恩返しをしましょう その4
主人公がキレてしまいます。普段は小心者な主人公ですが、大切なものに関してだけは男を見せます。
討伐戦はまだかという声が聞こえてきそうな<恩返しをしましょう その4>開幕~♪
森を奥へと進むが、まだ戦闘の声は聞こえてこない。ついでに、先に行ったと思われる冒険者達もいない。とりあえず、不用意に巣を突っつくような真似はしないでいてくれるといいんだが。どの道駆逐するとしても、昨日みたいに一気に大勢に囲まれるとしんどい。巣の中から出てきたところを順番に倒してしまった方がまだ楽だろう。今回はこっちも大勢なんだし。
ちなみに、巨大蟻のサイズは全長が俺と同じ(180cm)くらいで、ボリュームは倍くらい。その上、刃が通らないくらい硬い表皮なんて、もう蟻じゃない。まぁ、オーガを補食するって時点でそうだが。
「リアさんはどんな感じで戦うんですか?」
「えと、魔法を使えますけど、でも、前衛もできます。」
「ほぉ~。オールマイティーって感じなんですね。そりゃ心強い。」
「あの・・・」
「はい?」
「なんて言えば良いのか困るんですけど、タカシ様は暫定的にとはいえ、今の私の主人です。ですから、さん付けや、その、なんていうか・・・」
「え・・・もしかして、呼び捨てにしてタメ口で喋れと?」
「そうしていただけると、有り難いんですけど・・・主人にさん付けされて丁寧語を使われる奴隷なんて聞いた事も見た事もありませんし・・・」
「えぇぇぇぇ・・・」
「そうしてあげてはいただけませんか?ご主人様。」
セレアがリアさんの援護をする。
「下手をすると、主人に気を使わせる気難しい扱い辛い奴隷というように見られてしまって、リアさんの為にならないかもしれません。」
「あぁ・・・なるほど・・・」
店長が扱いに困る部下には丁寧に接するようなアレだな。見たのは感じは上司が部下を労っているような雰囲気だけど、実のところは、下手な事を言うと正論で切り返してくるから敬遠されているだけっていう。まぁ、俺の事だけど。この世界にくる直前に学んだんだよなぁ。理不尽を飲み込んで首肯するのが会社組織の一員として正しい姿だって。
「分かった。じゃあ、そうさせてもらうよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「いんや。教えてくれてありがと。セレア。」
「いいえ。すみません。ご主人様のお気遣いを蔑ろにするような事を・・」
「そんな事ないよ。相手の為にならないなら、それはただの迷惑だしな。そうなるのは俺がヤだし。」
「はい。ありがとうございます。」
俺が気後れするからという理由だけで、相手がそんな風に周りから見られるのは本意じゃない。それなら、多少ハードルが高くても、奴隷の立場の人にはタメ口呼び捨てで接していった方がいいだろう。
「あ、それで前衛と後衛だったら、やっぱり後衛の方が得意だったりする?」
「え?あ、その・・・」
「? 俺のイメージだけど、エルフは魔法とか弓の方が得意かなぁって思ってたんだけど、違った?」
「あ、いえ。言われる通りなんですけど・・・」
「んじゃ、俺が前衛で、セレアがリアのカバーとして中衛、リアが後衛って感じでいくか。セレアは状況に応じて俺のフォローも頼むよ。」
「ご主人様。普通は奴隷を前衛に置いて、主人は安全な後衛にいるものです。ご主人様が間違いなく1番の戦力ではあると思いますけれど、せめて前衛は私にお任せいただけませんか?」
「却下。1番戦える奴が前衛に立つのは当然だろ。いや、そうでなくても可愛い女の子を1番危ないトコに放り込むなんて、男として失格だ。んな普通は認めん。」
セレアは頬を少し赤くするが、首を振る。
「しかし」
反論してくるのは予想できたから、セレアが反論を口にし始めると同時に頭を撫でる。
「はぅ・・」
頭を撫でられて、案の定、言葉を中断させるセレア。
「ダメ。もしどうしてもって言うんなら、俺よりも圧倒的に強くなってからにしてくれ。それなら前衛を交代する事も考える。」
