恩返しをしましょう その3
今回、暫定的にパーティーメンバーが増えます。戦力的には主人公1人でも充分過ぎるくらいなんですが。
イチャイチャ成分多めな<恩返しをしましょう その3>開幕~♪
それから程無くして、セレアが回収してくれた触角の束を持って森の出口へ向かう。
触角はかなり大量にあるのだが、セレアがその辺に生えていた蔦を使って上手くまとめてくれたので、非常に持ちやすい。それでもかなり重いが。しかし、セレアがそれを1人で持とうとするから、頭にチョップを軽く入れて俺にも半分以上持たせさせた。女の子にだけ荷物持ちなんかさせられるかっての。多い方を持とうとするのも同様の理由で却下した。
そんなやり取りを見ていたリアさんが
「あの・・・」
おずおずと声を掛けてきた。
「はい?」
「人間族の方、ですよね・・・?」
「そうですよ?あぁ。セレアに対する態度の事ですか?」
「は、はい。人間族は他種族に対して、その・・・」
「ですね。ああいうのを見るとイラッとくるんですよねぇ。少なくとも、セレアに対してだけは態度を改めさせてるんですけど。」
「は、はぁ・・・」
「ご主人様はとてもお優しい方なんです。ご自分では認められませんけれど、強くて優しくて暖かい素晴らしい最高のご主人様なんです。」
俺は明後日の方を向いて頭を掻く。全力で誉めちぎるんじゃない。照れくさいだろ。
マジマジと俺とセレアを交互に見るリアさん。
「・・・・そうですよね。確かに、お強いですし。巨大蟻の群れをたった1人で駆逐してしまったくらいですものね・・・いつもあんな感じなんですか?」
「ご主人様が戦ってらっしゃるところを見たのは初めてですから、もしかしたら普段はもっと凄いのかもしれません。私を買ってくださるまではお1人だったそうですし、ほんの5日で鉄級から銀級に昇級されたんですから。」
「は、はい!?5日で銀級!?いえいえいえいえ、有り得ないでしょう!それは!!」
「いいえ。ご主人様ですから。」
なんかセレアからの信頼度が異常に上昇してる気がする。俺、何かしたっけ?
「そ、それに、どうして驚いてないんですか!?初めて戦ってるところを見たっていうんなら、普通もっと驚きますよね!?」
「驚きましたよ?」
全く驚いているようには見えない様子でさらっと言うセレア。
「しかし、そんな事よりもご主人様がご無事である事の方が大切ですから。それに、ご主人様はこの依頼を受けるにあたって仰ってくださいました。私がご主人様の強さを信じられるくらいの事を見せてやると。それを本当にやって見せてくださったんですから、それがとても嬉しいんです。驚いている暇がないくらいに。」
「成り行きだよ。見せようと思って見せられたんじゃない。」
「でも、見せてくださいましたよ。それに、1匹も後ろに通さないという言葉まで実践してくださいました。」
熱い視線を向けられる。えぇい、くそ、恥ずかしいな。
「でも、」
「ん?」
「お願いします。今後はご自身の眼前の敵を後回しにするような事はなさらないでください。いくらご主人様がお強くても胆が冷えました。私も、自分の身を守る事くらいはできます。ご主人様の重荷にはなりたくありません。」
「ん、そうか。分かったよ。でも、重荷とかそんな事思った事ないぞ?今回は重傷人の手当てを優先させたかっただけだ。」
「はい。ありがとうございます。」
「・・・・ん~?」
セレアの顔を覗き込むと
「え?え?」
真っ赤になりながら、手を胸の前でワチャワチャさせる。そんなセレアの頬を軽く引っ張りながら
「分かってないだろ?ヘコんだ顔してるぞ。」
指摘してやる。
「ふぇ?」
混乱全開といった様子で、やたらと可愛い間の抜けた声を出すセレア。あぁもうっ、無駄に可愛いなぁっ。
「自分の事、足手まといだとかそんな風に考えてんじゃないだろうな?」
「あ、い、いえ、し、しかし・・・」
礼を言った時と同じく、ほんの少しだけ表情に陰が差す。だから、頬の手を離して頭を撫でてやる。
「大事なものを守ろうとしたら、それが足手まといか?セレアが俺を守るって言ってくれたのは、俺が足手まといになるって思ってたからか?」
セレアは俺の言葉に瞬間的に反応して、思いきり首を左右に振る。
「そっ、そんなわけありませんっ!!!ご主人様は私の大切なご主人様ですから、全力でお守りしたいんですっ!!!!」
