕食事付きでその値段ってのはラッキーだ。宿代を払ったら、ほぼすっからかんだもんな。
「では、一部屋お願いできますか?」
「ありがとうございます。では、ご案内致します。」
なんとなく執事っぽいこのおじさんに部屋まで案内してもらい、鍵を掛けられる貴重品保管棚と部屋の鍵を受け取って、食事も持ってきてもらう事にする。
執事おじさんは一礼をしてから部屋を出ていき、俺は備え付けのベットに倒れ込む。
ベット、柔らけぇ~。これはやっぱり高級宿だな。いきなりこんな贅沢してていいんだろうか?まぁ、濃い1日だったし、今日くらいはいっか。明日からは稼ぎに合ったトコに泊まるしかなくなるんだし。
それから、夕食を済ませた後、タライと一緒に借りた布で体を軽く拭いて、ベットに寝転がっていたらすぐに睡魔が襲ってきた。さすがに疲れた。おやすみなさい。
目が覚めたら、まだ周りが薄暗かった。昨日はかなり早くに寝たからなぁ。
窓を開けて外を見てみると、もう活動を開始している人達がいた。早起きな人はどこにでもいるもんだな。あ、でも、考えてみれば当然か。冒険者達は依頼内容によっては遠出をする事もあるんだから、それなら暗い夜道を進まなければならないような事態は極力避けるだろう。何せ、街の外にはモンスターがいるんだから。その冒険者を相手に商売をしている人もいるわけだし。
しかし、そうは言っても、俺の靴が出来上がるのは今日の昼頃の予定。それまでは出発もできない。さすがに借り物の靴で森の奥まで入ってくわけにもいかないし。痛めたり汚したりするかもしれないからな。
ま、いっか。適当に街中をブラブラして、それからゴブリン狩りに出掛けよう。
軽く足が棒になるくらいに街中を歩き回って、日が高くなった頃にエラーデさんから靴とショートソードを受け取った。大まかにはどこに何があるかくらいは分かるようになったぞ。
エラーデさんは、何故かショートソード用の鞘まで付けてくれた。手持ちが尽きかけてる状態なので、購入できない事を伝えると、サービスだという。武器屋では鞘付きが標準なんだろうか?まぁ、何にしても有難い事には違いないので、甘えさせてもらう事にした。いずれ武器を買い換える事にもなるだろうから、次も絶対エラーデさんの所で買おう。靴も想像よりもずっとしっかりしてるし。
それから、アンナちゃんに借りていた靴を返して、森へ向かって出発。ちなみに、弁当代わりに黒パンを3個購入しておいた。ゴブリンやコボルトを見つけるのにどれくらい時間がかかるか分からない上に、少し森の奥まで入っていく予定なので、まず無いとは思うけど、迷ってしまった時の為だ。まぁ、奥に行き過ぎて迷ったらほぼ確実に遭難死だろうけど。
で、何事もなく、森の前に到着。分かってたけどね。前回ものどかなまま到着したし。
しかし、今回はゴブリンを退治する為に来たのである。気が進まないのはその通りだけど、やると決めた以上はこのままというのはマズイ。主に、俺の財布事情的に。ある意味、背水の陣状態なのだ。
なので、森の中へ。あ、また薬草発見。でも、この辺はまだ森の入り口付近だしな。アンナちゃんの稼ぎ口になる範囲だろうから、採集は止めておこう。
それから、自分の通ってきた跡が分かるように、木の幹に矢印を付けたり枝を切り落としたり雑草を踏み固めたりしながら、ゆっくりと奥へ進んでいく。迷いたくなんか無いからここは慎重にいこう。
かなりの時間を掛けてそれなりに奥へ進んでいくものの、ゴブリンやコボルトと思われるような生き物はおろか、その他のモンスターすら全く見かけない。たまに兎やリスっぽい小動物を目にする事はあっても、猪とか熊みたいなのすらだ。
エンカウント率低過ぎじゃね?いや、熊は困るけど。確実にゴブリンとかより強いだろ。この世界にいるかどうかは分からんが。
頑張って進んでみるが、一切の戦闘がないまま、それなりに進んだ先で見つけた薬草だけが数を増やしていく。最初は怪我をした時の為にと考えての行為だったのだが、あまりにもエンカウントしないもんだから一切遭遇しなかった時の事を考えて臨時収入用に集める事にしたのだ。
前は気付かなかったので、採集時に注意して見てみると、薬草を千切った瞬間から弱い光を放っていた。で、篭に入れるまでの僅かな時間で光は収まっている。こりゃ気付かないはずだわ。前はあっさり見つけられるのがちょっと面白くて手元をまともに見てなかったし、仮に気付いていたとしても千切る度に薄く光ってたら、ファンタジーの不思議現象で片付けて自分の能力だとは思わない。
しかし、このニオイは相変わらずキツイ。アンナちゃん曰く、量の割にはマシとの事だが、軽く目に滲みる。どうせ加工済みにしてくれるんなら、ニオイも出さずにしてくれればいいのに、やっぱ微妙な能力だよなぁ。
しばらくして、いい加減に索敵作業にも心が折れてきたところで、湧水が流れているちょっとした岩壁を発見。ニオイの元になっている手をよぉーーーく洗ってから小休憩とする。
うむぅ。結構奥まで進んだはずだけど、本気で何もいないのな。これはもしかして、この世界の基準の『森の奥』ってのが迷うレベルの奥地を示していて、そこまで行かないとエンカウントしないんだろうか?だとすると、ここでの狩りは諦めた方がいいかもしれない。
戻る事を考えながら、やたらと硬い黒パンをかじっていたら、前方、奥の茂みがガサガサと音を立てた。
俺は慌てて口の中のパンを飲み込み、剣を抜きながら立ち上がる。
動物、か?
