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番外編~リアの困惑~

今回は主人公の1人称から変わって、リアの心の内の変化が綴られています。


実は可愛らしいリアの内面が垣間見える<リアの困惑>開幕~♪

その日、私は主人に連れられて、巨大女王蟻(ジャイアントクイーンアント)の討伐に来ていました。主人のパーティーはあわよくば成功報酬を独占してしまおうと、他のパーティーよりも先行して巣に向かいます。途中、もう1組のパーティーと遭遇しましたが、この人数くらいならちょうどいいと考えたようで、合流して進みました。


巣の付近に到着すると、主人はいつも通りに先行偵察を命じます。どんなに危険でも逆らえる筈もなく、私は同じパーティーの内の奴隷である鼬人族の女性と猫人族の男性、それにもう1つのパーティーの奴隷の猫人族の男女2人と同じエルフの男性、合計6人で巨大蟻(ジャイアントアント)の巣の先行偵察の為に近付きます。その途端、恐ろしい数の蟻が一気に蟻塚と巣穴から溢れ出てきました。規模が大きいとは言われていましたから、普通よりは多い事を覚悟していましたが、その数は尋常ではありませんでした。一瞬、絶望に体が固まってしまった私は先頭の蟻の前脚の一撃で殴り飛ばされ、蟻塚に頭を激しくぶつけて意識を失ってしまいました。自分が前衛に不向きな弱い体のエルフである事を口惜しく思いながら。



どれくらい気を失っていたのか分かりませんが、左腕に走る激痛で意識が戻りました。巨大蟻(ジャイアントアント)の1匹が大顎で私の腕を挟む、その痛みで。


巣に持ち帰り、餌にしようとしている。


それを一瞬で理解した私は無我夢中で、私が使える最大の攻撃魔法を放ち、その蟻を倒して逃げ出しました。本来なら、逃げ出すなんて事は奴隷の身では許される事ではありません。そんな事をすれば、呪印が発動して体が激痛に襲われ、最悪の場合は死に至ります。しかし、そうはなりませんでした。もう主人が死んでいたからでしょう。そんな事を考える余裕を失って恐慌状態だった私には幸いだったと言えます。不謹慎かもしれませんが。



それから、なんとか包囲網を潜り抜けはしましたが、巨大蟻(ジャイアントアント)は執拗に私を追ってきます。出血が多くて、意識がまた飛びそうになり、走る足が縺れます。逃げ切れるわけがないのは分かっていても、簡単に諦められる筈もありません。奴隷の身に落ちてあんな人間族の男に買われて、惨めな生活を強いられ、事ある毎に体を奪われそうになり、必死に自分の身を守れば呪印の激痛に苛まれる。そんな毎日の中、2つの季節を過ぎて、もう死んで楽になりたいと思った事も何度もあります。それでも、やっぱり希望が捨てきれなくて、命と貞操だけは守り通してきたんです。いつか、素敵な男性と結ばれて幸せになりたいって。


でも、もう終わり。子どもみたいな夢に縋って、地獄みたいな日々に耐えてきたのが馬鹿みたいです。最後は蟻の餌だなんて。


限界が来て、もう倒れてしまおうと思った時、森の中でその2人と出会いました。


人間族の男性は何故か躊躇いもせずに、絶望的な数の巨大蟻(ジャイアントアント)に単身で立ち向かいます。狼人族の奴隷を連れているのに、自分自身で。しかも、狼人族の女性には高価な薬草を使ってまで見も知らない私の手当てを命じて、その身を守るような事を言って。


理解できません。対価が得られるかどうかも分からない見も知らない相手の命を助けようとするのも、獣人の奴隷を連れているのに自ら危険に飛び込む人間族も、人間族の奴隷となっている獣人が心の底から心配そうに主人を見つめる姿も。どれもこれも、今まで見た事のないものばかり。


何より、たった1人の人間族があんな数の巨大蟻(ジャイアントアント)の群れを蹴散らしていくなんて。死ぬ間際の幻でも見ているんじゃないかと思っても、左腕の痛みは確実に引いていき、流れ出ていく血が止まる感覚が現実だと教えてきます。でも、こんなの、まるでお伽話みたい。



