パーティー結成で地味チート セレアの視点
主人公の1人称だけでは難しかったセレアの心情の変化を綴った、パーティー結成編のB面のような話です。作者の文章力の無さが嘆かれます。
セレア視点編では、その3からその5の中で、主人公の1人称では見えなかったセレアの心の動きと葛藤が語られています。
そんなパーティー結成編セレア視点、はじまり、はじまり~♪
今日、私、セレア ウィンスレットは1人の冒険者の男性に奴隷として買われました。5日前にほんの少しだけ顔を合わせた方です。
デューイ様から、今話題になっている鉄級の冒険者だと聞かされていました。鉄級の冒険者なら、私のような獣人族の奴隷をあえて買うのも納得です。人間族の奴隷に比べて圧倒的に手軽に手に入れられて、使い捨てのように扱っても惜しくもなんともない存在なのですから。
奴隷になる前に、冒険者に連れられ、ボロボロになっていた同族の男性と会った事があります。
その時に、その人に少しだけお話を聞かせてもらいました。遺跡の探索の際には罠の有無の確認の為に単独先行させられ、討伐の依頼の際には斥候の役目を負い、どんな怪我を負っていようが常に最前線での戦闘を強いられると。もし、奴隷に落ちる事があって、冒険者に買われる事になったら、少しでも気に入られるように振る舞えと。
だから、私は奴隷になってから、ひたすらに従順に振る舞いました。学べと言われた事は全て頭の中に叩き込み、何があっても常に静かに笑っているように。心を固くして、何を言われても動じないように。
しかし、新しいご主人様はとても変な方でした。
獣人の奴隷に、まるで人間族を相手にするかのような挨拶を返されるのです。
いえ、初めて会った時から変な方だったんです。私の方をじっと見てらしたので、とりあえず笑って視線を返したら、真っ赤になって視線を逸らしてしまって。まるで、1人の女性に対する態度のようでした。でも、そんな事がある筈がありません。蔑みの視線か、獣欲の塊のような視線。それがこれまで私が受けてきたものだったんですから。まだそんな自意識過剰なところがあったのかと、自分で自分に呆れてしまっていました。
それから、ご主人様に連れられて商会を出て少しして、またご主人様が変な事を言い出します。
「あれ?セレアさん、靴は?」
獣人奴隷にさん付けで呼び掛けるご主人様なんて、見た事も聞いた事もありません。
「そ、そういうもんですか。」
獣人に丁寧に喋る人間族なんて、会った事もありません。そんな風にされたら、どうしていいのか分からなくなってしまいます。内心の動揺は表には出さず、これまでに会った事のある人間族と同じように対応してもらう事を角が立たないようにお願いすると
「わかったよ。だから、頭を上げてくれ。どうにもこういうのは慣れないんだ。」
心底困ったように仰るんです。
「それで、靴は?」
あっ!失敗しました。問いかけに答えないままこちらの話をしてしまうなんて。自覚していたよりも動揺してしまっていたようです。機嫌を損ねてしまっていたら、まずいです。挽回しないと。
「生憎ですが、持っておりません。しかし」
「え?マジ?ごめん、気付かなかった。足、ここまで痛かったろ?宿に戻る前に買いに行こう。」
一瞬、何を言われたのか分かりませんでした。
ごめん?足が痛かっただろう?それって、私を、気遣って、くれている・・・?
いいえ!そんな事がある筈がありません!きっと、これは何か試されているに決まっています!
