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53話 VSギュース

 ざわつく訓練場をきらびやかな装備に身を包んだ一段がこちらに歩いてくる。その中でも先頭を歩いている金髪のイケメンは何故かこちらを睨んでいた。

 “クソアマ”発言から相手は僕が抱き抱えているブリジットさんだと思うのだが、女性に対してあの言い方はいただけないな。


「やっと見つけたぞ、あの時の借を返させてもらうからな!」


 イケメンがこちらを指差し何やら叫んでいる。言葉の内容からブリジットさんに何かしらの借をつくったらしいのだが……どうせ自分のイケメンを勘違いして手酷くフラれたのだろう。逆恨みもはだはだしいね。


「おい! 聞いてるのか!!」


 いつまで待っても返事が来ない事に苛立ったのか、イケメンがさらに声を荒げる。だが、肝心のブリジットさんは気絶中なのだから返事がなくて当然なんだけど……。

 まぁこのままでは話しが進まないのでブリジットさんを起こすことにした。


「私は……」


「目が覚めた?」


「貴女は!……これは一体……?」


 混乱しているブリジットさんに状況を説明することにした。まぁ目が覚めていきなり敵に抱き抱えられていたら混乱もするでしょう。


「……ってな訳で、何かあの男が一言言いたいそうですよ?」


 指差した方向を見てブリジットさんは眉をひそめた。おや? 知り合いじゃないのかな?


「ギュースが私に? 一体何の用でしょう」


「お前じゃねーよ!! お前の後ろの奴に用があるんだ! あと俺様の事は“ギュース隊長”と呼べ!」


 ギュースと呼ばれた男はブリジットさんの後ろを指差しまた吠え始めた。ってかブリジットさんの後ろには女性なんて居ないけどなぁ……。


「何でお前まで振り返っているんだよ!」


 後ろを確認していたら地団駄を踏みながら怒られてしまった。ってか、


「僕のこと?」


「お前以外に誰がいるんだよ!」


 だってクソアマって言ったじゃないか。悪いが僕は男だ。クソアマじゃなくてクソガキだ。いや、クソガキもおかしいか。

 それにしても、こんなイケメン見たことが無いなぁ?


「ヒール。武さん、“ギュース”って奴知っている?」


 僕はいまだに転がっていた武さんを回復させると早速質問をしてみた。


「んぁ? ギュース? 誰だそれ?」


 武さんは腰の辺りをトントン叩きながら逆に質問してきた。武さんも知らないとなると……本当に誰だ?


「お・ま・え・は!! 自分が氷漬けにした人位覚えていやがれ!」


 騎士の格好で氷漬け……? あ~なんとなく思い出してきたかも……?


「中学の時一緒っだった田中君……?」


「誰だよ!? ギュースって名乗っているだろう!! 姫様の親衛隊長のギュース・ニコルソンだ!

 あとそのタナカ君とやらも氷漬けにしたのかお前!?」


 いや、田中君は氷の張ったプールへ……って田中君のことは置いといて、ノンナの親衛隊長のギュース……!


「思い出した!! ロリコンでドMの変態隊長だ!!」


「違う! いや、違って無いが違う!」


 何を言いたいのかわからない。小さな女の子が好きでその子に命令されると喜ぶ変態でしょ? 何も違ってないじゃない。


「それで、その変態隊長が何の用事ですかね?」


 後ろの連中も同じ様な装備に身を包んでいるところを見ると……多勢に無勢でボコる気だな!?


「ふんっ知れたこと。貴様に決闘を申し込む!」


 奇襲を警戒している僕にギュースはポーズをとりながら優雅に白手袋を投げてきた。決闘の申し込みってこれであっているんだっけ?


