魔術師ギルドの依頼 ~和解編~
激戦を期待した方々、ごめんなさい。主人公は期待を全力で裏切ります。
第三章 第七部<魔術師ギルドの依頼 ~和解編~>是非最後までお付き合いくださいませ。
宣戦布告のような自己紹介が響いた後、俺は挙手をする。
「あのぉ。1つだけいいっすか?」
「ほう?真祖たる妾を前に平然としておるとは。ヌシはなかなか豪胆なようだねぇ。よかろう。その豪胆さに免じて聞いて進ぜよう。申してみよ。」
いや、豪胆とか言われてもなぁ。強いのは分かるよ?今までに出てきたモンスターなんか比較にならないくらいなのは確実だし、真祖吸血鬼なんて漫画によってはラスボス級の強さしてるんだし。
しかし、見た目が14、5歳くらいのゴスロリ少女にどうビビれと?目が真っ赤だし、牙もあって爪も鋭く尖ってて、正に吸血鬼って感じではあるけど、凶悪な感じがしないせいか異種族のゴスロリ美少女にしか見えん。異世界人の俺にとって、異種族という意味では、狼人族のセレアもエルフのリアもこの子も変わりがないのだ。吸血鬼はモンスターかもしれんが、こうして会話が成立してるしな。
それに、さっきの自己紹介には流せないセリフが含まれていた。どうしても気になるフレーズが。
「さっき不老にして不死って言ってたけど、吸血鬼ってもう死んでるんじゃ?」
ピシッと音を立てるかのように硬直するジェラルリードちゃん。いや、ちゃんはマズイか?真祖だってのなら年齢が見た目と同じな筈がないし。
「あ、あの?ご主人様?何を・・・?」
セレアが戸惑い100%の声で聞いてくる。リアもポカンとしてこちらを見ている。
「いや、だってさ。アンデッドって、要は死体だろ?死体が不老不死っておかしくない?生命活動は止まってんだから、老いる事も死ぬ事もあるわけないし。昔っから思ってたんだよなぁ。だから、良い機会だし、1回本人に聞いてみたくてさ。」
セレアに答えて、ジェラルリードちゃ・・さんに視線を戻すと、なんか涙目で睨まれてる。あれ?もしかして、これって聞いちゃいけない事でしたか?
「・・・のに・・・」
「へ?」
「一生懸命考えたセリフだったのにぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
声が衝撃波となって、俺達の体を軽く退かせる。
本来なら、戦慄するべき事なんだろうけど、言った後に蹲って膝を抱え始めたもんだから、子どもが癇癪を起こしたようにしか捉えられない。口調も変わってるし。
それにしても、一生懸命考えたのか。あのセリフ。考えてる姿を想像すると、なんだか微笑ましい気持ちになってくる。元の世界の小説とかで出てくる吸血鬼も、実は頑張って考えましたとかの裏設定があったりしたんだろうか。いやまぁ、完全なフィクションと一緒にしても意味がないけど。
しかし、そういう事なら、かなり可哀想な事を言ってしまった。
「ご、ごめん。なんか、どうしても気になってて・・・」
「謝らないでよっ!余計にカッコ悪いじゃないっ!」
涙が溜まった目で、また睨まれた。しかも、口調が完全に変わってしまっている。こっちが素の口調なんだろう。
「あ、あ~・・・で、でも、他のトコは雰囲気出てたと思うよ?闇の眷属とか吸血鬼のテッパンセリフだし、真祖の件なんかはちょっとゾクッときたしさ。」
慌ててフォローを入れてみるが、
「慰めないでよぉぉぉぉっ!!しかも、テッパンって在り来たりって事!?そ、それに・・1番自信があった部分が<ちょっと>って・・・バカァァァ~。」
フォローになってなかったらしい。ついには泣きじゃくり始めてしまった。泣きじゃくるジェラルリードちゃ・・さん・・・いや、もうちゃんでいいや。ジェラルリードちゃんを見て、セレアとリアは完全に呆気にとられてしまっている。
「え、えと・・・」
「真祖吸血鬼が泣きじゃくってるって・・・」
いや、呆気にとられているというよりは反応に困ってるってトコか。まぁ、ジェラルリードちゃんが現れた時の2人の反応からして、普通は有り得ない状況なんだろうからなぁ。
しばらくしてジェラルリードちゃんが泣き止んだ。ただし、膝を抱えて背中を向けている。
「え~っと・・・なんていうか・・・」
「これ以上追い討ち掛けないでよ。」
肩越しに振り向いて、軽く睨まれた。完全に拗ねさせてしまったようだ。いかん。挽回せねば。
「いやいやいやっ。そうじゃなくてっ。もしよかったら、一緒にセリフを練り直してみたりしないかなぁってさっ。威圧感とか雰囲気はバッチリ出てたんだし、ちょこっと練り直したらメチャクチャ迫力出るんじゃないかなぁとか思ったりするからっ。」
「・・・・ホント?威圧感とか雰囲気出てた?」
「出てた出てたっ。もうそれは出まくってたっ。なっ?セレアもリアもそう思うだろっ?」
「は、はい。血の気が引きましたから・・」
「それに関してはもう・・嫌な汗が止まりませんでしたし・・・」
セレアとリアの言葉に、神速の動きで2人の前に移動してくるジェラルリードちゃん。は、速ぇ。セレアのMAXスピードとどっちが速いだろ?