主人が死んだ私はリブラベールの奴隷商会に戻らなければならず、リブラベールは魔族との交戦地域。功名心に駆られた冒険者でもなければ、足を向けたいとは思わない危険な街です。1人ではとても辿り着けません。しかし、戻らなければ、奴隷には悍ましい死が待っています。普通に死んだ方がマシだという程に悍ましい死が。

必死に頼んで、連れていってくれる事にはなりましたけど、命を救われ、さらには危険地帯まで向かおうというんです。その上、討伐戦では何故か後衛という安全なポジションまで与えてきて、役に立たなくても関係ないとまで言ってくるんです。何を要求されるのか、考えただけでも全身を悪寒が襲います。直接的には何も言ってきませんが、人間族の男性、タカシ様も前の主人と同じ男です。そんな目で見られている気がしないのが不思議ですが、命の対価を重く考えているような事を言うんですから、それなりの対価を自ら差し出せという意味なんでしょう。でも、奴隷の身である私に差し出せるものなんて、1つしかありません。強引に力押しで迫られるよりも、ずっと厄介です。覚悟を決めるしかないんでしょうか。



討伐戦では、タカシ様も、そして狼人族の女性、セレアさんも有り得ない程の強さをしていました。実質、たった2人で巨大女王蟻(ジャイアントクイーンアント)を倒してしまったんですから。そこで、複眼の宝玉を一瞬で加工してしまうという、さらに有り得ない事が起きましたが、セレアさんに強引に説き伏せられました。あんな迫力で言われてそれ以上に問い質す事なんて、私にはとてもできません。怖かった・・


セレアさんは羨ましい事に胸も大きくて、とても綺麗な人です。それだけに、人間族がいくら獣人を下に見ているとは言っても、もうタカシ様に関係は迫られている筈です。なのに、何故か本心からタカシ様を慕っているように見えます。気遣っていて、心配していて、それに、頭を撫でられて凄く嬉しそうにするんです。撫でられるのが中断されると、心底残念そうな顔をして・・・それがとても悔しい。私はもう夢を諦めないといけないのに。こんな綺麗な人がいるのに、なんで私まで要求するんですか・・・他の人には対価なんて求めないような事を言うのに・・・




そう思っていました。だから、覚悟を決めて、でも、どうしたらいいのか分からないから、直接お伺いを立ててみました。すると、

「すんませんっしたぁぁぁぁぁぁっ!!!」

何故か全力で頭を下げられました。思わず、間の抜けた声が出てしまいます。

「いやっもうっ。本気でごめんっ!!!誤解させてたっ!!命の対価云々は全っっっっ部俺がアンナちゃんに対しての恩を感じて勝手に思ってただけの事で、リアにそんな恩を着せるつもりで言ってたんじゃないんだよっ。」

え?つまり・・・どういう事?もうさっぱり意味が分かりません。

「だから、リアは恩返しとか命の対価とかそんなの考えなくていいんだっ。いやむしろ、考えないでくれっ。普っっ通に同行してリブラベールまで送られてくれればそれでいいからっ。」

でも、それじゃ対価も何もなくて、ただタカシ様が損をするだけ。そんなの普通納得しない筈なのに。

「そういうのを要求するから役に立つ立たないとか関係無いとか言ってたわけじゃなくて、ってあぁぁぁぁぁっ!もうっ!とにかくだっ。そんな事微塵も考えてないし、本意でない相手とそういう関係になる気も全くないっ。奴隷だからとか主人だからとか、そういうので強制してなんて俺が絶対にイヤなんだよっ。」



全てが私の誤解だと分かった時、安堵と申し訳なさから涙が溢れてきました。タカシ様はずっとただ私を気遣ってくれていただけなのに、優しくしてくれていただけなのに、私が勝手に歪めて見ていただけ。だって、こんな人、今まで会った事なんてなかったんです。本当に、本当にごめんなさい。


それから、1人部屋に戻って、奴隷になる前でも滅多に食べられなかったくらいに美味しい夕食をいただきました。夕食をお願いした時もそうでしたけど、何故か、亜人の奴隷である私にもこの宿の人達は異常なまでに丁寧に接してきます。あまりにも不思議だったから、夕食の後片付けにきた人に聞いてみると、