そう思いながらも、動揺が隠せないままに言葉を紡ぎました。
「い、いえっ!そんなっ、勿体無い!狼人族は人間族よりも体が丈夫にできていますから、どうかお気遣いなく。」
「靴を履く習慣がなかったりする?」
「え・・・あ、いえ、そういうわけではありませんが・・・」
「じゃ、行こう。悪いけど、靴屋までだけ我慢してくれな。」
「あ、は、はい。」
また私を気遣うような言葉を投げ掛けるご主人様。もう何が何やらさっぱり分かりません。
言われるままに、また歩き出しました。しかし、このままの流れで良いのか、不安を押し殺しきれず、お伺いを立ててみます。
「あ、あの・・・」
「ん?どうかした?」
「本当によろしいのでしょうか?まだ何の働きもしておらず、お役に立てるかどうかも・・・いっ、いえっ!勿論、お役に立てるように全力を尽くすつもりではありますが!」
また失敗です。自分の価値に疑問を持たせるような言い方はマイナスにしかならないのに、不安の方が勝ってしまっています。これまで自分の感情は上手く操れていたのに、この方に会ってから調子が狂いっぱなしです。
しかし、ご主人様には全く気にした様子もなく
「いやいや、役に立つとかそんなの関係無いよ。裸足のままは痛いだろ?そのまま我慢させてるなんて有り得ないって。ましてや、綺麗な女の子なら尚更だ。」
私の動揺をさらに大きくする、有り得ない事を口にされました。こんな事を普通に言われたのなんて初めてで、顔が熱くなってご主人様の顔が見れなくなってしまいました。
「き、綺麗だなんて、そ、そんな・・・え、えと・・・その・・・」
もう、本当に何を言えば良いのか、さっぱり分かりません。
それから、武器屋に到着しました。まさか、ここで私の靴を買われるおつもりでしょうか?武器屋や防具屋の靴は冒険者や旅をする人用に作られているので、丈夫で長持ちしますが、その分、普通の靴屋に比べてかなり高価な物なのに。
店内に入ると、女性がご主人様に声を掛けられ、ご主人様も屈託なく受け答えをされています。人間族の冒険者や兵士は女性が武防具に携わる事を、鉄が穢れると言って好まないと聞いていたのですが、ご主人様は気にされないのでしょうか。恐らく、腕前を重視されているのでしょう。実際に、この店に出されている武器は少し見ただけでも良いものだというのが分かる程の仕上げとなっているのですから。
そんな事を考えながら店内を視線だけで見ていると、またとんでもない言葉が聞こえてきました。
「え~っと、その辺りには特に拘りは無いんですけど。あ、でも、今回は懐に余裕がありますんで、値段は気にしなくていいです。」
それは私の靴の事を仰ってますよね!?
それから、少しの抗弁を行いましたが、ご主人様は全く取り合ってくださいませんでした。何故か武器屋の女性までご主人様の言葉を認めるような事を口にされて、立派な造りの靴をいただいてしまいました。
さらには、足に合わないような事があればすぐに言うようにと命令されました。その上、動揺し過ぎて言葉遣いが乱れてしまった事に対しても、咎めるどころか、その方がいいと仰って、自然に口を聞くように命令までされてしまいました。もう、本当に何を考えてらっしゃるのかさっぱり見当もつきません。私を気遣うような事ばかりを言われて、命令もそんなことばかり。でも、それでご主人様に何か得があるとは思えません。何かをさせたいのであれば、それこそ命令をすればいいのですから。
戸惑いと混乱が私の頭の中をグルグルと巡る中、生まれてしまいそうな1つの期待を否定して押し殺そうと必死になっていました。それは、獣人族が人間族には絶対に向けない感情。同族からすら、わたしにはほとんど与えられなかったもの。優しさ。
同族の女性からは、男性にいつも色目を使っている汚らわしい女と言われ、冷たくされてきました。同族の男性から向けられる視線は常にいやらしいもので、人より大きなこの胸にいつも視線を感じていました。男性からの誘いを断った後には、お高く止まっていると陰で罵られていた事も知っています。誘いをかけてきた男性の恋人からは泥棒猫と何度も罵声を浴びせられました。そんなつもりは全くなかったのに。
宿に着くと、ご主人様はまた有り得ない事を口にされます。私用の部屋を取るとおっしゃるのです。もう、どう否定すればいいのか分からなくなって
「あ、その、申し訳ないのですが、私にはこんな立派な宿の代金を支払えるような財産は・・・」
