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2話 ああ、懐かしの担当者

「和泉様、止めないで下さい! これは私のプライドの問題なんですよ!」


 上下スーツを着こんだ男。大神さんはこの国の宰相と名乗ったバジルという青年をフルボッコにしていた。


「いや、死んじゃいますよ」


「直ぐに生き返らせますのでご安心を」


「そういう問題じゃ無いでしょ……」


 目の前で殺人(原因は僕の髪の色)を起こされたらたまったもんじゃないと、渋々大神さんを羽交い締めしてバジルさんから引き離す。

 すると大神さんは僕の髪に頬擦りしてきた。


「ごめんなさい~折角綺麗な黒髪にしたの私の力が及ばなかったばっかしに……」


「ああもう泣かないで下さい。ちょ鼻水着けないで下さい!

 ええい、頬擦りをやめろーー!」


 鬱陶しかったので軽く蹴り飛ばす。

 ついでに先程の発言について聞いてみることにする。


「さっき、元に戻る力を強引に使ってと言いましたよね?」


 大神さんは不自然に視線を反らし、鳴らない口笛を必死に吹いている。


「こっち向けや~大神さんよ~」

 

 大神さんの頭を掴み無理矢理こちらを向かせようとしていると、陽向が間に割って入る。


「そんなことより! 今回もあんたの仕業なのか?」


「YESと言えばYESですが、NOと言えばNOですね」


 ここぞとばかりに話題を変える大神さん。これは黒とみて間違いないだろう。


「どっちなんだよ」


「そうですね~あえて言わせてもらいますと、今回は“共犯”っと言った所ですか」


「じゃ主犯がいるのか?」


「ええ、いますよ。呼びましょうか?」


「いやいや、最初から連れてこようよ」


「何分彼女はアレなもので……神崎さん! 出てらっしゃい!」


 大神さんはいきなり誰も居ない方に向って大声を上げる。

 ついに狂ったか。


「失礼な。この世界の担当者を呼んだだけですよ!」


「それにしては誰も来ないが?」


「何ですって? ちょっと神崎さん! さっさと出て来なさい! 私が変な人だと思われるでしょう!」


 いや、十分に変な人だよ。あんた。


 大神さんを大分残念な人を見る目で見てると、声をかけた方から何やら大荷物を抱えた小柄な女性が壁をすり抜けながら走ってきた。


「ふえぇぇ~先輩がさっさと行ってしまうからいけないんですよ~

 時間を止めたり資料を持って来たりと大変だったんですからね~」


 走ってきた女性は大神さんの前に立ち何やら文句を言い始めた。

 パッと見の身長は一五〇前後。長い髪を三つ編みにし、眼鏡をかけスーツに着られている・・・・・・。そんな女性だ。街行く人に『この人は入社何年目ですか?』と写真を見せれば十中八九新入社員と答えるだろう。

 そんな新入社員が大神さんに食って掛かっている。


「大体先輩はですね~いつもいつも……」


「お小言は後で聞いてあげますよ。それより自己紹介しなくていいんですか?

 彼らはあなたの呼びかけに応じてわざわざこの世界まで来て下さった方々ですよ」


「はうわっ! そうでした!

 大変御見苦しいものを 私この“ディスカヴィナン”を担当させて頂いております神崎と申します。

 まだまだ駆け出しの若輩者ですが、なのとぞよろしくお願いします!」


 神崎と名乗った女性は盛大に頭を下げる。あぁ見た目だけじゃなくて本当に新入社員だったんだ。


「さっき時間を止めると言っていたが」


「はい! 私たち担当者はめったに人の前には現れません。なのでこうして直接会う時は必ず世界の時間を止めさせてもらうんです」


 ほらと指差した先には殴り飛ばされ白目を向いたままのバジルさんとそれに駆け寄ろうと不自然な形で宙に浮いているノンナ姫がいる。

 本当に止まっているんだ。


「この前ファッカスで大神さんと会ったときは普通にみんな動いていたが?」


「え?」


「そう言えば僕の部屋に来たときも別段何もやってなかったですよね」


「……先輩?」


「何ですか? 神崎さん」


「何で先輩はいつもいつもそう大雑把なんですか!」


「はっはっはっ」


「もー!!」


「それより。なぜ僕たちは呼ばれたんですか?」


「そうでした! すみませんすぐに説明いたします!」


 彼女は一生懸命に僕たちを呼んだ理由を説明し始めた。しかし、人に説明するのが慣れていないのか要点のまとまっていない話しを永遠にだらだらと聞かされた。

 彼女が話した要点をまとめると

・現在この世界の主要国が魔王率いる魔族軍の侵略を受けている……かもしれない。

・この主要国が魔族の手に堕ちると世界が終わるらしい。

 とのこと。大体はノンナ姫が言ったことと重なるが……なぜたったこれしきの事を説明するのに二時間近くもかかるんだ?


