パーティー結成で地味チート その5
今回の話でようやくパーティー結成です。
半分、ただのイチャイチャ編と化していますので、必要な方は壁殴り代行のご準備を(笑)
そんなパーティー結成編その5、はじまり、はじまり~♪
それから、どのくらいの時間が経ったんだろう。空腹で目が覚めた。
で、目を開くと、何故か目の前にセレアの顔があった。
「ッッッッッ!!!!!」
ギリギリで声は抑えられたけど、何故にセレアがここに!?
え?俺、ちゃんと自分の部屋に戻ったよな!?
軽くパニックになりながらも、セレアの寝顔が可愛くて目が離せなくて動けない。
セレアはソファーにほんの少しだけ頭を乗せてもたれるようにして眠っている。
で、俺はソファーの上で寝てた。
セレアが頭を乗せている位置は俺の顔の方。
つまり・・・・
超至近距離!!!!!!!!!
寝息が俺の鼻にかかる。
ジライ商会で初めて会った時と同じいい匂いがする。
垂れた耳がピクピク動いて、可愛さが急加速する。
ハッ!?いかんいかんいかん!!!!このままだと、俺の理性が弾け飛ぶ!!!
こういう時は円周率だ円周率。
3.1415
って、これ以上知らねぇよっ!!!算数も数学も苦手なんだよ!!!電卓とレジがあるんだからいいだろ!?
うぁぁぁぁぁぁぁ~混乱がパニックでコ○フュしてメダ○ニだぁぁぁぁぁ~~~
俺の思考回路がオーバーヒートしていると
「ん・・・あ!?」
目を覚ましたセレアは真っ赤になりながら弾かれるように立ち上がり、俯いてしまう。
「す、すみません。ご主人様。勝手にお側で・・・」
「あ、え、い、いや。全然。むしろご褒美デス。」
言いながら身を起こすと、セレアがスッと俺の前の床に座り、顔を上げて目が合うと、また俯いてしまう。
「ほ、本当、ですか?」
「え?」
上目使いでこちらを見上げるセレア。
あ、ダメだ。今、絶対ににやけてる。鼻の下、伸びまくってる。
「そ、その・・・今、ご主人様が、ご褒美って・・・」
「あぅ・・・はいです。」
うあぁぁぁぁぁ~!何口走ってんの、俺ぇぇぇぇ~っ!!キモイってぇぇぇぇっ!!!
「わ、私がお側にいて、ご主人様に・・・・よ、喜んでもらえますか?」
「いや、もうね。この顔見て。もう惚けてるよ?マジで。」
「でっ、ではっ、おっ、お願いがありますっ。」
「?うん。できる事なら何でも。」
そう答えると、セレアは数回の深呼吸した後
「せっかくもう1つ部屋を取っていただいたのに、こんなのは勝手だと分かっていますっ。し、しかし、どうか同じ部屋に置いてはいただけませんかっ!?お願いしますっ!!」
そう言って、土下座した。
はい?
一瞬、いや数秒の間、言われた事ができなかった。
「すっすみませんっ。調子に乗ってしまってっ。や、やっぱりダメ、ですよね・・・」
返答が無い事で拒否されたと捉えたんだろう。目に見えて落ち込むセレア。
「いいいいいいいいい、いや、ダダダダダダ、ダメな事ないけけけけけけ、けど。」
とんでもない爆弾を投下されて、年齢=彼女いない歴、ついでに言えば、この世界に来る前の数年間は仕事以外では女性と口を聞いた記憶のない俺は、完全に容量超過。
セレアに待ったの合図を手で示して、深呼吸を十数回。
最後の1回で噎せた。
「ご、ご主人様!?だ、大丈夫ですか!?」
慌てて俺の背中を擦ってくれる。
「だ、大丈夫。うん、落ち着いた。ありがと。」
「はい・・・」
背中を擦ってもらったせいで、さっきよりも距離が近付いていた。擦っていた手を見つめてセレアは何故かそこから離れない。
「嫌でしたら、離れろと命じていただけますか?」
「へ?」
正面からむにゅぅぅぅぅっと抱き締められる。
またもやパニックになりかけた俺は、セレアが小さく震えている事に気付く。
怖いのだ。きっと、これまでの人間からの扱いが頭から離れず、拒絶される事を想像して。それでも、必死に恐怖を押し殺して、精一杯に自分の気持ちを表現して、拠り所を俺に求めてくれているのだ。
これに応えてられなくて、何が男だろう。
優しく、でもしっかりとセレアを抱き締め返す。ビクッとセレアの体が震える。
「ご主人様・・・」
「嬉しかったら、なんて命令したらいい?満足するまで離れるな、かな?」
「グスッ・・・そんな命令をもらってしまったら・・一生この状態から、動けません・・・・動きたくない、です・・・・」
また泣き出したセレアが落ち着くまで、そのままの状態でいた。
泣き止んだセレアは名残惜しそうに離れて、また床に座ろうとする。が、俺に体を引き寄せられ、隣に座らせられる。
