新しい奴隷捜し ~前編~
見た目だけで相手を判断すると、手痛いしっぺ返しが待っている事があります。誰だって見縊られたり見下されたりすると、気分が悪いものですから。それは、主人公もやはり同じようです。
第三章 第十七部<新しい奴隷捜し ~前編~>是非最後までお付き合いくださいませ。
朝までコースの後、背中を擦る柔らかい感触に目を覚ますと、リアが腕の中にいた。どうやら、今回はリアを寝ている間に抱き締めていたらしい。背中には小刻みに擦り寄せられる感触が続いていて、瞬間的に完全覚醒。いろんな意味で完全に起きた。
「お、おはようございます。タカシ様。」
にやけきった顔で俺の唇を塞ぐリア。何?その顔。可愛過ぎるからヤメテ。背中の子のせいで、もう臨戦体制が整ってるから、また開戦してしまいそう。
「お、おはよ。リア。」
「ご主人様。私も・・・」
挨拶を返すと、クイクイと腕が軽く引かれる。仰向けになると、セレアはいきなり跨がってきて、俺におもいきり抱きつきながら舌を絡めて、奇襲をかけてきた。
「あぁっ!?セッ、セレアさん、狡いですよぉっ!」
リアはセレアに抗議の声を上げながら、俺の手を取って自分の体に伸ばさせる。
うわぁい。まさかの朝までコースの後の起き抜け開戦だぁ。
セレアの激しさが半端無い。普段は求めてくれる時も控えめな感じだけど、ジェラルリードちゃんが膝に乗っていた後といい、妬くとリミッターがブッ飛ぶのか?気配りの細かいセレアがこんな風になってくれるのは、なんか妙に嬉しい。でも、涙目になるのは焦るから、わざとってのはできそうにない。
セレアは結構独占欲が強いのかも。でも、リアを後押ししたのも、リアが嫌なのかって心配してたのもセレアだしなぁ?女心はよく分からん。
短時間で4連戦した後、風呂に一緒に入る。湯船に入る時のスタイルは2人を半身ずつ乗せる、いつもの至福の状態だ。
「も、申し訳ありません。ご主人様。ご予定も聞かずに・・」
シュンとなるセレアを抱き締めて、唇を塞ぐ。
「謝る事なんかないよ。妬いてくれるのは嬉しいし。」
「ご主人様・・ありがとうございます。」
キュッと抱き締め返してくる。
「・・・よかったんですか?私の事を後押ししてくれて。もうダメって言われても、抑えられないですけど。」
「あ、はい。ご主人様に引かれるのは当然だと思いますし、ご主人様をお慕いする人が増えるのは心から誇らしいですから。」
「ホントにか?」
「はいっ。でも・・・」
「でも?」
セレアは少しだけ体を離して、上目使いで俺を見つめる。
「その・・私が最初じゃないと嫌です。・・私がご主人様の1番奴隷なんですっ。」
言い切ってから、また舌を絡めてきた。
なるほど。だから、今回のはリアが先にキスをしたのがスイッチになったわけか。これからは注意しとかないとな。セレアの涙目は強烈な罪悪感を誘うし。
「こればっかりは仕方がないですね。いろんな意味で敵う気がしてないですし。でも、2番奴隷は私ですよ?正式な奴隷契約はまだ先になっちゃいますけど・・・」
セレアの唇が離れた後に、そう言ってリアも舌を絡めてきた。
リアにとってもそこは重要なのか。もし奴隷を増やす事になったら、奴隷契約ができてない事を気にしてるっぽいリアはマジ泣きしそうだし、マジで順番には気を付けよう。
風呂を出たら、もう昼を完全に過ぎていたから、外で遅い昼食にする事にした。
昨日も思ったけど、街の活気が凄い。あちこちで奴隷商会の呼び込みが響いている。王都も活気はあったけど、国王のお膝元なせいか全体的にどこか品があった。けど、この街は下町の活気って感じで勢いが違う。ただ、ガラもよろしくはないらしい。怒鳴り声が飛び交っている所もチラホラ。やっぱり王都近くだと正規兵の目があるから、揉め事は起こりにくかったんだろうなぁ。
昼食の後は、宝飾品店に足を向けた。複眼の宝玉を売却する為だ。
