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41話 治療術

 僕はロレッタから渡された制服に着替えた。全体的なサイズは問題なのだが、こう胸の部分の布がね余ると言うかぶかぶかと言うか。


「あの、そんなに見つめられると恥ずかしいです……」


 どうやらロレッタの胸を凝視していたようだ。ロレッタが両手で胸を隠しながら体をひねる。肉付きの良い体の中でも得に目を引いてしまうその胸は大きいだけでなく形も整えられておりまさに至宝。神の御業と言っても過言ではないとここに宣言しよう!


「あの……やっぱりイズミさんも男の人なんですね」


 また凝視していたらしい。ごめんなさい。


 ロレッタに謝った後、入寮に必要なモノを揃えたりエリスリナを迎えに行ったりと何だかんだで忙しかった。また寮母さんであるアガサさんにエリスリナの件を説明に行くと彼女がエリスリナを大いに気に入り、昼間の面倒を彼女自身から買って出てくれた。人見知りが激しいエリスリナだが、アガサさんには何故か直ぐに懐き大いに驚かせてくれた。なんとなくだが、寂しい気もしないでもない。

 その後は寮に住む全員で食事となり、その場で自己紹介の流れとなった。寮生は全員で三十人余りだったが、当然のように全員女性。これだけの人数に見られての自己紹介は緊張しまくりの噛み噛みとなり、出来る事ならやり直したい……。いや、もういいか。また噛みそうだし。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 それからの生活は凄まじかった。

 早朝五時に起床し、そのまま運動。この時杖術やメイス等の訓練をする。その後朝食を済ませてから光魔法の訓練がお昼頃まで続く。

 午後の時間は自習となっており、苦手を克服したり、長所を伸ばしたりと様々だ。

 午後の訓練が終わる五時になると礼拝堂に集められ御祈りの時間である。正直神崎さんに祈ることも無いのだけどね。

 約一時間程の御祈りが終わると、夕食、お風呂と続き後は部屋で駄弁る位だろう。まぁ朝が早いのでベッドに入ると直ぐ寝ちゃうからあんまし喋れないけど。

 初めは早起きが辛く、途中で昼寝などしていたが半月も過ぎれば体も慣れてくる。今では起こされる前に起きれるくらいだ。


 そんなある日の午後の訓練の時間。僕はロレッタを呼び出して個人授業をしてもらっていた。シスターのお姉さん(同い年だけど)に昼下がりの個人授業……言葉を聞くだけでやる気がみなぎってくる。いや、別に変な意味はないよ。うん。


「それで、イズミは何を知りたいのかな?」


 何故かここ最近ロレッタの態度が弟に対するそれに近い気がする。お姉さんとか一匹……いや一人で十分だよ。でも姉さん女房が二人も居るんだよな……二人いる時点で少しおかしいんだけどね。


「イズミ? どうかした?」


 おっといけない。また考え込んで無視をしてしまったようだ。女の子を無視するのはいけないな。


「ごめん、考え事してた。質問って言うのは僕の“ヒール”についてなんだ」


「ヒールですか?」


 ロレッタは僕の質問の意図がつかめないと言った感じで首を傾げる。


「ヒールと言うか回復魔法全般なんだけど、何か他の人より威力が低いような……」


 魔法は問題なく発動する。発動はするんだけど、何か回復力が弱いと言うかなんというか。回復魔法の練習は朝の運動で負った怪我を治療することから始めるのだが、僕のパートナーとなった人は普通の人より回復が遅い。これは相手が僕にするのもそうだし、相手にかけるのも同じだ。

 一回他のグループと四人でやってみたのだが、明らかに僕が使った場合と僕にかける場合だけ効率が悪い。他の子達は大丈夫だと励ましてくれたが、原因は明らかに僕だ。

 とロレッタに相談すると彼女は真剣な表情で考えてくれた。


「そうですか、回復が遅い……それはイズミだけなんですね」


「そうなんだ。他の子にも試してもらったんだけど、僕にかける場合と僕が使った場合が遅いんだ」


 僕が答えるとロレッタはさらに考え込んでしまった。 こんなに真剣に考えてくれるなんて嬉しいね。そう言えばここの女の子は全体的にみてもかなり優しい子が多いと思う。僕の練習に付き合ってくれる子達も嫌な顔一つしないで付き合ってくれるし、励ましの言葉までくれる。やっぱりサポート職に就く子達ってそういう子が多いんだろうか。


「イズミの魔力が問題なのかもしれませんね。と、言うかそれしか原因がわかりません」


 軽くトリップしているとロレッタが声を掛けてきてくれた。またやってしまったようだ。僕から質問をしているのにこの態度はいただけませんな。


「魔力?」


「ええ、それじゃここで一つおさらいしてみましょう」


 ロレッタの授業が始まった。内容な回復魔法の仕組みについてだ。

 この世界では人体は肉体と魔力体の二構造になっていると言われている。肉体は言わずもがな筋肉や骨などを指す。では魔力体はと言うと霊体……と言えばイメージしやすいだろうか。肉体と全く同じ姿をしているのだが質量はなく普段は目にする機会は少ない。そして回復魔法はこの魔力体に作用する魔法である。

