魔術師ギルドの依頼 ~依頼受理編~
新しい街での依頼選択で、主人公はある依頼だけは全力で拒否します。名前を出すのも悍ましいアレのモンスター・・・想像するだけでも悪寒が全身を包むのは、万人に共通するのではないでしょうか?
第三章 第二部<魔術師ギルドの依頼 ~依頼受理編~>、是非最後までお付き合いくださいませ。
冒険者ギルドに着いて、まずは依頼の種類を確認。
ゴブリンやコボルト、オーガ、オーク、食人草、大蟷螂、毒蜂といった戦った事のあるモンスターから、毒大蜘蛛やラージスカラベ、巨大百足なんて聞いた事のないのまでいろんな討伐依頼がある。いろんなのがあるのはいいけど、なんか虫のモンスターが多くないか?地域柄なのかもしれんが、蜘蛛や百足は勘弁してほしい。通常サイズでもキツイのに、それの大型とか想像もしたくない。まさかとは思うけど、台所の黒光するあの悪魔のモンスターはいないだろうな・・・遭遇したら、間違いなく即逃亡だぞ。
「うむぅ・・・」
「お気に召した依頼はありませんか?」
悩む俺に受付の女性が聞いてきた。
「いや、まぁ・・・ここは虫系のモンスター討伐が多いんですね。」
「あぁ・・・実は冒険者の方々も虫系のモンスター討伐は嫌がって、あまり遂行されていないんです。近くに深い森と山がありますので、どうしても虫系のモンスターは多くなるのもあって、こういった討伐依頼が残っていってしまっているんですよ。」
この世界でもやっぱり気持ち悪い虫は嫌がられてるのか。そういえば、依頼内容を聞いてセレアもリアも一瞬顔を引き攣らせてたしな。
「やはり、嫌、ですよねぇ・・私も普通のサイズですら苦手ですし・・・」
「蜘蛛と百足は正直ちょっと・・・・」
「・・・・ひょっとして、なんですけど、《ヤツ》は平気だったりとかしません?報酬は物凄く高額になってますよ?」
《ヤツ》という言い方に、自分の顔が一気に引き攣るのが分かる。
「《ヤツ》と言うと、やっぱりあの黒光する《ヤツ》、ですか?」
受付の女性も顔が引き攣っている。
「はい。その《ヤツ》です。」
やっぱりいるのかよ!?
「すみません。《ヤツ》のデッカイのと戦うくらいなら、正直、魔族の集団に1人で立ち向かう方が万倍マシです。」
「ですよねぇ・・・あ、そうだ。今朝届いた銀級用の依頼が1つあったような・・・」
言いながら、レターケースの中身をパラパラと捲る。
「あ、あったあった。ありました。」
そう言って、紙の束の中から1枚をカウンターに出す。
「魔術師ギルドからの依頼なんですけど、いかかですか?」
セレアが隣に来て、字が読めない俺の代わりに依頼内容に目を通す。
「ご主人様。魔石の採掘と回収の依頼のようです。成功報酬で3万エニー。失敗の場合は報酬無し。採掘場所は、街から北西に2日程の山間部にあるリスタニカ魔術師ギルド専用魔石採掘場です。採掘場の中にモンスターが発生してしまったようで、採掘に支障が出ている為に依頼となったそうです。魔石を一定量回収する事が成功条件となっています。もし、採掘場内のモンスターの駆逐に成功すれば追加報酬が10万エニー。モンスターの種類はアンデット系となっています。」
「アンデット系か。イケるかな?今の装備で。」
「ゾンビやスケルトンなら充分対処可能ですし、死霊程度なら私の魔法でも充分に対処できます。」
リアが俺の疑問に即答してくれる。
「よし。虫よりかはいくらかマシだろ。でも、いいんですか?まだ表に出してない依頼なんじゃ・・」
「ふふ。いいんですよ。お兄さんは他の冒険者の人達と違って、こんな依頼ばっかりなのを一緒に困ってくれましたから。他の人達なんて嫌味は言ってくるし、酷い人なんか怒鳴り散らしたりするんですよ?こっちにだってどうしようもないっていうのに。」
「大変ですね。阿呆の相手は・・・」
どこの世界にもそういう阿呆はいるもんなんだなぁ。元の世界で働いてた時も無茶を言う馬鹿は絶えなかったし、その馬鹿は無茶を言ってる自覚がないから非常に質が悪い。サービスの強要は横暴と言うのが何故に分からん?いやまぁ、今さら言っても仕方ないんだけど。
