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鶏が先か卵が先か神が先か

 わたしが知恵比べの迷宮に閉じ込められる二ケ月前のこと



 ブレインパークに入場して一時間。プレオープンでも稼働しているアトラクションは全て回った。なかなかに楽しい頭脳労働だった。

 最後のアトラクション「2.5次元迷路」を最短記録で突破して、係の人から雷文のスタンプを押してもらった。

「スタンプが全部集まったけど、どうするの?」

「入口の受付に行ってください。景品が用意してあります」

「景品の中身は何?」

「私は分かりません」 

ですよね。

 わたしは歩いて入口に向かった。

 受付のお姉さんにスタンプカードを見せると、お姉さんはとても驚いた顔をした。

「おめでとうございます。お客様が最初のスタンプラリー達成者です」

あら、一番だったのね。それは嬉しい。一人で黙々と頭を使った甲斐があった。

「この中からお好きなものを一つ選んでください」

景品を選べるらしい。机の上にマスコットキャラのぬいぐるみやキーホルダー、お菓子といったよくあるグッズが並んでいた。ポーチや上着まである。これを無料で貰えるというのだから、かなり良いサービスだ。

 そんな景品の中に、異色なものがあった。

「 ゲームマスターへの挑戦状 」

封筒が一つぽつんと置いてあった。

「これ何ですか?」 受付のお姉さんに尋ねる。

「このブレインパークを開発、設計したゲームマスターと知恵比べをすることが出来る券です。中の封筒に詳細が書かれています」

「ゲームマスターと知恵比べねぇ」

このブレインパークを開発、設計した人には興味があった。相当頭が良いに違いない。そんな人相手に自分の頭がどのくらい通用するのか試してみたい気はある。

「これにするわ」

わたしはゲームマスターへの挑戦状を受け取った。

 封筒を開けて、中を見る。

 問題が一つ書かれていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

   鶏が先か卵が先か

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「結論の出ないような問題ね」

「それでも自分の考えられる限り最高の結論を出してくれ」

わたしの独り言に反応があった。いつのまにかわたしの後ろに男が立っていた。

「あなた、入場するときにいた人?」

どこかで見たことある顔だと思ったら、ブレインパークの入場門でわたしに声を掛けてきた男だった。

「ああ、一時間振りだね。スタンプラリー制覇おめでとう。よろしければ名前を教えてくれるかい?」

「……………サイリ」

なんとなく苗字は教えたくなかった。

「そうか、サイリか。俺がゲームマスターだ。入場門から目をつけていて正解だったよ」

驚く点がたくさんある。こいつが客じゃなかったし、歳が同じくらいなのにこのブレインパークを開発、設計したゲームマスターだし、わたしのこと呼び捨てだし。

「それで、答えは出せるかい?  鶏が先か卵が先か」

わたしは言いたい文句を抑えて、解答した。

「鶏よ。わたしが神様ならそうする」

「説明してくれるかい?」 

ゲームマスターがにやつきながら訊いてくる。腹立つ。

「鶏なら雌雄一匹ずつ用意すれば次の卵を産むことが出来る。

 でも卵なら二個孵化しても雄雄だったら卵を産めないもの。

 わたしが神様なら確実に次の世代に遺伝出来る方を創るわ」

ゲームマスターは両手を叩いた。

「やっぱり君は、俺の見込んだ通り、いやそれ以上の女だよ。

 俺の嫁にふさわしい」

「はぁ? あんた何を言って…………」

 そのとき、わたしの背中に衝撃を感じた。

「きゃああ!!?」

 わたしの意識はそこで飛んだ。



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