恩返しをしましょう その2
今回、主人公が徹底的に無双します。そして、作者的ファンタジーの王道、エルフが登場!!
それでも、やっぱり壁殴り代行は必要な感じで、<恩返しをしましょう その2>開幕~♪
道中は相変わらず平和平穏。ピクニックに来ているかのようなのどかさだ。これまでもモンスターと遭遇したのは森の奥や街からかなり離れた所でのみ。RPGなら街から出た瞬間にエンカウントなんて事も普通なんだけど。
「これまでも思ってたんだけど、道中ってこんな平和なもんなのか?」
「土地柄にもよるかと思いますけれど、王都付近なら滅多にモンスターと遭遇するような事はないと思います。いたとしても、冒険者や王宮の兵士の行き来が多いですからすぐに駆逐されると思いますから。」
なるほど。
「それでも人を好んで餌にする粘液性不定形生物やオーガ、巨大蟻などは稀に出てくる事もあるそうですが。」
ゲ。人を好んで餌にする奴なんかもいるのか。しかし、粘液性不定形生物って・・・某有名RPGの雑魚モンスターとは違うのか?
「粘液性不定形生物って、厄介な相手だったりするのか?」
「はい。斬撃も打撃も効果がないので、恐らく魔法でしか倒せないかと思います。」
なんですと?
「全身が液体でできているようなので変な言い方ですが、粘液性不定形生物の体液は鉄も溶かします。下手に剣で斬りつけると剣がダメになってしまいますし、飛び散った体液が体にかかると、骨まで溶かしてしまうかもしれません。昔、私が遭遇した時は逃げる事しかできませんでした。」
マジか。斬撃耐性に打撃耐性、しかも、強酸性の液体で体が構成されてるのかよ。雑魚どころか、ほぼ最強なんじゃないのか?
「ただ、個体数は少ないんだと思います。あまり遭遇したという話は聞きませんでしたから。」
「そっか。よかった。まぁ、そんなのが大量にいたらたまらないよな。遭遇しない事を祈ろう。」
「はい。」
「セレアはモンスターに詳しいんだな。あんまり出てこないヤツの事も知ってるんだから。」
「い、いえ、そんな。」
頬を赤らめる。
「狼人族はいろんな素材になるモンスターを狩って生計を立てている事が多いですから、大人からモンスターの事を聞かされて育つんです。ですから、狼人族なら皆これくらいは普通ですよ。」
「へぇ~。んじゃ、これからモンスターの事も教えていってくれな。」
「はいっ。喜んでっ。」
嬉しそうに表情を輝かせるセレア。ちょっと垂れていた耳はピンと立ってピクピクして、ふさふさの尻尾も左右に揺れている。
あぁもう、いちいち可愛いなぁ、おい。
適度な休憩を挟みつつ、目的地へと歩を進めて、のどか過ぎて目的を忘れそうになった頃、北西の森の入口に到着した。他の冒険者の姿は見えないが、遠くに戦いの声が聞こえる。恐らく、先行した冒険者パーティーだろう。しかし、この感じからすると、かなり奥に進んだ先が目的の巣っぽい。今から進んで下手に戦闘になったら、戻ってくるのが夜になってしまうかもしれない。夜の森は軽くトラウマなんだよなぁ。
「セレア。森で迷わない自信なんかあったりする?」
「はい。」
あっさりと答えるセレア。
「夜になっても星さえ出ていれば、思いきり奥に進んでもまず迷わないと思います。」
「マジか。んじゃ、戻る時は任せていいか?方向感覚には自信が全くないんだ。前に普通に迷った事あるし。」
「はいっ。お任せくださいっ。」
またも嬉しそうなセレア。俺が頼りにするのを喜んでくれるのなら、もう思いっきり甘えてしまおう。特に、これに関しては格好つけて俺が先導したりしたら、まず間違いなく遭難する。ちょっと情けないけど。
戦闘の声を頼りに、森を奥へと進んでいく。しばらく進んだ所から、いろんな死骸が目に付き始める。
ゴブリンやコボルト、オーガなどのモンスターのものから、原型を留めていないスプラッタなものまで様々だ。原型を留めていない死骸は、恐らく討伐目標の巨大蟻が狩りをした痕なんだろう。あれを冒険者が狩った結果だというなら嫌過ぎる。この先にどれだけ猟奇的な奴がいるんだって話になるからな。
それからまたかなり進んだ所で、先の茂みが大きい音を立てて揺れたかと思ったら、デカい蟻が顔を出した。1人のエルフの女の子の後を追って。
「セレアはその子を頼む!!」
言い捨てて、俺は抜いていたフランベルグをエルフの女の子に追い付きかけていた巨大蟻の頭に叩き付ける。ギンッという硬い音を立てて剣が弾かれるが、突進を押し戻す事には成功する。カッタイなこいつ。
押し戻されたヤツの後から、茂みを踏み分けて続々と現れる巨大蟻の群れ。
って、オイ!?一体どれだけ出てくる気だ!?