と、我ながら馬鹿な事を口走りました。奴隷に財産なんてある筈がないのは当然の事なのに。そんな馬鹿な事を言う私に
「いやいや。何言ってんだ?俺が払うに決まってんじゃんか。」
さも当然といった口調でご主人様は仰ります。思わず、驚きの声を上げてしまうと
「最低限の衣食住の保証は義務だって話だし、何もおかしくないだろ?」
また当然の事のように仰るんです。確かに仰る通りではありますけれど、こんな豪華な宿の一室を充てがうというのは絶対に違うと思います。
受付の人がそんな私の考えを肯定する言葉をご主人様に伝えます。私の方を蔑むように見ながら、ご主人様の事まで馬鹿にしたような視線を向けて。自分でも何故だか分からない程にそれが腹立たしく感じられた瞬間、ご主人様の纏う雰囲気が一気に変わりました。とても冒険者とは思えないくらいに柔らかくて優しげだったものから、相手を威圧する鋭いものへと。
「構わないですよ。それとも、俺の所有物の扱いに口出しされますか?」
その口から出た言葉はあくまでも丁寧なもので、でも、それが反って迫力を増して感じられます。
「!!!!とっ、とんでもございません!!!し、失言でございました。誠に申し訳ございません。」
受付の人が慌てて謝罪の言葉を紡ぐところへ
「あぁ、念の為、言っておきますが、俺は自分のものは大事にする質でしてね。他人に蔑ろにされると気分が悪くなるんですよ。」
追い討ちを掛けられます。しかも、それは私を守る為の言葉にしか聞こえないもの。
「は、はい。肝に命じて、丁重にお取り扱いさせていただきます。」
「ご主人様・・・」
本当に私はそう感じてしまっていいんですか?そう問い掛けるつもりが、やはりそんな筈がないという気持ちが邪魔をして言葉にできずにいると
「という事だそうだから、今日はお互いゆっくりしようか。俺も疲れが溜まってるし。あ、腹が減ってたらこの宿は食事付きだから部屋に持ってきてもらうも良し、食堂で食っても良し。自由にしていいよ。んで、何かあったら言いなよ。今、セレアは俺のものなんだから、我慢する必要なんてどこにも無い。」
優しい笑顔で口にできなかった問い掛けを肯定されて、押し殺していた期待が溢れてきてしまって、涙が溢れてきてしまいました。
「セ、セレア?」
ちゃんとお礼を言わなきゃいけないのに、涙が溢れて止まらなくて、きちんと言葉になりません。
「ご、ごめん。」
!?!?
何故か謝るご主人様に、怒りがこみ上げてしまい、思わず、それをそのままぶつけてしまいました。きちんとお礼も言えてないのに、喜んでいる事を分かってもらえないからって怒りをぶつけるなんて最低です。嫌われてしまったでしょうか。
それから、部屋に連れていってもらって、ご主人様は私が泣き止むまで静かに頭を撫でてくれていました。今度こそ、きちんとお礼を言わないと。あ、その前に、さっきの事を謝らないと。
「すみません。取り乱してしまって。」
「いいや。謝るような事じゃないよ。じゃ、俺の部屋は隣だから、何かあったら呼んでくれ。寝てたら叩き起こすように。」
「え!?」
そんな、まだお礼を言えてません。それに、叩き起こせだなんて、そんな事ができる筈がありません。ましてや、私の事なんかで。
「あぁ、これも命令ね。あぁ、俺の部屋の鍵は開けておくから。よろしく。」
「え、えぇぇぇ・・」
私が何も口にできないまま、ご主人様は部屋を出ていってしまいました。
どうして私ばかりが気遣っていただいているんでしょう。本来なら、私がご主人様に尽くさなければならない立場なのに。それなのに、お礼すらまともに言えていません。それどころか、勝手な怒りをぶつけて・・・嫌われてしまったんでしょうか。だから、ほとんど何も言わせてもらえなかったんでしょうか。
気持ちがとことんまで落ち込みます。もしかしたら、明日にでも捨てられてしまうのではないかと怖くなってきました。いえ、それよりも、あんなに優しくしてくださった方に嫌われてしまったかもしれない事の方が私の心を苛んでいます。
やはり、きちんと謝って、きちんとお礼を言いに行きましょう。手遅れかもしれませんが、ここで落ち込んでいても始まりません。
そう決心して、ご主人様の部屋の前まできて、ノックをしましたが、返事がありません。もう一度ノックをしてみても、何の反応もありません。いらっしゃらないのでしょうか?
