プロローグ
耳をすませば聞こえてくる。
怨み、妬み、怒り、嘲りなどの声。
この世界は汚い。
腐りきってしまっている。
それはまるでこの前に見た胡桃のようだ。
ぱっと見表面上は他のと変わらず美味しそうだが、いざ殻を割って中のみを見てみると中は腐りきっている。
そう、この世界も同じだ。
警官が罪人を捕まえ、裁判で裁く。
表面上は、綺麗でいる。
だが、表面の殻を、その殻に隠されている裏を見ると、腐りきっている。
だから、掃除が必要なのだ。
腐った胡桃の実は、ゴミとして捨てる。
掃除しなければならない。
パトカーのサイレンが鳴り響く。
周囲には人だかりができていた。
その人だかりの声を聴いていくと、どうやら殺人が起きたみたいだ。
殺されたのは、この地域一体を治めている貴族らしい。
人だかりの中、透明な膜で囲まれた中では警官が声を荒らげながら、走り回っていた。
「いたか?」
「見つかりません。」
「逃げてはいない、なんたって十五神将の一人がかけた結界なのだからな。まあ、もし破られたとしてもわかる。」
「それにしても、正体が掴めないなんて。」
「ああ、かなりの手練だろう。」
「大丈夫ですかね?」
「正直、わからん。」
警官の二人が話していると、殺された貴族の屋敷が光ったように見えた。
「閃光弾だ。1階の西側だな。行くぞ!」
「はい!」
二人の警官は、玄関のドアを開けさっきまで走り回っていたほかの警官たちも集め突入する。
「こちら、第1班屋敷1階の西側に閃光弾の光が見えた。これから突入するので、挟撃してくれ。」
話していた、警官の一人が走りながらそう喋る。
通信しているようだった。
しかし器具はない。
「こちら第三班、了解。」
「こちら第二班、了解。」
「第五班も了解。」
しかし、四班からの通信が返ってこない。
「おい。第四班応答しろ。」
しかし、返事がない。
「やられたか・・・。」
「こちら第二班2階西側に到着。一班の突入と同時にこちらも攻め込む。」
「こちら第五班、第二班に合流した。」
「こちら第三班1階西側に到着。」
「は?おい三班どこにいる。我々も1階西側にいる見えないぞ。
「え?そんなはずは・・・。西側に歩い―」
そこで通信が途切れた。
「おい。三班!・・・くそ!」
「班長、後ろで悲鳴が聞こえたような。」
「なに?本当か。ちっ、こっちは囮か。」
「第二班、第五班、敵は東側のようだ。すぐに移動しろ。」
また返事がない。
「こちら、第三班西側1階に敵発見。こちらに化けているようだ。」
「第二班、了解。」
「第五班、了解。」
「おい!聞こえてないのか。敵は東だ。」
しかし返事はない。
「こちら第三班、西側の通路途中で第1班発見。全滅です。」
「こちら、第二班、了解。こちらも第四班を発見。同じく全滅。」
一班の隊長に聞こえながら戦場が移り変わっていく。
「こちら、第二班、敵発見。第五班と共に殲滅する。」
「第三班、了解。」
「どういうことだ・・・。」
一班の班長は呆然とするしかなかった。
そこへ、先行していた班員が駆け寄ってきた。
「前方から、攻撃を受けました。現在交戦中です。」
「なんだと、今すぐ止めさせろ。そいつらは仲間だ。」
「しかし・・・。」
「いいから早くしろ!」
「は、はい。」
怒鳴られた班員は来た時より早く戻っていった。
「ちっ、全然戦いの音がとまんねぇ。俺も出るしかないな。おい、出るぞ!」
そう言って、後ろを向くと誰もいなかった。
いや、いるにはいた。
しかし、全員倒れていた。
「なっ!まさか。レッドデ―」
1班班長はそれ以上、喋ることなく床に倒れた。
そして、それ以降しゃべることはなかった。
「本当に第一班が倒れているぞ。」
そう言って、こちらに来たのは少し数が減った第二班と第五班だ。