あくまで考えるのであって、交代すると決めたワケじゃないが。
「うぅ・・・ご主人様はやっぱりイジワルです。ご主人様より強くなんて、今すぐにはどうやってもなれません。」
「なら、今回は諦めるんだな。」
セレアはまだ何かを言おうと口を開くが、言葉にはならず、項垂れて
「・・・はい。」
渋々と言った感じで首肯した。よし。昨日言い負かされた分は返した。
あまりにも器の小さい事で勝利を味わっていると
「あ、あの。本当に私は後衛でいいんですか?」
戸惑い100%な感じでリアが確認してくる。
「魔法が得意なんだろ?それなら、後衛の方が効率的じゃんか。」
「そ、それは・・そうですけど・・・・・こ、今回は巨大蟻の巣に入る事になります。そうなったら、あまり派手な事をすると生き埋めになりかねませんから、魔法と言っても大したものが使えません。でも、それだと、後衛はほとんど役立たずで・・・おっ、お願いしますっ。どうかお役に立たせてくださいっ。」
何故かかなり必死な様子で懇願するリア。役に立たせろって・・・
「あ~。もしかして、役に立たないと連れていってもらえないとか考えてないか?」
リアは顔色を青くして、ビクッと体を震わせる。その様子に思わずため息をついてしまう。
「ないから。そんなの事。」
「・・・・・・え?」
何を言われたのか分からないといった顔で俺を見上げるリア。
「だから、別に役に立つ立たないとか関係ないっての。そのリブラレールって街まではちゃんと連れてくよ。近々王都は出る予定だったけど、特に目的地があるワケでもないから、ある意味目的地ができて助かるし。だから、無理に前衛に立つ必要性無し。分かった?」
「で、でも、それだと、タカシ様には何のメリットも・・・」
「目的地ができたってだけで充分だよ。」
ったく。この世界の奴隷制度はかなりシビアなんだな。まぁ、元の世界の奴隷制度がどんなのだったのかよく知らないから、そういうものなのかもしれないけど、俺の性には合わん。女の子には優しく、可愛い子にはなおさらにってのが信条だ。まぁ、そんな事言っても、女性との接点なんて仕事上のもの以外は皆無だったワケですが。
「・・・・・分かりました。お言葉に甘えさせていただきます。」
何やら、覚悟を決めたような顔をするリア。後衛に回るのがそんなに思い詰めるようなものなんだろうか?
それから、昨日の戦闘跡を通過して、巨大蟻の巣の前に到着。先に出発していた冒険者パーティーもいる。今は戦闘準備中って感じ。
で、巨大蟻の巣なんですが・・・
地面にポッカリとデカい穴が開いてます。討伐依頼を受けてきてなきゃ、地下洞窟の入口かって思うくらいのデカい穴。しかも、その穴の周辺には三階建ての一軒家くらいあるデッカイ蟻塚が十数個。
規模が大きいってのも納得。ちょっとした村だぞ、これ。
巣の規模に驚いていると、一組の冒険者が寄ってくる。
「よぉ。昨日の夜に森から出てきた奴らだよな。」
1番前にいる30歳手前くらいの男が声を掛けてきた。
「ええ。そうですけど?」
「じゃあ、何か知らねぇか?」
「何かって、何をですか?」
「何でも構わねぇよ。大体、見てみろ。この規模の巣なくせに、蟻どもが全く見当たらねぇ。普通の規模でも蟻塚にゃ斥候役のがそれなりの数がいるもんなのによ。」
「はぁ。」
「しかも、途中で見ただろ?大量の死骸を。どう見ても斬り殺されてやがったから、他のモンスターが出てきたってワケでもなさそうだしよ。だがよ、あんな数の巨大蟻を殺ろうと思ったら、この数が集まっても相当の犠牲が出るはずじゃねぇか。それが人間の死体は1つも無しだ。おかしいだろがよ?」
マジか。俺、1人で殺っちゃったんですが。これは何も言わない方がよさそうだ。要らんトラブルを生みかねん。
「その触角、昨日あそこで集めたんだろ?何か見てねぇのか?」
あ、ラッキー♪俺達が倒したなんて欠片程も思ってなさそうだ。誤魔化せる。
「さぁ。さっぱりです。」
「そうか。んなら仕方ねぇか。」