相変わらず文字が読めない俺に代わって、セレアとリアが見つけてくれた宝飾品店に入ると、店員の若い男性がこちらを一瞥して溜め息をついた。あ、これ、また鉄級と勘違いされてるな。
「らっしゃい。何の用だ?うちはこの街じゃ1番の高級店で、貴族様の御用達でもあるんだぞ?」
これは、言外に<お前程度の階級で買える物なんかないぞ>と言われてるようなものである。
しかし、この世界の商売人のほとんどは冒険者の階級で露骨に態度が変わるよなぁ。食料品を扱ってる人達はそうでもないけど、武防具屋とか宿屋とかは極端過ぎて笑えてくる。もっと極端なのは冒険者ギルドの職員達と冒険者達だけど。例外はエラーデさんくらいか。
「買い取りをお願いしたいんですが、見ていただけますか?」
「はぁ?聞いてたのか?あんた。ここは高級店だって」
背後でセレアとリアの怒りの気配が膨らんできたから、店員の言葉を遮るように慌てて複眼の宝玉をリュックから出す。
「な・・ふ、複眼の宝玉・・・?まさか・・・」
複眼の宝玉を手に取って、マジマジと見る店員。そこに、店主らしき中年男性がカウンターの奥から出てきて、俺達を一瞥して、興味が無さそうに店員に顔を向け直す。
「どうした?」
「あ、て、店長。これを。」
複眼の宝玉を手渡す。
「なっ、なんてぇ仕上がりだ・・・こ、こいつはあんた達が持ち込んだのか?」
「ええ。買い取りをお願いしたいと思いまして。」
店長はチラリとリアに視線を向けて、俺に視線を戻す。
「随分腕のいい奴隷に当たったもんだ。あやかりたいねぇ。」
うわぁ。完全に見下されてるよ。これは2人がキレる前にとっとと商談を済ませないとな。
「いくらで買い取っていただけますか?」
「フン。まぁ、50万エニーってところだな。他の店じゃあこんな金額はすぐには出せやしないぞ。」
ふんぞり返って言う店長。
はぁ?安く買い叩くにも程がある。いや、相場なんて知らないけど、絶対に安い。何故かなんとなく分かる。完全に舐められてるなぁ。思わんトコで舐められる事の弊害が出たもんだ。まぁ、冒険者証を出せば片付くだろうけど。
「聞き間違いですかね?もう1回言っていただけますか?」
言いながら冒険者証をカウンターに出すと、店長と店員の顔が引き攣って硬直する。
「50万って言いましたか?500万や5000万の聞き間違いならいいんですが。頭の中で桁を数え間違える事もあるでしょうからね。」
「「なっ!?」」
店長と店員の顔が驚愕に染まる。
「まさか頭の数字を言い間違える事はないでしょう?見下して吹っ掛けていたって言うんなら、話は別ですけどね?」
俺の言葉に、店長は言葉を無くして額にビッシリと汗を浮かべる。
そんな買値なワケがないのは予想の上で、追い詰めてやる。多分、複眼の宝玉自体の正当な買値は200万エニー前後。何故かは分からないけど、今はなんとなくそうだと分かる。売ろうとするまではサッパリだったのに。
もしかしたら、鑑定とかの能力が働いてるのかも。アンナちゃんの薬草の時もエラーデさんのトコで買い物をした時も、なんとなく相場はこのくらいってのが察しがついたし。相場の知識なんて全く無いのに、なんとなく分かるなんて便利なもんだ。まぁ、ホントに合ってるかどうかは分からないけど。
ただ、今回に関しては確実に相場以上を吹っ掛けてやれたのは間違い無さそうだ。何せ、店長も店員も顔から血の気が引いている。こんな価格で買い取れば大赤字は確定だけど、知らなかったとはいえ、白金級の冒険者を相手に、喧嘩を売るような態度でとんでもなく安く買い叩こうとしていたなんて認めるわけにはいかないからだろう。他の冒険者の話を聞く限り、冒険者相手にそんな事を認めれば殺される寸前までくらいはやられかねないんだから。
それが分かっていて吹っ掛けてやったのだ。自分の行いには責任を持ってもらわないとな。いくら俺でも、見下されるのは気に入らないから、手を緩めてやるつもりもない。まぁ、非を認めたからって暴力に訴えるつもりはないけど、それなりの代償は払ってもらうつもりだ。相手が弱い立場だからと、無茶を平然と言う奴は大嫌いなのだ。
