誤解を解きましょう
主人公を中心に誤解が発生していましたが、今回でそれが解消されます。
あぁ、念の為、確認を。
壁殴り代行は頼みましたか?
そんな<誤解を解きましょう>開幕~♪
アンナちゃん宅を出て、俺達は宿に向かう。
本気で疲れた。風呂に入ってスッキリして、とっとと休みたい。
「優しい方ですね。アンナさんも。」
どこか嬉しそうに言うセレア。
「うん。ホントに良い子だよ。正直なトコ、獣人に対しての事は心配だったんだけど、杞憂で済んだしな。」
「驚いてしまいました。エラーデさんもそうでしたけれど、アンナさんもまるで人間族を相手にされているかのように普通に接してくださって・・・」
「あんな人達が増えてくれりゃいいんだけどなぁ。」
「私にはもう充分過ぎます。こんなに幸せな気持ちは初めてです。」
セレアは目尻に溜まった涙を拭う。
「ありがとうございます。ご主人様に引き取ってもらってから、幸せな事、嬉しい事ばかりです。」
「俺は別に大した事してないよ。たまたまいい人に巡り会っただけの事だ。」
「でも、ご主人様にお会いしてからなんです。本当に・・・」
「そっか。」
辛い過去を思い出してしまったんだろう。表情に陰が差すセレアの頭を撫でる。
「じゃあ、運が開けてきたのかもしれないよ。これから先も楽しみにしような。」
「はいっ。」
嬉しそうに笑うセレア。対して、何やら考え込んでいる様子のリア。さっきから黙ったままだ。
「どした?リア。大丈夫か?」
「え?あ、は、はい。すみません。少し考え事を・・・」
「考え事?何か心配事か?」
「い、いいえ。そうではないんです。ただ、アンナ様は本当に恩返しを望んでらっしゃったわけではないんだなと・・・」
「まぁ、完全に言い負かすまでゴネてたからなぁ。でも、なんでそう思うんだ?」
「タカシ様が渡された革袋の中を最後まで確認しようとされなかったじゃないですか。きっと今頃驚いてらっしゃいますよ?」
「まぁ、そこだけは残念かな。中身を見たアンナちゃんがビックリするトコ見てみたかった気もするし。」
革袋の中には金貨を15枚、合計15万エニーを入れてあったのだ。本当は大金貨1枚と金貨にしたかったんだけど、どうやら一般人の普段の買い物には大金貨はあまり使う事がないらしい。まぁ、食品とかは安いしな。
「ビックリどころではないかと思いますよ?一般の生活をするだけなら、数年は遊んで暮らせます。ご病気のご家族がいらっしゃるそうですけど、不治の病でもない限りには絶対に完治できます。」
「そっか。よかった。それなら安心だな。しばらく前に薬を買って少し元気になってるって嬉しそうだったから、今回ので確実に完治できるだろ。」
「・・・・・惜しいなんて、本当に欠片も思われないんですね・・・」
「全然。複眼の宝玉がすぐに換金できるんなら、今回の依頼の褒賞金は全部あげてもよかったくらいだし。余計な騒ぎになりそうだから諦めてるけど。」
「タカシ様が命懸けで手に入れられたものなんですよ?」
「だからこそ、命の対価としてはちょうどいい。俺の中での釣り合いは取れてるよ。」
「・・・そう、ですね・・・確かに、命の対価にはそれ相応のものが必要、ですよね・・・」
何やら決意を固めるような言い方で呟くように言うリア。何をそんなに深刻になってるんだろ?
