古代遺跡 ヴェルデ・パレス ~激昂編~
主人公が激昂します。この世界に来てから主人公のブチギレは初めての事ですが、怒りを向けた相手は意外な人物となりました。
第三章 第二十八部<古代遺跡 ヴェルデ・パレス ~激昂編~>是非最後までお付き合いくださいませ。
それから、また順調に奥へ奥へと進んだ。途中でちょこちょことアイテムらしき物を見つけたけど、ジェラルリードちゃんから感じる違和感が気になってしまい、回収する気にもならない。
このまま先に進んでいいのか?何か、取り返しのつかない事になるような気がする・・・はぐらかされるのは承知の上で、カマを掛けてみるか?
「なぁ。ジェラルリードちゃん?」
「何?」
俺はその場に足を止める。少し遅れて、他の皆も足を止め、ジェラルリードちゃんは訝しげな顔で俺を見つめる。
「何か、俺に隠してるな?」
ピクッとジェラルリードちゃんの眉が僅かに上がった。注意して見てなきゃ見落としてる。
「はい?なぁにを唐突に言っちゃってんのよ?」
「否定はしないんだな。」
「・・・・何?あたしがあんたに何か害をなすとでも疑ってんの?」
ジェラルリードちゃんの声音が低くなり、明らかに怒りを滲ませている。その迫力に、慣れていた筈のセレアとリアですら、顔を引き攣らせている。
「何か根拠でも?それとも、あたしが真祖吸血鬼だからやっぱり信用し切れない?」
ジェラルリードちゃんは、その体にパチパチと魔力の紅い火花を散らせながら言う。
しかし、その様からは、怒りは感じられても殺意や悪意なんかは欠片も感じられない。勿論、迫力はとんでもないから、軽く膝が震えてきてますが。
「スッゲェ迫力。基本的にチキンでビビりなんだから、そういうのは苦手なんだけどなぁ。」
「なら、もうそういう事を根拠無しに言うのはやめなさい。いくらあんた相手でも」
「でもさ、明らかに隠し事をしてるってのが分かったのに、怖いから黙ってるなんてできないよ。俺はジェラルリードちゃんにビビったから友人だなんて言ってるわけじゃないんだ。第一、邪気がないゴスロリ美少女に凄まれてもなぁ。」
「・・・フン。前みたいな余裕は無い癖に、よく言えたもんね。」
「そりゃな。前と違って、本気で怒ってるだろ?」
ジェラルリードちゃんの顔が微かに引き攣る。
「でも、引かねぇよ?このままだと、なんか取り返しのつかない事になる気がする。」
「なら、引き返せばいいじゃないっ!!そんなに真祖吸血鬼のあたしが信用できないんならさぁっ!!!」
いつかのように、ジェラルリードちゃんを中心に衝撃波が放たれて、俺達の体が退けられる。しかし、前と違ってジェラルリードちゃんは泣いたりせず、怒りの表情で俺を睨み付けている。
「いや、いつ俺がジェラルリードちゃんを信用できないなんて言ったよ?」
「は?」
「害をなす?ジェラルリードちゃんが俺達に?アホか。そんな事考えてんなら、とっくにやってるだろーが。わざわざこんなトコまで守りながら連れてくる理由がないだろ。理屈で考えろ、理屈で。まったく・・・」
「だっ、誰がアホよっ!?」
「ジェラルリードちゃんだよ。このドアホ。んな事俺が考えてるとでも思ってたのか?」
ズイッとジェラルリードちゃんに至近距離まで詰め寄る。
そんな事を思われてたのかと思うと、物凄くムカつく。
「ふざけろよ。テメェ。誰がそんなしょーもない心配するか。このタコ。」
「しょ、しょーもないって・・・」
ジェラルリードちゃんは怒りを潜めて、戸惑い顔で言う。若干体が引き気味だ。
多分、今の俺は相当の怒りの形相になってるんだろう。こめかみ辺りが吊り上がってるのは自覚してる。
「しょーもなくなかったら、クソ馬鹿馬鹿しい、だ。もっかい言うぞ?俺が、そんな事を、考えてると、本気で、思ってたのか?」
「う、うぅ・・・だ、だって、こんな危ないトコに連れてきてるし、魔核なんてとんでもない物欲しがってるし・・・」
言いながら詰め寄る俺に、涙目になりながら答えるジェラルリードちゃん。
「ふざけんなっ!!!んな事心配する程度しか信用できねぇ奴をダチだなんて言うかっ!!!」
ビクゥッとなるジェラルリードちゃん。
思わず、声を荒げてしまった。短い付き合いではあるけど、ジェラルリードちゃんは腹の底から信用できると思っていたし、完全に気を許し切っていた相手なのだ。セレア達を除けば、こんな風に思えた相手は元の世界で暮らしていた頃を含めてもいなかった。それだけに、これまで生きてきた中で、最高に腹が立ってしまったのだ。