「そうなんですよねぇ・・・皆がお兄さんみたいな人なら、ストレスも少なくて済むんですけど・・・」
苦笑する受付の女性。どこの世界も接客業の辛さは同じのようだ。
「頑張ってください。」
万感の思いを込めて、せめてものエールを送り、依頼の受理手続きを済ませてギルドを後にする。
「タカシ様は以前に何か接客業をされていたんですか?」
さっきの受付の女性とのやり取りを聞いて思ったのだろう。リアが不思議そうな顔で聞いてくる。
「しばらく前に、ちょっとな。」
「タカシ様くらいに強くても、別の仕事をされていた事があるんですね・・・腕に自信のある人は大体が冒険者や兵士になっているものとばかり思っていました。」
まぁ、俺の強さは完全に何かのチートだし、元の世界じゃ喧嘩の強さなんて子どもの頃にしか役に立たなかったからなぁ。まぁ、まともに喧嘩なんかした覚えもないけど。痛いの嫌いだし。
「ま、人それぞれだろうさ。」
「そうですね。でも、なんだか少し納得しました。タカシ様が常に人当たりがよくて、いろんな方と親しくされてるのはそういう経験があってこそなんですね。」
そう持ち上げれると、なんだか照れくさい。しかし、リアがそんな事を言うのは珍しいな。珍しい分、余計に照れくさいんですが。
「たまたまだよ。良い人に巡り会ってるだけさ。」
「いいえ。それもご主人様のお人柄があってこそです。」
自信満々に言い切るセレア。だから、照れくさいってのに。
「ん、まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいからな。ありがと。セレア。リア。」
ここで否定してみても、この調子だとさらにヨイショされかねないから上手く流しておく。褒められ慣れてないからメチャクチャ恥ずかしいんだよ。
それから、採掘場までの間の分の水と食糧を4日分買い込んだ。この街に来る時の為に買ったものが余ってるから、これで充分に余裕はあるだろう。その後、再び宿に戻ってきた。すぐに出発してもよかったんだけど、宿は2泊で予約してたし、昨日は街に入ったのがもう夜だったから、今日はもうのんびりする事にしたのだ。
一応、この後の予定を話す為にリアも俺達の部屋に一緒に入り、並んでソファーに座る。リアは、最初のセレアみたいに床に座ろうとしたけど、俺がそれを却下して強制的にソファーに座らせた。
「そういえば、リアは昨日、風呂には入れたのか?」
「あ、はい。魔石に魔力を注ぐだけでしたから。」
「そっか。なら、よかった。まぁ、エルフにはその辺の心配ないか。でも、今日は魔力を注ぐのが負担になるようなら言ってくれよ?俺がやる分には全然負担にならないし、何よりリアの魔法は頼りにしてんだから。」
俺の言葉にリアの表情が輝く。
「は、はいっ。ご期待に応えられるように頑張りますっ。」
うわぁ。マジで可愛い。何?一体どしたの?急に可愛げ全開になっちゃって。
「うん。でも、くれぐれも無理はしないようにな。」
言いながら頭を撫でると、リアはまた耳まで真っ赤になってしまう。
「は、はいっ。」
リアの返事と共に、セレアが空いている俺の腕に自分の腕を絡めて抱き締めてくる。
「ん?どした?」
「い、いえ。その・・・・少しだけ、ヤキモチ、です。」
セレアは恥ずかしそうに俯きながら、俺の肩に顔を押し付けてくる。
ナニコレ!?可愛いなんてモンじゃねぇぇぇぇぇぇっ!!!!そ、そうか!そうなのかっ!!セレアがこの街に着いてからやたらと積極的になってるのは、リアに妬いてたからなのかっ!!コレがジェラシーを燃やしてもらえるという感覚!!!嬉し過ぎるぞぉぉぉぉぉっ!!!
「ん、んん。その、なんというかだな、あ、あんまり可愛い事言うな。すっげぇ照れくさい。嬉し過ぎて頭ん中が沸騰するから。」
俺の言葉にますます腕を抱き締める力が強くなり、ソファーに挟まれて尻尾は動かないが、耳が垂れきるセレア。同時に、撫でる手が止まったせいか、リアから恨みがましい視線がセレアに注がれる。セレアは全く気付いてないけど。
あれぇ?このリアクション、どう考えても妬いてない?