「さぁ拾え!」


 確かこれを拾うと決闘が成立するんだよね? なら……。

 僕は手袋を拾うフリをして、



 魔法で燃やした。



 手袋は勢いよく燃えたので多分綿製品だろう。ギュースめケチったな。


「何故燃やす!!」


 いや、何故って……。


「決闘したくないからに決まってるじゃん」


 何を当たり前なことを聞いてくるのだろう。誰が好き好んで決闘なんかやらねばならんのだ。


「ふざけるな! お前のせいで俺様は街中の女性に笑われ、怪我の回復に数日の時間を奪わた。仕舞いにはやっとのことで復帰したのに姫様からも叱られたのだぞ!! この屈辱、決闘で晴らすしかあるまい!」


 いや、あるまいって言われても……知らんがな。


「だいたい、親衛隊長と剣で戦うって僕が圧倒的に不利じゃん。それとも何? 自分が有利な状況じゃないと戦えないの?」


「そんなことはない! 確かお前は魔法使いだったな……? いいだろう、お前は剣の変わりに魔法でも何でも使えばいい」


 ふむ、魔法有り……か。

 そう言えば学校に提出するレポートがまだだったっけ……ここは一つ人体実験ってのもいいかも……。


「ふ~ん……魔法ありでいいんだ?」


「当たり前だ、例え魔法有りでも遅れはとらん! 俺様は日々進化しているんだからな!」


 自信満々に言いはなつギュース。ならばその伸びきった鼻を折るのも一興だね。


「じゃ~殺ろうか?」


「お前……何処までも軽いな……」


 こうして僕とギュースの決闘が成立した。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 時間が惜しいから今日この場での決行となった。ルールは簡単で負けを宣言するか、気絶等の戦闘不能になったら負け。殺してしまったらその時点で負けとなる事にした。

 武器はギュースが片手剣で、僕は何であり。ちょっとしたハンデといったところだろう。

 審判は公平をきすために武さんの隊から選出した。


「さぁ始めようか!」


「負けたときの言い訳を考えておいたら?」


 僕達は互いに睨み合いながら訓練場の真ん中に対峙する。そして互いに五歩ずつ下がり、審判の合図を待つ。


「それでは……始め!!」


 審判の合図と共にギュースが突っ込んで来た。思いの外スピードが早い。さすが隊長をやっているだけの事はある。が、


「ブベラ!?」


 目の前に現れた氷の壁にモロに突っ込んだ。まぁ回避できないギリギリのところに出したけどさ、隊長なら避けるとか切るとかして欲しかったよ。


 氷に熱烈なキッスをしたギュースは地面に転がっている。どうやら氷に嫌われてしまったようだ。


「囲め、《アイスウォール☓4》!」


 そのギュースを四方から氷の壁で取り囲む。このまま氷漬けでジ・エンドだ。


「なめるな!!」


 痛みから回復したギュースが剣を振るうと四枚の氷が全て砕かれた。腐っても隊長って訳か。

 でもアイスウォールの発動までのタイムラグが結構あったなぁ。こういった弱点があるなんて知らなかったよ、今度のレポートに書いて提出してみよう。


「オラ! ぼっさとしてる暇なんかねーぞ!!」


 ダメージから回復したギュースが再度間合いを詰めてくる。しかし、何とかの一つ覚えみたいに毎回突進してくるね~。


「くらぁあばばばば!?」


 あと一歩の所まで引き寄せてから、一気に雷を落とす。水属性のギュースに風属性の魔法は効いたのか膝から崩れ落ちる。てかさ、剣技は凄いようだけど、本当にこの人が親衛隊長でいい訳?

