第1話 認めてなるものか
「桐生院さんは男の娘」に似ている所もありますが、二次創作では決してございません!
「わー、綺麗だなー。やっぱここは、昔から変わってねーや」
-オレは花咲ゆり、16歳、女。極普通の女子高生-と、言いたい所だが、普通の女子高生と比べると、オレは圧倒的に男性的だ。短髪だし、背も高いし、おまけに顔も口調も一人称も男っぽい。
そんなオレ-今、花が咲き誇る庭園「フラワーガーデン」に来ている。ここに来ると落ち着くことができるのだ。
オレの名前の由来でもある、百合の花。それを眺めていたら…
「貴男-百合が好きなのね」
「はふぇ?」
「あっ、御免なさい、いきなり話しかけちゃって。私、ここのオーナー・庭園さくらの娘の-」
「…庭園薔薇パイセン?」
「どうして知ってるの!?もしかして貴男、私立ブルーミング学園の生徒!?」
「あ、はい。先輩はうちの学年でも有名っスよ、学校一の美少女っスもんね」
「そんな事ないわよ」
「謙虚っすなぁ。クラスの男子みんな惚れてるっスよ?」
「そ…そうなの?」
「そうっス」
いや…正確に言うと…一人例外がいるが…
「へぇ…」
彼女はそう言った後、小声で何か言っていた。
「クラスの男子って…他人事みたいに…」
「あのー」
「あら、御免なさい!…貴男とこうしてここで出会えたのも、何かの縁かもしれないわね」
「っスね…そうだ、明日庭の手入れ手伝うっスよ」
「え?」
「遠慮しねーで下せぇ」
「…ありがとうね」
この後しばらくしてから、オレは帰った。
次の日。
「庭園パイセーン」
オレはエプロンをつけ、スコップ片手に走った。
「あら、昨日の…えっと…そういえば、貴男の名前聞いてなかったわね」
「一年の花咲っス」
「花咲さん?分かったわ…じゃあ、薔薇の種を植えるのを手伝って頂戴。私は水やりするから」
「ウィッス」
薔薇-パイセンの名前の花だ。彼女は名前負けしない、気品のある美しさがある。それに比べてオレは、百合とは程遠い。
「パイセンに惚れない奴は、余程のバカかソッチ系の奴っス」
「そうかしら…お前はどっちなんだ…」
「あんですって?」
「あら、御免なさい!」
何だ何だ?「そうかしら」の後、なんか小声で言ったよな?まぁいいや。
「バレンタインなんか大変っしょ」
彼女はジョウロで水をやりながら答える。
「それが私、チョコあげたことないのよ」
「えっ」
何でだ?料理が嫌なら買えばいいじゃん。
…そういえば、うちのクラスの男子・日向葵が「男は普通チョコはやらない」ってて、後日親友の紫陽花が「あたし男子にチョコあげない」っつてて、「オメー男か?」って冗談で言って「違うよー!」って怒鳴られた事あったな。
「何すかそれぇ、料理嫌いなんすか、それともパイセンて男っスかぁ?www」
あ、やべ、言っちまった。彼女は固まった。やべー、パイセン冗談の通じない人だ。
ジョウロを落とすパイセン。その顔は真っ青だ。
「…何故だ」
「はふぇ?」
「何故分かった?」
あれっ、予想外の展開。
「何故バレたんだ!俺はこの17年間完璧に隠し通してきたのに!何故!」
頭を抱えて叫ぶパイセン。
何がバレたんだ?つか、口調も一人称も変わってるし。
「お前、何故分かった!?」
オレの肩を掴み、眼を血走らせて、男のように低い声で、オレに向かって叫んだ。
だ、だから何がだよ…
そう言おうと思ったが、その前にパイセンが口を開いた。
「俺が、男だという事を!!!!」
…今、パイセンは何つった?「オトコ」って…あの「男」?
「…女装、してんスか?」
「分かってるのに聞き返すなんて、性格悪いな。そういう事だよ」
パイセンは頭を抱えて言った。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーっ!?」
オレは思わず叫んだ。
オレ(女)より圧倒的に優美なこの庭園薔薇パイセンが、男!?
「えっ、ちょっと待て。お前今、えぇって叫んでたよな。俺が男だと今さっき知ったような感じだったよな」
「そうっスよ、今初めて知りやした」
するとパイセンは…。
「この17年間誰にも気付かれなかったのに…じゃあ俺は、自分でバラしたのかっ!?」
「そういう事になるっス、つまり自爆っスね……」
「それ以上言うな!」
御愁傷様…でもなんで女装してんだ?
「…うちは代々女形歌舞伎役者で、20歳になるまでは女として過ごすという掟があって、それで…って、何俺自分でバラしてるんだ!?」
無自覚か。やっぱり御愁傷様…
「…いいか花咲、俺が男だってことは誰にも言うなよ!? 言ったらお前を抹殺するぞ!?」
「言いやせん、絶対に言いやせん、言ってなるものか」
学校一の美少女が男と認めたら、オレは完全に負け組じゃんか…
「絶対に言うなよ!?」
「言いません!つか、パイセンが男だと認めてなるものか!」
このやり取りが暫く続いた。
続く…
また読んでいただけたら幸いです。