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31話 ユンさんの愉快な仲間達

 最初に感じたのは薬草や漢方などの独特のニオイだった。目を開くと白い天井が目に入る。

 あれ? 確かマーリンさんの部屋の天井は木目だったはずだけど……


 周りを確認しようとすると両肩と右腕に痛みが走り、余りの痛さに思わず顔をしかめてしまう。体を確認すると包帯でグルグル巻きにされていた。左側は肩だけだったが、右側は指先から全てが包帯に包まれている。右手まで怪我してたっけ?


 まぁ怪我の事は置いといて。痛む体に鞭を打ちやっとの事で起き上がると、改めて部屋の中を見回す。

 右手側にドア、左手側に窓があり僕が寝ているベッドはちょうど真ん中に置いてるようだ。全体的に白を基調とした色合いで統一されており、清潔感を覚える。その他の物と言えばちょっとしたものが置ける文机と小さな椅子だけが置いてあるシンプルと言うか殺風景な部屋だ。


「病院ならナースコールがあってもいいと思うけど……」


 ここは元の世界ではないのである訳がないのだが、それでも枕元を探してしまう。

 手が動かせないので首だけを振って探しているとドアが開く音が聞こえた。


「イズミ……?」


 ドアから入ってきた人物は花瓶を手にしたメリッサだった。メリッサは学園の制服であるローブを着込んでいる。


「やぁメリッサ。おはよう……でいいのかな?」


 とりあえずメリッサに挨拶をするが彼女は僕を見つめたまま動かない。

 あれ? 聞こえてない?


「あの……メリッサ? うわっ!」


 もう一度声をかけるとメリッサは持っていた花瓶を落とし、そのまま僕の胸に飛び込んできた。今までの彼女からは想像も出来ない行動に僕は反応することが出来ず、ただただ抱き締められるだけだった。


「生きてる……イズミが生きてる!

 もうダメじゃないかってみんな話してて……でも諦めたくなくて!!」


 メリッサの涙混じりの話しは要領を得なかったけど、彼女がずっと心配してくれていた事は言葉と体に回された腕から伝わってきた。


「ごめんね、心配かけたね」


「当たり前よ!! 白い犬に倒れ混んでいるあんたを見たときは心臓が止まるかと思ったわよ!」


 メリッサは泣きながら怒ると言う器用な事をする。僕は何とか動く左手を彼女の頭まで持ち上げると優しく撫で始める。動かす度に肩に痛みが走るが我慢出来ない程じゃない。

 しばらく撫で続けると不意にメリッサが体を放した。あまりにも急に動くものだから無意識に腰に手を回してしまった。


「……イズミが生きてて本当によかった……

 あのね……私、イズミに言いたいことがあるの……あの時からずっと言おうと思っていた事なんだけどね……」


 メリッサの目は何か強い決意をした目をしている。そんな目を見てしまったら僕は何も言えなくなってしまう。そして彼女が口を開きかけた時、入り口のドアが物凄い勢いで開いた。


「メリッサ!! 何か割れる音がしたけどどうしたの!?」


 ドアから入って来たのはイルマさんだった。彼女は部屋に入ると順番に割れた花瓶、僕に股がり何かを決意したメリッサ、メリッサの腰に回された僕の腕を見て何かを理解したようだ。


「どうやらお邪魔だったみたいね……メリッサ、頑張りなさい!」


 イルマさんはそれはそれはいい笑顔で親指を上げた。

 多分物凄い勘違いをしているんだろうなぁ。


「お姉ちゃん違うの!!」


「いいのよメリッサ、“女の子が好き”じゃなくて“好きになった子が女の子”だっただけよね?

 大丈夫、お姉ちゃんはちゃんと理解しているわ」


 全然理解できていなかった。

 メリッサは顔を真っ赤にして僕から飛び降りるとイルマさんを力ずくで退室させた。

 ここは何も言わない方が良いだろうな……でも僕が男って言った方がいいのかな? いや、余計ややっこしくなるか。


「イズミ! また来るから!」


 メリッサは一度だけ顔を見せるとまた出ていってしまった。外から途切れ途切れに聞こえてくる会話を聞くとどうやらイルマさんに弁解しているようだった。

 言いたいことって何だったんだろう?


