三つの照明と三つのスイッチ
また、部屋に入る。
見慣れたというより見飽きた八畳洋間。出口である様子は無い。
「いらっしゃい」 老人が声を掛けてくる。
「どうも」 わたしは適当に声を掛ける。
またゲームが始まる。
扉を閉めると同時に、がちゃりっと鍵が掛かる音がする。次に出る問題が気になることより、お腹が空いてきている方が重大だ。
「それでは問題を提示します」
老人はリモコンを持って操作した。壁に掛かったモニターが作動する。
モニターに問題が表示される。
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玄関に三つの照明用スイッチがある。このうちどれか一つが
奥の部屋の照明である。
奥の部屋に一回行くだけで、どのスイッチが奥の部屋のスイッチ
か判別するためにはどうすればよいか。
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「最近のスイッチってどこの照明か書いてあるよね」
この老人には馴染みがあるのかな。相変わらす老人はわたしの言葉にコメントしてくれなかった。
「それでは始めます。考慮時間は一時間です。私より“面白い答え”を提示してください」
老人が砂時計をひっくり返す。考慮時間の始まりだ。
「おなかが空いたわ。メニュー表を頂戴」
「どうぞ」 老人がメニュー表を見せてくれる。
わたしは20ページのメニュー表をめくって夜ごはんに食べるものを探す。
「よし、これにする」
ステーキにした。何回か前の部屋でウシの問題が出てきたときから今日は牛肉にしようと思っていた。
五分後。モニターの下に小さな隙間が開いた。そこからトレイに乗ったステーキが出てくる。ライスとスープ付。大人だったらワインでも付けるのかな。
老人はトレイを受け取ると私の前に差し出す。
「どうぞ」
わたしは目の前に出てきたステーキを見る。肉汁があふれ出てこのまま溶け出しそう。
「頂きます」
わたしは両手を合わせた。
「おじいさんは何か食べないの?」
わたしはステーキを十六分割しながら老人に訊く。
「ゲームの運営に関わる質問には答えられません」
あんまり釣れない言葉ばかり言わせるのも、ステーキがおいしく食べれなくなりそうだからやめておこう。
考慮時間は残り三十分。お腹が膨れて眠くなってきた。いや、わたしは太ってないけれど。
わたしは丸テーブルに置いてある紙とペンを手に取る。問題の間取り図を描いてみる。玄関、廊下、奥の部屋。玄関には三つのスイッチ。
わたしが家を作るときには、必ずスイッチにどこの照明が付くか書いておいてもらおう。
砂時計の砂が落ちきった。一時間の考慮時間が終わってしまった。
「それでは解答を提示します」
老人が解答を書いたホワイトボードをこちらに見せる。
「 電球を触って確認する 」
老人はホワイトボードを見せると同時に口に出して読んだ。
「三つのスイッチをそれぞれA,B,Cとします。
まず、Aのスイッチを入れ、BとCは切っておきます。
五分してからAを切り、Bを入れる。そしてすぐに奥の部屋にいきます。
明かりがついていれば、その部屋のスイッチはBで、
明かりが消えていて冷たければC、温かければAとなります」
「まぁ、そうでしょうね」
その答えはわたしも知っていた。考えていた訳ではなく知っていた。有名な問題だもの。
だから違う答えを用意した。
「解答を提示してください」
「はい」
わたしは老人にホワイトボードを見せた。
「 順番にスイッチを入れる 」
わたしは堂々と宣言した。
「三つスイッチがある。ならそれぞれ、玄関、廊下、奥の部屋のスイッチに決まっている。最初のスイッチをつけると玄関の照明が付くかもしれないし、廊下の照明が付くかもしれない。付かなかったら奥の部屋のスイッチだってことが分かるわ」
「三つのスイッチが玄関、廊下の照明でない可能性がありますが」
老人が反論してきた。
「それなら奥の部屋以外に照明の付いている場所を探すわよ。家中隈なくね」
一回しか入っていけないのが奥の部屋だけなので他の場所ならいくらでも探せる。
「それに、おじいさんの解答だって穴が無いわけではないのよ」
「どんな穴ですか?」
「奥の部屋に入ったとき脚立が無かったら、どうやって電球に触るのよ」
老人は大きく頷いた。
「よろしい。進みなさい」
「どうも」
わたしは席を立ち、前へ進む。部屋の奥の扉を開ける。
「ねぇ、おじいさん」
わたしは背中越しに老人に尋ねる。
「わたしはあと何回勝てば、この迷宮から抜け出せるの?」
「ゲームの運営に関わる質問には答えられません」
相変わらずそっけない対応だった。




