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21話 最終試験②

 道行く人の視線に晒されるという羞恥プレイに耐え、何とかルーキーズアトリエにたどり着く。


 アトリエの中は祭りのような賑わいだった。

 体育館並みの大きさの建物の中に屋台のようなお店が出店していて、その店を駆け出しの冒険者から冒険者ではない人まで多くの人が眺め時に手に取り物色していた。


「ラグズランドのルーキーズアトリエにようこそ! お買い物ですか?」


 入り口付近で呆けていたら係りのお姉さんに声をかけられた。ちょうどいいや、この人に相談しよう。


「あの、ブラックスミスの試験で……」


「あ~今年の受験者さんですね。それでは店長の所に案内しますね~」


 全てを言い切る前に先回りで答えられてしまった。接客のプロは違うね。


 賑わいを見せる屋台を横目に僕達は奥の事務所へと連れていかれた。

 事務所の中はさっぱりとしていて、一番奥の机にクマが座っていた。

 いや、何を言っているのかわからないと思うがその風貌はクマとしか言い様が無い。


「店長~今年の受験者さんをお連れしました~」


「ご苦労様です」


 意外にもクマは外見と違い丁寧な言葉使いで話しかけて来た。


「私がこのルーキーズアトリエの店長をしております、キース・ビアズリーと申します。以後お見知り置きを」


 キースさんに挨拶をするといきなり本題へと移行する。


「さて、君達は何が作れるのかな?」


「武器は全種類に属性と魔法付与品エンチャントも少々」


「防具も同じです」


 僕の言葉にリッカも引き続いて自分の得意分野を紹介する。


「魔法付与品だって? それは本当かい?」


 しかしキースさんは意外にも僕の言葉に反応した。


「……はい、僕が魔法付与師のスキルを持っています」


 僕の発言にキースさんは独り言をぶつぶつと言い始めてしまった。正直見ていて不気味だ。


「試しに何か作ってみてくれるかい?」


「わかりました。では短剣でも……」


 僕は準備をするためにアイテムを弄りだすと、それを見たキースさんから待ったがかかった。


「一から作るのではなく、こっちの指定した武器に魔法付与してみせてくれないか? 疑っている訳じゃないけど、その方がいいだろう?」


 僕はキースさんの言葉に頷いておいた。別にモノが変わってもやることは同じなので問題ない。

 僕の返事を受けとると先ほどの受付のお姉さんが一本のダガーをその場で作って手渡してくれた。こういうお店だと受付の人もブラックスミスなんだとちょっと感心してしまう。


「それじゃその短剣に風属性と速度上昇系の補助魔法を付与してくれるかい」


「わかりました。

 神風の伊勢の主に恐み恐みも白す。

 我が手に在りし短剣にその御力を宿したまえ」


 僕が祝詞を言いきると短剣の刀身が薄い緑色に変化する。完全に変化したのを確認してからら次の作業に入る。


「汝、風の神の加護を享けたのも。その力を以て我に更なる力を授けたまえ」


 言い終わると同時に刀身に短く文字が浮かび、そして砕けた。

 砕けた欠片は短剣へと吸収され、刀身の緑色が少し濃くなった。

 よし、魔法付与も無事終了っと。最後に鑑定をして終了だ。

 ん~ま、こんなものでしょう。


 指定された魔法以外も付いちゃったけどそれはご愛敬ってことで。

 僕は先ほどから黙っているキースさんに短剣を手渡した。


「これは……さっきの呪文といい君は何処で魔法付与を習ったんだい?」


「え~と……アキツ国で少々……」


 本当は前の異世界で習得したスキルにアレンジを加えただけなのだが、ここは適当に誤魔化しておこう。どうせアキツ国に調査しに行けないんだし。


「そうか。その不思議な呪文もそこで?」


「ええ、そうです」


「……よし。君たちが魔法付与の武器を売ることを許可しよう。ただし、値段はここの上限である二〇〇グラーまでだけどね」


「許可が必要だったんですか?」


「余計なトラブルを避ける為だよ。魔法付与と言っておきながらまがい物を掴ませる……

 そんなことされたら店も客にも迷惑だろう?」


「なるほど、わかりました。それで値段が二〇〇グラーってのは?」


「この店の規則でね。販売する武器の値段は最高でも一〇〇グラーて決まっていてね。

 魔法武器はその倍って事で二〇〇グラーまでにしてもらうよ」


 それからキースさんに注意事項を教えてもらい今日は解散となった。

 店は明日から出店となったため、特例として今日から宿を貸してくれるそうだ。

 一週間は宿泊費と場所代はタダと言う話しなので、それ以降も店を出すつもりならまたキースさんと相談しなくてはいけないらしい。

 まぁ武器の値段の目安もついたし。あとは売って売って売るだけだ!


