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5話 出発の前に

「やっちゃったぜ……」


 今僕の膝の上には喋り疲れて眠ってしまったノンナ姫がいる。

 ついつい頭を撫でてしまったことから気が付けば母親代わりにノンナ姫の胸の内を聞き入ってしまった。男なのに母親代わりとか……ははっ軽く鬱だ。


 ノンナ姫が義妹と重なり、ついついお節介を焼いちゃったけど……この格好不味いよね~


 ノンナ姫は僕の膝枕だけじゃ満足しなかったのかTシャツの裾をがっちり掴んで離さない。

 こう言う時に限って陽向とかが入ってk


「いずんちゅちょっといいか? これからの事でちょっと話s……」


「陽向違うんよ! これには深い訳が……お願いだから無言でドアを閉めないで!」


 計ったようなタイミングで入ってきやがって……


「いずんちゅが小さい子が好きなのは知っていたが……姫様まで手を出すとは」


「違うって!」


「う~ん……」


「大声出すと姫様が起きるぞ」


「くっ……」


 ノンナ姫は起きるかと思われたが、腹に顔を埋めるように擦り付け寝続ける事を選んだようだ。

 その太い神経が今は憎い。


「とりあえず……たけぞー呼んでくるか」


「待って、陽向さん。お願いだから」


 立ち上がろうとするがノンナ姫ががっちり腰を掴んでいるので立ち上がれない。

 もたもたしている間に陽向は武さんをつれて戻ってきた。


「和泉さんアウトー」


「まぁ待て話せばわかる。

 時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり話し合おうじゃないか」


「そうですね。私にも是非とも説明してもらいですね」


 いつの間に来ていたのかバジルさんまで話しに加わってきた。

 まぁいきなり姫様が居なくなったのだ慌てもするだろう。


 みんなにはノンナ姫が部屋を訪れてから今に至るまでの経緯を説明した。

 当然ノンナ姫の胸の内は内緒で。


「姫様がその様なことを」


「ノンナ姫は立派です。十三歳で国を背負って立つなんて普通は出来ません」


「そうだな」


「ましてや女の子だしな」


「でもまだ十三歳なんですよ。

 姫様がこのまま成長すれば必ず国民に慕われるいい国王になることでしょう。

 でもその前に壊れてしまっては元も子もないですよ」


「私達は姫様の強さに甘えていたのかも知れませんね」


 バジルさんが優しく姫様の頭を撫でながら呟く。きっとバジルさんならこれからも上手くやるだろう。

 確信は無いけど何故かそう思えた。


 暫くバジルさんと一緒にノンナ姫の寝顔を眺めていると急に目を覚ました。


「ここは……」


「よく眠れましたか? 姫様」


「……バジルか?」


「私よりもずっと膝枕して下さったイズミ様に挨拶なされては?」


「ん? イズミ?」


 まだ寝惚けているのか姫様は正面を見るようにゆっくりと動く。そしてちょうど正面で覗きこむように見ていた僕と目が合った。


「ノンナ姫ご機嫌はいかがです?」


「あ……あ……」


「どこか具合が悪いですか?」


「にゃ……にゃ……見るにゃー!」


「ガブラッ!」


 顔を真っ赤にしたノンナ姫が勢いよく起き、額が僕の鼻を直撃した。


 は……鼻が折れた! この痛みは絶対折れた! 鼻を折ったことないけど!


「ああっすまぬ母様!」


「「「母様?」」」


「ちっ違う……違うんじゃーーーー!」


 みんなの視線に耐えられなかったのかノンナ姫は猛烈な勢いで部屋から飛び出して行った。


「あ~あ姫様ったら……ヒール! まだですかね? ヒール!

 どうです? まだ痛みはありますか?」


「あ、痛みが無くなっている……」


 凄い。改めて魔法の凄さを感じる。鼻も折れてなかったようだ。


「もう大丈夫ですね。それでは私は姫様を追いかけます。

 食事はこの部屋に運ばせますので……では」


 バジルさんはノンナ姫の後を追うように部屋と飛び出して行ってしまった。

 どうやって落ち着かせるんだろう?


「それにしても和泉さんが“お母さん”か……」


「異世界に来て早速手を出す癖は治ってないな」


「そんな癖知らないよ!」


 その後メイドさんが食事を持ってきてくれるまでずっと二人にからかわれ続けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 食事がひと段落すると今後の事について話し合う事になった。


「さて、どうしよっか?」


「Jobをとらないといけないんだろう?」


「そうだな。この『一般市民』ってのは変更できるのか?」


「冒険者ギルドへ行けば変わりますよ」


「「うわっ」」


「いい加減慣れろよ」


 例によって大神さんがいきなり会話に参加してくる。

 てか陽向凄いな。もう慣れたの?