僅かな時間で目の前が巨大蟻で埋め尽くされる。
仲間が一撃で押し戻された事に警戒したのか、大顎をギチギチと嫌な音を立てているものの、すぐには襲ってこない。そこへ
「ご主人様。一旦逃げましょう。数が多過ぎます。」
セレアがエルフっ娘に肩を貸しながら俺の隣にきて、群れを刺激しないように声を抑えて言う。
逃げられるもんならそうしたいが、エルフっ娘はどこかでぶつけたのか頭から血を流し、左腕に大きな怪我を負って息も絶え絶えな状態だ。とても逃げ切れるような状態には見えない。
「・・・捨てて、いってもらって、構い、ません、よ。足手まと、いが、いたら、逃げられるも、のも逃げ、られませ、ん。」
喋るのも辛いんだろう。セリフも途切れ途切れだ。
「見捨てるくらいなら、最初から助けないよ。」
視界の端でエルフっ娘が驚いたような顔で俺の方を見る。
「セレア。リュックに薬草が死ぬ程入ってる。止血だけでも先にしてくれ。この出血量じゃ体が持たない。」
「え?」
「1匹も俺の後ろには通さないつもりだけど、手当てが終わったら、その子を守ってあげてくれよ。」
「ごっ、ご主」
痺れを切らせたのか、数匹の巨大蟻が襲いかかってくる。セレアのセリフを最後まで聞いてやれないままに、俺も巨大蟻の群れに躍りかかる。
「オラァァァァァッ!!!」
先頭の1匹が大顎を開いて噛みついてきたところに、口内へ刃を突き立てて一撃で絶命させ、突っ込んだ勢いのままにその巨体を蹴り飛ばして剣を抜き、側の奴らの脚を斬り飛ばして前進を止める。
こいつらが硬いのはもう分かった。なら、狙うのは関節や口内とかの他に比べて確実に柔らかい部分だ。関節部分はそれでも硬いが、剣を振り抜けない程じゃない。
息の根を止める事よりも行動不能に追い込む事を優先して、襲いかかってくる個体の触覚を斬り落としていく。普通の蟻と同じく6本脚なせいか、脚を1本斬り落としたところで一旦は動きを止めるが、それでも襲いかかってくる。ただ、触角が急所なようで、1本斬り飛ばすと耳障りな絶叫を上げ、2本目がなくなると、のたうち回るようになり、戦線から離脱していく。
「蟻なら蟻らしく踏み潰されて死んでろ!!!」
大顎で噛みついてきた1匹の口内を貫き、突進してくる個体の身体の継ぎ目を切り裂き、剣が間に合わないタイミングのヤツには横面を蹴り飛ばして前脚を斬り落としながら、思わず声を荒げる。1匹1匹の動きは大して速くもないんだが、間断なく襲われ続けるとイラッとくるのだ。蹴り飛ばす度に足が痛くてジンジンするし。幸いと言うか何と言うか、巨大蟻は俺を脅威と見なしたのかほとんど俺にしか襲ってこない。たまに後ろに抜けようとする個体もいるが、それは目の前の奴らを無視して飛びかかり、最優先で絶命させる。
かなりの時間がかかって、ようやく出てきた巨大蟻を全滅させる。途中で退散とかしろよ・・・・
最後の1匹にトドメを刺したところで、剣を地面に突き立てて座り込む。さすがに汗だくで気持ち悪い上に疲れ果てた。
「ごっ、ご主人様っ!?」
セレアは慌てた声を上げて俺に駆け寄ってくる。俺は大きく息を吸って
「つっかれたぁぁぁぁぁぁっ!!!」
押さえきれない気持ちを叫んだ。
「え?」
俺の側に跪いたセレアは何故かキョトンとする。
「なんっで途中で退散とかしねぇかな、こいつらはっ!!疲れるわっ!!やたら硬いから蹴ったら足は痛いし剣を振り抜くのもしんどいしっ!!!!」
ポカンとなっているセレアと少し離れた所でしゃがみこんでいるエルフっ娘。
「あ、あの、お怪我は・・・?」
「ん?あぁ、あんな程度じゃ怪我なんてしないしない。大して動きも速くないし。」
「ふぅ。よかったです。」
安心した顔で、ポケットから布を出して俺の顔の汗と巨大蟻の体液を吹きとってくれる。
ヨロヨロとエルフっ娘が歩み寄ってくる。
「貴方は一体・・・いえ、お礼が先よね。あ、いえ、先ですね。助けていただき、ありがとうございます。」
頭を深々と下げるエルフっ娘。しかし、何故に急に言葉使いを直した?