よしっ。あっさりスルーされたっ。
「じゃあ、お前も協力しろ。他のパーティーとも話し合ったんだがよ。こりゃ異常事態だ。いきなり巣に入っていったら何があるか分からん。そこでだ、それぞれのパーティーから適当にできるだけの数の奴隷を出して先行調査させる。」
は?何を吐かしてんだ?こいつは。
「まぁ、お前んトコは数が少ねぇみたいだし、その獣人だけで構わねぇからよ。っつーワケだ。来い。」
言い切ると同時に冒険者男Aがセレアに手を伸ばすが、その手を俺が掴んで止める。
「あぁ?」
睨みを効かせてくる男A。しかし、
「誰が連れていって良いって言った?」
俺が睨み返した瞬間に顔を引き攣らせる。
「ふざけろよ。何が獣人だけで構わないだ?こいつは俺のものなんだよ。勝手に触れようとしてんじゃねぇぞ。」
「な、何を獣人奴隷1つにギッ!?」
腕を掴む手にありったけの力を込めて握ってセリフを中断させる。
「他の奴らにも言っとけ。俺は俺のものを大事にする質なんだ。他人に蔑ろにされると、死ぬ程気分が悪くなる。そうするつもりなら、それ相応の覚悟を決めてから来い。いいな?」
「わっ、分かった!!分かったから離しやがれ!!腕がイカれちまう!!!」
俺が手を離すと、男Aは少し離れて睨み付けてくる。
「テ、テメェ、いい度胸してんじゃねぇか。」
銅の冒険者証を俺に見せつけてくる。
「俺様は銅級の冒険者だ!誰に喧嘩売ってんのか、後悔してももう遅ぇぞ!!!」
俺はため息をついて、自分の冒険者証を出す。途端に、Aの顔がまた引き攣る。
「銅級ぐらいで粋がんなよ。まだ上に3つも階級があるんだ。」
口をパクパクとさせるA。
「で?誰に喧嘩を売ってるのか、後悔しても遅いんだっけか?」
Aに顔色がみるみる内に青くなって、さらには血の気が引いて白くなる。
「あ・・・い、いや・・・・・」
「奴隷に先行させなきゃ何もできない程度で2度とデカい口を叩くな。分かったら失せろ。」
「ヒッ、ヒィィィィッ!?」
転がるように逃げていくAと、戸惑い顔のままに後を追う残りのメンバー達。
あぁぁぁぁ~っ。クソッ。やってしまった。今のやり取りで、完全に目立った。しかも、思いきり反感を買ったのは飛んでくる視線からでも明らかだ。くそぅ。せっかく昨日の一件は誤魔化せたのに。
「ご主人様。ありがとうございます。また、守ってくださって。」
やっちまった感全開で若干落ち込む俺に、セレアが嬉しそうな顔で礼を言う。まぁ、セレアのこの顔が見れたからいいか。我ながら単純に立ち直る。
「いや。俺が我慢できなかっただけだよ。」
「しかし、これで他のパーティーとの連携はなくなりましたよ?」
リアがなかなか鋭い指摘をしてくる。しかし、奴隷に危険な役目を押し付けて、自分の身の安全を確保しようだなんて連中と組もうなんて気は全く無い。
「いらないよ。こんな腰抜け連中。少しキツくなるかもしれないけど、俺達だけで狩る。」
「ご主人様・・・」
リアの指摘に表情を沈ませていたセレアが俺の服の裾を握る。
「心配すんな。昨日の俺を見たろ?それに、さっきの奴の話から考えて、巨大蟻の戦力はかなり削れてるはずだ。それに加えて、今回は俺だけが戦うんじゃないんだ。勝算は充分あるよ。」
「はいっ。全力でサポートさせていただきますっ。」
涙目で力強く頷くセレア。
「頼む。リアも、力を貸してくれるか?」
「え?は、はいっ。勿論ですっ。」
「ありがとう。んじゃ、一発いってみようか。」
「「はいっ」」
俺達は3人だけで、巣の入口に向かっていき、侵入を開始した。
冒険者証は普段から表に出して歩くような物でもないので、絡んできた冒険者以外の階級についての描写が出せませんでしたが、他も銅級です。それなのに、冒険者Aが何故あんなに階級を強調して威嚇してきたのか。これも近い内に明らかになります。
では、<小心者の物語>一旦の閉幕とさせていただきます。次回もお付き合いいただければ幸いです。
2016/4/9 本文の一部を修正しました。




