古代遺跡 ヴェルデ・パレス ~禁呪発動編~
古代遺跡編のクライマックスはジェラルリードちゃん視点でお届けします。
第三章 第三十部<古代遺跡 ヴェルデ・パレス ~禁呪発動編~>是非最後までお付き合いくださいませ。
このバカはとんでもない勝負を仕掛けてきた。
真祖吸血鬼であるあたしに、魔力操作力で勝負を挑むなんて有り得ないわ。人種族は当然として、同じ真祖吸血鬼の中にだって相手になる奴なんてこの1500年は会った事がないってのに。
でも、さっき見せられたこいつの魔法は、同格の魔力操作力があるって認めざるを得ないくらいに凄かった。保持魔力量だって、もしかしたらホントに同等以上かもしれない。
でも、こいつに人化の禁呪を使わせるなんて、させられる筈がないじゃない。今まで誰も使った事がない上に、考えた奴だって成功できるかどうかも疑わしいとかってふざけた事を言ってたくらいなんだから。第一、これはあたしの我儘なんだから。
「んじゃ、どーぞ。複数属性の同時魔法でもそれ以上のモンでも。俺はそれを超える事をやらかしてやるから。」
のほほんとした顔で言うタカシ。余裕綽々って感じ。
しかし、腹立つわぁ。何?この余裕は。いくら<ちーと>とかいうワケ分かんない力があるからって、真祖吸血鬼と勝負するんだから少しは緊張感とか必死感とか持ちなさいっての。
「余裕ぶってくれるじゃない?さっきのくらいで勝ったつもりになってるんだったら、甘いにも程があるわよ。」
魔力を放出しながら、威圧感もたっぷりに言ってやる。リア達の顔が少し引き攣ってるけど、タカシは平然としてみせる。でも、微かに膝が震えてる。
何よ。ヘタレで怖がりな癖に、平然としてる振りなんかしちゃって。
でも、こいつのこの反応って、別にあたしが真祖吸血鬼だからってわけじゃないのよね・・・純粋にあたしの出す威圧感にビビってるだけ。もし、真祖吸血鬼だからビビってるんなら、さっきみたいに怒ったりできない筈だもの。
さっきのタカシは本気で怖かったなぁ。この子が怒鳴るなんて、想像もできなかったもん。いっつもへらへらデレデレしてて、笑ってるか困ってるか照れてるかしてるトコしか見た事なかったし。真剣な顔してる事もあったんだろうけど、どっかのほほんとしてて緊張感なかったし。それがあんなに怒るなんてね・・・ホントに心底友達だって思ってくれてるだなんて、常識外もいいトコよ。
だって、あたしは真祖吸血鬼よ?真祖吸血鬼。人種族にとっては恐怖と死の象徴。この2500年、あたしと遭遇した人種族は怯えて逃げ惑うか、もしくは倒して名を上げようって奴らばっかりだったのに。まぁ、それを言ったら、出会った時からこの馬鹿は普通じゃなかったんだけど。
「ハッ。チキンでヘタレな俺を舐めるなよ。そんな威圧感出されたら、ビビるに決まってんだろうがっ。」
「威張るトコか!?」
「俺は自分がチキンでヘタレだって自信と自覚があるからなっ。コレがガチンコの戦闘なら全力で逃げ出してるっ。」
胸を張って究極に情けない事を言うタカシに、思わず全力でツッコミを入れたけど、さらに情けない事を自信満々に言い切られて完全に脱力しちゃう。
コレだもんなぁ。全く虚勢を張ろうとしないし、飾りもしない。カッコつけようなんて、絶対に考えてない。リア達にカッコいいトコ見たいって言われたら張り切るみたいだけど、こんな情けない事を堂々と言っちゃう辺り、普段は絶対に自分を良く見せようなんて考えてもないのが丸分かりよ。