「あ、いや、無事で何よりですよ。とりあえずは怪我もどうにかなったみたいですし。」
頭を上げて、驚いたような表情でこちらを見つめるエルフっ娘。何を驚いてるの?
「すみません、ご主人様。薬草が半分くらいにまで減ってしまいました。思ったよりも傷が深かったので・・・」
「あっ、す、すみませっ、も、申し訳ありません。貴重な薬草を。そちらの狼人族の方には非はありません。どうか罰を与えられるのでしたら、私にお願いします。」
エルフっ娘が慌てた様子でセレアの後に言葉を繋げ、またもや頭を下げてくる。
「いや、あの。どっちから返事したもんか困るんだけど・・・え~と、まずはセレア?」
「はい。」
若干シュンとなっているセレアの頭を撫でる。
「謝る事なんかないよ。そもそも俺が頼んだ事じゃないか。」
「ご主人様・・」
「ありがとな。俺1人じゃ手遅れになってたかもしれない。セレアのおかげで後悔しなくてすんだよ。」
「っっ。はいっ。」
また目を潤ませて俺に抱きついてくるセレア。その様子をポカンとして見ているエルフっ娘。
人前は非常に恥ずかしいんですが!?いや、人前でなくても充分嬉し恥ずかしいんですけどね!?
「セ、セレア。服が汚れるぞ。俺、蟻の体液と汗でグシャグシャなんだから。」
ハッとなって赤くなりながら離れるセレア。くっつくかれると恥ずかしいんだけど、離れられるのはやっぱりちょっと勿体ない。
「す、すみません。つい、嬉しくて・・・」
「い、いや、嬉しいんだけどね。俺も。」
セレアは益々赤くなり俯いてしまうが、尻尾はパタパタと振られている。
えぇい、ホントいちいち可愛いなもう。
「ま、まぁ、そんなワケなんで、罰とかそんなの有り得ませんよ。ありがとうございます。でも、心配しないでください。」
いまだにポカンとなっているエルフっ娘に声を掛ける。多分、さっきのは奴隷の身であるセレアの身を案じての言葉だったんだろう。なので、一応お礼は言っておく。俺とセレアの間に対しては全く無用の心配ではあるけれど。
「あ、は、はい。え、と、あ、ありがとうございます・・・?」
なんだか完全に混乱し切っている様子だな。まぁ、獣人族への人間族としての態度を考えれば、無理もないのかもしれないけど。それにしても、エルフは獣人族に対しての差別意識とかは無いもんなのか?それとも、この子の感覚の問題なだけなのか。
と、そこでエルフっ娘の首に首輪がある事に気付く。
あぁ、なんか妙に言葉使いを直すと思ったら、この子も奴隷だったのか。別に俺は主人でも何でもないんだから気にしなくていいのに。
いや、それよりも・・・・
エルフ、キタァァァァァァァッ!!!!
内心、テンションは上がってたけど、上げてる場合でもなかったから抑えてたけどもっ!!もう心置きなくテンション上げられる!!!
尖った長い耳!美しい容姿!ファンタジーの王道!!エルフっ!!!偏見かもしれんが、エルフに憧れなかった奴はいないっ!!!!
恐らく目が輝いているだろう事を自覚しながら、エルフっ娘を見つめていると、セレアが少し膨れた顔をして俺に肩を寄せてくる。
「ん?どうかしたか?」
「・・・いいえ。なんでもないです。」
言いながらも離れようとはしない。これはまさか・・・・妬いてる?