いや、でも懐いてた相手を他の人に取られても似たような反応はするか。そういえば、近所の子ども達からはよくこんな反応もらってたっけ。よく取り合いしてくれてたよなぁ。ままごとのお父さん役とヒーローごっこの敵役のどっちをやらせるかで。
いかんな。本気で自意識過剰になってる。ここは真剣に自重せねば。中学高校の黒歴史を繰り返したら本気で死にたくなりかねん。
「あ~、んで、今日のこれからの予定だけど。」
強引な話題変更に、リアはセレアから俺に視線を戻した。セレアも肩から顔を離して俺の方に向き直る。こっちはまだちょっと恥ずかしそうだけど、腕は離さないでいる。あぁ、もうっ、いちいち可愛いなっ。
「装備は特に問題ないし、出発の準備も大体済んだ。ただ、大蟷螂の素材だけは持っていっても荷物になるだけだろ?だから、それの処分と、あとはまぁ、昼飯かな。その他には特にやらなきゃならない事もないと思うんだけど、どう?」
「「はい。」」
「私もそう思います。ご主人様。」
「同じくです。タカシ様。」
「んじゃ、素材の売却と昼飯すませたら、あとは自由行動とするか。」
「「はいっ。」」
2人の返事の後、大蟷螂の素材と財布だけを持って宿を出る。
ホントは飯のあとにはセレアとイチャつきたいトコなんだけど、セレアにも好きな事ができる時間が必要だろう。考えてみたら、俺がセレアを引き取ってから自由行動なんてできる機会もなかったし。それに、リアも《俺とセレアだけが部屋に戻るから好きにしてろ》じゃ、厄介払いされたようにしか感じないだろうし、それだと気分良くフリータイムを満喫できないだろうしな。
それから、武器屋で大蟷螂の素材を売却。状態が最高だってので2500エニーになった。これで、資金はちょっと復活して5875エニー。その後の昼食代が1人26エニーで、残金は5797エニー。ホントにこの世界の食費は安いな。武器や防具とかの非日用品はその分高いけど。
「さて、自由行動の前に、2人共手を出して目を瞑って。」
不思議そうな顔をしつつも、2人共目を瞑る。うむ。素直でよろしい。その手にそれぞれ大銀貨を1枚ずつ握らせる。
「はい。目を開けていいよ。」
2人揃って目を開けて、手の中の硬貨を見て、同時に首を傾げる。その反応はなんとなく予想してた。
「ご主人様?何かおつかいでしょうか?」
「いんや。自由行動っても先立つものがなけりゃ、何もできないだろ?だから、お小遣い。」
「「え!?」」
2人の驚きの声が重なる。うん。これも予想の範囲内。
「ちなみに、多すぎるとか必要ないとかのご意見は受け付けません。まぁ、何も欲しい物とかがなかったら仕方がないけど、基本は使い切る事を目標にしてくれ。」
「つっ、使い切る、ですか!?でも、タカシ様っ。こんなに」
「フッフッフッ。先に言った通り、多すぎるって意見は聞かんよ?」
言葉に詰まるリア。勝った。
「まぁ、無理矢理に使えってわけじゃないけど、今まで実用的な物しか買ってなかったからな。2人共女の子なんだし、少しはお洒落とかもしてみたかったりもするだろ?」
「は、はい。でも、ご主人様。今は旅の途中ですし・・・」
「依頼中とか道中とかは無理でも、街中なら好きな服も着れるんだからさ。いつも気を張ってばっかりじゃしんどいじゃん?息抜きもしないと。大体、2人共可愛いんだから、たまには着飾らないと勿体ないぞ?」
2人揃って真っ赤になる。
「「い、いえ。そんな・・・」」
謙遜の言葉までハモるか、君たち。
「買い物に関しては、主人からの命令って言えば、そんなにぞんざいな扱いは受けないだろ?」
「あ・・は、はい。その場合は主人の代行という事になりますから、少なくとも酷い扱いはされない筈です。もし、そんな事をすれば主人を軽んじる事と同義になりますから。」
リアから予想通りの答えが返ってくる。
「よし。んじゃ、自由行動は俺の命令って事で、楽しんでおいで。」
「ご主人様・・・はいっ。ありがとうございますっ。」
涙目で俺に抱き付くセレア。ホント、大胆になったね。嬉し恥ずかしいんですが。いや、むしろ、嬉しい。
「ありがとうございますっ。」
リアも俺の手を両手で握って礼を言う。リアが手を握るとか、すっげぇレアじゃね?ちょっと小さめで柔らかい手の感触がメチャクチャ照れくさい。
「ん、んん。それじゃ、俺は宿にいるから、何か困った事があったら絶対に言うようにな。」
「「はいっ。」」
2人の返事を受けて、俺は1人宿に向かって歩き出した。
1人になるのは随分久しぶりな気がする。なんか少し物足りない。元の世界じゃ、1人でいるのが普通だったのになぁ。
この世界には恐ろしいモンスターがいるものです。《ヤツ》型モンスターと巨大百足の二種は、作者の個人的見解において、最凶最悪のモンスターです。
では、これにて第三章 第二部の幕を下ろさせていただきます。最後までお付き合いいただいた皆様に感謝です。また次もお付き合いいただければ幸いです。