「ご、ごめん。で、でも、真祖吸血鬼って普通は」
「誰が真祖吸血鬼をダチだなんて言った?俺はジェラルリードちゃんの事を友人だって言ってんだよ。」
「う・・・・うん・・・ごめん。」
「ったく・・・・」
俺はタメ息をつきながら、後頭部をガリガリと掻く。
「あ、あの。ご主人様。お怒りはもっともだと思いますが、ジェラルリードさんのお気持ちも分かってあげてください。ジェラルリードさんは真祖吸血鬼なんです。そして、真祖吸血鬼と言えば、人種族全体にとっては恐怖と死の象徴です。」
「は、はい。タカシ様のように接する方なんて、少なくとも、人種族の中に今までいなかったのは間違いないと思うんです。」
セレアとリアが狼狽えながらも、ジェラルリードちゃんへのフォローの声を上げる。
「分からんでもないけど、腹が立つもんは立つんだよ。んで?何を隠してんの?なんっか嫌な予感が止まんないんだけど?」
気まずそうな顔で俯くジェラルリードちゃん。
「・・・・ヤ。言わない。」
「は?」
「言ったら、あんた絶対に今より怒る気がしてきた。だから言わない。」
プイッと顔を背けるジェラルリードちゃん。
「・・・ほぉ?それで俺が納得するとでも?」
「う・・・お、怒んないって約束するんなら、言う。」
「分かった。怒らんから言ってみ。」
「・・・ホントに怒んない?」
「ああ。」
「約束する?」
「約束する。」
「・・・魔核の魔力を使って、人間に戻ろうかなぁって思ってる。」
「へ?そんな事できるのか?」
「多少の常識外程度の魔力じゃ無理だけど、魔核の魔力があれば。一応。」
「一応?」
「そ、そんなのムチャもいい所ですっ!複数の遺跡を」
リアのセリフを遮るように、そこへ今まで見た事のない物体が出てきた。しかも、壁を素通りして。
「出た!!こいつよ!!」
ジェラルリードちゃんの喜びを孕んだ声が上がると同時に、全員がその物体から距離を取って身構える。
「こいつって、これが魔核なのか?」
「ええっ。≪断絶せよ!≫」
ジェラルリードちゃんの力ある言葉が発せられると、周囲の壁と少し離れた前後の空間に薄く靄がかかる。
「これで、そう簡単には移動できない筈っ!」
どうやら、魔核を逃がさないようにする為に結界を張ったらしい。
ジェラルリードちゃんが魔核というそれは、何と言うか、妙な形だ。胴体にあたる部分が歪な六角形で、厚みがせいぜい10cm程度。頭も足も無くて淡く光りながら宙に浮き、手が触手のように伸びているのだ。これは正体不明の妙な物って言われても仕方がない。
「ジェラルリードちゃん。これ、全部が魔核?それとも、移動の為の部品みたいなのが付いてる?」
「触手みたいなトコが魔力を遺跡に注ぐ為のユニットで、外敵を攻撃する機能もあった筈よ。胴体の真ん中に魔核が埋め込まれてて、その周りは鎧みたいなもんね。」
「よし。」
移動を妨害されているのに気付いて、俺達を外敵と見なしたのだろう。魔核の触手が蒼い火花を散らしながら、俺達を攻撃してくる。
「受けるな!躱せ!」
俺の言葉に、全員が触手の薙ぎ払いから身を躱して、距離を大きく取る。
「なんで躱すの?アレくらいだったら、払うか受け流せるですよ?」
「分かりませんが、ご主人様が仰るんです。受けるのは危険と判断してください。」
シャーンの疑問に、セレアが相変わらず無茶な理屈で答える。
「はい。分かった。」
その無茶な理屈に、あっさりと首肯するシャーン。
いやいや。確かに、なんとなく受けるのはマズイと思ったけど、もうちょっと疑問に思ってもいいんでないかい?シャーン素直過ぎ。セレアも、俺の感覚に対する信頼度が高過ぎ。
「当たりっぽいわよ。タカシの指示は。ホラ。」
ジェラルリードちゃんはそう言って、触手が当たった壁を目で指し示す。その壁の靄が他の部分よりもかなり薄くなっている。
「! ジェラルリードさんの結界がたったの一撃で・・・?」
「そう。破れかけてる。洒落になってないわね、あの触手。」
リアの驚きに同意を示すジェラルリードちゃん。
リアの反応とジェラルリードちゃんの言葉から察するに、触手の威力は半端無いらしい。幸い、魔核の動きは積極的に外敵を攻撃するものではないらしく、追撃はきていない。でも、これじゃまともに攻撃もできやしないぞ。
「近接攻撃はダメね。あの触手は喰らったら1発アウトよ。」
「それなら!」