「以前、受付の者が直接申し付けられたそうですが、タカシ様はご自身の物を非常に大切にされているとかで、他の者に蔑ろにされるとご気分を害されるそうなので、くれぐれも丁重に扱うようにと。その受付の者は昔、金級(ゴールドクラス)の冒険者だったんですが、その人がタカシ様は絶対に怒らせてはいけないと青い顔をして言うものですから、この宿の不文律となっております。あの、何か不手際がありましたでしょうか?」

質問に答えた後、青い顔をして聞いてくるから、慌てて首を振って否定しておきました。


ホッとした顔で宿の人が出ていった後、ベットに倒れ込んでみました。ふかふかで、とても気持ちがいいです。

それにしても、元とはいっても金級(ゴールドクラス)の冒険者を震え上がらせるなんて、とても信じられません。タカシ様は冒険者とは思えないくらいに柔らかい雰囲気をしていて、顔付きも優しげで口調もどこかのほほんとしていて、迫力とかそういうのとは無縁にしか見えません。それに、それを言ったのは、多分セレアさんの為。タカシ様がセレアさんを大切にしているのは、誤解していた事が分かった今となっては、もう疑いようもない事ですから。

それだけ、セレアさんの事を大切に想ってるって事なんだろうな・・・

そう思ったら、何故か胸の奥がチクリと痛みました。



初めての感覚にもやもやしながら、でも正体が掴めなくて、もう寝て忘れてしまおうかとも思いましたが、タカシ様がお風呂を予約してくれていた事を思い出し、セレアさんに借りた着替えを手に取ります。

奴隷が着替えなんてと思いましたが、セレアさんを奴隷とは思えないくらいに大切にしているタカシ様の事です。言っても自分が惨めになるだけ。だって、私はタカシ様の正式な奴隷でも持ち物でもないから。部屋を宛がわれているだけでも奴隷としては破格過ぎるくらいの話なんです。これから先、セレアさんみたいに大切にされる事があるわけがないんですから。


胸に妙な寂しさを抱えて、お風呂に向かったところで、タカシ様とセレアさんの2人に会いました。セレアさんは幸せそうな顔でタカシ様の腕に抱き付いています。しかも、2人とも明らかに髪が濡れていて、お風呂に入っていた事が予想できます。

「お、おう。ここの風呂は結構広いかりゃ気持ちいいじょ。」

何なんですか。そんな動揺したりして。お2人の仲がいいのは分かってますよ。

「は、はい。ご一緒させてもらってもゆったりできるくらいです、から。」

セレアさんが恥ずかしそうに、でもこの上なく嬉しそうに言うのと、タカシ様がその言葉にデレッとするのを見たら、気恥ずかしさとなんだかよく分からない感情が込み上げてきて、逃げるようにその場を去ってしまいました。


お風呂は凄く気持ちが良かったですけど、さっきまでここで2人が仲良くしていたかと思うと、またよく分からない感情が噴き上げてきて、そこそこの時間で出てきてしまいました。お風呂なんて贅沢、もうできないかもしれないのに。勿体ない事をした気もしますが、それよりもこの胸に渦巻く妙な感情が落ち着かせてくれません。一瞬、嫉妬しているのかとも思いましたが、さすがに有り得ないでしょう。だって、まだ会ってから3日程度なんですよ?それに、恋なら今までにもした事はありますけど、嫉妬なんてこんなに激しい感情じゃなかった気がします。


把握できない感情にもやもやしながらも、さすがに疲れ果てていたんでしょう。ベットの柔らかい感触が心地良く私を夢の中へと連れていきました。




そして、翌早朝。セレアさんが呼びにきて、朝食後に出発するとの事で、タカシ様達の部屋へ。そこで、ビックリする事を言われました。

「あぁ、そっか。やっぱりリアも着替えがいるな。装備も結構傷んでるっぽいし、出発前にエラーデさんトコとか寄ってくか。」

それ、私の為、ですよね?

「リア。これはセレアにも言ってる事だけどな。装備には遠慮は無しだ。事が命に関わる。変に遠慮したりするんなら、リブラベール行きは無しだ。いいな?」

まるで、タカシ様の為にそうしなければならないような言い方ですけど、内容が完全に私の為を思っての事です。本当にいいんですか?私はセレアさんみたいに本心から貴方に仕えているわけでもないんですよ?