「毎回毎回出て来られればな、なんとなくだが出てくるタイミングがわかる」


「いや~私ももっと精進しないといけませんね~」


 いやいや、何を精進するんだよ……


 僕と武さんを驚かす事に成功した大神さんが嬉しそうに説明してくれた。

 『一般市民』は戦闘行為を行わない、行えない人達に割り振られるJobとのこと。

 そして、街の外で魔物を狩ったりする為には冒険者ギルドに登録しなければいけない。

 これは街の外で戦闘行為を行いますよ、もし仮に死んでも自己責任ですよ。という事を了承する意味もあるらしい。

 冒険者ギルドに登録すると、最初は『ノービス(初心者)』というJobになるのだと言う。


「それじゃ明日はまず冒険者ギルドへ行こうか」


「そうだな。でも冒険者になっていいのか?」


「と言うと?」


「ノンナ姫に召喚され、ノンナ姫の為に戦うなら冒険者じゃ無くて軍とか親衛隊の方がいいんじゃね?」


「異世界から来た俺達が二日やそこらで姫様の親衛隊になるのは俺達の為にも姫様の為にもならないだろ」


「それに軍なんて縦社会に入ったって新兵の僕たちじゃ何もできないよ」


「そう言うことだ。なら自由に動ける冒険者の方が何かと都合がいい」


「私も皆様が冒険者で居てくれた方が都合がいいですね」


「成る程ね~皆考えているんだ」


 いや、武さんもちょっとは考えてようよ……


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌朝またもやメイドさんの襲来で目を覚ます。

 朝からメイドさんが起こしてくれる生活……いいですな~


 朝食を頂いた後、バジルさんに今日中に冒険者ギルドへ行きそのままJobを取得しに出ると伝えた。

 すると渡したいものがあるからと言い席を立っていった。ノンナ姫はまだ恥ずかしがっているらしく顔を見せてもらえない。


 出発の準備を終えた僕たちは僕の借りている部屋に集まった。

 着の身着のまま飛ばされた僕たちには準備するものも無いんだけどね。


 陽向たちと喋っていると大きな荷物を抱えたバジルさんが入ってきた。何でも旅立つ僕たちに餞別をくれるとのこと。なんともありがたい話しだ。


 餞別は服と外套。それと武器にお金までもらった。

 服は長旅にも耐えられるよう丈夫に作られた服で初心者の冒険者達に人気の服らしい。外套は服以上の強度があるとのこと。

 武器はお城にあったショートソードが二本とダガーが二本。どれも初心者が持つ武器にはちょうどいい武器だとか。僕がダガー二本を選び、陽向と武さんがショートソードを手にした。

 お金は一人につき金貨三枚づつ貰えた。

 お金をもらってから気付いたけど、この世界のお金の価値がわからない。金貨だからそれなりの価値だと思うけど……


 貰った服にさっそく着替え、準備万端だ。


「最後にこれを」


 バジルさんが取り出したのは拳位の大きさの水晶だった。


「この水晶球は遠方と会話が出来る魔法道具です

 連合に加盟している国であればどこにいても連絡がとれる優れものですよ」


「いいんですか? 貰ってしまっても」


「ええ是非貰って下さい」


 貰ったものを袋に入れてもらい、出発しようかとした時。扉の影に隠れるブロンドの髪を見つけた。


「ノンナ姫そこにいるんでしょ?」


「何故ばれたんじゃ!」


 いや、金髪が見えてるから、バレバレだから。


「もう行くのかえ?」


「ええ、いつまでも市民のままじゃ役に立ちませんからね」


「そうか……妾の為に頑張ってもらわねばならぬからの!」


「あ、それは嫌です」


「何でじゃー!」


「ははは、じゃ行ってきますね。ノンナ姫」


「待て、妾の事はノンナでよい」


「それは……」


 思わずバジルさんを見てしまう。

 彼は微笑みながら一回頷いた。

 え?  それは肯定の頷きなの?


「イズミにはノンナと呼んで欲しいのじゃ……ダメか?」


「もう……しょうがない甘えん坊ですね。ノンナは」


 名前を言った瞬間ノンナが抱きついてきた。急なことで驚いたけど何とか踏ん張れた。

 女の子に抱きつかれて尻餅ついたとか格好悪すぎだしね。


「水晶球は持ったのか?」


「ええ、バジルさんに頂きましたよ」


「ちゃんと毎日連絡するのじゃぞ」


「ええ。わかりました」


「今日は母様の匂いがせぬな」


「貰った服に着替えましたから」


「……気を付けての」


「はい。ノンナも無茶してはダメですよ」


「わかっておるのじゃ!」


 潤んだ瞳でノンナが僕を見上げてくる。

 見つめあっているとノンナは目を閉じ何かを待つように背伸びをした。

 これはあれか! でもみんなの前って恥ずかしい……けど姫様に恥をかかせる訳にも……

 ええい! ままよ!