「どうでしょうか? 引き受けて頂けませんか?」


「その前に質問なんだがな」


「なんでしょう?」


「この世界の勇者はどうした? 確か神託があったと聞いたぞ」


「うっ……それは……」


「選別したんですけどねぇ……

 そもそもにして、異世界から人を呼んで助けてもらうと言うのは最終手段なんですよ」


 急に黙ってしまった神崎さんに変わって大神さんが説明し始める。

 どうやら魔王が復活しそうだと情報が入ってから神崎さんはある若者に目を付けて勇者となるべく能力を渡したらしい。

 それが何をどう間違えたのかその勇者候補の若者は俺TSUEEEEEE状態に酔いしれ自分のレベルでは討伐できない相手に喧嘩を売り、結果惨敗。

 辛うじて生きている状態だったのを発見され、手厚い看護で一命は取り留めるがそれ以来剣を持つのも怖がり完璧な引きこもりになっているらしい。

 ダメダメじゃん。


「何でそんな奴を選んだんですか?」


「さぁそれは私でも……。なぜです? 神崎さん」


「はい! 顔が良かったからです!」


 はい? なんて言ったこの娘。


「顔が良かった? 今、顔が良かったからと言いました?」


「はい! だって英雄とか勇者って絶対美形じゃないですか! だから私この国でイケメンと呼ばれる人を観察してこれだ! って人に白羽の矢を立てました!」


「こいつダメじゃね?」


「結局は自分の好みの顔で選んだってことでしょ」


「ヤバいよ、大神さん以上にヤバイ人だよ」


「あれ? あれ? なんですか? どうしたんですか皆さん?」


「はぁもういいです。話しを進めましょう」


「大神さんも苦労しているんですね」


「わかって頂けます?」


「ええ」


「もう何なんですか! 私も話しに加えて下さいよ~」


「「「「はぁ~~~」」」」


 本当なら具体的な話し合いはこの神崎さんがやらねばならないのだが、余りにもアレなため大神さんが引き継いでくれた。


 とりあえず僕たちの目的は魔王の討伐……らしい。

 らしいと言うのは先ほども言ったが魔王が復活しているかどうかも定かではないとの事。

 ただ、ここ数年で魔物が活性しているようで。このまま何もせず放置すると大体十五年前後で滅びてしまう為、それを何とか食い止めて欲しいと言うのが今回僕たちを呼んだ一番の理由だそうだ。

 それって危機が去るまでずっと戦わないといけないって事?

 と質問してみたら違うと答えをもらった。


 とりあえず本当に魔王が復活しているのか詳しく調べるから、その間は普通の冒険者と同じように魔物を狩って欲しいとのこと。

 一応期間としては十五年を目安にしているとのこと。


「十五年もここにいるのか~」


「まぁまぁ。あくまで目安です。もし万が一魔王が復活していれば魔王の再封印または討伐して頂ければその時点で元の世界へお戻しいたしますよ。当然今の年齢で」


「報酬は?」


「報酬ですか?」


「え? まさか無料奉仕でやらせようなんて考えてないですよね」


「まさか~そんな訳ないじゃないですか……」


 明らかに目が泳いでいる神崎を睨んでいると考えてなかったと自白した。

 まったく、僕たちは慈善団体じゃないんだぞ!


 とりあえず、基本報酬として前回と同じく一月二十万。あとは出来高制として話しをつけた。

 色々と大神さんと決めて行ったけど、神崎さんで本当に大丈夫なのかな?


「あ、そうだ。さっき急に言葉が通じたんですけど……」


「それはですね! 私がディスカヴィナン共通語を習得させたんですよ!

 どうですか? 私だって役に立つんですよ?」


 どや顔を決めているけど、あのタイムラグはどう説明するんだろう?

 あ、大神さんに叱られてる。


「ちょっと用事が出来たのでこれで失礼しますね。

 また後でお伺いしますので」


「すみません……グス。失礼します……グス」


 大神さんは泣いている神崎さんの襟首を掴み消えていった。

 説教タイムだね。あれは。


 大神さんが消えると同時に止まっていた時間が動き出す。

 気絶しているバジルさんは良いとして慌てて駆け寄ったノンナ姫はどうしよ?

 上手く誤魔化せるかな?


