冒険準備で地味チート その1
主人公の地味チートは続きます。
展開が遅くてすみません。次くらいから冒険に出る予定だったはずが、まだ街から出ません。
批判・批評・ご指摘はお手柔らかにお願いします。
加工済み薬草を改めて篭に入れて、街の道具屋へ。
道具屋の主人は恰幅のいいおっさん。人の良さそうなその顔が薬草を見た瞬間から少し険しいものに変わる。
「あの、何かまずかったですか?」
「あ、いや、そうじゃないよ、アンナちゃん。むしろ、こんなに状態の良い薬草は初めて見たよ。これなら、普通よりもだいぶ長持ちするだろう。どんな加工の仕方をしたんだい?」
「あ、え~っと・・・企業秘密です♪」
事前にお願いしていた通り、俺がよく分からんままに加工した事は秘密にしてくれるアンナちゃん。だがしかし、その誤魔化し方はどうなんだろう。余計に不信感が生まれやしないか?
「ははは。まぁ、理由は状態の良いモンを持って来てくれるんなら構わないよ。これ全部でいいのかい?」
「あ、はい。お願いします。」
「じゃあ、一つ6エニーで、全部で330エニーだね。」
ん?
「おっちゃん、それ安くない?」
キョトンとした表情で俺を振り返るアンナちゃんとギクッという分かりやすい顔で固まる道具屋のおっさん。
「相場通りでなきゃ、別のトコに持ってくよ?」
「え?え?」
状況が分からず戸惑い顔で俺と道具屋のおっさんを交互に見るアンナちゃん。
「アンナちゃんが相場に疎い事を知ってるってトコかね?まさかとは思うけど、今までにもピンハネしまくってたんじゃないだろうな?」
無言でダラダラと汗を流し始めるおっさん。口からでまかせだったんだけど、その顔を見る限りにはビンゴってトコだな。
「さて、相場通りに買い取るか、これまでのピンハネ分の謝罪分込みで買い取るか、とぼけて最初の買値を通すのかは任せるけど、その後のこっちの行動まで想像しといた方がいいとだけは言っとくぞ?」
未だに固まっているおっさんに念押ししておく。
「あ、あ~・・・えっと、あ、貴方様はどちら様で・・・?」
揉み手をしながら俺の方を見るおっさん。
「素性が分からないと商売できないってか?相場を知ってる人間だと、次の言い値を間違えられないもんな?」
「いいいい、いいえっ!そ、そんなとんでもない!!」
「で?さっきの三択から、どれを選ぶかは提示金額で示してもらえるか?」
「は、はいっ。もももも、もっ勿論でございますともっ」
アンナちゃんはもう完全に置いていかれていて、ポカンとしたまま。女の子なんだから、口を開けっ放しににするのは止めようね。
おっさんはなんだか唸りながら算盤らしき物を弾いていき
「ぜ、全部で2680エニーという事でいかかでございましょうか?」
「そっ、そんなにですか!?」
アンナちゃんは驚きの声を上げて、おっさんはホッとした顔をするが
「2700」
それに続けた俺の声でおっさんは項垂れる。
「それと、今後は正規価格での売買の約束。それでまぁ、目を瞑ってやるよ。」
「は、はいっ。それは勿論っ。」
「こ、こんなに・・・よかったんでしょうか?」
帰り道、やたらと恐縮するアンナちゃん。
「いいんじゃない?今までかなり損してたっぽいし。一気に取り戻しただけの話さ。」
「はぁ。」
釈然としないようだけど、実際、薬草の買い取り価格は有り得ないくらい安く感じた。同じような事がこれまでにもあっただろう事は迷いなく買い叩こうとしたおっさんの態度とそのあとの態度から容易に想像できる。
「それにしても、タカシさん、薬草の相場はご存知だったんですね。」
ん?言われてみれば・・・
「いや、そういえばなんで安いって分かったんだろ?」
「へ?」
「だって、金の単位もさっき初めて聞いたし。」
「え?えぇぇ~~っ!?」
アングリと口と目を見開いて俺を見つめる。
「だ、だって、道具屋のおじさん、固まってましたよ!?」
「うんまぁ、あれは図星って面だったよな。」
「だったよなって・・・カマかけしたんじゃなかったんですか?」
何故か若干呆れたような声音で問い掛けるアンナちゃん。そんな目で見ないで。心が痛い。
「薬草の買値が安いのは間違いなかったよ。なんとなく分かったし。」
「だ・か・ら!どうして相場が分からないのに、安く買い叩こうとしてるって分かったんですか!?」
ア、アンナちゃんが怖い。
「い、いや、あのね、俺にもホントに分かんないのよ、マジで。」
「はぁ。薬草集めの時もなんとなくとか言ってましたし・・異世界の人って・・・」
釈然としない様子のアンナちゃんを宥めながら、アンナちゃん宅への帰路を進めた。
これも多分、俺の能力なんだろうけど、やっぱりなんかショボいなぁ・・・
アンナちゃん宅に到着後、アンナちゃんの家族と顔を合わせた。病気で臥せっている母親と、5歳くらいの弟くん。父親は4年前の魔族との戦いで亡くなったそうだ。こういう環境な為、働き手がアンナちゃんしかおらず、アンナちゃんが薬草採集を始め、いろいろ仕事をしているという。
