19話 とある和泉の休日
早いものでブラックスミスの修行が始まってから二ヶ月の時が経った。
レベルも順調に上がりスキルも着々と増えている。そろそろポイントを整理しなければと思ったところにタイミングよく休日がやって来た。
待ちに待った休み当日、リッカとノーラの二人と一緒に出掛けないかと誘われたが丁重に断りスキルを整理する。
いや~女の子二人から誘われるなんて意外と僕ってリア充?
「和泉様~お暇ですか~?」
そんなことを思っているといつも通り神崎さんの声が聞こえてくる。
どうしよ。構ってもいいけど、スキルもいじりたいし……まぁ適当にあしらうか。
「今忙しい」
「そんな~ベッドに寝てるだけじゃないですか~」
「……スキルいじってるから忙しい」
「へぇどのようにするんです?」
「…………内緒」
「何ですか~教えて下さいよ~」
「………………」
「無視しないで~」
さて、うるさいのは放置して。スキルをいじりますか。
名前:宇江原 和泉 Lv:20 Job:忍者Lv:43・ブラックスミスLv:25
ノービスLv:20
HP:730/730 MP:820/820
力 :55
素早さ:70
体力 :60
魔力 :80
器用さ:85
運 :49
スキルP:635P(B:100・J:535)
スキル:
狩人の目・筋力アップ(小)・医療知識・電光石火・魔法付与師・初歩魔法・家事・火忍術5
土忍術5・金忍術5・水忍術5・木忍術5・光忍術3・闇忍術5・回避術5・体術3・剣術2
投擲術5・忍び足・隠密・魔力強化3・魔力消費減少3・魔力回復3・鍛冶師の魂・鑑定3・
金属製造3・短剣製造5・剣製造3・防具製造3
うん、大分見づらい。これなんとかならないかな? とりあえず専門家に相談してみますか。
「ねぇ神崎さん。このスキル表大分見づらいけど何とかならないかな」
「ふんだ。困ったときだけ当てにして。私そんなに都合のいい女じゃ無いんですからね」
いや、困ったときに助けるのが君の仕事でしょうよ……
「でもですね~私和泉様の事好きですから? どうしてもと言うなら助けてあげなくも無いですよ?」
「じゃいいや。少し位見づらくても我慢するよ」
「え?」
さ~て、何を上げようかな~
「和泉様? あの……ちょっと?」
とりあえずハイレベルな武具も作れるようになりたいし……
「ごめんなさ~い! やります! やらせて頂きますから無視しないで~」
最初からそう素直に言えばいいのに。
神崎さんが半泣きでスキル表をいじり始め、手持無沙汰になったのでその間におやつを用意する。
うん。この間密かに買っておいたプラムっぽい果物にしよう。
このアイアンシティは鉄や武具などの値段は安いのだが、こういった果物などの値段は高い。
多分ここら辺では生産できないものなので多少高くて街の人達が買ってしまうからだろう。
「できましたよ~これで多少は見やすくなったと思いますよ~」
紅茶と共にプラムを持って戻ると神崎さんがやり終えたと言わんばかりの顔をしていた。
「じゃ確認するね」
《スキル:市民・ノービス・忍者・ブラックスミス》
何じゃこりゃ。スキルがなくなっているけど……叩いた方がいいかな?
「見たり編集したいJobを選択するとスキルが表示されるんですよ~すぐ暴力に訴えるなんてどこの武さんですか?」
剛田さんところの武さんじゃない事は確かだよ。
さて、それじゃさっそくブラックスミスからいじりますか。えっとブラックスミスを選択すればいいんだよね
《ブラックスミス:
鍛冶師の魂・鑑定3・金属製造3・短剣製造5・剣製造3・防具製造3》
おお! 格段と見やすくなったね。腐っても担当者って所かな。
「あの~和泉様?」
「なに?」
「私頑張りましたよね?」
「そうだね。頑張った頑張った」
「あの! 私ご褒美が欲しいです!」
ふむ、折角ここまで見やすくしてくれたんだし。お礼の一つもしないといけないか。
さて、何がいいか……あ、これにしよう
「わかったよ。じゃ……」
僕は左手で神崎さんの顎を優しくつかみ顔を上に向かせる。近付いた瞬間女の人特有の甘い香りが鼻孔を刺激する。むぅ神崎さんのくせに生意気だぞ!
