4話 初心者のスキル
ノンナ姫にはJobの事を重点的に教えてもらう事にする。流石に同じことを二回続けれるのは辛い。
この世界のJobがよくわからないと素直に言うと嬉々として説明し始めた。
説明が好きなのだろうか?
連合国で認められているJobは全部で十個。
前衛系がナイト・パラディン・アサシン・モンク。
後衛系にウィザード・ソーサラー・アーチャー
職人系のブラックスミスとアルケミスト。
支援系のプリーストである。
やはりどこぞのRPGのようなラインナップだと思う。
Jobに就くには各ギルド本部へ行き適正検査を受け、合格すれば直ぐに就けるとのこと。
まぁどのギルドも半人前を世間に出す事は無いので訓練期間が設けられているらしいとはノンナ姫の談だ。らしいと言うのはノンナ姫も又聞きだからだろう。
ノンナ姫は後で各ギルドへの行き方と地図をくれると言って部屋を出て行った。
忙しいのにわざわざ来てもらって申し訳がないね。
◆◇◆◇◆◇◆◇
何時までもドレスのままだと堅苦しいのでこっちに来たときの服に着替える事にする。陽向達も着替えに行ってしまった。
さて、着替えも終わって暇になったし。スキルでも確認してみようかな。
とりあえず……どうやればいいんだ? 神崎さんこういう所をちゃんと教えていってよね……
「呼びました?」
「うわ!」
「わっ! 何ですか呼び出しといて驚くとか失礼じゃないですか」
急に現れた神崎さんにどうして現れたのか質問すると、どうやら神崎さんの名前を思っただけで反応して来てしまったらしい。
そんなに仕事に飢えているのか……てか魔王の復活を調べないといけないんじゃ?
「それは先輩がやってくれてます。
私も手伝うと言ったんですよ? なのに先輩ったら私が手伝うと時間が掛かりすぎるからいらないって……ひどくないですか?」
「あ~うん。そうね、ひどいね」
「何か和泉様も反応が淡泊です……」
「それよりもさ、スキルってどうやって確認するの?」
落ち込まれても鬱陶しいので知りたい事を聞く事にする。何の気なしにタメ語で話しかけてしまったが意外にも気にする様子もなく、むしろ友達みたいで嬉しいと喜ばれてしまった。
もしかして友達が……いや辞めておこう。わざわざ暗くなることもない。
スキルの取り方はまず先ほどのステータスと同じように今度はスキルと念じる。するとスキルの一覧が出るから欲しいスキルを選ぶのだと。
「これさ、もし取得してからやっぱり使わないってなったらどうするの?」
「スキルリセットできますよ。
ただし一回リセットしてしまうと次に使える様になるまでしばらく時間を頂きますけどね」
「ふ~ん、まぁいいや今の所使う予定ないし」
早速神崎さんに教えてもらった通りにスキルを見ていく。
一般市民スキル一覧
・カレンダー(時計あり)5p(時計なし3P)
・場所把握5p
・初歩魔法セット10p
・家事一般セット10p
となっている。
「これカレンダーの時計有りと無しに分ける意味あるの?」
「そうですね~感覚的に時間がわかる人も中にはいらっしゃいますから」
どんだけ狭い範囲の人を狙っているんだ……?
「そ、そうなんだ……この場所把握はどうなの?」
「それはですね~今現在いる場所の情報が頭に入ってきます」
「へ~凄いじゃん」
「村や街に居ればその名前をそれ以外に居れば緯度と経度を教えてもらえますよ」
「あ、うん。いらない」
「そうですか? 結構役に立つんですよ?」
緯度と経度を教えてもらっても僕じゃ何もできないし……
「この初歩魔法セットは? 魔法使いや冒険者以外でも魔法って使えるの?」
「そうですね、市民の方でも魔力がある人は魔法を使えますよ。
このスキルの内容ですが、火、水、風、土の基礎の基礎が使えるようになります。
それと適性があれば光と闇そして聖の特殊系の魔法が追加で覚えられますよ。
ただ注意なんですけど、初歩の初歩なのでこれを使って戦闘しようなんて思わないで下さいね。
あくまでもこれは生活用の魔法だと思っていて下さい」
「魔法か……」
魔法には興味あるし、取ってみよう。
初歩魔法セットを選択すると最終確認が出てくる。こういうところもゲームみたいだけど、普通の人はどうなんだろ?
