ベーコンエッグと赤いドレス
また、部屋に入る。
見慣れたというより見飽きた八畳洋間ではない。しかし出口である様子も無い。
「いらっしゃい」と老人が声を掛けてくることもない。
「どうも」と適当に声を掛けることもない。
今回はゲームが始まるわけではない。
扉を閉めると同時に、がちゃりっと鍵が掛かる音がする。いつもなら閉じ込められた閉塞感のある音だけれど、今は他の人の侵入を防ぐ安心感のある音になる。
この部屋では問題が提示されることはない。
リモコンを持って操作するまでもなく壁に掛かったモニターが作動している。
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ベッドルーム
残り時間 7:57:23
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「ふうううぅ」
わたしはベッドにダイブして脱力する。もう頭を使いたくない。
このベッドルームは十六部屋毎に来ることが出来る。老人と知恵比べすることはなく、ただ休憩するだけである。休憩時間は八時間。ぐっすり眠ることが出来る時間だ。この間にしっかりと頭を休めないと。
わたしは服を脱いで全裸になる。着ていた服を持ってシャワールームに行く。着ていた服は用意してあった籠に入れておく。わたしが寝てから起きるまでに回収される。
熱い湯を頭から浴びる。頭がほんわかとした蒸気に癒される。明日も頑張らないといけない。出口の兆しは一向に見当たらないけれど、この知恵比べに勝ち続けている限り危険なことは無い。今は頭の澱みを取ってすっきりして明日を迎えたい。
わたしは風呂からあがると身体と髪にバスタオルを巻いた。今日はもう寝たい。今すぐ寝たい。今なら五秒と待たずに眠れる。
わたしは眠気をなんとか押し殺して、食事のメニュー表を開く。明日の朝食を選ばないといけないけれど、もうなんでも良い。わたしは適当に○を付ける。
もう一つ。明日の服装を選ばないといけない。こちらも何でもいいや。わたしは適当に○を付ける。
「おやすみ」
誰に告げるでもなく、わたしはベッドにダイブして深い眠りについた。
翌朝。正確には朝かどうかは分からないけれど。この迷宮では日の光が当たらないから自分の体内時計しか当てにならない。モニターは作動している。
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ベッドルーム
残り時間 0:54:28
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丁度良い時間だった。支度して朝食を食べるには充分な時間だ。
わたしはベッドから起き上がって丸テーブルを見る。朝食が置いてある。ベーコンエッグ。美味しそうだ。
その横にはマネキンが置いてある。マネキンは豪華なドレスを着ていた。
「これ着るの!?」 わたしは思わず叫んだ。
派手派手な赤いドレスだった。下半身はフリルいっぱいのスカートで重装備なのに、上半身は布地が胸までしかない。肩も腕も全部出ている軽装備である。パーティーではあるまいし、こんなものを着て知恵比べをしたくない。しかし、これしか着るものがない。
「はぁ」
わたしは溜息を吐いてドレスを着る。
あの老人はわたしのドレス姿を見てどんな反応をするだろうか。どうせ無反応だろうな。
「さて。進もうか」
わたしは席を立ち、前へ進む。部屋の奥の扉を開ける。
あと何回勝てば、この迷宮から抜け出せるのかな。
今日も頑張ろう。