「まぁ、命の対価なんて言っても、所詮は俺の自己満足だけどな。捉え方は人それぞれだし。」
そう言って俺は肩を竦める。
「でも、間違いなくアンナさんはお喜びになると思います。ご家族の病気を治せるんですから。」
セレアはホントにフォローが上手いなぁ。気が利くというか気配りが細かいというか。
「そうだな。そうなってくれるのが1番嬉しいよ。」
言いながらまたセレアの頭を撫でる。
それから、少し寄り道をして道具屋に。道具屋のおっさんは俺の顔を見るなり、今はもう正規の値段でキッチリ取引をしている事を捲し立ててきた。どうやら、悪い噂が立つ事を恐れているらしい。まぁ、そんな噂が立った日には誰も商品を卸してくれなくなるだろうからな。だったら初めからやるなよと思うが、まぁ、ピンハネしてた分は取り返した筈だし、この様子ならこれからは大丈夫だろう。
最後の懸念が解消されて、スッキリした後、いつもの銀月亭に到着。
「すみません。部屋2つ、空いてますか?」
「はい。すぐにご案内させていただけます。」
「2つ?」
怪訝な顔をするリア。うん、予想はしてた。
「俺とセレアは一緒の部屋って話になっててな。んで、もう1つはリアの。当然、宿代は俺が出すから。あぁ、食事付きだから食堂で食うもよし、自分の部屋に持ってきてもらうもよし、好きにしてくれ。あ、ついでに、風呂も予約しとくか。3人分、先払いできますか?時間は各々好きな時間に入るんで。」
「は、はい。よろしいので?」
「ええ。」
言って入浴代も払っておく。
「というわけだから、風呂も好きな時間に入っていいから。と言うか、風呂嫌いでもなけりゃ入ってくれよ。もう代金払ったし。」
「え?え?」
何が何やらさっぱりという感じに混乱しまくっているリア。
「うん。何が言いたいかはなんとなく分かってるから。セレアも遠慮しまくってたし。」
「あ、あの。ご主人様。また、よろしいんでしょうか?入浴なんて贅沢な事をさせてもらってしまっても・・・」
セレアもか。まぁ、1回や2回じゃ慣れないか。
「いーの。風呂は日常って事にするから。」
「は、はい。ありがとうございます。」
「うん。素直でよろしい。」
セレアの頭を撫でてやる。
「リアも、いいか?」
「い、いえ。で、でも、私は命を救っていただいただけでなく」
「遠慮はナシ。言ったろ?リブラベールまで不自由はさせないって。」
「で、でも・・・別の部屋で、って・・・」
完全に混乱しているらしい。
「その方がゆっくりできるだろ?女の子なんだし。」
「で、でも、セレアさんは・・・」
「私のお願いをお聞きくださって、それでご一緒させていただいているんです。」
少し赤くなりながら、でも、何故だか嬉しそうに言うセレア。勘違いするからヤメテ。
「最初はセレアにも部屋を取ってたんだけどな。さ、行こう。もう疲れた。」
「はいっ。」
「え?あ、は、はいっ。」
「では、ご案内致します。」
受付男性の案内で部屋に向かい、俺とリアはそれぞれ部屋の鍵を受け取り、受付男性はカウンターに戻っていく。
「んじゃ、何か困った事とかあったら言ってくれ。って、そうか。リアは荷物一式無くしたんだったな。セレア。悪いけど、着替え貸してやってくれるか?」
「え?「はい。」」
リアの戸惑いの声とセレアの返事が重なり、セレアがリュックから予備の服を出してリアに差し出す。
「サイズが合わないかとは思いますが、使ってください。せっかく入浴させてもらうのですから。」
「えと・・・・あ、ありがとうございます。あ、あの。タカシ様?」
「ん?」
「その・・・・」
数秒程の間、下を向いていたが、決心したように顔を上げる。
「お、お待ちしていた方がよろしいですか?それとも、お伺いした方がいいんでしょうか?も、申し訳ないんですが、全く経験がないので、どうすれば良いのか分からないんです。」
「はい?えっと何を・・・・・って、ぬぇぇぇぇぇっ!?」
リアの意図を理解して、思わず意味不明な叫びが口から放たれる。いきなり何を仰りやがりますかね!?
「も、申し訳ありません。命の対価に差し上げられるものと言えば、私にはこの体くらいしか思い浮かばないのに。」
俺の叫びを完全に誤解して捉えているリア。
って、命の対価って・・・・そ、そういう事かぁぁぁぁぁぁっ!!!!