「何だったのじゃ今のは?」


「姫様! 大丈夫ですか!」


「さっきの音はなんです!?」


 ヤバ……バジルさんが倒れた音で外の兵士まで来ちゃった。

 え~とここは……


「ああ! バジル様が!」


「姫様いったい何が起こったのです!」


「黒い塊が急にバジルを襲っての。そう言えば姿が見えぬがあれは一体……」


「そこのお前達何かみていないか!」


「え~と」


「それはですね……」


「何と言いますか」


 言えない。実は知り合いが僕の髪の色を変えたのに腹を立て殴りかかりましたなんて……


「あ、あそこに影が!」


 誤魔化す為に咄嗟に壁の隅を指差す。当然そこには何もない。


「何だって!」


「妾には壁にしか見えんが……」


 くっやっぱりもう少しマシな嘘をつけばよかったかな……


「おい! 本当にあそこなのか? 何もないではないか!」


「いや~あれ~おかしいなぁ?」


『くくく。この我の擬態を見破るとは……なるほど侮れん奴よ』


 その時僕が指さした壁から黒い影が浮き上がり人の形になっていく。

 マジで!? 何か出て来ちゃったし!


「みっみんなの目を誤魔化せても僕の目は誤魔化せないぞ!」


「いずんちゅぇー」


「和泉さんないわ~」


 どうやら友人の目も誤魔化せなかったようだ。

 だって本当にいるなんて思ってもみなかったんだもん!


『我こそが魔王様一の手下。影のギャーーーー!』


 僕は固まったままの兵士の手から槍を拝借しそのまま影に突き刺す。


『貴様! まだ我が話しているではないか!』


「うっさい! どっちにしろ敵なんでしょ!」


 周りが呆然としている間に終わらせて話題を変えなくちゃ!

 僕は適当に影を突いたり切ったりする。

 すると武さんと陽向も兵士から武器を取り一緒に攻撃し始める。


『ふふふっ最初はいきなり槍で突き刺されたので驚いたが無駄よ無駄』


「こいつ! 意外とめんどくさいぞ!」


「いい加減にしろよ……なっ!」


 影はその後何度も攻撃してもいっこうにダメージを与えられている気がしない。

 なんか粘土に槍を刺している感じだ。


『ふふふっもう一度名乗ってやろう!

 我こそは魔王様の一の配下! かgギャーーーー!』


 イラついて来たので足元の影を突いたら今までとは違う感触が手に残る。


『グハッもしや我の核を突いてくるとは……流石勇者と言ったところか……

 悔しいがここは一旦下がらねば……』


「逃がすと思っているのか!」


「ここか! ここが弱点か!」


「オラオラ! しんじゃえ!」


『貴様ら! 人が話している時はちゃんと聞きなさいと親から教わってないのか!』


「うるさい! 魔人が人の道徳を説くな!」


『くっ! 今宵は勝ちを譲ってやる!

 だがな第二第三の刺客がきっと貴様らを……』


「「「だからうるさいんだよ!!」」」


『貴様らの顔は覚えたからなぁぁ……』


 三人同時で影を叩くと何かが割れる音が部屋に響き影は悪態をつきながら消えてしまった。

 ふっ悪は滅んだ。

 すると軽快な音が頭の中に響いた。

 何? この音?


「よくぞ魔の者を追い払ってくれた! やはりそなた達が勇者なのだな!」


「いや、これは何と言うか……ね?」


「そうですよこれは……えっと……」


「よいよい。勇者ともなれば隠さねばならぬ事も多いじゃろ。

 今宵はこの城に泊まるがよい。

 そこの! 至急部屋を用意せよ!」


「はっ只今!」


「ゆっくり休むがよいぞ」


 ノンナ姫は一番身近にいた兵士へ部屋の準備を頼むと大変満足した様子で部屋を出て行った。

 残りの兵士も気絶してしまったバジルさんを担ぎ僕らに一礼して部屋を出ていく。


「ちょっと! 待って!」


「あ~あ。こりゃもう受けるしかないな」


「まぁ大神さんの依頼とかぶるし。いいんじゃない?」


 しょうがない。適当にやって誤魔化すしかないか。幸まだ魔王は復活してないっぽいし。


「それにしても、さっき何か音鳴らなかった?」


「あ、オレも聞こえた」


「何か鐘の音みたいな音だろ? 俺も聞こえたぞ」


「何なんだろうね?」


「さぁな。まだこの世界について何も知らないからな」


「また大神さんとかが説明してくれるでしょ」


 その一番大切な所を大神さんや神崎さんに頼らないといけないって事が一番不安なんだけどね?


 そのまま僕たちは兵士の人が呼びに来てくれるまで魔法陣の書かれた部屋で時間を潰した。

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