◆◇◆◇◆◇◆◇


「イズミさん、いつもあんなことやっていました?」


「いや、今日が初めて」


「そうですよね。急に呪文を唱えるからビックリしちゃいましたよ」


 早速受付のヒルデさんに部屋へと案内された僕達は明日の準備を……せず駄弁り始めた。

 焦ったところで上手くいくわけが無いとたかをくくり取り敢えず一休みと言うわけだ。


「さて、夕飯までは時間があるし……どうしようか?」


「そうですね~お風呂に行くか、アトリエ内のお店の相場を調べましょうか」


「そうか、相場を調べておかないと価格設定が出来ないんだ」


「魔法武具限定で全て二〇〇で売るのも手ですが、さすがに博打が過ぎると思います」


「そうだね、じゃちょっと敵情視察に行きますか」


「はい! 御供します!」


 やることが決まったら善は急げとアトリエまで移動する。


 アトリエ内に出店出来るお店の数は十店までで、その内出店しているお店は全部で八つだった。

 一つは僕達のお店だとして残りの一つは空きなのかな?


 出店しているお店を一つ一つ見て回ると武器専門店が三つ、防具専門店が二つ残りは両方取り揃えているお店だった。専門店はほぼ一人で切り盛りしていてたまに売り子の人がいる程度だ。

 逆に両方取り揃えているお店は二人から三人。多いところでは四人で回しているお店もあった。完全に分業されておりスムーズに回転している。


 販売されている武具も『鋼鉄』までで、ほとんどのお店は『鉄』が主流だった。売値の最高額が一〇〇までなので鋼鉄でギリギリなんだろう。


 値段は『鋼鉄』で九〇から一〇〇。『鉄』で七〇から八〇が相場のようだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「どこも同じ様な値段でしたね」


「最高額を決められちゃったらしょうがないよ。

 ここはお店を出す練習場のような場所なんだろうね」


「あたし達はどうしましょう?」


「鉄を主流にして要望があれば鋼鉄を使用するって所かな」


「素材……足りますか?」


「キースさんの話しだと、足りなくなたら融通してくれるようだよ。それなりに費用は掛かるけど」


「キースさんから素材を買うのを前提で値段設定した方がいいですね」


 夕飯を食べ終え僕達は明日の作戦会議を開始した。目標はアイアンシティへの転送代。取り敢えずやってみてダメなら次の手を考えよう。


「最悪奥の手もあるし」


「奥の手?」


「魔法付与と属性武具」


「あ~そう言えば他のお店では見かけませんでしたね」


「リスクが高すぎるんだろうね」


 魔法付与はスキルが無いと出来ない。属性武具も失敗する確率の方が高いし、成功してもオマケ程度の威力だ。だが、値段が値段なので付いててラッキー程度に思ってもらえればなんとかなる……かな?


 僕達の心配を余所に夜は更けていった。



 一夜明け、ついに勝負の一日目が始まる。

 出店予定の場所へ向かい開店の準備をしているとアトリエ内にどよめきがはしる。

 出所はどうやら昨日空いていた最後の出店場所のようだ。準備を一旦止め様子を見に行くとそこには見知った顔と目を見張るものが並んでいた。


「あら? イズミさんもこの都市だったのですね」


「お嬢様、このような者にお声を描けなくても……」


「エーリク。彼女は私のライバルです。それにライバルでなくとも挨拶はコミュニケーションの基本ですよ」


「お嬢様がそう申されるのならば……

 おい貴様! お嬢様の慈悲深いお心遣いに感謝しろよ!」


 最後の出店準備にはノーラ達三人が屋台を出すようだ。あの時ノーラの顔が曇ったのは一番距離のあるこの都市を引いたからだったのか。

 出店準備を残りの一人に任せてノーラと腰巾着であるエーリクがこちらに向かってきた。と言うかエーリクよ、開店準備を女の子一人にやらせるんじゃないよ。


「こんにちはノーラさんと腰巾着さん」


「腰巾着とは何だ! 俺の名はエーリクだ!」


「あらごめんなさい。いっつもノーラさんの腰に引っ付いているので勘違いしてしまいました」


「このっ……!」


「エーリク」


「しかしお嬢様!」


「常に私に寄り添っている忠実な部下だとイズミさんは仰っているのですよ」


 なっなんだと! 何て言うポジティブシンキング……


「何と! 発言そのものではなく、言葉の裏に隠されている意味を汲み取るんですね! 流石お嬢様です!」


 そしてこいつのノーラ至高主義も大概だね……


「ノーラさん、この人だかりは何ですか?」


 いつまでも本題にいかないためリッカが直接ノーラへと質問をした。いや、僕も質問をしようとしたんだよ……?