「第五班班長、敵は・・・。は?」
第二班班長は開いた口が塞がらなかった。
さっきまでついてきていた、班員などが忽然と消えたのだ。
「どこに行ったんだ。」
そう言って、辺りを見回した。
そして、答えが返ってきた。
「あの世です。あるかは知りませんが。」
第二班班長は固まった。
言葉が耳元で聞こえたのだ。
そして、さっきまでなかったのに今ははっきりとわかる。
後ろに人がいると。
「お、お前は誰だ。」
第二班班長はわかっているはずの答えを求めた。
「誰か、来るのを期待しているなら、それは無理ですよ。だって、みんなもうこの世にはいませんから。」
「うわぁぁーーー。」
第二班班長は叫んで腰の拳銃を抜いて後ろを向き引き金を引いた。
しかし、いつまでたっても銃声が聞こえない。
一瞬、雷であたりが明るくなった。
そこで第二班班長が見たのは、返り血で真っ赤になった声の主と、伸ばした状態になっている、肘から先がない自分の腕だった。
第二班班長は今になって痛みが込上がってきて、叫ぼうとした。
だが、その後いつになったも音は立たなかった。
戻ってこないのを心配した十五神将の一人と中に入っていなかったほかの班がここを訪れた時に見たのは、床一面を覆い尽くす赤い液体と死体。そして、首から上が無くなったまま立っている第二班班長だった。
十五神将の一人、守部葵那はそれらを気にせずに第二班班長に近づいていく。
「ごめんなさい。私の力が足りないばかりに、こんなことに。」
そう言って、第二班班長の体を床に寝せる。
「死体を回収して。引き上げるわ。それと、この人の頭が落ちてないか調べて。」
そう言って、葵那もしたいの回収を手伝った。
しかし、第二班班長の頭を見つけることはできなかった。
満足はいかないが、しょうがなく撤退する。
扉になにかかかっているのが見えた。
後ろの者がライトで照らす。
そこには、第二班班長の首がかかっていた。
撤退中の多くのものが息を呑み、何人かは腰を抜かした。
その屋敷の近くに歩いている者がいた。
背は175くらいで、黒いジャケットを着ており髪は銀色で月明かりを受けて輝いていた。
建物の影が途切れ、見えた顔は男だった。
見た目は18歳くらいで、かなりの美形だ。
青年は、まるで近くで殺人が起こっているなどというのは関係ないかのように一定のペースで、ただひとり歩く。
そして、ある建物の前で止まった。
そこは、多くの事務所が入っているビルだ。
青年は、中には入りエレベーターに乗る。
そして、一番大きい9のボタンを押した。
エレベーターが上がっていき、やがて止まった。
音が鳴り、扉が開く。
目の前には、目を見張るような惨状だった。
並べられた調度品は下に落ちて割れていたり、上が吹き飛んでいたりと散乱している。
青年は、暗闇でも昼と変わらないくらい鮮明に見える。
その目が、あるものを捉えた。
それは、男だ。
歳は、40過ぎくらいだろう。
その男の胸には大穴が空いていた。
「残念な奴だ。」
しかし、それを見て青年はそれだけいい興味をなくしたようにエレベーターに戻る。
しかし、横から何かが頭に当てられた。
青年が横目で確認するとそれは銃だった。
「やっと、会えたな。赤い死神、それともクリムゾンデスがいいか?」
「俺は、終止符の天使が気に入っている。」
「まあ、そんなことはどうでもいい。本題といこう。」
「どうでもいいなら、聞くなよ。」
青年が笑いながら言う。
「笑う余裕が有るか・・・。まあいい。お前には多くの罪科がある。よって、ここで死んでもらう。」
そう言うがいなや、銃の持ち主は引き金を引いた。
しかし、銃の先にはもう青年はいなかった。
銃の持ち主は直感的に頭を下げた。
