20話 最終試験
アイアンシティに来てから三ヶ月が経ち、世間では秋の装いが強くなりつつある。
ブラックスミスの修行の方も順調で、既に習得している武器製造は中級に。そして新たにメイスと特殊武器の初級を獲得した。
特殊武器は読んで字の如く一般的な剣や斧と違い、アサシンが使うカタールや魔法使い用の杖、更には投擲武器なんかが含まれていた。
また基本的な武器製造の他にも属性武器と魔法付与の方法なんかも学んだ。
属性武器は武器に火、水、風、土の四系統の属性を加えて作られた武器の事で三段階の強さがある。
一番下の強さはインゴットに初歩魔法を付与した物で作られた武器。
加えられている魔法が初歩魔法の為、威力は申し訳程度で、無いよりはマシ位だ。
多くが新人の練習用に作られるから普通の属性武器よりは安く手に入る。
二番目はインゴット製造過程に属性金属又は属性石を加えた物で作られた武器だ。
初歩魔法よりは強く安定した威力を出す為、通常の属性武器として市場に多く流れている。
しかし、属性を加えたインゴットの作製が非常に難しく。熟練のブラックスミスか魔法付与師のスキル持ちじゃないと作れない為、値段は通常の武器の二倍から三倍はする。
最後の一番強力な属性武器はインゴットや完成した武器に魔法使いが使う魔法。つまり戦闘用の魔法を付与した物で作られた武器になる。このインゴットを作るにはブラックスミスと魔法使いの魔力の相性が深く関わっているのではと実しやかに噂されているけど、噂の域を出ない。何故噂止まりかと言うと世界でも成功例が少なく、そして成功した者が情報を流さない為である。
この戦闘用魔法を付与された武器は他の属性武器とは一線を画する威力を誇り、ある名家では家宝として扱われているとかなんとか……
当然市場には出回らず、入手するにはオークションで落とすか譲り受けるか……盗むか。
まぁ親方もそんな伝説もあるぞ的な話し方をしていたので、作るのは難しそうだ。
魔法付与武器とは属性武器とは違い、持ち主の筋力を上げたりスピードを上げたりとサポート的な魔法がかけられた物をさす。
こちらは出来上がった武器に魔法を付与するため、魔法付与師のスキル持ちじゃないと作れない武器だ。しかし逆に言えば、魔法付与師のスキルを持っていればブラックスミスでなくても作る事が出来ると言うことで、有名なウィザードやソーサラ―に製作者が多いそうだ。
いや~学ぶ事は多いね~
◆◇◆◇◆◇◆◇
ある朝僕達見習い五人と先輩達数名が工房の前に集められた。なでもこれから親方から特別な指示があるとか。メンバーを見るとどうやら見習いとどっこいどっこいの腕の連中が集められているようだけど……
しばらく待っていると工房から親方が二人の事務員を引き連れて現れた。そして僕達の前に立つと咳払いを一回。
「皆、集まっているな。それでは今日集まってもらった理由を説明するぞ」
親方の言葉に全員が息を呑むのが伝わってくる。さて、どんな事を言われるやら……
「ここにいる全員に最終試験を申し付ける! 全員心してかかるように!」
最終試験? 何それ? 先輩達を見てもついに来たかとそんな表情をしているだけで情報がいまいち伝わってこない。
「親方、質問をよろしいですか?」
どうやら疑問に思ったのは僕だけではないらしくノーラが早速親方に質問をした。
「最終試験っていったいなんですの?」
「最終試験とはお前達の独り立ち出来るかどうかを見極める試験だ。お前らも何時までも見習いのままじゃ困るだろう? そこでお前達が独り立ちし無事やっていけるかを見極めるって訳だ。
この試験に合格したら好きにしていいぞ。このままここの工房で働くもよし。自分の店を持つもよし。
ただし! 合格できなかったらもう一度基礎から叩き込むからな!」
ふむ、そう言えば忍者の時も三ヶ月で上忍試験だったな……いやあれは時期的なものもあったか。
さてと、とりあえずこの試験に合格しないと次のJobを取りに行けないって事か……意外と難儀だ。
「試験内容を発表するぞ。内容は……
各都市からこのアイアンシティまで戻って来ることだ!」
「「「は?」」」
僕たち見習いの声が揃う。何? 最終試験で旅をすればいいの?