「そっ、そうよね!?普通、真祖吸血鬼が目の前に現れたらそうなるわよね!?」
嬉しそうに笑顔を見せるジェラルリードちゃんに、ビクッと後退りしながら首肯するセレアとリア。笑顔を見せると牙が覗いてるからなぁ。しかし、普通ってなんだ?普通って。まるで俺が普通じゃないみたいな言い方をしないでもらいたい。
「ほらっ。見なさいよっ。コレが普通の反応なのよっ。それがなんで平然として、しかも、そんなツッコミが入れられるのよ!?」
「いや、だって・・・正直に言ってもいい?」
ジェラルリードちゃんは俺の言葉に顔を引き攣らせながらも首肯する。
「んじゃ・・・え~。ゴスロリ美少女に凄まれても怖くない。せめて食屍鬼みたいな邪悪さみたいなのが滲み出てたら違ったんだろうけど、そういうのも感じないし。」
ガックリと膝から崩れ落ちて、両手を地面に着くジェラルリードちゃん。だから確認したのに・・・
「・・・絶対にあんたは普通じゃないわ・・普通であってたまるもんか・・・」
随分な言われようだけど、何故かセレアとリアが気の毒そうにジェラルリードちゃんを見つめているのが引っ掛かる。
「あの・・・ご主人様は何かと規格外な方ですから・・・」
「はい。あんまり気にしない方がいいと思いますよ?」
2人揃ってジェラルリードちゃんをフォローした!?そんなに俺の反応は普通じゃないですか!?
「うぅ・・・そうする・・・」
くそぅ。散々な言われようだな。
「・・せめて、セリフを考えるの、ホントに真剣に付き合いなさいよ?せっかく練り込んだキャラも口調も崩れちゃったんだから。」
ジェラルリードちゃんは言いながら、恨みがましい目で俺を軽く睨んできた。やっぱりキャラも口調も作ってたのか。しかも、かなり練り込んでたとは・・・
「了解です。なんか、もうホントすんません。」
もう謝る事しかできなくて、そう言って頭を下げた。
もう全く戦うような空気でもなくなってしまい、手近な岩に俺達は向かい合って腰掛ける。無論、ジェラルリードちゃんのセリフを考える為だ。
「でも、言われてみれば、あんたの言う通りよね。もう死んでるのに、不老も不死もないわ。でも、じゃあ、何て言えばよかったのかしら?そういうフレーズって、吸血鬼が登場する物語には必須でしょ?」
「ん~・・・至高にして不滅、とかは?真祖はただの吸血鬼に比べても、他のモンスターとかに比べても圧倒的な力があるんだし。」
俺の言葉に紅い目を輝かせるジェラルリードちゃん。
「それいいっ。カッコいいじゃないっ。」
「あと、闇の眷属よりも、深淵なる闇の貴族とかどうよ?吸血鬼のイメージってそんな感じだし。」
「深淵なる闇の貴族・・・」
ジェラルリードちゃんは言いながらウットリした表情になり、口の中でブツブツと独り言を言い始める。相当に気に入ってくれたらしい。
「・・・吸血鬼って、もっと無慈悲で恐ろしいものかと思ってました。こうして会話が成立するなんて・・・」
リアの言葉に、若干あっちの世界に行きかけていたジェラルリードちゃんが帰還する。
「そりゃ、人種族を目の敵にしてる奴ならそうでしょうけど、別にあたしはそういうのないし。人種族のよりも魔晶石から吸える純粋な魔力の方が好みだから、1500年くらい前に滅ぼされた同族みたいに人種族を家畜みたいには見てないしねぇ。」
なんかまた新しいアイテム名が出てきたぞ。でも、それよりも気になる事ができた。
「ならなんで最初は襲ってこようとしてたんだ?」
「え?えっと・・・それはぁ・・・」
血の気のない白い顔が少し赤くなってもじもじする。って、アンデッドも赤面できるのか。
「ほら?人種族っていろんな物語を創るじゃない?それも、完全な創作から実際にあった事を基にしたのまで、ホントにいろいろと。」
なんか話がかなりぶっ飛んだ気がするが、
「まぁ、そうだな。」
先を促す為に首肯する。
「で、ね?真祖吸血鬼なんて個体数が少ないし、人種族にとっては強敵なわけじゃない?」
おいおいおいおい。まさか・・・
「だから、適当にあたしの凄いところを見せつけて帰らせたら、あたしの物語が増えたり流行になったりするかなぁって。」
マジか。そんな理由?