「ご、ご主人様?」
「床は座る所じゃない。座るんなら、椅子かベットにしとけ。」
「し、しかし、奴隷がご主人様と」
「いいから。あ~、んじゃ、これも命令。」
「は、はいっ。」
返事をして、セレアは会ってから初めて見せる自然な笑顔を浮かべる。
「ご主人様はやっぱりとても優しい方ですね。獣人の奴隷にも、まるで同族のように接してくださるんですから。」
あ~、やっぱりそんな風に取られてたか。これは事情を知ったらガッカリさせるんだろうなぁ。とは言え、これから一緒にいてもらう以上は知ってもらわないと、いろいろ不都合が出るのは間違いがない。何せ、俺はまだこの世界の事を知らなさすぎる。無用なトラブルを避ける為にも、俺の事情は信じてもらわないと。
「ん、そう言ってくれるのは嬉しいけど、別にそんな良い奴でもないよ。俺は。」
「そんな事ありませんっ。ご主人様は」
「まぁ、話を聞いてくれ。失望させるような話かもしれないけど、少なくとも、単純に優しい良い人だからなんて理由じゃない。それに、これは一緒にいてもらう以上は分かってもらう必要がある事だと思うから。」
「・・・・分かりました。聞かせてください。確かに、私はご主人様の事を何も知りません。」
「うん。」
「しかしっ、お話はお聞きしますけれど、私がご主人様に失望するなんて絶対に有り得ませんっ。これだけは絶対ですっ。」
全幅の信頼が心に痛い。なんだか騙してしまっているような気分になってしまい、思わず苦笑いが漏れる。
「それじゃ、まずは話の核心を先に言ってしまおう。信じられないだろうけど、俺はこの世界の人間じゃない。」
キョトンとした顔をするセレア。
「まぁ、いくつか証明する手段になるんじゃないかなぁと思ってる事はあるけど、それはあとで実際に1つやってみせる。だから、この後の話は俺が異世界人だってのを前提に聞いてほしい。いいか?」
「・・・・ご主人様が、この世界の住人ではない・・・は、はい。分かりました。」
何故かいきなり不安そうな顔をするセレア。視界の外だけど、服の端が緩く掴まれる感覚がする。
怪訝な顔をされるなら分かるんだけど、なんで不安気?
それから、俺がこの世界に来てからの事を含めて、この世界の事をまだ碌に知らない事、文字すら読めない事等をツラツラと語り、セレアは黙って真剣に聴いてくれた。
あとは、この話が嘘や作り話じゃない事をある程度は信じてもらわないと。
「で、これがその証明の1つ。」
そう言って、小指につけていた翻訳の指輪を外す。
「どう?俺の言葉が分かる?」
いきなり言葉が通じなくなったからだろう。セレアの顔が益々不安の色に染まる。余りにも不安そう過ぎる様子に耐えられず、すぐに指輪を着け直す。
「どう?」
「はい。ご主人様が異世界の方だという事は分かりました・・・今までに聞いた事のない言葉でしたから・・・」
「そっか。だからさ、俺は特別優しいわけでも」
「でもっ、それでもっ、ご主人様はやっぱり私にとっては優しくて勿体無いくらいに素晴らしいご主人様ですっ!!」
「い、いや、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、それは単に知らなかっただけで」
「しかし、もう分かってますよね?獣人の奴隷がこの世界では格下の存在だという事は。」
「ん、まぁ、それはなんとなく。」
「分かってからも、ご主人様の態度は何一つ変わってません。最初にお会いした時からずっと。初めてお会いした時は勘違いだと思っていました。蔑むわけでもなく、まるで、私を1人の女の子として見てくださっているように感じて。」
うわぁ。バレてたよ、おい。いやまぁ、あれだけ露骨な態度だったらバレて当然だけど、改めて当人から言われるとムチャクチャ恥ずかしいんですが。
「でも、私を気遣って靴を用意してくださって、宿に着いてからも不自由が無いように配慮してくださって、それに・・・」
赤くなりながら、俯いてしまう。
「泣き止むまでずっと、頭を撫でて、くださいました。そ、それに・・・先程は、その・・・だ、抱き締めて、くださいました。」
最後の一言で一気に、顔のみならず、全身が熱くなる。
うわぁぁぁぁぁっ!!恥ずかし過ぎるぅぅぅぅっ!!!いや、確かに、震える女の子を受け止めてやれないなんて男じゃないとは思うよ!?でも、だからって、その後のセリフは無いだろ!?あれをからかいネタにされたりした日には、<もういっそ殺してください>だ!!!黒歴史が久々に増えた!!!