 魔力体は常に健全な状態を保っている。その為に保有魔力の数割りはこの魔力体を維持するために使われていると言われている。故に人は全ての魔力を使いきる事は出来ないと言うのがこの教会の教えだ。一定以上の魔力を使うと気絶してしまうのはこの魔力体を維持する為の安全装置と考えられている。

 ヒール等の回復魔法はこの魔力体にアクセスし傷がない状態を呼び出し体を修復させるのである。


「だからねヒールの効率が悪いのはうまく魔力体へ力を伝えられていないのが考えられるわ」


 なるほど、だから魔力の問題なのか。

 ロレッタ先生の説明に相槌を打つ。しかし、困った事がある。それは、


「僕が自分にかけるヒールはちゃんと出来るんです」


 そう僕が自分にヒールをかけると全く問題なく回復するのだ。


「それは……多分イズミの魔力の質が他の子と違うんじゃないかしら。あんまり考えられる事じゃないけど」


 魔力の質って僕はちゃんと……。


「あ」


 思わず声を出してしまった。

 そうだ、そうだよ僕は普通の魔力じゃないんだった。すっかり忘れてた。それにシュイちゃんの回復魔法が効きづらいからって魔力を変化させたじゃんね。


「まさか本当に質が違うの?」


 僕の表情を見たロレッタが呆れた声を出す。

 いや~ほらここ数日は忙しいかったじゃない? だからついつい自分の体の事を忘れるのも仕方ないと思う! ダメかな?


「実はね……」


 僕は正直にアルヴ・ヘイムで魔力が龍族のものに変質したことを話した。まぁJobの部分を説明するのが面倒だったので適当に誤魔化しておいたけどね。


「龍族ですか……」


「そうなんです……」


 ロレッタはどこか納得していない表情で考え込んでしまった。しばらく考えるとここで待っていて下さいと言い残し何処かへと行ってしまった。

 ん~なんかまずったかな?


◆◇◆◇◆◇◆◇


 ロレッタが走り去ってからやることもなく空の雲を数えていると、小さな箱を二つ持ったロレッタが帰ってきた。見捨てられてなかったようだ。


「さぁイズミ、このブレスレットを着けてみて」


 ロレッタは手にした箱の一つを差し出して来る。まぁ教会にあるものだし、呪われているって事は無い……よね?

 僕はリッカが作ってくれたブレスレットを外し恐る恐るロレッタのブレスレットを装着する。

 よかったおどろおどろしい音楽は鳴らなかった。ゲームじゃ無いんだから鳴るわけないか。

 ロレッタが渡してくれたブレスレットは金で出来たブレスレットで真ん中に赤い石がはめてある他には装飾らしい装飾は無い。シンプルな作りのブレスレットだった。


「着けたら魔力を込めてみて」


 ロレッタに言われた通りにブレスレットへ魔力を集中させるが何の変化も起きない。


「……はい、もう大丈夫。じゃあ次はこっちのブレスレットを着けて」


 何がしたいのかわからないが、赤い石のブレスレットを外し今度は青い石のブレスレットを装着する。ロレッタの指示で同じように魔力を込めると先ほどとは違い青い石が光だした。


「……本当に龍族の魔力なんですね」


 溜め息混じりにロレッタが呟いた。なるほど、このブレスレットは検査機の役割を果たしていたのね。


「しかし、困りました……何か方法があればいいんですけど……」


 ロレッタが唸り声を出しながら考え込んでしまった。こんなに他人の事に一生懸命になれるなんて……この子いい子だよ~本当。

 こんないい子をいつまでも悩ませておくのは心が痛むので、しょうがないからあの人に何とかしてもらいましょうかね。あんまし頼りたくないんだけど。


「ありがとね、ロレッタ。原因がわかったし、ちょっと専門家に聞いてみるよ」


「そうですか……ごめんなさい、余り力になれなくて」


 しょんぼりしてしまったロレッタを励ましつつお礼にお茶をご馳走したりして時間を潰した。質問するのは夜の方がいいだろう。



 夕食を食べて一番最後にお風呂へ入ると足早に部屋へと戻る。早くしないと寝る時間が少なくなるからだ。部屋へと到着すると早速目的の人物を呼び出す。


「お呼びですか、和泉様? この時間って事は……ついに私と子作りですね!」


 そう、僕の担当者でこの宗教の主神なんかをやっている神崎さんだ。さすがに驚いたのかロレッタは固まっている。エリスリナはもうオネムの様で先ほどから僕の横で船を漕いでいる。