戸惑いが隠せないままに宿を出ます。でも、タカシ様はそれを全く気にした様子もなく、咎める事もないままに武器屋へ。

着いたのは珍しく女性の店主さんがいるお店。女性が武器や防具を作るのを人間族は忌避していて、買い手の方も嫌がる事が多い筈なのに、タカシ様は全く気にした様子もなく、むしろ常連のような雰囲気。タカシ様はあんまり細かい事は気にしないんでしょうか。


それから、タカシ様とセレアさん、それに、本当に私まで装備を整えてもらってしまいました。魔術師用のかなり高価な杖に、身の守りも万全にできるように防具までしっかりと揃えてくれたせいで、私にかかったお金が1番高額となってしまっています。奴隷の装備にかける金額としては有り得ない程の金額です。それどころか、銅級(ブロンズクラス)の冒険者だって気軽にはかけられないような金額になっています。

さすがに不安になって、本当にいいのか聞こうと声を掛けてみると、

「ほぇ?どした?」

思わず笑ってしまいそうになりました。だって、凄く嬉しそうで、なんだか子どもみたい。でも、さすがに笑うわけにもいかず、笑いを圧し殺して出た言葉は聞きたかった事とは全然別の事。

笑いそうになったのがバレて怒られるかと一瞬ヒヤッとしましたけど、全然そんな事もなく、それどころか、やっぱり私の身を案じてくれるような事を言ってきます。


その言葉を聞いて、今まで出会った人間族や前の主人とタカシ様があまりにも違い過ぎて、不安が胸を包んできます。完全に人間族不信なのは自覚しています。こんな事を聞いたら、せっかく優しくしてくれているのに、気分を害させてしまうかもしれません。でも、不安が抑えきれず、

「・・・・タカシ様はまるでご自分の為かのような言い方ばかりされます。でも、全部セレアさんや私なんかの事を気遣う事ばかりで・・・私はタカシ様の正式な奴隷でもないのに・・・」

と言ってしまいました。

でも、タカシ様は全く気分を害された様子もなく、当たり前の事をしているだけだと私の不安を一蹴して、何故か満足げな顔をします。しかも、やっぱり恩を感じさせないような言い方をして。なんだか身構えていたのが馬鹿馬鹿しくなってきてしまいます。

「ふふ。リアさん、ご主人様にはかないませんよ。ご主人様ですから。」

セレアさんの言葉に、なんだか本気で自分が馬鹿みたいに思えてしまって、さらに脱力してしまいました。セレアさんが捉えてるみたいに、タカシ様は優しくて暖かい人だって私も素直に感じていいって言われたみたいで。


それから、タカシ様は私にも本当に着替えを買ってくれました。しかも、新品の綺麗な服を2セットも。セレアさんも2セット持っていると言われて、甘えてしまいました。同じ扱いをしてくれているのが、なんだか嬉しくて恥ずかしくて、胸のもやもやが少し無くなっているのを感じながら、タカシ様と一緒に王都を出発しました。




出発してからも、タカシ様とセレアさんはとても仲が良くて、セレアさんはいつも頭を撫でてもらっています。撫でられている時のセレアさんがあんまりにも嬉しそうで幸せそうだから、少し羨ましいです。つい、衝動的に邪魔をしてしまう事もありました。その度にセレアさんから恨みがましい目で見られますけど、見せつける方が悪いんですよ。

タカシ様。役に立つ立たないは関係無いって言われたけど、やっぱり私にできる事は全部やっていきます。だから、正式な奴隷じゃないですけど、いつか私の頭も撫でてくれますか?

次の街が見えてきた頃、街道を歩くタカシ様の背中にそんな事を無言で問いかけて、タカシ様の隣に並ぶセレアさんの反対側へと並んでみました。奴隷が主人と並んで歩くなんて、普通なら許される事ではないけれど、タカシ様はやっぱり気分を害された様子もなく、一緒に歩いてくれました。

リアが主人公とセレアのスキンシップの邪魔をしている理由が、この話の終盤とそれ以前では大きく変わっています。それが上手く伝わっていれば嬉しいです。


では、<小心者の物語>、一旦の閉幕とさせていただきます。次回もお付き合いいただれば幸いです。


2016/4/7 サブタイトルを変更しました。

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