むぅ。そこまで力説されると恥ずかしいけど。
「ありがと。俺にとってもセレアはそうだよ。」
「っっっっ。は、い。ありが、とう、ございます。」
目に溜まった涙を拭きながらこちらを見上げて嬉しそうに笑う。
「うん。分かったんならよし。」
何やら複雑な顔をしているリアさんには気付かないフリをして、森の出口へと足を進める。
うん、端から見てたら鬱陶しいよね。俺なら<リア充爆発しろ>って全力の呪いをかけてる。しかし、俺とセレアはそういう関係ではないのでご勘弁願いたい。勘違いしたくなるけど、セレアはただ主従の関係の下で言ってるだけだろうし。
辺りが完全に闇に沈んだ頃、ようやく俺達は森からの脱出に成功。これ、俺1人だったら絶対にまた迷ってたぞ。セレア、すげぇ。全く迷いなく進んでたもんな。これからも頼りにしていこう。
森から出た所では、依頼を受けたんであろう冒険者らしき人影がいくつかのグループに別れて焚き火を囲んでいる。どのグループも大体4~6人くらいなところを見ると、パーティー毎にバラけてるって感じだろうか。全部で30~40人くらいかな。
俺達も他のグループから適度な距離を取って、腰を下ろす。くそ、汗と蟻の体液とでメチャクチャ気持ち悪いな。
「ご主人様。薪を集めてきますね。」
「寒いか?セレア。」
「いえ。ちょうどいいくらいですが。」
「リアさんは?」
「私も寒くはないです。」
「なら、焚き火は止めておこう。闇夜の中じゃ目立ち過ぎる。モンスターの目を引いても困るしな。」
「はい。分かりました。」
「でもまぁ、寒くなったら我慢しないでくれ。体調を崩す方が厄介だ。」
「「はい。」」
「ところで、どっかに水場ってなかったっけ?汗と蟻の体液とで気持ち悪いんだよな。」
「確か、街からの途中に川があったと思いますが、かなり戻らないといけなくなります。」
「あ、じゃ、いーや。面倒くさい。どうせ明日も汚れるんだし。」
「私が汲んできますよ?」
「ダメ。夜道に1人とか危ない。」
「危ないから、ダメなんですか?」
俺とセレアのやり取りに対して、当たり前の事を聞いてくるリアさん。
「当たり前でしょう?気持ち悪くても死ぬワケじゃ無し。明日の討伐が終わってから帰り道ついでで充分です。」
「はぁ。なんて言うか、その、タカシ様は本当に・・・」
「変わってますか?」
「違います。ご主人様はお優しいんです。」
リアさんの言葉の後を続けた俺に、その言葉を即座に訂正するセレア。本気で俺への好感度が急上昇してるっぽい。ホントに何かしたっけかなぁ?
何やら考え込んでいるっぽいリアさんだが、暗くてその表情は見えない。
「ま、それはともかくとして、飯食って休もう。明日は駆逐作業が始まるんだ。しっかり体を休めないと。こっちの人数も多いけど、巨大蟻の数も今日より多いだろうからな。」
「はい。そうですね。」
リュックから黒パンや干し肉、革袋の水筒を出して、セレアとリアさん、俺と一食には充分な量をそれぞれに渡す。
「え?」
「ん?どうかしました?あ、肉はダメでしたか?」
確か、一部のファンタジー設定では、エルフは完全に菜食主義だった気がする。
「え?あ、いえ。そうではないんですけど・・・・」
でも、この世界のエルフは違ったらしい。まぁ、現実だしな。
「こんなにいただいてしまって、いいんですか?」
「ええ。足りなかったら言ってください。血を増やすにはまずは食わないとですしね。食料は多めに用意してるんで、ご遠慮なく。」
「・・・でも、もう薬草も大量に使ってもらってます。奴隷の身ですから、何もお礼に差し上げられるものもありませんし・・・・」
「別に見返りを求めてるワケじゃないですから、その辺は気にしなくていーですよ。と言うか、食ってくれないと、俺が食い辛いんで食ってください。」
「え、えぇぇぇ・・・」
何やら戸惑いの声を上げているリアさんだが、食料も充分過ぎるくらいに持ってるのに、1人だけ食わせないとかどんなイジメだ。ましてや、相手は女の子。そんな状況になるんだったら、いっそ俺だけが食えない方がいくらか気が楽だぞ。
「甘えてしまっていいかと思います。ご主人様はこういう方ですから。私への命令ですら、どれも私を気遣って甘えさせてくださるようなものばかりな方なんです。」
隣のセレアが言いながら肩を寄せてくる。
「でも、それをご自身の我儘だと仰って、気を使わせないようにされる優しくてイジワルな方でもありますけれど。」