その癖、バカみたいに優しいしあったかいし、妙に器も懐も大きいのよねぇ。出会った時もあたしの食糧だからって魔晶石なんか要らないって本気で言うし、リスタニカの宿屋じゃ、平気だって言ってるのにわざわざカーテン閉めて日の光を遮ってくれるし。大体、2500年以上も在り続けてるってのに、普通、頭なんか撫でる?しかも、恐怖の物語の主役みたいに言われた直後に。そういうトコでは全っ然ビビんないだから。
それに・・・久しぶりに会ったら、あんなに優しく抱き締めてくれちゃってさ。確かに、真祖吸血鬼になった日の事は面白くない記憶よ?でも、あんな事されたら、決心が鈍りそうになっちゃう。気を遣わせないように馬鹿みたいに無茶な理屈付けてまで暖かく抱き締められたのなんて、今まで1回もなかったんだから・・・・
でも、だからこそ、こいつに危ない事なんてさせられない。
「真似できるもんなら、やってみなさい。≪雷炎よ。討ち滅ぼせ。≫」
稲妻を纏った炎が、タカシの生み出した土の錐を蒸発させる。
「ふ、複合属性魔法!?そっ、そんなの」
「≪大地よ。我が意に従い投擲槍と化し、雷炎と切り裂く風を纏いて、遮る物を貫け。≫」
リアの驚きの声を遮って、タカシはあたしの二属性複合魔法に対して、四属性の複合魔法を放ってみせた。大地から生み出された一抱えもある投擲槍が雷と炎、鎌鼬まで纏って壁を貫いて飛んでいく。それを見たリア達は完全に言葉を失ってる。
あ、有り得ない・・・四属性複合魔法なんて・・・二属性複合だけでも、真祖吸血鬼ですらできない奴がいたのに・・・・しかも、威力も半端無いじゃない。この穴、遺跡の端まで貫通してんじゃないの?
「うわ、やべ・・・やり過ぎたか?他の冒険者とかに当たってなきゃいいけど・・・・」
汗を一筋垂らして言うタカシ。とんでもない魔法を放ったってのに、疲れが微塵も見えないし、やっぱりどっか呑気な感じがする。
「まぁ、大丈夫か。手応えもなかったし。」
あんな魔法を喰らったら、人間族なんて手応え無しで消滅する気がするけど。
「どうよ?このチートは。呆れるくらいだろ?」
「素晴らしいですっ。ご主人様っ。」
珍しく自信満々に言ってみせるタカシに、大絶賛の声を上げるセレア。
いやいやいや。なんで普通に絶賛できんのよ?リア達を見てみなさいって。ビックリし過ぎて固まってるってのに。この子、タカシに関しては常識の枠を無くしてんじゃない?
タカシもセリフがあんたのキャラに似合わないのよ。バーカ。こっちの心を折って、諦めさせようってのが見え見えよ。
とは言っても、四属性複合以上なんてまず無理。苦手な属性が2つはあるものな筈なのに、こいつはそれまで無視してんだから。
雷属性は火と風の上位属性だから、火と風との相性が悪くなかったら使えなくはない。まぁ、人間族の場合はほんの一握りの、所謂、天才って分類される奴に限ってだけど。だから、炎と風と雷の3属性までなら、試した事はないけどあたしもやれなくはない筈。でも、そこに土属性や水属性を加えるとなると、話が変わってきちゃう。相性の悪い属性の魔法を加えると、難易度が爆発的に跳ね上がるんだから。
「・・・ホント、ふざけてるわね。あんたには相性の悪い属性ってのは無いわけ?」
「さぁ?初級程度の魔法だと得手不得手の差が分かりにくいって話らしいから、もっと高度な魔法になったら分かるようになるって言われたけど。」
サラリとまたとんでもない事を言うタカシに、思わず顔が引き攣る。
複合属性魔法を初級程度だって思ってるわけ!?二属性複合はあたしでもかなりの集中力と魔力がいるってのに、四属性複合をしておいて、魔想域にも魔法の発動維持にも初級魔法程度の集中力と魔力消費しか要さないってぇの!?
