出発しましょう
主人公達が王都を離れます。最初に立てた目標の為の手段も考えてはいますが、主人公の最初の目標なんて覚えている人はいるんでしょうか?
主人公の粘着質な性格を覗かせる<出発しましょう>開幕~♪
翌早朝、目を覚ますと、まだセレアは俺の腕の中にいた。
「おはようございます。ご主人様。」
「おはよ。」
セレアに軽く口づけをして抱き締めると、ぎゅっと抱き締め返される。
「今日は王都を出発の予定でしたね。」
「ああ。とりあえず、当面の目的地はリブラベールって街だな。リアを送る約束してるし。」
「はい。」
何故か心配そうに俺を見上げるセレア。
「リブラベールって遠いのか?」
「徒歩ですと、30日程かかるかと思います。リブラベールは魔族の領地に1番近い街ですので、頻繁に戦闘があるそうです。近隣ではくれぐれもご用心を。」
あぁ、そういう事ね。要は紛争地帯ってことか。
「分かった。ところで、魔族ってどんな種族なんだ?」
ファンタジー小説だと、いろんな設定があるんだよなぁ。精神生命体でこの世界には具現化してるだけで本体は精神世界にあったり、普通の生き物と同じで単に種族が違うだけだったり。大体は人類全ての敵って役回りが多いけど、領地を持ってるって事は精神生命体みたいな感じではないだろう。もし、そうならヤバ過ぎる。謎の神官みたいなのがいたら即逃げるぞ、俺は。
「私も遭遇した事はありませんが、独特の薄い青色の肌とエルフのような長く尖った耳が特徴だそうです。種族として魔法に特化していて、単純な魔法戦で唯一エルフと対等に戦える程だそうです。さらに、肉弾戦にも長けているそうなので、個体としての戦闘力は他の種族の追随を許さないとか。その上、好戦的な種族だそうです。」
うわぁ。精神生命体とかじゃなくても、充分に戦いたくねぇ。
「この国とは長年領土争いを続けていて、4年前には大きな戦争がありました。双方が大きな痛手を被ったとかで、今は休戦状態のようですが、リブラベールでは小競り合いが続いているそうです。」
「マジか。なんでまた、リアはそんなトコに行きたいんだか・・・」
「恐らく、リアさんの販売元があるのだと思います。主が死んだ場合は販売元に身柄が移りますから、新たな主人を決められる為に戻らなくてはならないのです。」
「それって、もし戻らなかったら?」
「2度目の奴隷税を納める期間が終わるまでに戻らなければ、呪印が発動して死に至ります。」
げ。なんて過酷な。
「確か、税金の納付は季節毎だったよな?次はいつになるんだ?」
「20日前に夏の季節に入りましたので、あと100日程になります。」
ふぅ。期間に余裕があってよかった。
しかし、100日って。月単位の概念はこの世界にはないんだろうか?年単位の概念はあるのに。月単位の代わりに季節が単位になって、一巡りで1年って感じなんだろうか?いつかまた聞いてみよう。年齢の数え方とかも地味に気になるし。まぁ、でも今はまだいいだろう。大して重要な話でもない。
「なら、そこは大丈夫か。間に合わなくて死なせたりしたら、寝覚めが悪くて仕方がないからなぁ。」
「・・・リブラベールの状況を聞かれても、やはり行かれるおつもりなんですね・・」
「セレアは反対か?」
「・・・・・正直に言わせていただくと、私は複雑です。ご主人様がお強いのは理解していますが、魔族との戦闘になった場合の事を考えると・・・」
「でも、リアの状況を考えたら連れていってやりたいとも思う?」
「・・・・・はい。本来ならご主人様の身の安全だけを考えるべきなのですが・・・申し訳」
ぎゅっと抱き締めて謝罪の言葉を中断させる。
「そう言ってくれて嬉しいよ。セレアはやっぱり優しくていい子だ。いくら俺の事を考えてとはいえ、反対されてたらショックだったもんな。」
「ご主人様・・・」
「安心しろって。無駄に戦うつもりなんて全くない。この国と魔族の仲が悪かろうが戦争中だろうが、異世界人の俺には何の関係もないんだからな。それに、万一、戦う事になっても、俺がそう簡単に負けるトコが想像つくか?」
セレアの葛藤を解消させる為の似合いもしない強気な俺の問いかけに、首を振るセレア。
「だろ?だから、ちゃんとリアを送っていってやろう。」
