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29話 学生生活

 体から熱が引くまでどれくらいの時間が経っただろうか。一時間か、二時間か……確かな事はわからないがこれ位は経過していると思う。


「ふむ、十分で馴染んだか。随分といい体を持っておるの」


 ダーヴィットの言葉に驚愕する。

 十分だって!? あれだけ苦しんだのにたったそれだけしか経っていないのか……


「大丈夫かい? 何処か調子の悪いところはあるかい?」


 ユンさんは心配そうに何度も頭を撫でてくれる。最早完全に子供扱いだ。


「大丈夫ですユンさ……ん……」


 とりあえずユンさんを安心させる為にユンさんを見るが目に入ってきた光景に思わず言葉が途切れる。先程までと違ってユンさんの背後と言うか体全体を覆うように茶色のオーラが纏わりついている。


「あの……ユンさん? そのオーラは?」


「ああ、無事宿ったようだね。良かったよ~」


 ユンさんは抱きつき頬擦りまでし始める。

 いや、スキンシップはいいから説明が欲しいよ?


「今イズミが見ているのは魔力そのもさ。ほらダーヴィットを見てごらんよ」


 僕はユンさんに言われるままにダーヴィットさんを見る。彼は椅子に座ってこちらを興味深そうに見ているが、その背中には燃え盛る炎の様なオーラが見る。


「真っ赤ですね~それに炎の様で綺麗です」


「そうさ、その炎みたいなのがダーヴィットの魔力さね。イズミの左目に宿したのは『龍脈眼』と呼ばれる魔力の流れを見る為に魔眼さ。魔力に色が付いているのは属性のせいさね」


 龍脈眼。本来は地中を流れる龍脈を見つける為のものだが、魔力も同様に視覚でとらえる事がきるのだという。また各属性を色で見分けることが出来るようだ。


「イズミは光陰の属性だろ? その目があれば相手の属性をそれこそ一目見て看破できるからね。無駄に攻撃を受ける必要もなく弱点を突けるようになるってわけさ」


 ユンさんはそう言うとまた頭を撫ではじめた。僕の頭はそんなに撫でやすいのだろうか?


「最初は扱い辛いと思うけど……そうだ! 明日からあたいが稽古をつけてあげるよ。うんそれがいい!

 いいでしょダーヴィット?」


 ユンさんは早速ダーヴィットさんに許可を貰おうとしている。まぁ強くなれるならなんでもいいんだけどね。


「ふむ。午後からは空いておるし、好きにしていいぞ。しかし暗くなるまでには帰って来るのじゃぞ」


 ダーヴィットさんはあっさりと許可をくれた。許しが出たユンさんはさらに僕を締め付けもう絶対に離さいと言わんばかりだ。


「決まりさね! 明日から午後はあたいが稽古をつけてあげるよ! 楽しみだね~あたいと同じ目・・・・・・・を持ったんだ。イズミをこの学園で一番強くするよ!」


 そうか、この目はユンさんと同じ能力なんだ。流石土龍、龍脈を見るのはお手の物なのか。

 僕は感心していてユンさんが放ったとんでもないことを聞き逃していた。まぁ大したことは言ってないだろう。


「はい! 明日からよろしくお願いします。ユンさん」


「任せな! あとあたいの事は師匠と呼びな!」


「ワシは学園長でよいぞ」


 入学初日でいきなり師匠ができちゃいました。あと無視するのはかわいそうだったのでダーヴィットさんにもお願いしますと頭を下げておいた。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 今日はこのまま帰ってもいいと学園長から言われたので学園を出てマーリンさんのお店を目指して一人で歩く。講堂にメリッサが残っているかと思ったけど、誰も居なかった。まぁ先に帰ったんだろう。


 僕はお店に帰る道すがら色々と見て回った。ラグズランドに比べると屋台の数は少ないがそれでもおいしそうな物は沢山売っていた。

 久しぶりの買い食いに心躍らせながら道を歩く。何故か店員の人が僕の顔を二度見していたけど……買い過ぎたかな?


 普段の三倍近い時間をかけてマーリンさんのお店まで辿り着いた。

 いや~エルフの屋台もバカに出来ませんなぁ。このお肉の串焼きなんて何本でも食べれますよ!

 僕は両手いっぱいに戦利品を持ちドアを開けた。


「おや、ようやくお帰りだよ……ってイズミあんた……これから夕飯だって言うのに……」


 ドアを開けた僕にマーリンさんが気が付いて声を掛けてくれた。彼女はカウンターの前に居たメリッサと話していたようだが両手に抱えた戦利品を見て言葉を無くしていた。


「いや~おいしいものが多いね~」


「そんなに食べたら太るわよ……」


 戦利品の数に思わずメリッサも声をかけてきた。


「それが太らないんだよね~僕」


 正直に答えただけなのにメリッサに頬をつままれた。いったい僕が何をしたっていうんだ。


「まぁそれは置いといて、イズミも貰ったのかい? 魔力の水」


「あ~あにょみじゅいりょのこびんでしゅか?」


 メリッサに頬をつままれたままなのでうまく話せない。てか痛いから早く放して欲しい……


「メリッサ頬を放してやんな。何言ってるのかわかりゃしない」


 マーリンさんに言われてようやくメリッサは頬を放してくれた。あ~痛かった……


「それで、貰ったのかい?」


 何故かマーリンさんがしつこく聞いてくる。そんなに気になるものなのだろうか?