◆◇◆◇◆◇◆◇


 その後学園長とユンさんがお見舞いに来てくれた。学園長はベッドの横に居るのに対して、ユンさんは僕に普通に抱き付いてくる。学園長も最初は注意をしていたが、今ではガン無視だ。

 学園長はそのまま話しを続ける。まず怪我の具合からで左肩には大きな裂傷。右肩と右上腕部は牙がそのまま貫通しており、腕が千切れていなかったのが軌跡だったとか。そして右腕全体に巻かれた包帯は止血の為に凍らせたのがそのまま凍傷となったからだそうだ。

 次に事件の全容だが、あの森にアサシンタイガーが居たのは完全なイレギュラーで学園側も原因までは把握しきれていないようだ。最後に僕より先に運ばれたアレンだが今は普通に授業に参加しているそうだ。派手に背中をやられたのに僕の方が重傷だったとユンさんが教えてくれた。

 僕と言えばあれから三日間眠りっぱなしだったらしい。マーリンさんやメリッサ、イルマさんやユンさんが代わる代わる看病をしてくれたようだ。本当に頭が下がる思いで一杯だ。


「さて、ワシはもう戻らねばならぬが、最後にもう一度お礼を言わせてくれ。生徒を守ってくれて、また無事に帰ってきてくれてありがとう」


 そう言い残し学園長は本来の仕事へと戻って行った。ユンさんの話しでは色々と忙しいそうだ。


「ユンさんもありがとうございました。何かずっと看病してくれたみたいで」


「あ~そのことなんだけどね……実はイズミに謝らないといけないことが……」


 ユンさんにしては何やら歯切れの悪い良いようだ。何かあったのだろうか?


「実はね、イズミの怪我があまりに酷かったものだからあたいの仲間に治療をさせたんだけど……」


「そんなことまでしてくれたんですか!」


 ユンさんには感謝してもしきれないよ、本当に。

 最初は僕の治療を吽形がやると言っていた……と言うか誰にも譲らなかったようだが、僕の意識が無くなると同時にパスが切れ召喚が解除されてしまったようだ。そこでユンさんの仲間が治療をしてくれたというのだが、何故かユンさんの顔には陰りが見える。


「先に謝っておくけど、ごめんよ。まさかこんなことになるなんて思わなかったんだよ」


「師匠が何に気を病んでいるのかわかりませんが、僕は全然気にしないですよ」


 僕がそう答えるとユンさんは苦笑いだったが、何とか笑ってくれた。

 ユンさんが続きを話しだそうとするとドアをノックする音が聞こえてくる。


「は~い。どうぞ~」


「お邪魔しま~す」


「失礼しますね」


 入ってきたのは見たことのない女性が二人。ユンさんと同じデザインのチャイナドレスを着ているからユンさんの関係だと思うけど……。


「もう目覚めたと聞いてね、様子を見に来たよ」


 先に声を掛けてくれたのは緑のチャイナドレスを着た女性だった。

 肩口までに揃えられたショートヘアーにキリリとしているつり目が印象的な女性だった。身長はちょうど僕と同じ位だろうか、ユンさんを少し見上げる程だ。ユンさんと同じでスレンダーな体型だが、ユンさんより大きい。何がとは言わないけどね。

 全体的な雰囲気をまとめるとキャリアウーマンって感じの人だ。


「ふむ、大分いいみたいだね」


「彼女は風龍のフェンって言うんだ。彼女もダーヴィットの召喚獣の一体だよ」


「フェンという。よろしく頼む」


 フェンさんが右手を差し出してくれたので慌てて右手を動かそうとするが、包帯まみれの右腕はピクリとも動いてくれなかった。


「ああ、すまない。右手は怪我をしていたのだったね。ふむ……これでいいかな」


 そういってフェンさんは動かない右手を軽く握ってくれた。


「あ~フェンちゃんずるい~シュイもやる~」


「あ、こら。彼はまだ怪我しているんだ。もっと丁寧にだな」


 シュイと名乗った少女は僕の右手を体全体で抱きしめた。

 青色のチャイナドレスを着た少女は身長は三人の中で一番低く、どう見ても中学生にしかみえない。腰まである長い黒髪は光が当たる角度によっては濃い青色にも見え黒と青のコントラストは綺麗の一言に尽きる。そして一番の特徴はその身長に似合わない胸部装甲だ。そこには桃かグレープフルーツが詰まっているのではないかと思わせるほど大きく張り出し、そして柔らかそうに震える。身長が低いのにこの胸部装甲のギャップは何と言うか……エロい。


「まぁイズミも男の子だし? シュイのそれ・・に興味があるのはわかるけどね~」


 ユンさんとフェンさんの冷めた視線を感じ慌てて目線をずらすが時既に遅し。今彼女達の中で僕の株は大暴落中だろう。


「あの……なんかごめんなさい」


「イズミが謝ることじゃない。所詮こんなものは擬人化している時に出てくる付属品のようなものだ」


 そう言うとフェンさんが徐に自分の胸を揉み始めた。しかし、その横でペタペタと自分の胸を撫でるユンさんの姿が……あ、目が合った。


「そ、そうだぞ! こんなものなくたって別にいいだ!」


 少し涙目でユンさんは大きな声を出す。

 そんなに気になるなら話題を変えればいいのに。


「シュイは水龍だよ、ユンちゃんとフェイちゃんと一緒でダーヴィットの召喚龍をやっているんだ」


 誰もシュイちゃんを紹介しないのでついに自己紹介をしてしまった。

 ごめんよ。別に放置していた訳じゃないんだよ?