「お前らは解らないって顔だな。よし! 詳しく話すぞ。
まずくじ引きでお前達の目的を決める。そして、そこからこのアイアンシティまで帰って来るまでの路銀を貯め無事に帰って来れば合格だ!」
あ~なるほどね、自分の作った武器を売って路銀を作り、そのお金だけで帰って来い……と。
なんとまぁ無茶をする試験だこと。
「テナントや寝泊りの場所は各都市の『ルーキーズアトリエ』と話しは付けてある。が、タダでルーキーズアトリエを利用できるのは一週間だ。それ以降その場を使うなら利用料を支払う事になるから心しておけ! また期限は二週間後。それまでに戻って来れなければ不合格とする!」
単純計算で一週間で路銀を集めて一週間で帰って来いか。なかなか楽しそうじゃない。
「もし二週間経っても戻れない時や諦める時はコレを冒険者ギルドへ持って行け。無料でここまで送ってくれるぞ。当然不合格だがな」
親方は僕達に銀色のプレートを一枚づつ渡していく。どうやらこれがこのアイアンシティまでの片道切符のようだ。まぁ使わないと思うけど……
「さて、それじゃそろそろくじ引きを始めようか。
お、そうだそうだ。この試験もパーティを組んでもいいぞ。その分稼ぐ金額は増えるがな」
親方がそう言うと大きな箱を持った事務員が一歩前に出て、先輩からクジを引かせ始めた。僕達の番まではまだ時間があるね。
「あの……イズミさん」
例によって例の如く隣にいたリッカが僕の服を遠慮がちに引きながら声をかけてくる。
多分パーティを組もうと言うお誘いだろう。まぁ答えなんて決まっているんだけどね。
「じゃ僕達は今まで通りパーティを組もうか」
「あっはい!」
僕の返答にリッカの顔に笑顔の花が咲く。
まぁ僕も一人じゃ心細いし、親方も組んでいいと言ったんだ。ここはお言葉に甘えよう。
「イズミさんは、やはりリッカさんとパーティを組むのですね」
リッカとパーティを組む準備をしていると後ろから声をかけられた。
まぁさっきまで近くにいたから声をかけてくるとは思っていたけどね。
「ノーラ」
「ふふっそうでなくちゃ面白くありませんわ! この試験で貴女方に私の実力を見せてあげますわ!
ライバルとして無様な戦いだけはしないでくださいましね」
あ、そう言えば最初の試験の時にライバル宣言されたっけ? すっかり忘れていたよ。
ライバルらしい事もやってきた覚えがないんだけどなぁ。
「お次の方どうぞ~っと二組残っていましたか。どちらが先に引きます?」
いつの間にか事務員さんが僕達の前に来ていた。ん~残り物には福があると言うし……
「ノーラ達からどうぞ」
「あら? それでは遠慮なく引かせて頂きますわ」
「どうぞどうぞ」
ノーラ達三人がクジを引くのを一歩引いた所から眺める。
あ、何か顔が曇った。そんなにいい場所じゃ無かったのかな?
「それじゃどうぞ」
事務員さんが箱を僕達に突きつける。
「リッカどうぞ」
「あたしでいいんですか?」
「いいよ。最後だから誰が引いても同じでしょ」
「それでは……」
リッカが箱に手を入れごそごそと中身をかき回す。ごそごそ? え? クジってあと一枚じゃないの?
「これです!」
リッカは勢いよく一枚の紙を引き真上に掲げる。そしてゆっくりと二つ折されている紙を開き……
地面に跪いた。
「どっどうしたの!」
「イズミさ~ん……指定都市が~」
僕はリッカから紙を受け取り中を読む。そこに書かれていた文字は……
『試験場:ラグズランド』
なんだ、スタート地点じゃん。これのどこがいけないんだろう?