「で?どうなんでしょう?500万?5000万?それとも」
「とっ、ととととっ、とんでもございませんっ。そっ、そのような事は決して!!!!」
俺が正解を口にする前に、それを全力で否定する店長。
馬鹿だなぁ。素直に認めてれば、多少の上乗せだけで済んだのに。まぁ、この手の奴らは保身に走る方が圧倒的に多いのは知ってたけど。
「ご・・・500万のお、お聞き間違い、でしょう。」
「そうでしたか。それは失礼しました。では、それで構いませんよ。」
「は、はい・・・・」
ガックリと項垂れて、奥へ引っ込もうとする店長に追い討ちをかける事にする。自分達の態度に関しても反省はしてもらわないとな。
「あぁ。それと、そこの従業員の方なんですがね。」
ビタッと動きが止まる店長と、顔面蒼白の店員がビクンッと体を震わせる。
「こう仰っていたんですよ。<何の用だ?うちはこの街じゃ1番の高級店で、貴族様の御用達でもあるんだぞ>と。あれはどういう意味だったんですかね?」
店員も額に汗をビッシリと浮かべ、店長はダラダラと汗を落とす。
「まさか、俺程度の冒険者には場違いな店だという意味ではないと思いたいんですが。客に対してそんな態度を取るような教育はされてませんよねぇ?」
「も、ももも、もちっ、勿論ですともっ。そっ、そうだな!?」
無言で首を縦に振りまくる店員。
「あぁ。そうですか。この店を簡単に紹介してくださっただけだったんですね?」
2人して、必死に首を縦に振りまくるが、
「そうとは知らず、非常に気分を害してしまいましたよ。」
俺の言葉に再び硬直する。
「しかし、表現と態度には気を付けた方がいいですね。それ1つで喧嘩を売っているように聞こえたりもしますから。」
カクカクと首を縦に振りまくる店長と店員。
そして、複眼の宝玉を500万エニーで売却して、宝飾品店を後にした。これで、もう当分は依頼を受ける必要すらない。働かないと人間がダメになってく気がするから、何かしらの依頼は受けるけど。既にダメ人間化してるじゃねーかとかのツッコミはナシでお願い。
「ご主人様が手を出されるというのは想像できませんでしたから、いっそ私が制裁をと思いましたけど、こちらの方が確実にダメージが大きかったでしょうね・・・お考えが深いですっ。さすがはご主人様ですっ。」
「はいっ。これに懲りて、もう2度とあんな態度は取れませんよっ。」
「ん。まぁ、見下されるのはさすがに気分が良くないからな。」
「はい。しかし、それではやはり、奴隷を増やす事をお考えになった方がよろしいのではないでしょうか?私達もご主人様を見縊るような態度は許せません。」
「ん~・・・・まだ迷ってるんだよなぁ。」
「あ、それじゃ、1度見に行ってみませんか?ここは奴隷商会の数も多いですから、タカシ様が気に入る人もいるかもしれませんよ?」
「まぁ、そうだな。見に行くだけでもしてみるか。」
「「はいっ。」」
「あ、でも、1つ、できればでいいんですけど、お願いがあるんです。」
「何?」
「できれば、女性の奴隷を選んでもらいたいんです。」
「へ?女性を選んでほしい?選ばないで、じゃなくて?」
「? はい。」
俺の質問にキョトンとしながらも首肯するリア。
「・・・なんで?てっきり選ばないでほしいもんだとばっかり思ってた。」
「あ、勿論、ヤキモチは妬いちゃうと思います。タカシ様の側にいたら、他の人も絶対にお慕いするでしょうから。」
「それは間違いないですね。こんなに素敵な方は世界中を捜しても、足下に及ぶ人すらいないですから。」
いやいや。俺はそんなモテ男じゃないよ?きっと君達が特殊だからね?言っても否定されそうだから言わないけど、2人の俺に対する評価がとんでもなく高くなってるなぁ。照れくさい。
「でも、男性の奴隷が一緒にいるとなったら、タカシ様の目の届かない所で何をされるか・・・」
はい?どゆこと?
