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パーティー結成で地味チート その4

元の世界では当たり前な、でもこの世界ではある意味異常な主人公の言動行動に戸惑うセレアと、ある決心を固める主人公。

でも、主人公の些細な言葉でセレアの心境に大きな変化が訪れます。

そんなパーティー結成編その4、はじまり、はじまり~♪


悶え死にしそうになりながら、エラーデさんの武器屋に到着。

他にも靴を売っている店は見かけているのだが、前回かなりサービスしてもらったので、少しでも売上に貢献しておきたかったのだ。確か、あまり繁盛してないみたいな事も言ってたし。


「あらぁ。いらっしゃいませぇ。また来てくださったんですねぇ。」

独特の間延びした口調で迎えてくれる笑顔のエラーデさん。

まだほんの2回しか来てないのに、覚えていてくれるとは。そんなに客が少ないんだろうか?

「どうも。今日はとりあえず、靴をいただこうかと思いまして。」

「はいぃ。ありがとうございますぅ。」

「ええ。今すぐ履かせてもらいたいんで、彼女に合うのを適当に見繕ってもらえますか?」

「かしこまりましたぁ。えぇっとぉ、奴隷さんの物ですよねぇ?」

え?なんで奴隷だって分かるんだ?

「あ、はい。」

「ではぁ、お値段はどのくらいの物にされますかぁ?奴隷さんの装備品にもぉお値段の拘りがある方もいらっしゃるみたいなんですけどぉ。」

「え~っと、その辺りには特に拘りは無いんですけど。あ、でも、今回は懐に余裕がありますんで、値段は気にしなくていいです。」

キョトンとした顔になるエラーデさん。

あれ?俺、またなんか変な事言ったか?

「ご、ご主人様。そんな私などに貴重な資金を浪費するような事をおっしゃらないでください。」

後ろからセレアが人聞きの悪い事を言うので、振り向いて反論する。

「必要な投資は浪費とは言わないと思うんだけど。だって、靴は生活の必需品だろ?」

「そ、それはそうですけど、わ、私の申し上げたい事はそういう事ではなく」

「はいはい。後でちゃんと聞くから。」

全く、人を浪費家のように言わないでもらいたいものだ。この世界に来てからというもの、必要な事にしか金は使ってないというのに。

しかし、宿は贅沢してるから完全には否定できないか。


と、くすくすと笑い声が聞こえて、俺はエラーデさんの方に向き直る。

「ごめんなさいぃ。やっぱりぃタカシさんはぁ思った通り人だなぁと思ったらぁ、何だかぁ嬉しくてぇ。」

思った通りって、一体どう思われてるんだろうか?嬉しいって言葉からすると、悪いようには思われてないと思うけど。

「獣人の奴隷と言ってもぉ同じ人ですもんねぇ。」

デューイさんが言っていたのと同じフレーズが出た。これはもしかして、獣人の奴隷というのは一般的にはかなり蔑視されているのではなかろうか。しかも、人間の奴隷よりもかなり。そういう事なら、セレアの値段が異常に安かった事も、セレアの言葉の端々に見えるやたらと自分を卑下する態度にも納得がいく。エラーデさんにはどうやらそういう意識はあまりなさそうでよかったが。


エラーデさんから軽くて丈夫な靴を買ってセレアに履かせてから、改めて宿に向かう。



しかし、もし、獣人の奴隷が人間の奴隷よりも立場が低いというのなら、それはそのまま奴隷ではない人間と獣人の立場の差に当てはめて考えられるだろう。それなら、セレアを奴隷から解放するタイミングもしっかりと考えなければならないかもしれない。少なくとも、生活には当面困らないだけの資金と生活の場所くらいは整えてからでないと、解放されたせいで生きていく事にすら困るような状況に追い込まれるという事すら有り得るかもしれないんだから。

宿についてからするつもりだった解放についての話は上手く話の流れを作らないとな。



「あの、ご主人様。」

「ん?何?」

「本当によろしいのでしょうか?こんなに良くしていただいてしまって・・・」

「え~っと・・・ごめん。何が?」

「こんなに立派な造りの靴なんて、奴隷になる前にも履いた事がございません。それに、冒険者であれば稼げない額ではないとは言え、私を引き取る金額もご用意されたばかりなのに、私などの靴の為にまたあんなに出費を・・・」

「あぁ、そういう事か。いーのいーの。こんなの木級(ウッドクラス)の依頼1回分で1ダース買える程度だし。あ、エラーデさんも言ってたけど、歩いてて合わないとかあったら絶対に言ってくれよ?これ、一応命令って事でよろしく。」

「え?め、命令、ですか?は、はい。分かりまっ、い、いえっ、かしこまりましたっ。」

「あ~、それと、言葉遣いもそうやたらと畏まらないで、自然体でいいから。」

「え?しっ、しかし」

「しかしもかかしも無いの。本当にそういうの慣れてないんだってば。」

「そ、それでも」

「あ~、分かった。んじゃ、命令。無理に崩す必要もないけど、やたらと畏まるのも無し。セレアの喋りやすいように喋る事。」

「え、えぇぇ・・・」

「セレアが喋りやすいように喋ってくれた方が気が楽なんだよ。俺が。」

「は、はぁ・・・わ、分かりました。では、あの、そうさせて、もらいます。」

「うん。ありがと。」

何やら軽くパニックな様子のセレアだが、そこはもう諦めてもらおう。きっとそんなに長い付き合いにはならない。先にアンナちゃんへの恩返しをしてからだけど、その後からでもセレアの生活基盤を整えるのにそこまで時間はかからないだろうから。