そう思いながらもドアノブに触れてみると、あっさりとドアは開きました。
少しの驚きと、それ以上の喜びが体を震わせます。本当に鍵を開けておいてくださった事に。
しかし、中に入るのは躊躇われます。いくら呼べと言われていたとしても、許しもなく、奴隷がご主人様の部屋に入るなんて普通は有り得ません。ましてや、今回は私の話を聞いていただく為の訪問です。怒鳴られて、叩き出されたとしても文句は言えません。
でも、ご主人様ならと、思う自分もいます。
「ご主人様?セレアです。入ってもよろしいでしょうか?」
呼び掛けてみても、やはり返答はありません。
出直した方がいいのは間違いないのですが、どうしても先に謝っておきたい気持ちが抑えられず、僅かな逡巡の後、静かに中に入っていきました。
中に入ってすぐのソファーの上で、ご主人様はお休みになっていました。それも、剣すら外さず、さっき見た姿のままで。
そういえば、疲れが溜まっているような事を仰っていたような気がします。
それに気付いて、ストンと脚の力が抜けてしまい、ご主人様の側で跪くように座り込んでしまいました。
どうして私ばかりが気遣っていただいて、優しくしていただいているんでしょうか。剣すら外さず、ベットにも行けない程にお疲れなのに、ご主人様は私が泣き止むまでずっと側にいてくだっていたのに。私がご主人様に尽くさなければならない立場なのに、私は自分のことばかり。情けないにも程があります。
それなのに、ご主人様の顔を見て、ただお疲れだったから、ゆっくり話を聞いてもらえなかっただけなんだと思ったら、安心してしまって力が抜けてしまったんです。なんて自分勝手なんでしょうか。
ご主人様が起きたら、きちんと謝りましょう。それから、お礼も言って、優しくしていただいた分もしっかりとお仕えしていくつもりな事もお伝えして、それと・・・
それと?私は何を伝えたいんでしょうか?奴隷である自分がそれ以上に言える事なんてない筈なのに、それだけでは全然足りない気がします。何を言えばいいんでしょうか?
答えが見つからない自問自答を繰り返している中で、いつの間にか私の意識が闇の中に落ちていってしまいました。
それから、どれくらいの時間が流れたのでしょうか。目を覚ますと、ご主人様の顔がすぐ目の前に。
慌てて身を起こして、謝罪の言葉を紡ぎます。
もう最低です!勝手に部屋に入って、しかも、ご主人様の側で顔を寄せて眠るなんて、礼儀知らずも甚だしい失態です!!
しかし、そんな私に、ご主人様はまた有り得ない事を仰います。
「あ、え、い、いや。全然。むしろご褒美デス。」
その言葉に、私の中であった最後の箍が外れて、胸の中に分不相応な気持ちが溢れてきました。
そうです。私が伝えたかった事。側に置いてほしいという気持ち。片時も離れたくないという想い。もう1人ぼっちは嫌、優しい貴方と一緒にいたいという願い。
精一杯の言葉と行動で示しました。思い返すと少し恥ずかしいですが、大胆な行動にも出てしまいました。拒絶されたら、と考えたら怖くて仕方がなかったですが、ご主人様は優しく受け止めてくださいました。でも、少し優しすぎます。また泣いてしまったじゃないですか。両親が4年前に他界してからは人前で泣いた事なんてなかったのに。
それから、ご主人様がご自身の事を話してくださいました。異世界の方だという話には驚きましたが、それ以上に怖くなりました。いつかはご主人様は元の世界に帰ってしまわれるのではないかと。そして、その時にはお別れになってしまうのではないかと。
しかし、ご主人様はずっと側に置いてほしいという私の願いを聞き入れてくださいました。しかも、また私を気遣い、甘えろと言わんばかりの条件を付けて。
そんな事を言われたら、もう本当に甘えてしまいますよ?ずっと辛くて寂しかったんですから。
叱られるかなとまだ少し不安な気持ちはありましたが、してやったりという顔をするご主人様がなんだか愛しくてたまらなくなり、思いきり抱きついてみました。やっぱりご主人様は嫌な顔一つせずに受け止めてくださいます。
どうすれば、この喜びと幸せのお返しができるのでしょうか。
「側にいさせてくれ、なんてセレアに言われて喜ばない男はいないっての。少なくとも、俺の居た世界ならな。」
そんな事を言われましたが、いまいちよく分かりません。ご主人様はたまにしか私の胸を見ませんでしたし、見ていた時も今までの人達のようないやらしい目ではありませんでしたから、そういう意味でもないようですし。
でも、ご主人様に全くそういう目で見てもらえないのも悲しく感じてしまいます。私に魅力が無いんでしょうか。でも、可愛いと仰ってくださいますし。
しかし、ご主人様のなんだか嬉しそうなお顔を見て、そんな事はどうでもよくなりました。ご主人様が喜んでくださっているのなら、それが1番です。
今回の話ですが、実は元々の作者の発想にはなかったもので、ご指摘の中から生まれたものです。全部が生かせてるとは口が裂けても言えませんが、やはり、読者の方の意見はありがたいものです。
今後も読者の皆様からの批判・批評・ご指摘をお待ちしております。