「は、はぁ。」
「だって、ホントに単なる我儘だろ?」
くすくすと何故か嬉しそうに笑いながら
「はい。初めてお聞きした、とても優しい我儘です。」
「むぅ。」
前に俺が言った事をそのまま返されて、返す言葉が出ない。にゃろう、俺を言い負かすとは生意気な。悔し紛れにセレアの頭を撫で回す。セレアは力が抜けたように俺の肩に頭を乗せて、その感触で耳がピクピクしているのが分かる。あぁもう、可愛い。
「まぁ、そんな感じなんで、とりあえず食べましょう。」
「は、はい。」
そんな感じで食事が始まる。でも、飯を食ってる間くらい、セレアはもう少し離れてもいいと思います。ずっと肩を寄せたままなのだ。常時、セレアのいい匂いがして柔らかくて華奢な肩が触れてると、暗闇な事もあって、SAN値がガンガン削られていってるの分かってくれませんかね?それに、俺、絶対に汗臭いよなぁ。ヤだなぁ。汗臭いって思われてたら。それはショックで軽く死ねる。
食後は俺とセレアで交代に夜の見張りをして休む事に。リアさんも見張り番を申し出てくれたのだが、俺が断った。今は少しでも体力を回復してもらわないと困るからだ。街に戻るにしても、討伐に参加するにしても、体力が回復しないと話にならない。
討伐に参加するのなら、彼女のパーティーが全滅したであろう事を考えても、俺達と行動を共にする分には問題は無いだろう。それでも、体力は回復させておくに越した事はないけど。しかし、申し訳ないんだが、もし、街に戻る選択をリアさんがするのであれば、1人で帰ってもらわなくてはならない。道中はのどかなものだったし危険も少ないって話だから、リアさんを送り届けることよりも、アンナちゃんやエラーデさん達に危険が及ぶ可能性があるという巨大女王蟻の討伐の方が俺の中での優先順位は高いのだ。
1番体を酷使したからという理由で、俺が先に休ませてもらう事になった。勿論、セレアには絶対に途中で交代するように命令した上でだ。そうでもしないと、セレアは徹夜で見張りをしかねない。また抱きついてきて、何故かイジワルと言われてしまったが。
翌早朝、日の出と共に他の冒険者パーティーも行動を開始する。どうやら、討伐隊と言っても司令塔がいるとかそういうのではないようだ。ただ、大勢で仕掛けるタイミングを合わせようというだけのものらしい。まぁ、烏合の衆がいきなり統率の取れた行動をしろってのも無理な話だろうけど。互いにやり方も違えば考え方も違うのだろうから。
俺もセレアとリアさんを起こして準備を始める。
「リアさん。」
「はい?」
「俺達はこれから巨大女王蟻の討伐に向かいます。リアさんはどうしますか?討伐に向かうのなら、行動を共にしてもいいです。かまわないよな?セレア。」
「はい。」
「ありがと。で、街に戻るのなら、申し訳ないんですが、ここでお別れです。巨大女王蟻は放置しておいたら俺が世話になった人達に危険が及ぶかもしれないんで、確実に駆除されたのを確認しておきたいんです。街までの道中ならさほど危険もないでしょう。食料と水はお分けしますから、その辺は心配しなくていいです。どっちでも、リアさんのしたいようにしてください。」
何故か頭を抱えるリアさん。そんなに悩む事か?今回の依頼には別にペナルティーもなかったし、パーティーが全滅したっぽい事を話してた時の表情からして、パーティーに愛着があるような感じでもなかったから仇討ちを考える事もないだろう。加えて、彼女は今、奴隷の立場にいる。討伐に参加して褒賞金を得たところで、奴隷の物は主人の物というジャイ○ニズム万歳な決まりがあるせいで、何のメリットもない。加えて、街までの道中の危険は討伐に比べてかなり低い。どう考えても、彼女にとっては戻る選択をするのが1番得なのだ。一応は彼女の意志を尊重するために二択にしたけど。
「・・・足手まといなのが分かりきっているのに、一緒に来てもいいって・・・?・・申し訳ないって、私を送れないから・・・?・・お世話になった人が危ないから討伐に・・・・・食料と水は分ける・・・?・・私に・・・?・・・」
頭を抱えたまま、何やら小声でブツブツと独り言を言い始めるリアさん。どうやら、選択を迷ってるんじゃなくて、俺の言った事に混乱しまくってるらしい。口に出てるのにも気付いてないっぽいし。しかし、至って普通の事しか言ってないと思うんだが。