「え~と……これです」


 そう言って僕は両手に持っていた荷物を一旦カウンターに置きポケットから昼間貰った小瓶を取り出す。すると「あ」と小さな声が聞こえた。隣を見るとメリッサが何故か悲しそうな顔をしていた。


「きれいな水色だね」


 小瓶を見たマーリンさんは率直な感想を言ってくれる。僕もそう思っていたので素直に頷く。


「……これ最高濃度?」


 今まで黙っていたメリッサが僕の小瓶を手に持ってそんな質問をしてくる。

 濃度の話しなんてしていたかなぁ……


「多分……そうだと思うけど。その時ちょっとあってほとんど覚えてないんだ」


 小瓶を渡された時確かそんなこと言っていたけど、直ぐ後にユンさんに目をなめられると言う衝撃的な事が起きたからそのショックで前後の記憶が曖昧だ。


「おや? イズミその目……魔眼かい?」


「え?」


 僕の思考はそこで止まった。なんでマーリンさんは僕が魔眼を貰ったってわかったんだ?

 僕の反応が予想外だったのかマーリンさんは目を大きく見開き逆に質問してきた。


「イズミ、あんた……気が付いて無かったのかい? 右と左とじゃ大分違うモノになっているよ」


 マーリンさんが鏡を見せてくれるとそこに映し出された僕の左目はネコ科を彷彿させる目に変化していた。

 まさか僕はこの目のまま買い食いをしていたのか? だから店員さんが二度見したのか!


「ちょっと見せなさい!」


 項垂れる僕の頭を両手で掴んだメリッサが力任せに引っ張り立たせる。その際首から嫌な音がしたが当のメリッサはお構いなしだ。


「くっ苦しいよ? メリッサ」


「何でよ! 何であんただけそうやってパワーアップしてくるのよ!」


「メリッサ?」


 僕の言葉はメリッサには届いていない様だった。頭から顔そして胸倉へと移動した手はそのまま僕の服をそれこそ破れるのではないかと思うほどきつく握りしめる。


「何でよ……何であんたは私の一歩先を歩いていくのよ……魔力の水を貰ってようやく同じところに立てたと思ったのに……」


「メリッサ……」


「ねぇ私とあんたとじゃ立つ場所がそんなにも違うの?」


 見上げてくるメリッサの目には大粒の涙が溜まっている。何かこの世界に来て僕は会う女性全て泣かしているような気がする。ハードボイルドだ。……違うか。


「それは違うよ、メリッサ。僕は人間だから。君たちエルフの立つ場所に行くには君たち以上の強化が必要なんだよ。僕より高い場所に立っているのは君の方だよ」


 そんな僕の口から出まかせを聞いたメリッサはぴたっと動きを止める。

 まずい。これはまたやっちゃった系か?


「……そうね。私はエルフだもの……人間のあんたより高い場所にいるよ。でも……」


 その後の言葉が聞こえなかった。メリッサはそのまま階段を上がり自室へと行ってしまったようだ。

 僕は後を追おうとしたけど、マーリンさんにそっと肩を叩かれ止められた。


 その後マーリンさんと一緒に買って来た戦利品を食べたが先程のおいしさは得られなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 翌日から始まった魔法学園での生活は想像以上に充実したものになった。

 午前中は各属性をの講義を曜日ごとに分けて受けるようにした。万遍なく学んだ方がいいという学園長の助言を参考にした結果だ。

 午後はユンさんの魔眼と土属性の魔法。それに体術の指導を受けていた。マンツーマンで教えてくれるのでとても厳しいが、その分力になっていると思う。

 学園が終われば寝るまでの時間をマーリンさんのお店でウェイトレスの手伝いだ。

 最初はお勝手で料理を教えて貰いながらお手伝いをしていたのだが、いつの間にかフロアに出て酔っ払いの相手をさせられている。

 まぁ酔っ払いの扱いは大学のサークルで散々やったので特に問題もなかったんだけどね。

 そしてお店を閉めると自室に戻って予習と復習をして床に就く。何て健康的で学生っぽい生活スタイルなんでしょ。ヲタクをやっていた頃には考えられないスタイルだ。


 そんな生活が一カ月続いた。エルフの森もすっかり冬支度を始めた様で最近はめっぽう寒くなった。

 そんなある日、今日は学園が休校と言うことで恒例のスキル振りをやることにした。

 ユンさんに修行だと言われギルドのクエストを受けたり、夕飯の食材を得るために森で狩りもした。そのお陰でレベルも30になり、ウィザードのJobポイントも順調に貯まっている。なのでここいらで一つ強化でもしましょうかと思い立ったのだ。