「あたし達の出番なのっ!」
シャーネとシャーンが同時に羽根弾丸を放つ。
「≪稲妻よ。我が敵を貫け。≫」
リアも追撃の魔法を放つが、羽根弾丸は全て触手に薙ぎ払われ、リアの魔法は絡め取られて吸収されてしまう。
「嘘!?魔法を吸収するなんて!?」
「マジで・・・?こりゃ、想像してたよりも厄介かも・・・」
「いや。羽根弾丸は吸収されてない。ただ薙ぎ払われただけだ。」
「でも、当たんないよぉ。さっきの全力だったのに・・・」
「試してみたい事ができた。リアとセレア、ジェラルリードちゃんも俺の合図で魔法をブッ放してくれるか?んで、シャーネとシャーンはそれにタイミングを合わせて羽根弾丸を全力発射。」
「「「「はいっ。」」」」
「何をするのか、楽しみにしてるわよ。」
「おう。」
俺達の打ち合わせの間にも、魔核の触手は周辺の壁を叩き付けまくり、その壁の靄が徐々に薄くなっていっている。
壁を通り抜けるような相手なだけに、もう1回見つけるのは面倒そうだ。これで決着を付けないとな。まぁ、これからやる事がうまくいくとも限らないけど。
セレア達の魔法の準備ができた事を確認して、俺は挙げた手を魔核に向かって降り下ろす。それと同時に、セレア達の魔法が放たれて、シャーネ達の羽根弾丸、さらに
「≪穿て!≫」
俺の魔法で床の石材が大きな錐となって魔核に迫る。
「はぁぁぁっ!?!?」
ジェラルリードちゃんの驚愕の絶叫と共に、セレア達の魔法は吸収され、羽根弾丸の過半数は薙ぎ払われるものの、俺の魔法で発生した石の錐が触手を根本から貫いて地面に落ち、払い切れていない羽根弾丸が魔核の胴体にいくつもの風穴を開ける。
「シャーネ!シャーン!トドメ!」
俺の指示と同時に、2人が放った羽根弾丸が胴体の中心部だけを無事に残して、他を穴だらけにする。すると、魔核の胴体に宿っていた淡い光が点滅したかと思ったら、そのまま地面に落下。完全に沈黙した。
よし!読み通りだ!
魔法が吸収されたにも拘わらず、魔力で強化して打ち出している羽根弾丸はただ薙ぎ払われたから、物理的な要素を絡めた魔法なら効くんじゃないかと思ったんだけど、大当たりだったみたいだ。
「嘘でしょ・・・物体変化と同時に物体操作なんて・・・・・」
呆然とした様子で言うジェラルリードちゃん。
「ご主人様ですから。」
「いやいやいや。そんな一言で済ませていいレベルの話じゃないから。完全に人外よ?ねぇ?」
「タカシ様は何かと規格外ですから。」
セレアの言葉にツッコミを入れつつ、リアに同意を求めるジェラルリードちゃんだが、リアのサラリと言ったセリフにガックリと肩を落とす。
「あんた達のタカシに対する認識って・・・ハァ。まぁ、いいわ。魔核は手に入ったんだし。」
そう言って、魔核の方に視線を向けて、ジェラルリードちゃんは顔を大きく引き攣らせた。
「さて。話の途中だったよな?ジェラルリードちゃん?」
魔核を手の上でポンポンと軽く踊らせながら言う俺に、ジェラルリードちゃんは盛大にタメ息をついた。
いいタイミングで出てきたとでも思ったんだろうけど、それで話をうやむやにされる程にはボケてないぞ。リアが言いかけてた感じだと、かなりリスクも高そうな手段っぽいし、場合によっては魔核を俺の手で破壊するつもりだ。
「・・・分かったわよ。でも、ここじゃ落ち着かないし、とりあえず、移動しましょ。あ、タカシ?怒んないって約束したんだからね?分かってるわよね?」
念を押してくるジェラルリードちゃん。
そんなに怖かったのか?怒られ慣れてないんだろうなぁ。
でも、知ってるか?ジェラルリードちゃん。大人が<怒らないから言ってごらん>って言う時は、もう怒る事が前提の時なんだぞ?
しかし、声を荒げるのはダメだな。涙目になられると罪悪感が半端無いし、大人げなさすぎた。反省。
元の世界に生きていた頃、主人公は心から誰かを信頼して心を開いた事がありませんでした。しかし、この世界で追い詰められた環境にあった事やアンナちゃんやセレア達との出会いが主人公を変えました。今では、セレア達の事は勿論、ジェラルリードちゃんの事も心から信頼しています。それだけに、ジェラルリードちゃんが言った事に対するショックが大きく、つい声を荒げてしまったのです。
では、これにて第三章 第二十八部の幕を下ろさせていただきます。最後までお付き合いいただいた皆様に感謝です。また次もお付き合いいただければ幸いです。