「なんだラグズランドじゃん」
「なんだって……ここからラグズランドまでどれだけ距離があると思っているんですか!」
「え? どれくらい?」
「魔法船と馬車を乗り継いでも最短で一週間ですよ!」
「へぇそんなに遠かったんだ」
神崎さんに転送してもらったから全然距離感とかないや。ん? 転送……?
「へぇって! 一週間で路銀を集めないとその時点でアウトなんですよ!」
おお! そうだね最短でも一週間かかるなら最初の一週間で路銀を集めないとマズイね。
「何でそんなにのん気なんですか!」
「え? だってなんとかなるよ。きっと」
「何とかって……」
落ち込むリッカを何とか励まし親方の話しに耳を傾ける。
親方の注意事項などの連絡が終わると全員で冒険者ギルドへと向かった。どうやら冒険者ギルドから各都市へ転送してくれるそうだ。
やっぱり、僕が思った通りだ。意外と早く帰る手段が見つかったよ。
僕達は親方の含みのある嫌な笑顔に見送られラグズランドへと転送された。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁ……ついに来てしまいました……これからどうしましょう」
「とりあえず、元気出しなよ。ね?」
転送されたのはラグズランドの城門の前。ちょうど神崎さんに奥ってもらった場所と同じだ。
そうか。ここなら転移魔法で送られてきましたよって言い訳が出来るのか。神崎さんも意外と考えていたんだね。
僕達は門番さんにギルドカードを提示してラグズランドの中に入る。門番さんも「ああ、今年ももうこの時期か~」などとつぶやいていたから毎年恒例なんだろうな。
ラグズランドに入ったあと未だに落ち込んで元気のないリッカに話しかける。
「とりあえず冒険者ギルドに行ってもいいかな?」
「冒険者ギルドですか? 良いですけど、まだリタイアには早すぎますよ?」
リッカが物騒な事を言い出した。そりゃ『試験受けます、転送されました、リタイアしました!』じゃ親方もカンカンだろうね。
「ちょっと知り合いに挨拶と、確認したい事があってね~」
首を傾げながらも着いて来るリッカと共にラグズワルドの街中を練り歩く。
三ヶ月しか離れて無かったけど意外とお店も変わるものだね~
露店などを冷やかしつつ歩いたので多少時間はかかったが、冒険者ギルド前へと到着する。
さってと……エマさんはいるかな~?
「大きな建物ですね~」
「ルーズガスの首都だからね~それにここが冒険者ギルドの本部らしいよ」
「へぇ……」
リッカは建物の大きさに驚いているようだ。
でも親方の工房や北ブロックのお店だってここと負けない位大きかったと思うけどなぁ……
入口の扉を開けると酒場スペースからお酒とおいしそうな料理の匂いが談笑し合う冒険者達の笑い声と共に僕達のもとまで届く。ん~こういう雰囲気ってやっぱり好きだなぁ
「イズミじゃない! どうしたの!?」
酒場スペースを抜けお目当ての人物が居ないかカウンターを観察していると後ろから声をかけられる。
振り返り声の主を確認するとお目当ての人物がそこにいた。
「あっエマさん! お久しぶりです~今日はブラックスミスの試験で指定都市がここになったから挨拶しようと思って」
「そうだったの……もう連絡もくれないから心配してたのよ?」
エマさんは腰に両手を添えいかにも怒っていますというポーズをとった。まぁポーズだけで怒っていないのは声から判断できるだけどね。
「あ~ごめんなさい……忙しくてすっかり忘れてた……」
僕の答えを聞くと半分呆れながら「まぁいいわ。無事に顔を見せてくれたし」と言ってカウンターの方へと戻って行くので僕も一緒に移動する。
「さてと、今日の用事は……あら? イズミ、そちらは?」
カウンター内に戻ったエマさんが話しを振りかけた所で僕の後ろを指差した。指先を辿って行くと。僕の服を掴み背中に隠れるようにリッカが立っていた。
あ、リッカの事すっかり忘れてた。いけない、いけない。
「彼女はリッカ・カートラさん。見ての通りドワーフで、僕のルームメート」
「リッカ・カートラです。初めまして!」
リッカはやや緊張した面持ちでエマさんに挨拶をしている。そんなに緊張する事かな?