「ん~やっぱり学園長の言う通り火属性の伸びがいまいちだなぁ」


 これまで講義や修行で基礎は身につけたのだが、各属性の成長にばらつきが見られた。

 四つの属性の中で一番成長が早いのが土属性で次に水、風の順で最後は火属性となっている。

 それでも一応全ての属性で初級以上には使える様にはなっている。元々魔法使いの素質はあったのだろう。


「やっぱり火属性を上げようかなぁ」


「土属性以外を上げれば良いのではないですか?」


 僕の呟きに答える声が聞こえた。まぁスキルを弄っていると必ず出てくるんだよね。


「最近滅多に姿を現さなかったけど、忙しかったの?」


 久しぶりに登場した神崎さんに質問する。彼女は彼女で魔王に関して調べているはずだが……。


「いやいや、忙しくは無かったですよ。全部先輩がやってくれますから」


 神崎さんは悪びれもなく答えた。相変わらず大神さんに任せっきりのようだ。神崎さん……なんてダメな子なんだろう。


「私はずっと和泉様の近くに居たかったんですよ~でもこの国って魔法に関してはズバ抜けていますからね~近くに居るのがばれそうで……」


 ばれたら何か問題あるのだろうか? ああ、担当者は滅多に人前に姿を表さないんだっけ? それにしてはリッカと頻繁に言い争いをしていたような……


「後、水晶球による通信も上手く出来ない見たいですよ。この間ノンナさんが荒れてました」


「様子を見ていたら説明してくれれば良いのに……」


 通信が出来るようになったらノンナの小言を聞かされるこっちの身にもなってよね。


 結局土属性を除く三属性を中級に上げて、防御系の魔法を覚えておいた。また窓から落とされても良い様に。落とされないのが一番だけどね。


 その後、久しぶりに顔を見せた神崎さんとお喋りをしていると遠慮がちに部屋をノックする音が響いた。


「は~い」


「あ……イズミ……私」


 どうやらノックの主はメリッサのようだ。神崎さんは空気を読んだのか透明になり、姿を消した。完全に見えなくなったのを確認してからドアを開ける。なんだろう……浮気現場を隠しているようなこの不思議な感覚……


「あ……今大丈夫?」


 メリッサは一瞬目を合わしたが直ぐに反らしてしまった。まだ引きずっているのかな?


「大丈夫だよ。あ、上がって?」


 僕はドアから半身ずらすが、メリッサは首を横に振った。


「学園からの連絡を伝えに来ただけだから……

 明日は終日校外実習になったから朝校庭に集合だって。それじゃ……」


 メリッサは用件を伝えると直ぐに一階へと行ってしまったので、追いかけてお礼だけ言っておいた。


「メリッサさんは何の用事だったんですか?」


 部屋に戻ると興味津々な目をした神崎さんが居た。何に対してそんなに興味があるのかわからないが、明日は校外実習があることを伝えた。


「はぁ校外実習ですか~ちゃんと学生しているじゃないですか~」


「真面目にやってるよ~それなりに楽しいしね」


 神崎さんの相手をしながらウェイトレスの格好に着替える。結構集中していたのか気が付けばそろそろお手伝いの時間になっていた。


「それにしてもメリッサさんはそろそろ和泉様にデレてもいい頃ですよね~」


「何をバカなこと言っているのさ」


 髪を整えながら神崎さんの妄言を一蹴する。


「いやいや、この校外実習で和泉様の強さを目の当たりにすれば簡単に惚れますって。

 絶体絶命の危機に颯爽と現れ問題を解決する和泉様。そして、メリッサさんに向かって一言……

『メリッサ、俺の女になれよ』

 なんて言っちゃったりして!? もうやだ~和泉様ってば!!」


 本当に大丈夫だろうかこの人……第一自分の事『俺』何て言わないし……

 勝手に妄想してくねくねと不気味なダンスを踊る神崎さんを部屋に残し僕は食堂のお手伝いに行くのだった。



 変更後ステータス

名前:宇江原 和泉  Lv:30 Job:忍者Lv:45・ブラックスミスLv:28

                     ウィザードLv:18・ノービスLv:20

HP:800/800 MP:1060/1060

力   :60

素早さ:75

体力 :65

魔力 :100

器用さ:85

運   :50


 スキルP:655P(B:120・J:535)

 スキル:龍脈眼5

 ウィザード:火魔法2⇒4 風魔法3⇒4 水魔法3⇒4

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