「それでね。イズミちゃんの体を治したのもシュイなんだよ!」


「水龍の力は治療などに優れているからな」


「本当に、シュイの回復術には脱帽せざるを得ないわ」


 シュイちゃんは撫でて撫でてと頭を近付けてくる。右手はシュイちゃん本人によってがっちりと固定されているので左手で撫でるが、肩の痛みは先程の比ではない。

 シュイちゃんの頭を撫でているとユンさんとの話しが途中だったのを思い出す。


「それで師匠。さっきの話しの続きなんですが……」


「あ~そうだった……イズミ、驚かずに聞いてほしい。あのな、イズミの魔力は……」


「シュイ達と一緒になったんだよ!!」


 ユンさんのセリフを横取りしたシュイちゃんが元気よく発言をする。

 シュイちゃん達と一緒って……。


「今のイズミちゃんは半分龍族だよ!」


 無邪気なシュイちゃんの笑顔を見るとどうやら嘘は言ってないようだけど……

 恐る恐る他の人の顔を見るがフェンさんは何事もないように頷くだけだし、ユンさんは苦笑いをしている。

 あ~そうか~龍族かぁ

 僕の思考回路は仕事を放棄した。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 何とか頭が働き始めるとユンさんとフェンさんが状況を教えてくれた。

 元々龍族用であるシュイちゃんの治療術は人間には少し効きづらいそうだ。しかし、僕の怪我の状態から一刻を争うと判断したユンさんとフェンさんは僕の魔力を龍族に近付けることにした。魔力を龍族に近付ける事で効力を上げようとしたらしい。

 やり方は至って簡単で一度僕から吸いだした魔力をユンさん達の魔力と混ぜ合わせまた僕に返すと言う方法だったのだが……


「イズミの魔力がこんなにも美味しいとは思わなかったよ~」


「君の魔力は最高級の酒と同じ……いや、それ以上だね」


「お酒って言うよりは~麻薬だよね~」


 龍族三人は思い思いに感想を言い合う。つまり、この三人は僕の魔力を吸いすぎたようだ。


「でも混ざり合っただけならいつか元に……」


 僕の発言に全員が一斉にに視線を反らした。


「あ~それがだな……」


「君の魔力が余り美味だったので……」


「三日三晩入れたり出したりしてたら龍族の魔力が定着しちゃったんだよね~」


 シュイちゃんが何の悪気もなく言い放つ。そっか……そんなに美味しかったのか……僕の魔力……。

 どうやら繰り返し魔力を交換し続けた為に、龍族の魔力が完全に定着してしまったようだ。今は全体の六割強が変化しておりあと二日程で完全に龍族の魔力になるそうだ。



「あの……魔力が龍族寄りになると体も変化しちゃいますか?」


 僕は一番気になった部分の質問をする。これの答えによっては人間を辞めないといけなくなる可能性があるからだ。


「と言うと?」


「えっと……こう、翼や尻尾が生えるとか……?」


 初めは質問の意図がわからなかったようだが、僕が具体例を出すと三人とも納得したように頷いた。


「そこは大丈夫だよ。あたい達を見ればわかると思うけど見た目は人間そのものだろう?」


 ユンさんは両手を広げて自分の体を見せる様にその場でクルリと一回転してくれる。


「でもイズミちゃんはユンちゃんから魔眼をもらっているんだよね~?」


 右手に抱きついたままシュイちゃんが聞いてくる。僕は頷き、彼女の質問に肯定の意を示す。

 それにしてもさっきからずっとくっついているけど飽きないのかな?


「なら目は確実に変化すると思うよ~今は片目だけだけど両目が魔眼になってより強力にパワーアップだね!」


「あと肉体の内面が変化するでしょう。強靭な肉体とか人間では有り得ない魔力量などの変化が起こると思われます」


 シュイちゃんは笑顔で、フェンさんはあくまでも冷静に淡々と教えてくれた。


「そうですか……」


 魔力が上がるなら万々歳だなぁ。体も強化されるなら少しは接近戦も出来るようになるかも……。

 問題は目だなぁ今の僕じゃ制御できる自信がないなぁ。


「あの……イズミ……」


「やはり困惑されますよね……」


「イズミちゃん怒っちゃった?」


 考え事に夢中になってしまった様で黙り混んだ僕を三人が覗き込む様に見てくる。

 いけない、いけない。つい没頭してしまった。


「ああ、ごめんなさい。別に怒っていませんよ。姿が変わらないのなら問題ないです。それに強くなるならこっちから歓迎しますよ」


 僕の言葉に三人ともほっと一息ついた。何だかんだ言っても何か言われると思っていたのかも知れない。


「あ、そうだ。魔力が安定したらまた師事してくれますか? 何か魔眼も強化されるみたいなので」


「もちろん!」


「私も微力ながらお手伝いさせていただきます」


「シュイも教えてあげる~!」


 三人は被せ気味に返事をしてくれた。

 こうして僕は校外活動の結果、新たに二人の師匠が増えた。

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