「あ、あの、タカシ様?四属性複合魔法なんて、伝説級の超々高等魔法ですよ?と言うか、もう夢物語のレベルです。」
「へ?マジ?」
リアの掠れた声の指摘に、間抜けな声で疑問を返すタカシ。リアはそれにカクカクと首を縦に振ってる。
「・・・・このチート能力って、マジでパネェのな・・・」
「さすがはご主人様です・・・」
自分の事なのに、どこか他人事みたいに呆れた声を漏らすタカシに、うっとりしたように呟くセレア。
む、無自覚でやんの・・・そっちの方がおもいっきり心が折れそうだわ・・・
でも、だからってタカシに危ない事をさせる理由にはならないんだから。万一にも、あたしの我儘のせいでタカシを死なせたりしたら、真祖吸血鬼なんかになった昔の自分の選択を呪うだけじゃ済まない。絶対に自分で自分が許せなくなって、きっとあたしは壊れる。
「ジェラルリードちゃん。これ、多分、って言うか、ほぼ確実に俺なら普通に成功させられるぞ?」
「そんな保証がどこにあるってのよ!?簡単に言わないでよ!!」
タカシの軽い口調に、思わず怒鳴り返した。
「あたしの我儘なんかであんたを死なせちゃったりしたら、リア達にどう謝ればいいのよ!?リア達の事、考えて物を言いなさい!!」
あたしの言葉に困った顔で頭を掻くタカシ。
卑怯な言い方なのは分かってる。タカシは何よりもリア達の事を大切にしてるから、こう言えば何も言えないのは分かりきってる事だから。
少し、ほんの少しだけ、それが悲しいけど。あたしじゃこの子達には並べないって事みたいに感じちゃうから。
「ご主人様。」
言葉に詰まるタカシに、セレアが優しく笑ってその手を抱き抱えるように抱き締める。
「私はご主人様のなさりたいようにされるのが1番だと思います。」
「はぁぁっ!?ちょっ!?セレア!?あんた、自分が何言ってんのか分かってんの!?」
意外過ぎるセレアの言葉に、咎めるような口調で言ってしまった。リアとシャーネも有り得ない物を見たような顔でセレアを見てる。
ホントに意外過ぎる。セレアのタカシへの気持ちは、他の3人と比べても見て分かるくらいに段違いに深いのよ?
異世界人のタカシと違って、真祖吸血鬼への根源的な恐怖がある筈なのに、セレアだけはあたしに対してですら即座にタカシは譲らないって牽制を掛けてきたくらいなんだから。それに、何をするにしてもいつも然り気無くタカシに気を利かせて行動してて、次にタカシが何をするのかが全部分かってるみたい。どんだけタカシばっかり見てたら、こんな風にできるようになるんだか。
ここに向かって出発した日だって、タカシと目が合うだけで心底幸せそうに笑ってて、理由を聞いたら、出会った頃みたいにタカシがテンパってるのが可愛いからだって言う。経緯を聞いてたら、セレアの気持ちに対して気の利いたセルフの1つもナシだったってのに、それが不満どころか嬉しいって言い切ってんの。タカシが喜んでくれるのが分かれば、もうそれだけでいいらしい。それを聞いてたタカシがまた照れちゃって、それにもまた喜んでたし。
それに、タカシの異常さに対しての理解度も異常。他の3人がショックから立ち直れてないようなムチャクチャさ加減にも、ビックリはしても1人だけビックリしてるだけで固まりもしないし。
そんなセレアが、タカシの命の危険を容認するような言葉を吐くなんて、誰が想像できるってのよ?