「はい・・・はいっ。」
セレアは涙声で答えて何度も頷く。
俺を心配する気持ちと、同じ奴隷で厳しい状況のリアの事を思いやる気持ち。その2つが鬩ぎ合っていたんだろう。自分の主人と俺のものでもない奴隷の身の上であるリアとを天秤にかけるような心境は、真面目なセレアには辛かったに違いない。セレア自身が言っていたように、立場上は俺の身の安全を考えなければならないんだろうから。
しかし、そこは異世界人の俺。厳しい上に危険な状況にある相手の事を思いやるなんてのは至って普通の感覚。奴隷だからだの主人だからだのといった感覚の方が特殊に感じてしまう。まぁ、紛争地帯に自分から飛び込んでいこうってのも大概だとは思うけれど、元の世界みたくミサイルや爆弾が降り注ぐような事があるわけでも無し。さらにチート発動で常人よりかなり強いっぽいという状況なら、さほど無茶でもないだろう。魔族はかなり強いみたいだから、戦わずに済むように極力目立たないようには行動するけど。
その後、朝食後に出発するから食事が済んだら部屋に来てくれるようにとリアへの伝言をセレアに頼んで、俺達も朝食にする。
なんで伝言なんだって?んなもん、女の子の部屋に突入なんて、小学校の修学旅行ですらできなかった俺ができるわけないだろ。万一、着替え途中だったりとかしてラッキースケベな状況になったりしたら、この先が気まず過ぎる。ラブコメの主人公達はなんで平然としてられるのか理解できん。
朝食後、少ししてリアが部屋にやってきた。
「お待たせしてすみません。」
「いんや。ちょうどいいタイミングだよ。」
「ありがとうございます。あ、セレアさん。着替え、ありがとうございました。」
綺麗に畳まれた服をセレアに渡す。
「いいえ。」
セレアはそれを受け取って、リュックにしまう。
「あぁ、そっか。やっぱりリアも着替えがいるな。装備も結構傷んでるっぽいし、出発前にエラーデさんトコとか寄ってくか。」
「え?」
キョトンとした顔をするリア。うん。これも予想してた。と言うか、この世界の冒険者とかはどれだけ奴隷の扱いが酷いんだ。前のセレアとリアの反応からすると、奴隷の装備を買い換えるのは珍しいっぽい。先行偵察とかさせるくせに。
「リア。これはセレアにも言ってる事だけどな。装備には遠慮は無しだ。事が命に関わる。変に遠慮したりするんなら、リブラベール行きは無しだ。いいな?」
「え?え?」
「予算内での話にはなっちゃうけどな。いいな?」
「あ、は、はい。で、でも、よろしいんですか?まだ使用できるかと思いますけど・・」
「いいんだよ。俺達も武器は新調するし。」
「え?」
今度はセレアがキョトンとする。
「やたらと硬かったからな。巨大蟻は。刃がボロボロだろ?」
「あ、はい。それなりに痛んでしまっています。」
「普通はあんな数を相手になんかしないだろ?たった3人で。って事は、普通以上の負荷がかかったって事だ。命を守る物なんだから、そこは万全にしておく。」
「はい。」
セレアは素直になったなぁ。ちょっと前までなら、何かしら絶対に遠慮を見せてたのに。嬉しい限りだ。
宿を引き払った後、まだ戸惑いを隠せないままのリアも連れてまずはエラーデさんの店に到着。
「あらぁ。タカシさん~。セレアさんもぉ。いらっしゃいませぇ。今日はぁまた新しい方をお連れなんですねぇ。」
「ええ。リアです。暫定的な主人って事になりまして。」
リアが俺の少し後ろで会釈をする気配がする。
「ではぁ、どこかの商会にぃ連れていってあげるんですかぁ?」
「はい。リブラベールって街まで。」
「あらぁ。あそこはぁ魔族が多いそうなのでぇ、気を付けてくださいねぇ。」
「ええ。ありがとうございます。」
「それではぁ、リアさんのぉ装備を新調されますかぁ?」
「話が早くて助かります。あと、セレアの武器もお願いします。巨大蟻を大量に狩ったせいで、一気に剣が痛んでしまっているので。」
エラーデさんの目が点になる。あれ?何か変な事言ったか?
「まさかとはぁ思っていたんですけどぉ、凄い勢いでぇ銀級になった冒険者さんってぇタカシさんの事だったんですねぇ。」
うおっ!?ここにまでもう噂が流れてきてるのか!?