「いやいやいや。人間の間で物語が流行しても分からな・・・え?増える?もしかして・・・」
「当然、もういくつかあるわよ?もうあんまり語られてないみたいだけど。」
「マジでか!?」
「勿論。あたしが何年生きて・・・生きてはいないわね。ねぇ?こういう時はどんな風に言えばいいのかしら?何年死んでると思ってるって言うのって絶対に変だし。」
「え?え~っと・・・」
「えと・・・存在し続けている、とかでいいんじゃないですか?今ここに在るのは間違いないんですし。」
「あ、それ、いいわね。分かりやすいわ。」
リアの提案に首肯するジェラルリードちゃん。
「あ。それじゃ、さっきのフレーズの中に<悠久の時を不変に在る者>なんてのを入れてもいいかもな。」
「悠久の時を不変に在る者・・・・か、カッコいい・・・・あんた、さっきから良いフレーズ連発してっ。もしかして天才!?」
表情をおもいきり輝かせて見つめられた。
こんな事で天才って言われる日が来るなんて・・・単なる中二病の名残なんですが。まぁ、こういうフレーズって中二病患者がよく使うものだからなぁ。通じるものがあって当然か。
しかし、そこを掘り下げると、大量の黒歴史が襲ってくる。そうなると、恥ずかしさで悶え死ねるから話を元に戻そう。
「い、いやまぁ、それはともかくとして、マジでジェラルリードちゃんの物語って既にあったりするのか?」
「ちゃ、ちゃんって・・・」
呆れた顔をするジェラルリードちゃん。セレアとリアまでなんだかいろいろと諦めたような顔をしている。だって、なんかもうそんな感じじゃないか?
「ハァ。まぁいいわ。あるわよ?あたしが基になってる物語。あたしが何年存在し続けてると思ってるのよ。もう軽く2500年は越えてるわよ?細かい年数は忘れたけど。」
「2500年!?」
俺の驚きに、ジェラルリードちゃんは何故か満足そうな顔をする。
「ふふん。驚いたかしら?」
驚きのあまりに言葉が出ず、コクコクと首肯だけする俺。真祖吸血鬼、パネェっす。
「・・・先程、1500年前に同族がと仰ってましたから、相当だとは思いましたが・・・」
セレアも驚きを隠せないようだ。
しかし、その割には、なんていうか、やっぱり子どもっぽい。闇の○音が言ってたみたいに、精神は肉体の影響を受けるってのは本当なんだろうなぁ。こんな事言ったら間違いなく怒るだろうから言わないけど。
前回の引きが何だったんだという、この展開。何かの能力でも何でもありません。ジェラルリードちゃんがちょっと変わった真祖吸血鬼だった事と、元の世界でいろんな物語を読んでいたせいで吸血鬼が必ずしも敵だとは限らないという感覚を持っていた主人公の毒気の無さが噛み合っただけの事なんです。
緊張感の欠片も無くなった所で、<小心者の物語>一旦の閉幕とさせていただきます。次回もお付き合いいただければ幸いです。