「ないわ~神崎さん。女の人から子作り発言とかドン引きやわ~」


 間違った関西弁が出るくらいにドン引きである。夜呼び出したのは人目につかないようにするためだ。エリスリナが寝ていてくれて本当に良かった。こんなのを見せたら教育によくない。

 それにしてもこんなのでもここの主神なのだからもう少し何とかならないのかね。


「イズミ……この人……」


「あ~実はね」


「イズミの召喚獣ね! 人形の召喚獣なんて初めて見たわ!」


 ロレッタは変な方向の意見を言い出した。

 うん、まぁ僕が呼んで出てきたのだから間違えじゃ無いんだけどね。


「そこのシスターさん? 主神に向かって召喚獣呼ばわりは失礼じゃありません?」


「こら! 召喚獣なのに自分をカンシュザーキ様の様に言うのは見逃せませんよ!

 イズミも! 笑ってないで、召喚主ならちゃんと言い聞かせないとダメじゃない」


 どうやら彼女の中では完全に神崎さんは召喚獣のポジションのようだ。膨れっ面の神崎さんにフォロー……いいか。面白いし。


「よくないですよ! 和泉様からも言ってくださいよ!」


「ほら! 直ぐイズミの所に行かない! いいでしょう。私がどれだけカンシュザーキ様が素晴らしい神様かと説明してあげます!」


 こうしてロレッタの有り難いお話しが始まった。自分が行ってきた事を人の目線から説明されている神崎さんは今どんな気持ちなんだろう?


 結局数十分に及ぶロレッタによる『カンシュザーキ様の偉大さ講義』は神崎さんに多大なるダメージを残した。今は仏様の様な顔で真っ白になっている。


「ねぇ今どんな気持ち? ねぇ?」


 ついでにここぞとばかりに追撃を仕掛けてみることにした。しかし石像には効果がなかった。


「カンシュザーキ様の素晴らしさがお分かり頂けたようですね」


 この状況を見てそのセリフが言えるロレッタは凄いと思う。思わずロレッタを見て感心していると急に神崎さんが動き出した。


「はい! 私いたく感動しました! これからはカンシュザーキ様を想いながら日々を暮らそうかと思います!」


「それはよかった!」


 あ~あ、神崎さんが壊れた。自分を想いながら生活するのってただのナルシストだよね。あ、自らに惚れるから自惚れって言うのか。いい勉強になるなぁ。


「っと、神崎さんの今後はどうでもいいんだよ」


「どうでもいいって……和泉様酷くないですか?」


 だって、どうでもいいもの。

 僕は神崎さんの発言をガン無視して今回の用事を伝えた。この人なら何とかしてくれるだろう。


「……って事で何とかしてよ~神えモ~ン!」


「その呼び方だと昔のお武家さんみたいなので辞めて下さいよ~」


 自分でお武家さんとか言っちゃうかこの人は、良くて町民だろうに……。


「魔力そのものを変質させるのはやめておいた方がいいでしょうね。エリスリナちゃんの事もありますし」


 急に真面目になった神崎さんが僕の膝の上で寝ているエリスリナを見つめる。そうか、魔力を人間のそれに戻すとエリスリナが困るのか。これは意外と難題かもしれないな。


「という事で……はい、変換装置です」


 …………僕の難題発言を返して欲しい。


「和泉様のブレスレットに装着するように作ってきました」


 神崎さんはそう言うと僕の右手に着けているブレスレットをいじり始めた。ちょうど石が嵌っている所にくっ付けるようだ。


「はい、完成です。これで右手で魔法を使う時は人間の魔力に変換されますよ」


 なんだろう、今日まで悩んでいた日々を返して欲しい。ついでにロレッタに謝ってほしい。

 釈然としない気持ちを抑えながら右手に魔力を溜めるとロレッタが右手を出してくれる。その指先は小さな切り傷がつけられていた。


「イズミに試しても効果がわからないでしょ?」


 効力を確かめる為にわざわざ自分を傷つけてくれたのか、本当にロレッタはいい子過ぎるだろう!


「ありがとう! それじゃ……“ヒール”!」


 魔法の発動と共にロレッタの傷がみるみる消えていく。

 それにしても何かただのヒールにしては威力が高いような……。


「あ、言い忘れていました。龍族の魔力の方が強いので取扱いは十分に気を付けてくださいね。多分初級魔法でも中級以上の威力になると思いますよ」


「おおい!!」


 危ないな! 攻撃魔法を使っていたらロレッタが大怪我している所だったよ。


「ですので今の和泉様なら、そうですね……五分の一位がちょうどいいかと思いますよ。それじゃ~」


 そんな言葉を残しながら神崎さんはとてもいい笑顔で消えて行った。何だろう? 意趣返しのつもりなのだろうか?

 そんな事を思いながら夜は更けて行った。



新規ステータス

 光魔法3 回復術3 杖術2 メイス2 


ステータスポイント

 変動なし

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