そう遠くない内にやってくる別れに、今から身勝手な物寂しさが胸をチクリと刺すけれど、それは我儘というものだろう。


宿に到着して、まずはカウンターへ。

「おかえりなさいませ。タカシ様。」

何回か顔を合わせた事のある執事みたいな受付のおじさんに名指しで挨拶された。

凄いな、この人。ほんの数回挨拶した程度の地味キャラの名前を覚えてるとは。客商売の鑑みたいな人だ。

「すみません。今日から1人増えるので、部屋をもう1つ借りたいんですけど。」

「ごっ、ご主人様!?」

後ろからの声に思わずビクゥッとなってしまう。

び、ビックリした。急に大きな声を出さないでいただきたい。

「び、ビックリした。どしたの?」

「あ、す、すみません。大声を出してしまって。」

「いや、別にいいんだけど、どうかした?」

「あ、その、申し訳ないのですが、私にはこんな立派な宿の代金を支払えるような財産は・・・」

「いやいや。何言ってんだ?俺が払うに決まってんじゃんか。」

「え!?」

「最低限の衣食住の保証は義務だって話だし、何もおかしくないだろ?」

「え?え?し、しかし・・・」

「よろしいので?獣人奴隷風情に一部屋をあてがう必要は無いかと思われますが。お一つのお部屋でしたら、追加料金は不要でございますが、もうー部屋となりますと・・」

ここでも獣人の奴隷の扱いはそんなのか。やっぱり、俺の予想は間違ってはいなさそうだ。

それなら、こういう言い方が効くんじゃないか?

「構わないですよ。それとも、俺の所有物の扱いに口出しされますか?」

「!!!!とっ、とんでもございません!!!し、失言でございました。誠に申し訳ございません。」

深々と頭を下げる受付執事風。

「あぁ、念の為、言っておきますが、俺は自分のものは大事にする質でしてね。他人に蔑ろにされると気分が悪くなるんですよ。」

「は、はい。肝に命じて、丁重にお取り扱いさせていただきます。」

「ご主人様・・・」

振り向いて優しく笑う。

「という事だそうだから、今日はお互いゆっくりしようか。俺も疲れが溜まってるし。あ、腹が減ってたらこの宿は食事付きだから部屋に持ってきてもらうも良し、食堂で食っても良し。自由にしていいよ。んで、何かあったら言いなよ。今、セレアは俺のものなんだから、我慢する必要なんてどこにも無い。」

そう言うと、セレアは俯いて顔を両手で覆い、泣き出してしまう。

「セ、セレア?」

「あり、が・・あ・・・ござい・・・がと・・・」

ま、マズイ。泣かせてしまった。やっぱり本人を目の前で物扱いするのはショックがデカかったか。

「ご、ごめん。」

「!?」

弾かれたように顔を上げて、思いきり首を振るセレア。

「どうしてご主人様が謝るんですかっ。他の人にこんなに優しくしてもらったのなんて初めてで、私、嬉しくて、うれ、しくて」

言いながら、また涙が溢れて流れるセレア。


今まで、相当に辛い思いをしてきたんだろうな。うん、やっぱりセレアは解放しよう。辛い思いをしてきた分、これからは幸せにならなきゃ。こんな美人なんだし、狼人族の間でならきっと幸せになれるだろう。狼人族とか獣人族の集落もきっとどこかにあるだろう。もし、無かったとしても、差別が無いような街なら必ずどこかにある。この世界にはエラーデさんみたいな人がいるんだから。


泣きじゃくるセレアを宥めながら、セレア用に借りた部屋まで連れてきてベットに座らせる。

「ほら。もう泣くな。美人が台無しだぞ。」

ベットの前に膝立ちになりながら、セレアの頭を撫でる。こうして見ると、やっぱりセレアは年下の女の子にしか見えない。



解放の話は明日にしようか。セレアには1人で落ち着く時間をあげた方がよさそうだ。



セレアが泣き止むまで頭を撫でてやり、しばらくして落ち着いたようなので撫でるのを止めて手を離す。

「すみません。取り乱してしまって。」

「いいや。謝るような事じゃないよ。じゃ、俺の部屋は隣だから、何かあったら呼んでくれ。寝てたら叩き起こすように。」

「え!?」

「あぁ、これも命令ね。あぁ、俺の部屋の鍵は開けておくから。よろしく。」

「え、えぇぇぇ・・」

もうゴネられるのが分かったから、ちょっと強引だけど、先手を打っておく。そろそろ体が限界に近いみたいなのだ。強烈な眠気がじわじわキテる。こりゃ、どっちにしても今日話をするのは無理っぽい。



部屋に戻ると、そのまま入口に近いソファーに倒れ込む。剣が邪魔だけど、外す気にもなれない。ベットも別にいいや。動くのが面倒だ。


俺は睡魔が導くままに、体がどこか沈むような感覚を感じながら深い眠りに落ちていった。

今回の話で初発動の能力は【威圧】です。意識して行使すると、実力差の大きい弱い相手なら複数の相手でも一気に気絶させ、自分と同等程度の相手でも一瞬動きを止めるという、なかなかチートな能力です。格上の相手には効果無しという制限と、意識して相手にぶつけないと、ただの強烈な威圧感で終わってしまうというものではありますが。

勿論、今回の発動時に主人公は無自覚で行使してます。まぁ、今回に限っては無自覚だったから、ちょうど良い具合にだったという話ではありますね。


今日と明日は仕事が休みなので、時間が許す限りに筆を進めるつもりです。またブックマークしてくださった方が増えて、嬉しくて仕方がない作者です。読者の皆様に心の底から感謝しております。次回もお付き合いいただければ幸いです。どうぞよろしくお願い致します。

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