「勿論です。ご主人様はとてもお優しく情にも厚いお方ですから、ジェラルリードさんの事もとても大切に思ってらっしゃいます。きっと、私達と同じくらいに大切にされているんだと思います。ですから、ここでご主人様がジェラルリードさんに危険が大きい事をさせる事を許すのは、ご主人様ご自身にとって、お辛い事になります。仮に、ジェラルリードさんが無事に禁呪を成功させたとしても、危険を見過ごして容認されてしまえば、それが許せないと感じられてしまいかねません。」
セレアの言葉に、あたしも、そして、リア達ですら何も言えない。だって、タカシがそうなる事が簡単に想像できちゃうから。
「それなら、ご主人様のお望みになられるままにしていただくのが1番です。でも・・・」
セレアはタカシに向き直り、真っ直ぐに見つめる。
「ご主人様に万一の事があったら、セレアは生きていられません。」
「セレア?」
セレアは微かに肩を震わせてる。
「・・・ですから・・私の命も一緒に賭けてくださいませんか?万が一、失敗して、ご主人様の身に何かあれば、私も運命を共にさせてください。お願いします。」
震える声でそう言ったセレアを、タカシはおもいっきり抱き締める。
「お前、重たいモンを背負わせてくれたなぁ。」
「背負って、もらえますか?身勝手な私の我儘を、許してもらえますか?」
「・・・俺の我儘を通すんだ。背負わないわけにゃいかんでしょ。それに、こんな健気でいじらしい事言ってくれる奴を残していけるかっての。」
タカシの答えに、セレアもおもいきりタカシを抱き締め返す。
「はい・・・はいっ。ご主人様なら絶対に成功させられると信じています。」
苦笑を浮かべるタカシ。
「セレアの中の俺に対する評価が高過ぎる気がしてるけど、今回に限っては正解だってトコを見せてやるよ。約束する。」
「はいっ。」
信頼に満ちた笑顔をタカシに向けるセレアに、力強く頷いてみせるタカシ。
セレアのその笑顔には揺るぎない覚悟がある事は誰から見ても明らかだと思う。きっと、セレアは万一、タカシが失敗したら、迷いなく後を追う。
タカシも、それは充分に分かってる。だから、自分の不安を押し殺してタカシの事を第一に考えて、迷う自分を後押ししてくれたセレアの信頼に全力で応えるつもりなんだって、タカシの顔を見たら伝わってくる。タカシがあたしを見る顔にさっき浮かんだ迷いは、もう一欠片も残ってないんだもん。
悔しいなぁ・・・やっぱりこの子には敵いそうにないや・・・
「ハァ。やっぱりセレアさんには敵いそうにないですよねぇ・・・」
「ホント・・・どうやったら、主様の事、こんなに理解できるんだろ・・・」
「? 主さまはそんな感じじゃないの?あたしもセレアさんとおんなじだよ。主さまが死んじゃうのはヤだけど、絶対にヤだけど、止めてって言うのは主さまがもっと辛くなっちゃうでしょ?主さまが辛いのは、おんなじくらいにヤだもん。」
シャーンの言葉に、リアとシャーネ、それにあたしもポカンとなる。タカシとセレアはキョトンとしてるし。シャーンはそのままトテトテとタカシに駆け寄って、ギュッと抱きつく。
「だからね?主さま。あたしも一緒に背負ってくれるです?あたし、主さまがいなきゃ絶対にイヤ。でも、主さまが辛いのもヤダ。どっちも、死んじゃうくらいにヤです。だから、絶対に主さまのしたいように成功させてね?」
シャーンの言葉に、タカシは苦笑を浮かべる。
「シャーンは厳しいな。俺が成功させる以外は、シャーンにとっては全部イヤな事になんのか。」
言いながら、シャーンを抱き返すタカシ。
「はい。死んじゃうくらいにヤです。」
「了解。任しとけ。」
「うんっ。」