「で、こちらがこの冒険者ギルドでカウンター業務を担当してくれるエマ・アシュトンさん」
「初めまして、エマ・アシュトンよ。気軽にエマって呼んでくれて構わないわ」
「では、あたしもリッカと呼んでください」
「ありがとう、そうさせてもらうわ。
さて、話しは戻るけど今日はどうしたの? ブラックスミスの試験って事はルーキーズアトリエに行かないと行けないんじゃないの?」
「確認したいことがあったのと、エマさんに会いに来たんです」
「私に? 嬉しい事言ってくれるじゃない」
「お世話になりましたしね。
それでですね早速教えて欲しいんですが……アイアンシティへの転送料っていくらです?」
「アイアンシティ? 一人金貨二枚よ。
と言うか、貴女達アイアンシティから来たんじゃないの?」
「そのアイアンシティへ戻る事が試験なんですよ」
簡単にだけどエマさんに試験内容を教えた。試験場は知っていても試験の内容までは知らなかったようだ。まぁ何でも知っている方がアレか。
「なるほどね~自分たちが売った武器のお金だけでアイアンシティまで帰るんだ。ブラックスミスも大変なのね~」
納得したように数回頷いたエマさんは僕達に笑顔を向けてくれた。
「よし、それじゃここに来るルーキー君達にイズミ達のお店を紹介してあげるよ」
「本当ですか!」
「ええ、このエマさんにお任せよ!」
エマさんは自信たっぷりに胸を叩いた。その拍子にエマさんの胸がプルンと震える。体型がわかりずらいギルドの制服の上からじゃ確かなサイズはわからないが、ふむ。いいものをお持ちで……
「イズミさん……」
「イズミ……羨ましいのはわかるけど見過ぎよ」
女性二人からとても残念なモノを見る目を向けられる。
これはいかんですたい……どげんかせにゃならんばい……
「たっ助かります! エマさん」
目は泳ぎ言葉はどもりながらも必死に会話を終わらせた……終わらせれれるように努力した。
「はぁ……まぁ頑張りなさい。相談はいつでものってあげるから」
エマさんは「しょうがないわね~」と呟きながらも協力を了解してくれた。
危ない、危ない。さて、残りの一人はどうやってなだめようかな。
「ありがとう、エマさん。それじゃまた!」
僕はエマさんに挨拶をして冒険者ギルドを後にした。
後ろから言葉ではなく目で訴えてくる相棒を引き連れて。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「そんなに大きなおっぱいが好きですか……」
冒険者ギルドを出た所でリッカの恨めしそうな声が背中から襲ってきた。
「いやあれですよ? リッカさん。大きい胸が好きとかじゃなくてですね……」
ついつい答えが言い訳がましくなってしまう。が、実際に目を奪われたのだ、何を言っても言い訳になってしまうだろう。
「あたしだって……小さくはないんですよ?」
リッカは歩きながら自分の胸を下から救い上げるように抱えてみせた。
リッカさんやめましょう。周りの男共が見ています。
「大丈夫リッカ! 重要なのはトータルバランスだと思うよ!」
「イズミさんはあたしのおっぱい好きです?」
な……なんだと! その質問今答えないとダメですか? この街中で?
周りを歩いていた男共は自分は聞いてないですよ~と言いたげな態度をとっているが聞き耳を立てている事はバレバレである。
「どうなんですか? やっぱりエマさんの様なおっぱいが好きなんですか?」
リッカが両目に涙を溜めながらさらに質問を被せてくる。
やめて~そんな目で僕を見ないで~。
「す……好き……です」
僕の言葉に満足したのかリッカはとても嬉しそうに頷くとルーキーズアトリエを目指して歩き出した。
何だこの羞恥プレイ……当分明るい所は歩けそうにないな……
周囲から向けられる視線を気にしながら僕はリッカの後をとぼとぼとついて行く。
今回はまとめきれずちょっと長めです。
次回からしっかりとまとめ……られるといいな