「たった3人でぇ巨大蟻の巣をぉ駆逐してしまったそうですねぇ。もぉ武器屋の中ではぁタカシさんの話題でぇ持ちきりなんですよぉ。そんな大物さんにぃうちの武器をぉ使ってもらいたいってぇ。光栄ですねぇ。もぉ使ってもらってたなんてぇ。」
そういう方向の噂話になってるのか。まぁ、それならもう街を出るんだし構わないかな。
「はは。恐縮です。もし、それが宣伝になるんならガンガン言いふらしてくださいよ。エラーデさんの武器のおかげで勝てたんですから。」
「またまたぁ。本当にぃタカシさんはぁお上手なんですからぁ。」
少し頬を染めて手をパタパタと振るエラーデさん。この人も大概本気で可愛いんだよなぁ。
「あぁ、でもぉ、巨大蟻などのぉ硬いモンスターにはぁ戦棍などのぉ鈍器で戦った方がぁ楽ですよぉ。セレアさんとぉリアさんにはぁ少し不向きなぁ武器かもしれませんけどねぇ。」
なるほど。相手によって武器を変えるか。全然考えた事もなかったな。有りかもしれない。あんまり重いと持ち歩くのが辛いけど。
「剣がぁ1番汎用性があるのはぁ間違いないですけどねぇ。」
ほうほう。それで他の冒険者は剣を持ってる奴ばっかなのか。でも、鈍器も1つ持っててもいいかもな。
「それじゃ、俺の分はまた適当に見させてもらっててもいいですか?」
「・・・・タカシさん~?武器だけじゃなくてぇ、防具もあった方が絶対にぃ安全ですよぉ?」
若干ジト目で見られてしまう。武器だけしか見る気がないのがバレバレらしい。
「まぁ、怪我したら考えます。」
「ご主人様っ。お怪我をされてからでは遅いですっ。」
「そうですよぉ?こんな綺麗な方にぃ心配かけちゃダメですぅ。」
う・・・・それを言われると弱い・・・・重くなるの嫌なんだけどなぁ。
「わ、分かりましたよ。2人の分のついでに、軽めの胸当も見繕っといてください。」
「はいぃ。お任せをぉ。ご予算は全員分でぇ、おいくらくらいですかぁ?」
「え~と・・・」
昨日の宿代に風呂代、それからアンナちゃんに15万エニーを渡したから、残金は69036エニー。次の街までの食糧とかも買わなきゃならないし、リアの着替えも2セットくらいはいるだろ。んで、次の街での宿代とかその他の為に余裕はあった方がいいよな。まぁ、複眼の宝玉があるけど、高価だって話ではあるもののどれくらいで売れるのか知らないし。
「6万エニーくらいでお願いします。」
「え!?」
はい。リアの反応は予想通り。セレアも一瞬驚いた顔をしてたけど、前回の事があるから予想はしてたんだろう。すぐに平静を取り戻してる。
「あぁ~、やっぱりぃリアさんはぁ後衛にぃ回してあげてるんですねぇ。」
嬉しそうにニコニコするエラーデさん。なんで後衛に回してるって分かったんだろ?
「タカシさんはぁやっぱりぃ優しい方ですねぇ。エルフならぁ後衛の方が向いていますもんねぇ。」
「そりゃ、魔法に特化してるんならその方が効率的でしょ?」
「仰る通りですぅ。ではではぁ、セレアさんとぉリアさんはぁこちらにどうぞぉ。」
セレアと戸惑いまくるリアを連れて、エラーデさんは店の奥へ。
さて、鈍器と剣はどれにしよっかな。
それから、ゆっくりと装備を選んで購入。俺はアダマンタイト製のバスタードソード《10500エニー》と鋼鉄製の戦棍《6500エニー》、セレアと同じ軽量化された鋼鉄製の胸当《4500エニー》、セレアはアダマンタイト製のショートソード《9000エニー》、リアは魔石を先端に備えた真鍮製の杖《25400エニー》と軽量化された鋼鉄製の鎖帷子《4800エニー》とバックラー《3000エニー》、冒険者用の靴《100エニー》で、合計63800エニー。これで残金は5236エニー。
後衛としての魔法攻撃を強化する魔石付きの杖が特に高かったのだ。魔法を補助する武器は高いらしい。だから、予算の多さから後衛に回してるって思ったわけね。リアが杖の値段を聞いて青い顔をしてたけど、そんなことよりも・・・・
アダマンタイトッ!!!ファンタジー鉱物、キタァァァァァッ!!!
魔力を宿す物を除けば、1番の硬度を誇る金属らしくてまず折れることがないとか。くそっ、前の時に気付いていればっ!まぁ、これも高いから、前回の予算じゃ手を出せなかったけどさ!