そんな甘い期待を簡単に裏切って、ヤツらは姿を現した。それも、ゾロゾロと。
130cmくらいの身長で、耳が歪な形に長く尖って肌は浅い緑色。口元が裂けるように大きく開き、ギザギザの歯がなんとも凶悪な顔付きに拍車を掛けている。
姿が冒険者ギルドで聞いた特徴と一致している。
こいつらがゴブリンだ。
やっと出てきたのはいいんだけど・・・
数が多過ぎやしませんか!?軽く20はいるぞ!?
ヤバイんじゃないか?これ・・・
ビビる俺の様子を察したのか、警戒した様子なんて元々なかったゴブリン達の顔が醜く歪む。
嘲笑っているのだ。臆病な獲物をどういたぶってやろうかと、自分達の圧倒的優位を確信して。
その表情を見た瞬間、俺の中にあった生き物をこちらの都合で殺す事に対する抵抗感や罪悪感が消えた。こいつらは完全な敵性種族であり、住み分けをしていればいいというような存在ではない。こいつらのにとって都合が良い相手ならば、自ら望んでこちらを害してくるような存在。
そんな奴らに何を遠慮する必要がある?
完全にこちらを舐めきった一匹が、手に持った太めの木の棒でもう片方の掌をパシパシと叩きながら弱者をいたぶる強者の顔で近付いてくる。
その一匹の喉を俺の剣が貫いた。
嫌な感触が剣から伝わり、そのままそのゴブリンの体が地に落ちる。
僅かな静寂。
次の瞬間にゴブリン共の威嚇とも怒号とも取れる叫びが響き、一斉に襲い掛かってきた。
木の棒を振りかぶる者、どこで手に入れたのかボロボロのナイフを構えている者、口を大きく開いて飛び掛かってくる者と様々だが、総じて大した武器は持っていない。
しかも、やたらと動きが遅い。この程度の動きなら、充分に対処できる。
まず、飛び掛かってきた奴の脇腹を斬り裂いて無力化して、次に各種武器を振りかざす前列の数匹の腕や腹を一振りで斬り裂き、攻撃を止める。さらに、そのまま近い奴から順に喉や胴を斬り裂き、貫いていく。また、石を投げようとしている奴には、その周りの奴らを蹴り飛ばしてまとめて吹っ飛ばし、倒れた奴の腹を踏み抜きながら、他の奴らを斬り殺していく。
そう長くない戦闘時間の後には、襲ってきたゴブリン共は全滅していた。
ゴブリンは走るのはあまり早くないってアンナちゃんが言ってたけど、動作そのものが鈍いんだな。数が多くてビビったけど、これなら身の危険を感じる必要は無さそうだ。少し息切れしてる程度だし。まぁ、自分の命が懸かってるんだから油断は禁物だけど。
さて、討伐証明の部位を回収しなきゃならないんだけど・・・
改めて周りを見ると、かなり凄まじい事になっている。精神衛生上、詳しい描写は避けるけど、一言で表すならスプラッタ。俺自身も返り血で猟奇殺人犯みたくなってるし。
うぇぇぇ、これ、マジでキッツイんですけどぉ。
半泣きになりながら、極力グロい部分は見ないようにしつつ、たまに嘔吐したりもして、耳を切り取っていく。
一応、カウントしました。合計、38匹分。結構な量です。
えぇぇぇぇ、これ、持って帰んのぉ?グロいよぉ。やだよぉ。
討伐を決めた時とは違った意味で陰鬱な気持ちのまま、街への帰路に着く。
しかし、失敗した。こういう物を持って帰らなきゃならないのに、袋とか用意してなかった。荷物を入れるリュックみたいなのは買ってあるけど、これには元々着てたスウェットと薬草が入ってるから、こんなモンを一緒に入れたくないし。
仕方がないから、その辺に生えてた大きめの葉っぱで包んで手に持ってるけど、間接的にでも手に持ってるのは嫌だ。収入を得たら絶対にぶら下げられる皮袋を買おう。
街の近くまで戻ってきた頃には、もう周りは暗くなってしまっていた。幸い、まだ街の入り口は閉められたりはしていなかったが、ちょうど閉める寸前だったらしい。
危ない危ない。閉め出されたりしたら、僕泣いちゃう。
門番さんが言うには身分証を提示してくれれば開けてはくれるそうだけど。
血だらけの俺の姿を見た門番さんが井戸を貸してくれて、ザッとだけど返り血を落とさせてくれた。
ありがとうございます。でも、濡れ鼠な状態はちょっと肌寒いです。タオルとかも貸してほしかったなぁ。などと我が儘が言えるはずもなく、そのまま冒険者ギルドに足を向ける。
無論、褒賞金をいただく為である。収入がなくちゃ、今晩寝るトコもないし、何より、腹が減った!!黒パンだけじゃ全然足りないよ!半分モドしてしまったし!
開いてる、よな?冒険者ギルド・・・
今回新たに発動した能力は【全能力向上】です。これでお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、ゴブリンの動きが遅い訳ではありません。主人公が有り得ない程に速いんです。さらに、認識力や判断力、反射速度、さらには腕力・脚力とあらゆる能力がアップしている為に30匹以上のゴブリン相手に無双ができたわけなんですが、今回一人で戦っていて目撃者もいない為、またもや自覚無しという・・・
そんな主人公ですが、次回も暖かく見守っていただければ幸いです。
批判・批評・ご指摘はお手柔らかにお願い致します。作者のメンタルは豆腐以下なので。