今まで首があった位置を何かが通り過ぎていった。
銃の持ち主は、前に飛び、空中で回転しながら銃を撃つ。 またもや、捉えた感触はなかった。
「あんたには、無理だよ。お嬢ちゃん。」
後ろから聞こえてきた声に驚きながらも後ろに飛びながら銃口を向けた。
引き金を引こうと思った時に、辺りを光が埋め尽くした。
電気が付いたのだ。
目くらましを直接くらい、その間に銃が奪われて、押し倒される。
抜け出そうともがく少女。
「はあ、だから言っただろう。あんたでは俺を倒せないって。」
そう言われて、悔しそうに歯を食い縛る少女。
「あんた、ただの下っ端だろ。俺を倒すならせめて十五神将じゃないと無理だよ。」
少女はなにも言えない。
「まあ、戦いでは楽しめなかったから、これからちょっと楽しませてもらうけどね。」
そう言って、千年が少女の服に手をかけ、引きちぎった。
青年は、上半身が下着だけになった少女を見て、口笛を吹く。
「結構、いい体してんじゃん。」
そう言って、最後の布に手を掛けようとして、飛び退いた。
「感がいい人ですね。」
さっきまで、青年がいたところの隣には大剣を持った女がいた。
「嵐の大剣か。」
「知っていましたか。あまりいい気がしませんね。早く忘れるか、死んでください。」
「うわ、超毒舌。」
そう言いながら、青年は頭を左に倒す。
少し先の、床に穴があいた。
「Infinitesimal Sniperか。」
「はい。知ってるなんてキモいです。死ぬか、この世から消えてください。」
「・・・変わらなくね。」
青年は、苦笑いである。
しかし、内心焦っていた。
(たしかに十五神将せないと倒せないとは言ったけど、まさか二人とはね・・・。)
「一つあなたは思い違いをしているでしょう。」
「なんのことだ?」
「今回、この作戦に参加している十五神将は五人です。」
青年の頬に冷や汗が垂れる。
「逃げ場はありません。」
「・・・そうみたいだな。」
青年は、手を上げた。
完全にお手上げだ。
「なにか言い残すことは。」
「ないな。あ、ひとつある。」
嵐の大剣は先を促した。
「そこの子、結構好みなんだよね。死ぬ前に抱きたい。」
「それが、遺言ですか。」
「ダメか・・・。」
覚悟を決めた青年も、肩をすくめた。
そして、倒れた。
青年の胸には大穴が空いていた。
「I was defeating the desired object success.・・・成功。」
嵐の大剣に通信が来た。
「こちらも、死亡を確認しました。」
「二人ともよくやった。」
男の声でも通信があった。
「私は何もしていませんが?嫌味ですか。本当にうざいおっさんですね。爆発してくれませんか?」
「ははは、相変わらずきついな〜。」
男の声は軽い感じで受け流した。
「赤い死神の死体を回収してきてくれ。正体を知ってるお嬢に見せてみる。」
「了解。」
「All right.」
嵐の大剣は青年の死体を担ぎ上げ、まだ座り込んでいる少女に声をかけた。
「早く行きますよ。汚いものにあまり触れていたくないので。だからといって、あなたを置いていって、おっさんに後からいろいろ言われるのは面倒なので早く着いてきてください。」
少女は頷きついていった。
外に出ると、眼帯をしたガタイのいい男がいた。
髪をオールバックにしていて、歳は40ちょっとといったところだ。
「そいつか?」
「ああ、間違いないと思う。」
「なら、持って行ってみるか。」
そう言って、男は嵐の大剣が持っていた青年を片手で持ち上げ、近くに止まっていた車のトランクに投げ入れた。
そのあと、そこにいた者達はいなくなり普段通りに賑わってきた。
それを見る人影があった。
「おっかない人たちだな。」
その人影は、さっきの青年だった。