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松葉相撲

 赤いドレスを翻して、また部屋に入る。

 見慣れたというより見飽きた八畳洋間。出口である様子は無い。

「いらっしゃい」 老人ではない人が声を掛けてくる。

「あら、少年」  わたしは嬉しさを隠すことなく声を掛ける。

 またゲームが始まるのか。



 とりあえず扉を閉めた。がちゃりっと鍵が掛かる音がする。

 今回の相手は少年。少女と同等で、老人やあんな男なんかより気が楽だ。

「それじゃ問題を出します」

少年はリモコンを持って操作した。壁に掛かったモニターが作動する。

 モニターに問題が表示される。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

   松葉相撲

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「子どもっぽくて可愛らしい遊びね」

松の葉に触れることなんて、何年もしていないと思う。

「それでは始めます。制限時間は一時間です。僕にゲームで勝ってください」

 少年が砂時計をひっくり返す。



 松葉相撲。

 二本の葉がついた松葉を用意する。松葉を交差させ、同時に二人がお互いの松葉を引っ張る。松葉が切れた方の負けとなる。

「松葉はどこ?」

「これです」

少年は水槽をテーブルの上に置いた。水槽の中には松葉が百本程度入っていた。

「この中から一組の松葉を選んで使ってください」

「少年もこの中から選ぶの?」

「はい。不正の無いように松葉を選んだあとで、互いの松葉の状態をチェックします」

 糊で松葉をくっつけたり硬いものを仕込んだり出来ないようにするようだ。

「引き分けの場合はどうするの?」

稀に双方の松葉が同時に切れることがある。

「その場合は延長戦を行います」

「少年、松葉相撲は好きなの?」

「答えられません。ご想像にお任せします」

「この松葉を集めるのは大変だった?」

「答えられません。ご想像にお任せします」

少年がせっせと松葉を集めている光景を想像すると、和やかな気持ちになれる。



 わたしは水槽の中から松葉を選んでいた一組ずつじっくり見て、強そうな松葉を探していた。このゲームで一番重要なのは強い松葉を選ぶことだ。見た目で強いかどうかは分かりづらいけれど、百本程度を比較して硬くて枯れていない松葉を探す。

 少年はそんなわたしの挙動をじっと見守っていた。イカサマはさせまいと目を皿のようにして監視している。

 前回の腕相撲のときに痛い目を見ているから余計に警戒しているのだろう。

 わたしもなるべくなら痛い勝ち方をしたくないな。



 砂時計の砂がそろそろ落ち切りそうだ。

「それじゃ、ゲームを始めましょう」

 わたしは選んだ松葉を少年に渡す。そして少年の松葉を受け取る。じっくりと見た後、松葉を交換してゲームを開始する。

「それではいきましょう」

お互いの松葉を絡める。

「用意、スタート」

合図と同時に松葉を引く。

 少年の松葉はいとも簡単に裂けていった。

「わたしの勝ちね。少年は松葉の見る目が無かったようね」

少年は悔しそうな、でも悔しさを隠しているような顔をしていた。

 勿論、松葉を見る目は関係無い。お互いの松葉をチェックするときに、わたしが少年の松葉を爪で弱らせただけのことである。



 少年は大きく頷いた。

「よろしいです。進んでください」

「どうも」

わたしは席を立ち、前へ進む。部屋の奥の扉を開ける。

「ねぇ、少年」

わたしは背中越しに少年に尋ねる。

「わたしはあと何回勝てば、この迷宮から抜け出せるの?」

「きっと抜け出せます。頑張ってください」

可愛らしい対応だった。 





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