 ゆっくりと顔を近付け互いの吐息を感じる位の距離になり……


『我輩再び参上!

 勇者共! 一昨日の借りここでかえギャーーー!』


「「「空気読めや!」」」


 盛大に空気をぶち壊された。

 あ~あノンナが顔を真っ赤にして俯いちゃった……


『何故だ! 魔族としてはこの上ないタイミングだっただろうに』


「そうだな……悪役としては良かったが……」


『そうであろう、そうであろう』


「今この場に限っては最悪だったな」


『小娘が発情していただけであろうに』


「あ~あ。それを言っちゃ~おしまいだよ?」


「この年頃の女の子がキスをねだるのにどれだけ勇気がいると思っているんだ!」


「そうだぞ! 例え相手が完成度の高いオカマでも勇気がいることには代わり無いんだ!」


 武さん?


「貴様らのような女の子に縁もない魔族は黙ってろ! これからオカマが浮気するんだぞ!」


 陽向?


 あれ? 二人共僕の仲間だよね?


『貴様ら~好き放題言いおって! 我輩にも嫁位おるわ!』


 そっち!?


「なんだと! 嘘つくな!」


「DTが苦し紛れに嘘ついているんじゃねーよ!」


『この……』


(もうよい……下がれ)


 影の人が何か言おうとした瞬間頭の中に声が響いてくる。


『魔王様!』


 魔王だって? 魔王はまだ復活してないんじゃ?


(お前達が我と戦う為に喚ばれた勇気共か……)

(実に貧相な姿よ……)


「っさいわボケ!」


「姿も見せない癖にほざいてるんじゃ無いよ!」


「案外あの影の中にラジカセが入っていたりして」


「ラジカセってwwww」


「古いww」


『貴様ら! 魔王様の御前であるぞ!』


「いや、御前って……姿見えないし」


(よかろう……我の力その目にしかと焼き付けるがよい!)


 言葉が消えると赤い光線がノンナに向かって一直線に走る。


「ノンナ!」


 無意識に僕はノンナの前に立ち塞がり赤い光線をその身に受ける。


「イズミ!」


(ほう……女を庇うか)


 僕の中に怒りが沸々と沸き上がる。


「貴様……この中で一番小さい子を狙ったな……」


(それがどうした?)


「貴様は絶対に許さない! 絶対にだ!!」


「イズミ……!」


(フッハハハハ! 威勢だけは一人前だな!)


「うるさい! 貴様は命に変えてもこの僕が倒す!」


(命があるうちに我の所まで辿り着ければよいがな!)

(楽しみに待っているぞ! フッハハハハ)


『貴様が受けたのは魔王様の呪いだ! 精々苦しむがいい!』


 笑い声と共に影が消えていくと、辺りは静寂に包まれる。


「珍しくいずんちゅがキレたな」


「大丈夫なのか? 和泉さん」


「あの野郎……よりにもよってノンナを狙いやがった」


「そうだな。小さい子を狙うのは外道だと思う」


「そうだろ! 小さい子は遠くから愛でてナンボだろう!」


 場の空気が凍った。


「え?……和泉さんやっぱり……」


「違うよ!? あくまでも一般論としてね?」


「お前も一緒に滅びろよ。さっき姫様にキスしようとした癖に」


「違っ! 違くないけど、なんか違う!」


「帰ったらウィルディさん達に報告だな」


 ちょっ! それだけは勘弁願いたい!


「イズミ!」


「わーごめんノンナ!」


 ノンナは勢いよく僕を押し倒すと上着を脱がしにかかる。


「何の事じゃ! それより早く服を脱ぐのじゃ!」


「うぇ?」


 思わず変な声が出てしまった。

 そしてあれよあれよという間に上着を剥ぎ取られてしまった。


「ーーっ! すまぬイズミ。妾を庇ったばっかしに……」


「イズミ様……」


 ノンナとバジルさんが沈痛な表情を浮かべ俯いてしまう。

 え? 何? 何の?

 ふと視線を下げると心臓の所から鎖骨にかけて蕀のような刺青が入っていた。

 何? これ?


「これは闇魔法の一種じゃ」


「対象者の命を吸って成長する呪いです。普通の人では一ヶ月も持ちません……」


 え? マジで?

 僕、異世界に来て二日目で人生終了のお知らせ?

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