「・・・・・シャーンさんがこんなにご主人様の事をご理解されているとは思いませんでした。まだ日も浅いですのに・・・・でっ、でもっ、ご主人様の第一奴隷は絶対に私ですからね!?」
「は~い。」
セレアに返事をして、タカシから離れるシャーン。
何?この子・・・1番の新顔でしょ?それがなんで・・・・あたしの方が付き合いは長いのに・・・
「・・・・ちょっと泣きそうです・・私が2番奴隷なのに・・・・・」
「・・・・あたしも・・・・ハァ。我儘なんだろうなぁ。何が何でも、主様には生きていてほしいんだもん。主様なら大丈夫って思ってても、万一なんて考えたくないんだもん。」
「・・・・・ですね・・・・例え、タカシ様に嫌われてしまっても、止めたいって思ってしまいます・・・」
リアとシャーネの落ち込んだ言葉に、タカシは後頭部を掻きながら照れくさそうにしてる。
「どっちも嬉しいっての。どっちも俺の事を1番に考えてくれてるのには変わりないんだから。」
タカシの言葉に、リアとシャーネは同時に飛び付いていく。
「でも、私の考えてる事なんて、我儘で自分勝手で・・・」
「そりゃ、リアとシャーネは俺の身を第一に考えてくれてるからだろ。セレアとシャーンの方が厳しいぞ?全部背負って成功させろって言ってんだから。」
「そ、そうでしょうか?」
「主さまはそうじゃないと満足できないですよ?」
シャーンの言葉に苦笑を漏らすタカシ。
「そだな。俺の我儘さ加減をよく分かってくれてるからこその、求められてるモンの厳しさだわな。」
そう言って、タカシはあたしに顔を向けてきた。
「そうだろ?」
「・・・・そうね。」
肯定以外にしようのない問いに、渋々首肯するあたし。
「んで、魔力操作力も俺の方が上だってのなら、ジェラルリードちゃんも、セレア達と同じレベルの厳しさの要求してくれていいからさ。任せてくれないか?」
タカシは優しくそう言ってきた。
さっきのあたしの反応で勝負がついたのを察したんでしょうね・・確かに、あれ以上の魔法なんて失敗のリスクが大き過ぎて使えない。ここでそんなムチャをしたら、人化の禁呪の前に魔力欠乏状態になって滅びかねないんだから。仮に成功させても、タカシのあの無自覚な余裕は、サラッとその上を見せてくるのが簡単に想像させられちゃう。
「でもっ、これはあたしの我儘じゃないっ!あたしがタカシと一緒にいたいなんて思わなかったら」
「あ~。それなら気にすんな。」
「・・・・はぁぁぁぁぁっ!?」
サラッと言われた言葉の意味が一瞬分かんなくて、分かった瞬間に思わず本気で腹が立って、キレ気味の声を上げた。その声にリア達はビクッとなったけど、タカシはなんでか平然としてる。
「だって、ジェラルリードちゃんがもういいって言っても、俺がそうしたいからその禁呪使うし。」
「へ・・・?」
平然と続けるタカシの言葉に、おもいっきり間抜けな声が出ちゃった。
何言ってんの?この馬鹿は。
「いや、ジェラルリードちゃんが人間に戻ったら、これからいつでも一緒に居られるわけだろ?街中であろーが道中であろーが。んで、今、その手段があるワケだ。」
タカシは身振りで、セレア達を少し下がらせながら言う。
「んでもって、ジェラルリードちゃんは真祖吸血鬼である事には別に執着してないだろ?」
「ま、まぁ、それはそうだけど・・・」
この馬鹿が何を言いたいのか、本気で分かんない。
「それなら、いつでも何にも気にしないで会えた方が俺は嬉しい。っつーか、そうしたい。だから、もうジェラルリードちゃんの意志がどうとか、我儘がどうとかじゃないんだよ。」
嘘・・・それって、タカシも、あたしと一緒にいたいって、思ってくれてたって事?