なワケないよね~。分かってる分かってる。所詮、俺は中の下。こんな超絶美人でいちいち可愛い子が妬くワケない事くらい分かってるって。
分かっちゃいるんだけど、なんか自分で考えてて落ち込んできた。疲れたし、一旦森を出よう。また襲われたら、数次第では体力的に危ない。エルフっ娘も、薬草では傷は塞げても失った血まではどうしようもないのか、顔色も良くないし。
「セレア。一旦森を出よう。さすがに本気で疲れた。」
「あ、はいっ。しかし、討伐部位の回収はどうされますか?」
「あぁ。そっか。忘れてた。触角を斬り落とした奴もいるけど、見てすぐに右か左かって分かるもんか?」
「はい。右の触角にだけ球状の瘤が付いていますので。」
「んじゃ、斬り落とし済みのを優先的に回収して持てるだけ持っていこうか。」
「はいっ。では、すぐに集めてきますので、ご主人様は少しお休みになっていてくださいね。」
「いや、俺も動くよ。結構な重労働じゃんか。」
「いいえ。先程の戦闘ではお役に立てませんでしたから、せめてこれくらいはお任せください。ご主人様は先程誉めてくださいましたけれど、これくらいはさせていただかないと私の気がすみませんっ。」
やれやれ。生真面目な。もっと適当でいいのに。
「分かったよ。じゃあ、頼んだ。」
「はいっ。」
セレアは嬉しそうに回収作業に入る。
さて、エルフっ娘に聞く事を聞かないと。
「少し聞いてもいいですか?」
エルフっ娘は目を白黒させながら自分を指差す。俺が首肯すると、
「は、はい。えと、どうぞ。」
「1人で来たワケじゃないですよね?」
「あ・・・はい。」
表情が複雑なものに変わる。やっぱりか。
巨大蟻の群れを全滅させた頃から、森に入る前に聞こえていた戦闘の声が全く聞こえなくなっている。もしかしたら、もっと前からなのかもしれないが。
エルフっ娘と会う少し前、その声が時折聞こえなくなったと思ったら、一際大きい声が耳に届いてくるという事が何度かあった。耳をすまして聞いてみると、それは気勢の声と言うより、絶叫に聞こえた。その直後に、この子が巨大蟻に追われて出てきたのだ。しかも、1人傷付いた体で。
つまり、先行していた冒険者パーティーは壊滅状態、もしくは全滅したのだろう。何せ、誰一人として、奥からやってくる人がいない。だから、この子は1人逃げてきたのだ。
「ふむ。それじゃ、とりあえずは一緒に森を出ましょうか。ここに居てもどうしようもないでしょう?」
また驚いた顔をするエルフっ娘。
「い、いいんっ、よろしいんですか?正直、血を流し過ぎて、立っているのもやっとな状態です。足手まといにしか・・・」
「戦ってもらおうなんて考えてないから、それは気にしなくていいです。それに、さっきの俺の戦い振りは見たでしょ?身の安全は保証しますよ。少なくとも、さっきみたいな数に襲われるような事が無い限りには。」
「・・・・では、申し訳ありませんが、同行させていただいてよろしいですか?」
「はい。でも、2つだけお願いがあります。」
「・・・はい。」
何やらやっぱりかというかのような表情をするエルフっ娘。
「1つは、なんていうか、喋り口調、自然な感じでお願いします。」
「・・・・・はい?」
「いえ、だから、喋り方ですよ。俺は貴女の主人でも何でもありません。なので、畏まる必要もないでしょう?それに、苦手なんですよ、そういうの。」
「は、はぁ・・・」
鳩が豆鉄砲をマシンガンで食らったような顔で首肯してくれる。
「2つ目ですけど、俺はタカシ リュウガサキと言います。」
エルフっ娘は何の事だかさっぱりという顔をするが
「名前、教えてもらっていいですか?」
「あっ。すっ、すみませんっ。あの、私はリアですっ。サルファランクの森、エランとラーヤの子、リアと言いますっ。」
自己紹介とともに、真っ赤になりながら頭を下げてきた。
今回の話で新しく発動した能力は【挑発】です。相手の敵意を自分に集中させるという、よくあるものですが、セレアを危険な目に遭わせたくない主人公にはピッタリなものだったようです。数が多過ぎると、敵意が逸れてしまう事はありますが。
では、<小心者の物語>一旦の閉幕とさせていただきます。次回もお付き合いいただければ幸いです。