あ、僕たちだけの仕様だっけ。
とりあえず10Pを消費して初歩魔法セットを覚えた。
「あ、面白いね全部頭の中にやり方が入っているよ」
「あ、スキルを取られましたか。
ではさっそく使ってみましょう」
神崎さんに勧められて使ってみたが、なんの事もない。火魔法手先からなら火、水魔法なら水が出た。威力は消費する魔力に比例して上がるとのこと。
まぁ初心者の魔法ならこんなものか、後はどう使うかだけど……。
ちなみに土の魔法は砂だったけど頑張れば石を出すことも出来た。
これもっと頑張れば宝石も出せるかな?
「基礎系は問題無いですね~
まぁこれらの魔法は少し魔力があれば誰でも使えますから。では、次は特殊系を説明しますね」
まだ神崎さんがごちゃごちゃ言っているけど無視していこう。
光の初歩魔法は光球を出す魔法のようで、消費魔力で明るさが調節出来た。まぁ夜の光源にちょうどいい魔法だと思う。
聖の初歩魔法は特何も起きなかった。ただ心なしか気分がスッキリしたような……
よくわからない魔法だ。
最後は闇なんだけど……手先が黒い靄に包まれて見えなくなった。
これは……モザイク的な?
「神崎さん。闇魔法ってこんなの?」
「……と言うわけで闇魔法が使える人って言うのは少n……って和泉様! 説明はちゃんと聞いてください!」
「あ、ごめん。聞く気はなかった」
「そんな~闇魔法で遊んでないで聞いてくださいよ~って闇魔法が使えてる!?」
「あ、やっぱりこれが闇魔法なんだ」
「スゴイです! 私初歩魔法セットで闇魔法を使える人を初めて見ました。
もしかして和泉様って本当は魔族だったり……?」
失礼な、僕は普通の人間さね!
「でもあれですね~適性があるなら闇魔法より光魔法の方が……」
「光魔法ってこれ?」
「そうです。その光球が光魔法で……
あの和泉様。何故両手に違う属性の魔法を同時に発動出来るのです? それも光と闇を」
「え? 何故って言われても……ねぇ?」
「この特殊系は誰でも使えるって訳じゃないんですよ! 適性が無ければ発動すらしません。
それなのにあろうことか両方をしかも同時に使うなんて……
はっ……あの和泉様。まさかとは思いますが……聖魔法も使えちゃったりします?」
「あ~何となくスッキリしたような気がしたあれ?」
「それです……触れたものの穢れや汚れを落としてくれる魔法ですよ、それ。
それにしてもまさか全部の魔法を使えるなんて……」
「ははっラッキー」
「ラッキーって……はぁもういいです」
神崎さんは何か諦めたようだ。だって、使えるものはしょうがないじゃない?
ついでにカレンダー(時計有り)と家事一般のスキルを取得しておいた。
カレンダーは今日が何年の何月何日かが頭の中に浮かぶスキルのようだ
ちなみに今は皇王歴六四五年三月十六日の十三時三十分とのこと。向こうは秋口だったのにこっちは春先なのか。大体半年の差ってところかな。
家事一般は読んで字の如く。料理、洗濯など生活するのに必要な事が出来るようになるスキルだった。
電化製品に囲まれていた僕がこの世界で生活するのに必要なスキルと言ってもいいだろう。
神崎さんにお礼を言うとまた呼んでくださいと苦笑いで消えていった。
う~ん。何故苦笑いだったんだろう?
取得スキル
・カレンダー(時計あり)5p 初歩魔法セット10p 家事一般10p 計25p
残りスキルポイント 8p
◇◆◇◆◇◆◇◆
暇なので初歩魔法で遊んでいたらノンナ姫がまた部屋に来てくれた。
こんなに頻繁に来ていいのだろうか? 姫様でしょ?
とりあえずベッドに腰掛けたノンナ姫がここに座れと自分の横を叩きだした。
え? 大丈夫? これ座った瞬間に兵士に人達が突入してくるとかないよね?
まぁノンナ姫が座れと言ったんだ。大丈夫……だよね?