「またぁ戻ってくる予定はぁありますよねぇ?」
「ええ。勿論ですよ。」
アンナちゃんと再会の約束をしてるし、あの糞国王といけ好かない大臣に復讐をしてやらないと気が済まないからなっ。どうやるかは全然思い付かないから、旅の途中で使えそうな物を探すつもりだ。何か不思議アイテムでも見つかればいいんだけどな。
「はいぃ。では、その際にはまた寄っていってくださいねぇ。」
「はい。必ず。」
握手をして、エラーデさんの店を後にする。
アダマンタイト♪アダマンタイト♪軽くて丈夫なファンタジー武器~♪
ファンタジー武器を手に入れられたのが嬉しすぎて、センスのない鼻歌が脳内を流れる。嬉しすぎて、自分のセンスの無さも気にならない。
「あ、あの、タカシ様。」
「ほぇ?どした?」
浮かれすぎてて声のトーンが普段より2つくらい高くなってしまった。子どもか、俺は。
「・・・う、嬉しそうですね?」
それ、聞こうと思ってた事と違うよね?浮かれてるのは自覚してるけど、なんかハズイ。
「ん、んん。いい武器手に入ったじゃん?」
「そうですね。アダマンタイト製の物は通常装備品の中では最高級のものですから。ありがとうございます。ご主人様。私にまでこのような良い物を・・・必ず装備に見合った働きをしてみせますので。」
金額が金額だからだろう。真面目なセレアの表情が少し堅い。
「見合った働きよりも、見合った安全を手にしてくれた方が嬉しいよ。いい武器を手に入れたからって、ムチャされて怪我なんかされたら割に合わないんだから。言ったろ?装備は命に関わることだって。いいのを手に入れたんなら、その分命の危険が減らないと意味がない。」
「ご主人様・・・はい。」
俺の肩に頬を擦り寄せるセレア。歩きながら器用な奴だな。昨日までよりも積極的な気がするぞ?嬉し恥ずかしいっ!でも、やっぱり可愛いから頭を撫でてしまう。
「・・・しかし、私の装備が1番お金がかかってしまっています。本当によろしいのでしょうか?」
ややジト目気味で言うリア。目の前でやられると鬱陶しいよね。ごめんなさい。
「気にすんなって。必要経費だ。蟻の巣の時みたいに、またリアの魔法に助けてもらう事もあるだろうしさ。大体、装備品不足のせいで何かあったら死ぬ程寝覚めが悪いじゃないか。」
「は、はい。あ、ありがとうございます。」
戸惑いに目を白黒させながらも礼を言うリア。前のリアの主人は一体どういう扱いをしてたんだ?でもまぁ、俺はこういう奴なんだ。慣れてくれ。
「・・・・タカシ様はまるでご自分の為かのような言い方ばかりされます。でも、全部セレアさんや私なんかの事を気遣う事ばかりで・・・私はタカシ様の正式な奴隷でもないのに・・・」
「暫定的にであっても、今は俺が主人って立場なんだから当然だろ?最低限の衣食住の保証は義務って話だし。」
「いえ、これはどう考えても最低限どころか、奴隷の身には手厚過ぎる程です。こんな扱いをされている奴隷なんて、絶対にいないと思います。」
「俺にとっては最低限なの。最低限の基準なんて主人次第だろ?」
「そ、それはそうかもしれませんけど・・・」
当てずっぽうで言ったけど、最低限の基準についてはやっぱり当たりだったらしく、言葉に詰まるリア。
「女の子には無条件に優しく、美人と可愛い子にはなおさら。男相手には気分次第。相手が戸惑おうが困惑しようがな。そういう勝手な人間なんだよ、俺は。」
「は、はぁ・・・」
なんだか脱力するリア。ふっ。勝った。
「ふふ。リアさん、ご主人様にはかないませんよ。ご主人様ですから。」
「・・・はい。」
さらに脱力するリア。
いや、あのね、セレアさん?その<ご主人様ですから>って何?リアもそれで首肯するんじゃない。いや、言い負かしたのは俺なんですがね?
それから、リアの着替え2セットと荷物用リュックに外套、次の街までがおよそ3日という事らしいので余裕を持って5日分の食糧と水を揃えて、王都を出発した。
当面の目的地は魔族との紛争地、リブラベール。リアを無事に送り届けつつ、復讐に使えそうな不思議アイテムを探すぞぉぉぉぉっ!
さて、思い出していただけましたでしょうか?主人公はあまりにもぞんざいな扱いをしてくれた国王と大臣への復讐を忘れていたわけではありません。ただ、いろんな事があって脱線しまくっているだけなのです(笑)今後もいろんな事があって脱線しまくるでしょう。
しかし、《やられたら、大事にならないようにこっそりやり返す》という信条を持つ主人公は決して復讐を忘れません。なので、気長に見守ってあげてもらえればと思います。
では、<小心者の物語>、一旦の閉幕とさせていただきます。次回もお付き合いいただれば幸いです。