「はわわ! 何か期待以上のご褒美ですよ!」
「ほら、目を閉じて……」
「はい! ばっちこい!」
ばっちこいって……まぁいいや。それじゃお礼って事で。
僕は神崎さんの唇へだんだんと近づけていく。
皮の剥いたプラムを。
唇にソフトタッチする感じでプラムをヒット&ウェイさせる。
「あ、柔らかい……和泉様とっても柔らかいですよ! それに瑞々しくて……皮の剥いた果物みたいですね! プラムっぽい味がしますし!」
この人わかって言っているんじゃなかろうか? まぁいいや続けよう。ばれたらばれた時だし。
「さっきまで食べていたからね。さぁ今度は舌を出して」
「いきなりそこまでですか! キャフー-! もう今夜は寝かせませんよ!」
テンションの上がった神崎さんがイヌのように舌を出して荒い呼吸を繰り返す。
「こうれふか?」
「うん、そう。そうじゃ……いくよ」
僕は右手に持ったプラムをそのまま神崎さん口に放り込んだ。
「がっ! ゴホっ! おえぇ」
上を向いていたのがあだになったのだろう。プラムはそのまま神崎さんの喉を強襲したようだ。
あ~あそんなにむせちゃってまぁ……
「一体何が!? あれ? 私のファーストキスは!?」
「ファーストキス? そんなものはまやかしです。
それより、お礼のプラムですよ? おいしいですか?」
「なんで!!」
「何でって言われても……そのプラム結構高いんだよ」
正確には一玉で五グラー、日本円で五〇〇円もするのだ。大事に味わって欲しい。
「私の思っていたものと違う~」
「そう。じゃ次の機会だね。当分ないと思うけど」
「ひ~ど~い~!」
さて、適当に神崎さんもからかったし、スキルスキルっと。
基本的にブラックスミスのスキルは鍛冶系。商人系。戦闘系の三タイプのようだ。
といってもほとんどが鍛冶系のスキルで商人系は三つ、戦闘系は四つしかスキルがない。
まずは商人系からみるか。
商人系のスキルは『ディスカウント』と『オーバーセール』、『鑑定』の三つ。ディスカウントはなんとなくわかるけど、オーバーセールって……
スキル内容は物品を取引するときに安く買えたり高く売れたりするスキルのようだ。
まぁとっておいて損は無いからどちらも最高レベルまでとっておく事にしよう。
あと、鑑定もついでに最高レベルにまで上げた。これで午前中の講義も楽になるといいな。
次は戦闘系スキルを確認する。戦闘系スキルは全部で四つ。
『ハンマーフォール』
『ハイスピードラッシュ』
『オーバーアタック』
『マキシマムウェポンパワー』
ハンマーフォールは槌やメイス 、斧等を地面に叩きつけ広範囲に衝撃を飛ばすスキル。
ハイスピードラッシュは鈍器などの重量のある武器の攻撃スピードを上げるスキル。
どちらも僕の持っている武器では使い様の無いスキルだ。
オーバーアタックは武器の限界以上の攻撃力を引き出すスキルなのだが、無理矢理に力を引き出すから武器の壊れる確率が格段に上昇する。下手をすれば一回振るっただけで新品の剣が折れる事もあるのだとか。
マキシマムウェポンパワーは武器の数値を最高値に引き上げるスキルでオーバーアタックと違い壊れる事は無い。が発動すれば常時魔力を消費し続けるので注意が必要だ。
さて、どうしようか……正直全部使わないと言えば使わないスキルだが、オーバーアタックとマキシマムウェポンパワーはとっておいてもいいかな。
とりあえずオーバーアタックとマキシマムウェポンパワーを中級まで取得しておいた。使わなければ神崎さんに頼んでリセットしてもらえばいいだけだし。
◇◆◇◆◇◆◇◆
戦闘系スキルを確認しおえた時、ちょうどお昼の時間になった。
ん~どうしようかな……自分で作ってもいいけど……龍の昼寝亭のランチでもいいなぁ
龍の昼寝亭はこのアイアンシティの人気の宿屋で食事の旨さに定評がある。よく夕飯やお弁当が準備できなかった時にランチを食べに行く店だ。