俺がそんな事を疑問に思っていると、セレアが顔を近付けてきて
「通常、主人を失った奴隷は販売元に戻るまで暫定的に最初に見つけた人のものになります。それに、獣人族程ではありませんが、亜人族と呼ばれるエルフやドワーフも人間族よりも立場が低いんです。なので、恐らくですけれど、ご主人様の優しさに混乱しているんだと思います。ご主人様の優しさは獣人族や亜人族の奴隷にとっては破格の扱いどころの騒ぎではありませんので。」
と耳打ちしてくる。
「なるほど。」
奴隷制度にはそんな決まりもあったのか。んで、セレアも同じように混乱したから、今のリアさんの混乱が分かる、と。そういう事なら、落ち着くまで少し待ってあげた方がいいか。
しかし、この世界の人間は本気でアホなんじゃなかろうか。セレアみたいな超絶美人で無駄にいちいち可愛い子やリアさんみたいな芸術的美人まで蔑視するとは。綺麗と可愛いは正義で、幸せの象徴だぞ。その証拠にセレアが側にいるようになってから、俺の表情筋は弛みっぱなしだ。理性と本能の戦いは激しくなるから、平和の象徴ではないけれど。
それから少しの間、セレアの頭を撫でて時間を潰していた。ちょっと耳も触らせてもらったりもした。柔らか硬くて、癖になりそうな感触。セレアのちょっとくすぐったそうな、でも嬉しそうで気持ち良さそうな顔が1番癖になりそうですが。あと、手を離した時の物足りなさそうで残念そうな、んで、ちょっと不満そうな顔が可愛くて堪りません。セレアが嫌じゃなかったら、これから毎日触らせてもらおうかなぁ。でも、セレアの反応見てると、ゴリゴリとSAN値は削れるし、理性の耐久力が激減していくのに対して、本能の攻撃力の上昇率が半端ないしなぁ。
「あ、す、すみません。少し混乱してしまって・・・」
我に返ったリアさんが頭を下げてくる。撫でていた手を離してリアさんに向き直る。セレア、恨みがましい目でリアさんを見ないの。頭ならまた撫でるから。
「いいえ。それで、どうしますか?一応、俺が暫定的な主人という事になりますが、あくまでも暫定ですし、それは気にしなくていいです。と言うか、気にしないでください。困りますんで。」
「は、はい。でも、その・・・付いて行かせてもらえませんか?」
マジか?
「いいんですか?正直なところ、1人でとは言え、街に戻った方がいいと思いますけど。と言うよりも、討伐に参加するメリットがないでしょう?」
「いえ、このまま街に戻ってもどうしようもないです。できれば、この討伐の後も連れていってほしいんです。」
「この後も?」
「はい。いつかで構いません。私をリブラレールの街まで連れていっていただきたんです。その間は全身全霊をもってお仕えします。必ず、お役に立ってみせます。どうかお願いしますっ。」
いきなり土下座してくるリアさん。
「ちょっ!?わ、分かりましたっ。分かりましたから、そういうのは勘弁してください。」
リアさんの手を取って立ち上がらせる。
「ダメ、でしょうか?」
項垂れるリアさん。
「ふぅ。まぁ、特に支障があるワケで無し、構いませんよ。な?セレア。」
「はい。ご主人様に異存がなければ、私は構いません。」
「ありがと。んじゃ、そういう事で、その街までよろしくお願いしますね。リアさん。」
「あっ、ありがとうございますっ。」
リアさんは表情を明るくして深々と頭を下げる。
「さて、じゃあ、そういう事なら、3人で行きますか。他のパーティーからちょっと出遅れちまったしな。」
「「はいっ。」」
2人のハモった返事を受けて、再び森の奥へと出発。
しかし、わざわざ討伐についてきてまで、連れていってほしいと頼むその街には何かあるんだろうか?討伐についてくるのは、1人帰ってその後に頼み事がし辛いって事だろうから分からんでもないんだけど。事情はちゃんと聞かないとな。
まぁ、それは街に戻ってからでいいとして、蟻の触角、邪魔だなぁ。微妙に重いし、嵩張るし。何とかできないもんかなぁ。金になる物だから捨てるワケにもいかないし。
今回は新しい能力の発動は無しです。能力そのものが発動してません。
リアが主人公達についていこうとするのは、とある事情からなのですが、それは近い内に明らかになります。
では、<小心者の物語>一旦の閉幕とさせていただきます。次回もお付き合いいただければ幸いです。
2016/4/9 本文の一部を修正しました。