子どもにならない大人
その後、気付いたら知恵比べの迷宮にいた。
百の勝利の末、脱出した。
「それで、あんたは何でわたしにこんなことをさせたのよ?」
わたしが知恵比べの迷宮から出てきたところはブレインパークの中だった。待ち構えていたゲームマスターが笑顔で迎えてくれた。腹立たしい表情だ。
「それを話すために一つ、知恵比べをしよう」
「いやよ。むしろわたしの疑問もどうでもいいわ。もう家に帰るわよ」
この件はあとで警察に相談しよう。一週間も留守にしていたから母が捜索願を出しているかもしれない。
わたしはゲームマスターの横を通り過ぎようとした。しかしそれを阻んでゲームマスターが口を開く。
「問題だ。
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子どもと大人の違いは何か?
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一分で答えな」
上から目線の命令なんて答える気にならなかった。ゲームマスターを迂回してやり過ごそうとした。
「そっちは出口じゃないぞ」
「こっちで合っているわよ。パンフレットの地図は頭に入っているんだから」
進行方向にジェットコースターが見える。わたしが乗ったアトラクションだ。あそこに戻れば入口まで一直線だ。
わたしは小道に沿って走る。ドレスのひらひらしたスカートのせいで走りにくい。でもこのスカートのおかげでトランプやサイコロを隠し持てたのだから恨み言ばかりでもない。
走っていくと開けた広間に出た。
そこにゲームマスターが立っていた。いつの間にか元の場所に戻っていたらしい。
「一分経ったぞ。解答を提示しな」
ゲームマスターはわたしに命令する。だれが真っ向から答えてやるものか。
「解答を提示するのはそちらからじゃないの?」
「たまには自分から答えてみなよ」
「この知恵比べは後からフォローが出来る分、後手が有利なのを分かって言っているの?
出題者が後手になるのはゲームの公平さが欠けると思うけれど」
「おや、そんな深い所まで理解出来ていたのか。ますます気に入ったよ。さぁ、答えてみてくれ」
はぐらかされた。もうどんなに反発しても無理そうだ。大人しく解答するか。
ここで“歳をとれば大人”なんてありきたりな答えを出すと負ける。さて、どうするか。十六歳の分際で大人を語るなんて烏滸がましいのかもしれないが、それなりの答えは出さないと。
「 他人に迷惑をかけることを意識できたら大人よ 」
わたしは苛立たしげに答えた。
「説明してくれ」
「会話するだけで無意識にわたしを苛立たせるあんたは子どもっていうことよ」
別に解答でもなんでもなく、ただの嫌味だった。
「おお。現状に絡めた良い答えだ」
褒められた。嬉しくない。
「あんたの答えは?」
「 通過儀礼を終えたら大人だ 」
なんとも分かりやすい答えだった。
通過儀礼。人間が成長していくために行う儀式のこと。人生儀礼ともいう。儀式の内容は国や地域によって様々で、割礼、抜歯、刺青や、崖から飛び降りたり毒を食べたりライオンと闘ったりと様々である。
「そして知恵比べの迷宮は、俺の嫁になるための通過儀礼だ。
俺の嫁になる人間は俺のように頭が良くなくてはならないからな」
どうやら、わたしは知らないうちにゲームマスターの嫁になる試練を受けていたらしい。
なんでこんな奴の嫁にならないといけないんだ。