やたらと深刻そうな顔をしてる時が何回かあったけど、考えてみれば命の対価がどうのって話になったばかりだった。んで、成り行きとはいえ、リアは俺達に命を助けられている。となれば、助けられた礼は生半可なものじゃすまないと言われているようなものだ。でも、奴隷に財産も持ち物もない。あるのは自分の体だけ。で、俺は男で、リアは女の子。
「すんませんっしたぁぁぁぁぁぁっ!!!」
そこまで一瞬で頭が全力回転で思考したところで、頭が90度を越えて下がって全力の謝罪の言葉が口から出てきた。いや、もう、ホンットに申し訳ございませんっ!!!
「へ?」
「いやっもうっ。本気でごめんっ!!!誤解させてたっ!!命の対価云々は全っっっっ部俺がアンナちゃんに対しての恩を感じて勝手に思ってただけの事で、リアにそんな恩を着せるつもりで言ってたんじゃないんだよっ。」
「え?え?」
「だから、リアは恩返しとか命の対価とかそんなの考えなくていいんだっ。いやむしろ、考えないでくれっ。普っっ通に同行してリブラベールまで送られてくれればそれでいいからっ。」
「で、でも、それだと・・・」
「そういうのを要求するから役に立つ立たないとか関係無いとか言ってたわけじゃなくて、ってあぁぁぁぁぁっ!もうっ!とにかくだっ。そんな事微塵も考えてないし、本意でない相手とそういう関係になる気も全くないっ。奴隷だからとか主人だからとか、そういうので強制してなんて俺が絶対にイヤなんだよっ。」
「そ・・・それじゃ・・・・今まで優しくしてくださっていたのは・・・?」
「いやまぁ、それは前にも言ったろ?美人には優しくなるのが男って生き物だってさ。アンナちゃんは可愛いし、セレアも澄ましてたら美人な癖に表情が変わるととんでもなく可愛いし、リアは芸術的なくらいに綺麗じゃん?そりゃ、大概の男は優しくなるって。」
「ご、ご主人様。そんな、私なんて・・・」
流れ弾に当たったセレアが真っ赤にってモジモジと俯きながら、尻尾を左右に大きく振っている。えぇいっ。恥ずかしいっ。
「やかまし。俺がどんだけドギマギしてるか察しろ。」
セレアは俺の肩に顔を埋めて、尻尾を振ったまま耳をぺたんと垂れさせる。どんだけ可愛いんだ。
「うそ・・・じゃ、じゃあ、わ、私・・・」
リアの目から涙が溢れてくる。
「ごめ・・・ごめんなさ・・・」
顔を両手で覆って泣き出すリア。
「ちょっ!?」
また女の子を泣かせてしまった。やっちまったなぁ。完全に誤解させてたみたいだもんなぁ。
とりあえず、俺とセレアの部屋にリアを入れてソファーに座らせ、ついでに俺の肩に顔を埋めたままだったセレアも座らせる。セレアは恥ずかしそうに上目使いで俺をチラチラ見るし、リアは泣きじゃくってるし。何、この修羅場みたいな構図。
しばらくして、リアが泣き止み
「ごめんなさい。」
謝罪の言葉と共に頭を下げてきた。
「い、いや。謝るのはこっちの方だよ。誤解させるような事言ってごめん。怖かったろ?」
その言葉にリアは首を振る。
「いいえ。私が勝手に深読みして、タカシ様が単純にお優しくしてくださっていたのに、それを歪めて捉えて・・・・・本当にごめんなさい。」
参ったな・・・完全に俺が悪いってのに。
「分かった。んじゃ、お互い様って事で、リアの言葉に甘えさせてもらうよ。」
しかし、このまま謝罪合戦を続けていても折れそうもなさそうだし、こんな感じで俺の謝罪も受け取ってもらおう。
「タカシ様・・・はい。ありがとうございます。」
また頭を下げるリア。
「んじゃ、誤解も解けたトコで、ゆっくり休んできなよ。疲れ果てたろ?」