「そ、そんな事が有り得るんですか?私はご主人様のものですよ?」
「普通の奴隷の間では割とよくあるみたいなんです。私も前の時に危なかった事が何回もありましたし・・・主人が奴隷で性欲処理をする事はあっても、タカシ様みたいに大切にしてくれる人なんていませんから。男性の奴隷が同じパーティー内にいる女性の奴隷を犯しても、主人の邪魔にさえならなかったら何も言われる事はないんです。それに、男性の方が戦力にもなりますから、それでよく働くようになるのならと、宛てがうような所もあるっていう話も聞きました。」
「よし。男は無しに決定。何があっても絶対に選ばん。」
「え?い、いいんですか?タカシ様の側について離れなかったら、そんな事にもならないかも」
「なる可能性があるってだけで充分過ぎる。万一にもセレアとリアに手を出そうとしたら、そいつは確実に半殺しだぞ。想像しただけでもキレそうになる。っつーか、その前の時にいた奴もやっぱ蟻に殺されてんのか?」
「あ、は、はい。多分・・・確認したわけじゃないですけど。」
「チッ。とりあえず殴りたいのに。」
「タカシ様・・・」
嬉しそうに俺に寄り添う。
そんな事を聞いて男を選ぶ筈がないっての。セレアとリアに関しては独占欲が全開だぞ。まぁ、元の世界のモラルで考えたら、これも大概最低な考えなんですが。でも、そこはもう気にしない事にしてる。2人共好きだし、それでセレアとリアは喜んでくれてるし。
しかし、これってハーレムフラグじゃね?まぁ、次を買うと決めたわけじゃないし、買ったとしてもこんな関係になれるとは思えないけど。
そんな感じで、俺達は奴隷商会巡りを開始。
リアによると、ここには少なくとも4つの奴隷商会があるらしい。1つ1つの商会にも結構な人数がいる筈だから、まず間違いなく今日だけでは見切れないとの事。別に全員を見る必要性もない気がするんだけど、セレアとリアからどこに俺が気に入る人がいるか分からないと言われて、この街の奴隷商会を網羅する事に決定。
今日の残り時間と明日、場合によっては、それ以降もこれに費やす事になりそうだ。
主人公は嫌いな相手には結構厳しいです。しかし、揉め事が嫌いなので、基本的に一定ラインまでは自分が退いたり譲ったりします。セレアとリアに関しては一歩も譲りませんが。
それだけに、今回の奴隷捜しには然程乗り気ではありません。根本的な所で、自分に関する事だけなら自分が退けばいいと考えているからです。しかし、当然ですが、それが愉快なわけではないです。だから、ジェラルリードちゃんからのアドバイスがあった事もあって、とりあえず見てみる気になったんです。
では、これにて第三章 第十七部の幕を下ろさせていただきます。最後までお付き合いいただいた皆様に感謝です。また次もお付き合いいただければ幸いです。