「でっ、ですから、私にとっては優しくて暖かくて勿体無いくらいのご主人様です。ご主人様にお仕えできる事になって、私はとても幸福者です。ですから・・・わ、私はこの先、どこにでもどこまででもお供しますっ。この体と命を懸けて、どんな命令でも果たしてみせますっ。ですから・・・ずっとお側に置いてもらえませんか?」
なんて健気な事を。こんな可愛い子にここまで言われて、嫌と言える奴がいるだろうか。
「そうだな。セレアがそう望んでくれる間は、俺の方からお願いするよ。」
俺の返答に、セレアはこの上なく嬉しそうに笑顔を輝かせながら伏せていた顔を上げて俺を見つめる。
あぁ、もう。いちいち可愛いな。
「でも、2つ頼みがある。」
「はいっ!お側に置いてもらえる為なら、どんな事でも言い付けてくださいっ!!」
「1つ目。これから一緒にいる間、セレアは自分のやりたい事はやりたいって、やりたくない事はやりたくないって、とにかく言いたい事は遠慮とか我慢とか無しに言う事。」
「え?」
「2つ目。困った事、辛い事、まぁ、なんでもいい。1人で抱え込むような事はせずに、頼りたくなった時には全力で俺を頼る事。」
「え?え?」
「まぁ、2つ目に関しては、俺にできる事なんて知れてるから、大した事はできないかもしれないけど、それでも1人で抱え込むよりかはいくらかマシだろ?」
「そ、そんな。それだと、ただ私がご主人様に甘えるだけになってしまいますっ。」
「うん。そうしてくれって言ってるんだ。どんな事であれ、無理強いはさせたくない。勿論、これは命令じゃなくてお願いだ。セレアが嫌だって言うんなら、それはそれで仕方がないけど、それで一緒にいるのは止めるなんて事は言わない。」
「え、えぇぇぇ・・・そ、それは、仮にそのご主人様のお願いを嫌だと言ったとしたら、もう1つ目を守っている事になりませんか・・・?」
「をや?不思議だなぁ。そういう事になるなぁ。」
意地悪く笑ってみせる。
「~~~っ。」
少し唸っていたかと思うと、いきなり抱きついてくる。
「1つ、ご主人様の事が分かりました。ご主人様はイジワルです。」
「そうか?」
「はいっ。本来、奴隷がご主人様に尽くすものですのに、全然尽くさせようとしてくれませんっ。・・・私ばかりが喜ばせてもらってます。」
「これから頼りにさせてもらうさ。助けてもらわないと困る事ばっかり抱えてる。それに、今も充分以上に嬉しいし。」
「? 私は何もできていませんよ?していただいてばかりです。」
「側にいさせてくれ、なんてセレアに言われて喜ばない男はいないっての。少なくとも、俺の居た世界ならな。」
俺の言葉にいまいちピンときてない様子のセレアだけど、これから少しずつでも自覚させていかないとなぁ。
嬉しそうに俺から離れようとしないセレアのいい匂いと柔らかさに理性がグラグラと揺さぶられ続けながら、自分に付いてきてくれるという存在のありがたさにも頬が緩む事を自覚した。
今回、チート能力は全く発動しておりません。代わりに、主人公のヘタレぶりが全力発動してます(笑)
次回は視点が主人公からセレアに変わります。次回もお付き合いいただければ幸いです。
2016/3/24 本文と後書きを一部修正