 さすがに雷のダメージは効いたのか今度はなかなか立ち上がって来ない。僕はこの隙に距離を取ると印を組み始める。


「こ、この……お前の魔法を喰らって倒れなかったのは俺が初めてだぜ!」


 何か意味の解らない事を言っている……。膝から崩れ落ちてるじゃん、未だに立ちあがって来ないじゃん。それに魔王の手下は喰らっても普通に立ってたよ。


「あ、そう。まぁいや何かよくわからないし。忍法! 影傀儡!」


 僕はオーバーアクション気味に左手を前に突き出した。実際にはこの動きには何の意味もない。あえて理由を付けるならば、あまりにも地味な発動を誤魔化すくらいかな。

 周りのみんなが左手に注目するなか、腕と一緒に伸びた影がそのままギュースの足元まで到達する。

 うまく繋がったのがわかるとそのまま一気に左手を引く。すると僕の影に連なってギュースの影までが伸びていく。


「何だコイツは!?」


 驚くギュースの前で影が立ち上がり、そのまま黒いマネキンへと変化した。

 身長も体格もギュースとそっくりで、違うところと言えば髪と顔が無いことだろうか。


「何時だってね、越えるべき壁は自分自身なんだよ!」


「いや、俺様は別に壁にぶつかってないし……」


 久し振りに良い事を言ったと思ったのに、ギュースの奴あっさりとスルーしやがった。どうするのさ、この訓練場の空気。


「…………ふっ。やっておしまい!!」


 場の雰囲気に耐えきれなかった僕が影人形を差し向ける。人形は未だに立ち上がれないギュースの元まで向かうとスッと手を差しのべた。


「お前……手を貸してくれるのか?」


「……………………」


 人形は一回頷くと「さぁこの手を掴みたまえ」と言わんばかりに左手・・を動かした。


「お前……すまないな」


 ギュースは謝りながらも人形の左手を握った。人形はしっかりと握った事を確認すると、グッと手前に引っ張り……、


 無防備なギュースの顔面へ右の拳を叩きつけた。


「ブヘっ!?」


 顔面を殴られたギュースはその場に仰向けに倒れる。すると人形はすかさずマウントポジションを取り、これでもかと顔面を殴り続けた。その光景は思わず目を背けたくなるほど醜かった。


 十分に殴り満足したのか人形はギュースの上から退くと、腕を組みあからさまにギュースを見下してした。


「この……お前……卑怯だぞ……」


 息も絶え絶えにギュースは僕を非難してくる。しかし、僕に言うのはお門違いだ。何故なら、


「これ半自動で動くから僕は関係ないよ」


「へ?」


 僕の言葉を聞いたギュースは目が点になっている。理解出来ていないのかな?


「だから、その人形は僕の魔力供給が切れるまで影の持ち主と同じ様に行動するんだよ」


 簡単に言ってしまえばもう一人同じ人間を影で作ると言うことだ。攻撃パターンから思考回路までそっくりそのままコピーする。なので、今回のこの卑劣な行為もギュース本人の行動と言える。


「バカな!! 俺様はそんなに卑怯では……」


(でもギュース隊長ならやりかねないよな)

(ああ、俺もそう思う)

(この前の事覚えているか? あれの犯人が隊長よりイケメンだったんだが、ものの見事に顔だけ攻撃してたぜ)

((やっぱり))


 本人は否定しても、周りの目は誤魔化せないようだ。次々と部下達から秘密の話しが漏れてくる。


「お・ま・え・ら! 少しは隊長の事を信用しろ!!」


 いや~そいつは無理なんじゃないっすか?

 僕はギュースを見る部下の目を見てそう確信した。

 さて、あまり遊んでいても時間がもったいない。僕はアイテムから一本の細剣を取り出すと、人形へ向かって放り投げた。


「さぁちゃちゃっと片付けちゃって」


 人形は右手に細剣を構えると、ギュースが起き上がるのを待っている。いくら卑怯なギュースでも、これくらいの常識はあったようだ。


「なめやがって! 人形ごときに負けるかよ!!」


 ギュースは自分の剣を拾い上げると、人形へ向かって猛然と斬りかかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 どれ程の時間が経っただろうか。お互いに一歩も引かず剣戟の応酬が続いている。

 片手用直剣と細剣という差があるものの、やはりギュースの腕は本物のようだ。


「この! いい加減にやられろ!」


「……………………」


 一旦距離を置いたギュースの口から悪態が出る。自分自身の強さがわかって良かったじゃないの。


「だから言ったでしょ?“越えるべき壁は自分自身だよ”って」


 僕はギュースへ指を指しながら宣言する。ちょっと勝ち誇った感じになったらごめんあそばせ?


「いや、その影は俺様だったな。と、言うことは俺様はやはり強かっタブラッ!?」


 僕はギュースの顔面へ水球をぶつけた。この野郎……負けてる状態で調子に乗っているんじゃないよ!


「この……二人掛とは卑怯だぞ!」


 今まで散々やってきて、自分の事を棚にあげて何を言っているのだろう?

 どうしようか? うん、そうだね、殺っちゃおうか。


 僕は人形に流す魔力の量を増やすと、人形に命令を出した。


「泣いて謝るまで痛め付けちゃって」


 やばいセリフが悪役っぽいかな?

 そんな事を思いながらギュースへ距離を詰める人形を見つめていた。

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