「はい。でも、その・・・本当にいいんですか?奴隷に一部屋を宛がうなんて。」
「うん。しっかり休んでもらわないと、体調を崩したりしたら道中が大変だろ?」
「・・・はい。それでは、お言葉に甘えさせてもらいます。」
「うん。食事も風呂も自由にしてくれな。」
「はい。ありがとうございます。」
再び頭を下げてから、リアは部屋を出ていった。
さて、次はセレアだな。現在進行形で顔を赤く染めて、俺を上目使いで見ている。
うわぁ。可愛さが留まる所を知らないぞぉ。
「あ、あの。ご、ご主人様。」
モジモジしながら言葉を紡ぐセレア。
「ん?」
「そ、その・・・か、可愛い・・・というと、えと・・・ご主人様に喜んでもらっていると、思っても、いいのでしょう、か?」
躊躇いがちに言うセレアに頭を掻きながら
「いいも何も、アンナちゃんが暴露してくれやがったろ?俺がセレアを買ったのは、セレアがあんまりにも可愛くて、他の野郎に買われるのがどぉしても我慢ならなかったからなんだ。そんな子が側にいて、喜ばないわけがないだろ?」
ますます赤くなりながら、首肯するセレア。その耳をぺたんとするのヤメテ。可愛すぎる。抱き締めたい欲求が暴発するから。
「で、では、えと・・・我儘を1つ、言わせてもらってもいい、でしょうか?」
うん。スッゲェ危ない予感がする。主に、俺の理性的なものが。しかし、セレアの初めての我儘だ。将来分の理性まで総動員してでも聞いてやらねばなるまい。
「うん。俺にできる事なら何でも構わないよ。」
「で、では・・・入浴の後で、また、その・・・・抱き締めてもらっても、いいです、か?」
言われた瞬間に俺はセレアを抱き締めた。
「え!?ご、ご主人様!?わ、私、汗もたくさん」
「半分だけは聞いてあげる事にした。抱き締めるってトコだけな。」
「ごっ、ご主人様にだけは」
「言わなかったっけか?俺は嫌な事を進んでやったりしないし、俺がいい匂いだって言ってるのに獣臭いだなんて有り得るかってな。」
「ご主人様・・・」
「それに、セレアの事をそんな風に言う奴がいたら全力で否定するっつったよな?アレ、セレア自身が言ってもだから。俺が認めない。今、こうしてて、セレアはやっぱりいい匂いだもんよ。って言うか、どうなってんだ?普通、ちょっとくらいは汗臭くならね?なんか、俺の臭いが心配になってきた・・・・大丈夫か?セレアは鼻が利くから辛くない?」
ぎゅっと抱き返される。
「ないです。全然、辛くなんかありません。」
涙声で答えるセレア。
「・・・大好きなご主人様の匂いです。ずっと、ずっとこうしていたいです。」
涙が溢れる瞳で俺を見上げるセレア。
「お優しいご主人様。イジワルで、とても優しくて、暖かくて、私の最高の大好きなご主人様。一生お側に置いてください。一生、こうして抱き締めてください。」
「セレア・・」
願うように、そのままその瞳を閉じるセレア。俺がセレアの薄い唇にそっと自分の唇を重ねると、セレアはさらに俺を強く抱き締め、
「愛しています。ご主人様。」
セレアをお姫様抱っこしてベット移動。想いのままに体を重ねた。
セレアのは主従の感情だけじゃなかったのか。ずっとそうだとばかり思ってた。こんな可愛い子がなんて、普通信じられないだろ?こんな嬉しい事なんて、元の世界じゃ有り得なかったもんな。
主人公に対するリアの抱いていた誤解、セレアの抱く気持ちに対する主人公の誤解、スッキリサッパリ解消しました。
前書きで確認させていただいた壁殴り代行はお役に立ったでしょうか?(笑)
甘い空気を引き摺りつつ、<小心者の物語>一旦の閉幕とさせていただきます。次回もお付き合いいただければ幸いです。