うむぅ、こんな年の子が働いてるのには何かしら事情があるのだろうとは思っていたけど、厳しいなぁ・・・というか、道具屋の親父め、こんな子からボッてたのか。これは、後日改めて釘を刺しておく必要があるだろう。
軽く母親のアンジェさんと弟くんのホエンくんに軽く挨拶をしてから、今回の売上を分け合う事に。
「今回、タカシさんがいなかったらこんなに稼げませんでした。ですから、最初に道具屋のおじさんが言ってた330でいいです。」
アンナちゃんがやたらと謙虚な事を言う。しかし、今回の稼ぎの大半はアンナちゃんへのピンハネ分払戻金として得たものだ。確かに俺の交渉があったからこそかもしれない。けど、それを言うなら、薬草採集を教えてくれたのはアンナちゃんで、採りにいく為の装備(靴と篭)を貸してくれたのもアンナちゃんであり、それがなければきっと俺は街の端で物乞いをして、下手をすればそのまま稼ぎが得られず行き倒れていたかもしれない。実際、アンナちゃんに声を掛けられるまで物乞いをするしかないかもって考えてたし。
それを伝えると
「も、物乞いですか・・・なんだか追い詰められてそうだなぁって思って声掛けたんですけど、相当だったんですね・・・」
と、また同情されてしまった。
「い、いや、まぁ、確かに、思いの外絶望してたんだなぁって思わなくもないけど、そういう話じゃなくてさ。」
困った顔で頭を掻く俺に、アンナちゃんは笑みを漏らしながら
「はい。分かりました。対等にって事ですよね。」
「いや、むしろ、アンナちゃんは俺にとっては命の恩人に近い。」
俺が感じている恩の大きさが伝わり切ってなさそうなので、ハッキリと伝えておく。
「い、命の恩人って・・・大袈裟すぎますよぅ。」
アンナちゃんは少し顔を赤らめて俯いてしまう。
が、実際そのようなものだろう。あのまま一人だったなら、遅かれ早かれ命の危険に追い込まれていただろうから。
「とはいえ、金の価値が分からない俺には今の自分に必要な額が分からない。だから、それを教えてもらってからって事でどうだろう?」
「はいっ。分かりましたっ。」
アンナちゃんに教えてもらった通貨についての情報はまとめるとこんな感じだ。
1エニーが銅貨1枚。
硬貨は、銅貨 大銅貨 銀貨 大銀貨 金貨 大金貨 白金貨とあり、白金貨が一番高価。
硬貨単位は10枚単位で上がっていくそうだ。つまり、銅貨100枚で銀貨1枚と交換できるって感じ。
黒パン1個買うのに2エニーで、味にこだわらなければ1食10エニーもあれば充分な量が食べられるとの事。
「んじゃ、ちょっと失礼な質問かもしれないけど、アンナちゃん達の1日の生活費ってどれくらい?」
「えっと・・・大体30エニーくらいです。」
「お母さんの薬代とかは?」
「あ・・・滅多に買えないんです。高くて・・・」
そう言って、悔しそうに顔を一瞬曇らせるも、すぐに笑顔に戻る。
ふむ・・・
「あ、それと、知ってたらでいいんだけど、剣とかの武器っていくらくらいするのかな?」
「安いのは300エニーくらいからあったと思います。高いのは、もう桁を数えるのが馬鹿馬鹿しくなりますよ。」
「そっか。ありがと。んじゃ、とりあえず、分け前はこんなトコでどうだろ?」
なんとなくの金銭感覚の下、俺に大銀貨1枚。残りをアンナちゃんへ。
「おっ、多すぎますよ!」
「あ~、やっぱり?軽く武器と防具買えたらいーなぁとかって欲張ったからなぁ。」
「違います!私の方が多いんです!!」
「え?そう?」
「そうですよ!だって、これ、お母さんの薬代10日分以上はありますよ!?」
「いや、でも、命の恩としては少な過ぎじゃない?たった700エニーで命は買えないっしょ?」
「そ、それは・・・そうかもしれませんけど、でも」
「これ以上は俺の分は増やせないよ。むしろ、これでも貰い過ぎだ。だから、この街を出るまでの間に、俺が満足するまでは恩返し受けてもらうつもり。あぁ、拒否しても無駄なんでよろしく。」
「え、えぇぇ~・・・」
有無を言わせぬ俺の言い切りに、何やら複雑な顔をするアンナちゃん。
しかし、これはアンナちゃんが恩返しを受けたい受けたくないではなく、単純に俺の気持ちの問題。要するに、俺の自己満足なのだ。だから、彼女に拒否権はない。しかも、これから稼いだ金を渡していくつもりだから、まぁ、迷惑になる事はないだろう。
その後もブツブツと何か言っていたアンナちゃんだったが、俺が一切取り合わないでいると諦めた。
ふふん、口で俺に勝とうなんて10年早いわ。年下の女の子を言い負かして得意気になってんじゃねぇよって突っ込みは無しの方向で。
今回明らかになった主人公の能力は【鑑定】と【交渉】です。
これも扱い次第では結構なチートっぷりを発揮してくれるはずなんですが、主人公はまたもや無自覚に行使してます。いつになったら自覚的に能力を行使してくれるのやら・・・
ちなみに、薬草は本来一つ20エニー。主人公達が持ち込んだ薬草の数は55個。道具屋の親父、どんだけボッたくるんだって話ですが、弱い者が搾取されるこの世界の仕組みの一端を表現してみてます。が、分かり辛いですよね。というわけで、補足でした~。
次回もよろしくです。