「これはもう俺の我儘だ。」
タカシの手の中には、いつの間にか魔核が握られてる。
「だから、教えてくれ。その、人化の禁呪とかってのの理屈を。漠然としたイメージだけじゃ魔想域は完成させらんないからな。」
「・・・・いいの?いくらあんたの<ちーと>がムチャクチャでも、危ない事には変わりないのよ?」
「危なくなんかねぇよ。絶対に成功するから。」
似合わない強気なセリフを言い切るタカシ。
「セレアもリア達も・・・・ホントにいいの?こいつ、異世界人だから、魔法を失敗した時の危険性を絶対に分かってないわよ?」
「大丈夫です。ご主人様はお約束してくださいましたから。私のご主人様への信頼が間違っていない事を見せてくださると。ご主人様は約束を違える方ではありません。」
「信じるしかないじゃないですか。タカシ様がここまで仰るんですもん。」
セレアとリアの言葉に、新人ちゃん達も首肯する。
「・・・・・いいの?あたしのムチャな我儘のせいで、セレアとリア達に会えなくなっても・・・」
「だぁかぁらぁ。俺の我儘だってんだろ。第一、俺だって死にたかない。だから、絶対に成功させる。セレア達ともジェラルリードちゃんともお別れになんかならない。これからもずっと一緒だ。」
タカシの言葉に、勝手に涙が溢れてきた。タカシはそっと側に来て、ギュッと抱き締めてくれる。
タカシの言った最後の一言で、決心してた筈のものが完全に崩れちゃった。
例え、人化の禁呪に失敗しても、1匹の真祖吸血鬼が消えるだけだって、本来なら出会える筈のないものだったんだからって、だから、魔核を手に入れたら、後の事は自分でやろうって思ってたのに。あたしだけで来てたって魔核は手に入れられたけど、最後にタカシ達と少しだけ一緒に旅をして、それを失敗した時の最後の思い出にしようって思ってたのに。
これからもずっと一緒だなんて言われたら、そんなの無理じゃない。またこんな風に抱き締められたら、もう我慢できないじゃない。もう1人で毎日を過ごすなんてもう嫌。2500年も1人でいたのに、寂しいのになんて慣れた筈だったのに。タカシと会ってから、全部が変わっちゃった。
誰かと素のままでお喋りできる喜びを思い出させてくれた。冷たくなったあたしの体に、もう忘れちゃってた温もりを感じさせてくれた。気紛れに膝に乗ってみたら、背中に感じる体温が心臓の変わりになってる核の動きを激しくした。然り気無い優しさが嬉しくて堪らなかった。遠話で声が聞けるだけでも楽しくて、その時間だけは1人でいてもあっと言う間に流れた。くだんない事で言い合うのが心底楽しかった。
遠話が切れた直後に襲ってくる寂しさが怖くなった。タカシに本当は怯えられてるんじゃないかって考えたら、凄く切なくて悲しくなった。いつも一緒にいたいって思うようになった。
そして、タカシもあたしが人に戻る事を望んでくれた。同じ気持ちなのかは分かんない。でも、あたしの我儘を叶える為に、あたしの望みをタカシ自身の我儘みたいに言ってくれた。あたしに気を遣わせないように。心配させないように。
それから、人化の禁呪がタカシの手で発動した。
全身が物凄く熱くなって、目の前が真っ白になっていく。でも、タカシの体には異常は無さそう。
良かった・・・視界が完全に真っ白になる前までだけど、ちゃんと制御できてるっぽいのが確認できた。もう何も聞こえないけど、さっきまではタカシ達の心配してくれる声が聞こえてた。制御にさえ失敗しなきゃ、結果が失敗でもタカシの身の危険はないもんね。
「結果が失敗だったら、それはこの魔法を考えた奴の責任。制御が完璧なら術者は無事な筈だから、そうなっても、タカシは責任を感じたりしちゃダメよ。」
そう言ったつもりだったんだけど、ちゃんと聞こえたかしら?
あぁ。もう1回だけ、頭を撫でてもらっとけばよかったなぁ・・・
そこまでで、あたしの意識は白い光の中に消えていった。
第二章<先の予定を立てましょう>で発覚した【魔力操作】の真骨頂を見せました。
また、【魔力極大化】という新能力が発動して異常な保持魔力量も発現しています。物凄く久しぶりな新能力ですね。
【魔力極大化】の内容は単純なもので、名前の通り、魔力を極大化させます。どこまで極大化させるかというと、主人公が望むところまで。単純なだけに、チートの名に恥じない理不尽な効果を持つ能力です。これを発動させれば、どんなに大量の魔力を必要とする禁呪であろうとも発動可能となり、【魔力操作】とのコンボで制御に失敗する事もありません。
しかし、いくら制御に成功して、完璧に魔法を行使しても、不可能を可能にできるわけではありません。主人公の能力は魔法を完璧に扱えるというだけのものなのです。この禁呪の結果はどうなるのでしょうか?
では、これにて第三章 第三十部の幕を下ろさせていただきます。最後までお付き合いいただいた皆様に感謝です。また次もお付き合いいただければ幸いです。