僕は恐る恐る隣に腰掛ける。
「何じゃ着替えてしまったのか。似合っておったのに」
「いやですよ~ドレスが似合っているなんて。僕はこうみえても立派な男性ですよ」
「なんじゃと。男性じゃと? ははは、イズミの冗談は笑えるの! どこからどう見て女性じゃぞ?」
「それが冗談じゃ無いんですよ~あははは」
「……まことか?」
「ええ、本当ですよ?」
ノンナ姫の顔色が急激に変わる。最初は真っ青になり、今度は一気に赤くなった。
「ノンナ姫大丈夫ですか? 顔色が……」
「にゃ……にゃんでもにゃいわ」
「いや、明らかに呂律も回ってないですし。
……ちょっと失礼しますよ」
とりあえず横に座っていたノンナ姫を膝の上に横向きで座らせる。そのまま左腕で体を支えながら右手で前髪を上げ額どうしをくっ付けて熱を測る。
瞬間ノンナ姫の顔が熟れたトマトみたいな色になった。
「にゃ!……にゃ!……にゃ!」
「ん~ちょっと熱があるみたいですね。
バジルさんを呼びましょうか?」
「にゃにをするかー!」
「何をって熱を測っただけですけど?」
「もっと他にやり方があるじゃろうが!」
「あ~すみません。僕の義妹がこのやり方じゃ無いと拗ねるもので……」
前回のアルバイトの時、僕には義妹が二人出来た。
元々はキツネの獣人だったが、僕の世界に戻る時に大神さんの力で普通の人間にしてもらい、今は僕の実家から高校に通っている。
「恥ずかしく無いのかえ?」
「最初は恥ずかしかったですけど、今はどうってこと無いですね」
「その妹はいくつなのじゃ?」
「今年で十六になりますよ」
「妾より三つも歳上じゃと……」
ノンナ姫は十三歳か。十三歳で国を背負って立つなんて並の苦労じゃ無いよね……
そう考えていると自然左手がノンナ姫の頭を撫でてしまっていた。
うん。いい手触りの髪ですな。流石姫様。
「……なんじゃこの手は」
「おっと、失礼しました。つい撫でやすい位置に頭があったもので」
「謝りながらも止めないとは……そんなに妾の髪が気に入ったのかえ?」
「あ~すみません。直ぐに止めます」
「よい。続けてくれ」
御許しが出たぞー! と言うことで姫様の髪を堪能させて頂きましょう!
姫様の綺麗なブロンドの髪を堪能してるとノンナ姫は僕の肩に頭を預けてきた。
「イズミは……なんじゃ母様と同じ匂いがするの」
ノンナ姫は僕の髪を弄りながら爆弾を投げつけてきた。
ふっ 体臭よ……僕を裏切ったね! 僕の一部なのに!
香水やボディーソープ。そして洗濯用洗剤に至るまで気を使っているのに……
何が……何がいけないんだ……
「母様も柑橘類の香水が好きでの……よくつけておられた……
しかしイズミは母様より優しい匂いじゃな」
な……なんだと……気を使って付けた香水が逆効果だっただと!
「はは……残念ながら僕は男ですけどね……」
「そうじゃったな……しかし本当に男なのかえ?
体つきといい、匂いといい。完全に女の子のそれじゃぞ?」
もうやめたげて! 和泉のHPはゼロよ!
◆◇◆◇◆◇◆◇
十分くらいは撫でていただろうか。その間にノンナ姫は自分の事をぽつりぽつりと話してくれた。
王様と王妃様に可愛がられた事。
三年前、王妃様が病気で急逝してしまった事。
その翌年。魔物の侵攻から国を護るために出陣し、そのまま帰らぬ人となった王様とお兄さんの事。
どれも十三歳の女の子が背負うには重たすぎるモノなのだが、まだ十歳の弟には背負わせられないと気丈にも振る舞っている。
「姫様は大変ですね」
「そうじゃの。じゃがそれもこれも父様と母様が愛したこの国と国民の為じゃ。それも仕方あるまいて」
「お強いですね、姫様は」
「そうかの……なんじゃイズミに言われるとこそばゆいの」
「そうですか?」
「なんじゃ……その~母様に言われとるみたいでの……」
「そうですか……なら」
僕は膝の上にいるノンナ姫を出来るだけ優しく抱き締めた。
「ノンナ」
「にゃ! にゃんじゃいきなり!」
「ノンナ。よく頑張りましたね……貴女のその優しさと強さ。とても誇りに思います」
「イズミ……」
「ですが、時には肩の力を抜かないと壊れてしまいますよ?」
「そう……じゃな……しかし妾はずっとこうやってきたからの。
恥ずかしながら力の抜き方がわからぬ。どうすればいいのじゃ?」
「簡単な事です、私に話して下さい。
嬉しかったこと、辛かったこと……何でもいいのです。
ノンナが思ったこと感じたことを教えてください」
「そんなことでいいのかえ?」
「ええ、大事なのは自分の中に溜めないことですよ。
そうですね……まずはここ数日であったことを私に話してくれませんか?」
「そうじゃの……」
ノンナ姫は少しづつ思い出すように話し始めた。
何が嬉しくて何が辛かったか。
今この部屋にいるのはルーズガス神聖帝国第一王女ノンナ・ラグズ・ルーズガスではなく、母親に自分の気持ちを打ち明けるただの十三歳の少女しか居なかった。
少女の話しは続く。やがて疲れて眠りにつくまで……