「多分私の店のせいですわ」


「何をやったのさ? 金魚のフン」


「金魚……? 言葉の意味はわからないが俺を侮辱する言葉なのはよくわかった」


「これですわ」


 再び言い争いを始める僕達を無視してノーラがあるインゴットを差し出してくる。そしてエーリクは僕の周りで小言を言いながらウロウロしている。

 あれ? あのインゴットどこかで……てかエーリクうざい!


「少量ですがマダスカス鋼が手に入りましたので。先着十名の方にはこれで武器を作って差し上げようかと思いまして」


 そうだ! 思い出した! ダマスカス鋼だ。

 えらい採算のとれないモノを……でもダマスカス鋼の武具が一〇〇グラーで買えるとなれば客はノーラのお店を目指すだろうな~


 ノーラの相手をリッカに任せて僕は一足早く自分たちのお店に戻ってきた。

 まずいな~先着十名だけとは言えあの宣伝効果は抜群だよなぁ……

 さて、どうすっぺ……

 今更あんな高価なモノは用意出来ないし……と、なればお店をいじるしかないか……

 僕達だけが出来る事と言えば……あれか。


「ノーラさんは凄いですね~今日から一週間毎日先着十名にダマスカス鋼の武具を提供するみたいですよ」


「リッカ、いい所に! 時間がない早速やろう!」


「何をですか?」


 僕はアイテム欄から反物を数個取り出しリッカに次々とかけていく。

 いきなり何枚も布を肩にかけられたリッカは目を丸くし固まってしまっている。


「イ、イズミさん!?」


「うん。これだね」


 僕は淡い朱色の反物を手に取ると一気に採寸していく。リッカが小柄でよかったよ。普通の女性サイズだったら間に合わない所だった。

 リッカにお店の準備を頼み一気に縫い上げて行くがどうしても間に合いそうにない。

 しょうがない……お手伝いを増やそう。


「口寄せ! 阿形あぎょう! 吽形うんぎょう!」


「御用ですか? ご主人様!」


「ふむ、何のようだ主」


 屋台に二匹を召喚する。リッカは初めて見るようで驚きの余り手がとまってしまった。


「イズミさんは召喚魔法も使えるんですか?」


「あ~そんな感じ? と、僕の事はいいから阿形、リッカを手伝ってお店の準備! 吽形は僕を手伝って!」


「わかりました!」


「吾輩に任せておけ!」


 四人で作業を続けると何とか時間までに準備を整える事ができた。

 さて、ここで一番の問題が……どうやってリッカに着付けをしよう……まぁ僕がやるしかないんだろうな。

 手元に闇魔法を展開させ、等身大の球を作る。


「リッカこっちにきて」


「なんですか?」


 近付いて来たリッカをそのまま作った闇の球に落とす。何か悲鳴みたいなのが聞こえたような気がするけど気がしただけだろう。


「じゃ僕達は着替えてくるから。店番頼むね」


「お任せください!」


「なる早で戻ってくるのだぞ」


 何でこっちの召喚獣が『なる早』とか知っているんだろう?


 闇の中に入るとリッカが膝を抱えて踞っていた。何やっているんだろう?


「リッカ?」


「イズミさん! こんな所に閉じ込めるなんて酷いです!」


「外で着替えたくないでしょ? さぁ時間が無いからさっさと脱いで」


「脱いでって……イズミさんようやくその気になってくれたんですね!」


「言っている意味がわからないよ。ユニフォームを作ったからそれに着替えるよ」


 未だにきょとんとしているリッカに実際に着替えて見せる。

 服装を見た瞬間顔を輝かして、すぐに着替えようとしたのはやはり女の子だからだろうか。


 僕が作ったユニフォームは和服である。

 キースさんにアキツ国風の魔法付与を見せた時の反応や、リッカや神崎さんが僕の寝間着を見たときの反応がとても良かったのを覚えている。

 上手くいけば物珍しさに人が集まってくれるかもしれないと言う考えだ。

 本来は下着も着けないらしいが初めて着るものだし、周りの目もあるので下着着用のまま着替えていく。最後にたすき掛けをし余分な袖をまとめて完成である。


「イズミさん似合いますか?」


「うん、可愛いよ」


「かっかわ……えへへ」


 さて、準備は整った。後は精一杯売るだけだ!

 球体から店に戻り、僕が気合いを入れ直すと同時にアトリエ内に開店を告げるアナウンスが流れる。

 一週間の勝負が幕を開ける。

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