「私龍の昼寝亭のランチがいいです!」
「行ってもいいけど奢らないよ?」
「ええっ!!」
なぜ奢って貰えると思っているんだ? この担当者は、僕だってそんなに貰って無いんだからね。
ブラックスミス見習いと言うことで僕達には親方から月五百グラーの給料が至急される。
月五百グラーってお小遣いかよってツッコミそうになったけど、元の世界では五万円なのでお小遣いよりは多いけど、社会人の給料としてはどうなの? と思わなくもない。
まぁ家賃、水道光熱費免除の寮に住んでいるから文句は言えないけどね。
初めは外食中心だったが、やはり食費が痛い。そこでリッカと相談し自炊をするようになった。食費は折半するようになり先月と比べると大分手元に残るようになったのだが……
お金が増えた事に比例して僕の家事の負担が増えた。理由は簡単。僕のルームメイトが凄いドジっ子だったのだ。
最初の頃に一度一緒にご飯を作ったのだが、包丁を渡して十分もしないうちに左手の指を全て切った。嘘でも冗談でもなく、親指から小指まで全部である。
親指とかどうやって切ったんだろう……そっちの方が難しいと思うけど。
そんなことがあったので料理は全部僕が作ることになった。流石に僕もドレッシングの代わりに血が掛かったサラダを食べたくない。
まぁ別に嫌いじゃないし家事スキルもあるからいいんだけどね?
そんなんだから休日位家事から解放されたい。ちょうどリッカは出掛けてるし、ちょっと楽しても許されるだろう……
ダメだ。考え方が完全に主婦のそれになっている……
◆◇◆◇◆◇◆◇
多少落ち込みながらも龍の昼寝亭で神崎さんと一緒に昼食を済ました。置いて行く気満々だったのにさり気無く着いて来てちゃっかりと同じ席に座っていた。僕以上に忍者っぽい人だ。
龍の昼寝亭の料理はやはり素人が作るご飯とはどこか違う。
今度マスターに教えてもらおうかな……でも給仕をやれと言われても困るしな~
そのまま龍の居眠り亭でまったりしながら鍛冶系のスキルの確認だ。長居するのでお茶とお菓子の注文も忘れない。
えっと……今日まだいじってないスキルは……鍛冶系のスキルか。
《金属系:
金属製造(上級)・ダマスカス鋼製造(初級・中級・上級)・オリハルコン製造(初級・中級・上級)
属性金属製造(初級・中級・上級)・研磨》
《武器系:
斧製造(初級・中級・上級)・両手剣製造(初級・中級・上級)・槍製造(初級・中級・上級)
メイス製造(初級・中級・上級)・特殊武器製造(初級・中級・上級)・防具製造(上級)
武具修理》
が鍛冶系のスキルか。金属の方はどうしよう。金属製造の上級だけ取っておこうかな。他の金属はいきなり出来るようになったら怪しまれるし、それにとっておきも残っているしね。
武器の方は、ん~斧と両手剣、槍の初級をとっておくかな。需要はそこそこある武器だし。
そして基本スキルで筋力アップを中級に、魔力消費減少と魔力回復の上級を取得しておいた。
こんな調子でスキルの方も調整が出来た。
そのまま寮に帰ろうと思った時、手持ちの苦無が少なくなっている事に気が付く。
どうせ外出したんだし、練習場の炉を貸してもらおう。
僕はそのまま練習場へと足を向ける。まぁ歩いて五分もないんんだけどね。
練習場には親方が居てすんなりと炉を貸してもらえた。そのついでに嬉しい拾い物までしてしまった。
それは砂鉄である。
このアイアンランドでは一般的にはインゴットは鉄材から作るのだが、僕が使っている苦無は砂鉄から作られている。そう玉鋼と呼ばれるものだ。
玉鋼の製鋼法は色々とあり相当の労力を強いられるのだが、ここは魔法とスキルの世界。難なく最高品質の玉鋼を手に入れる。
この光景をちゃんと製鋼法を使っている人が見れば激怒では済まされないだろうな。
そんなことを思いながら手に入れた砂鉄を次々に玉鋼へと変換させていく。
その後調子に乗った僕は魔力と言うかチャクラを使い果たし倒れてしまう。
知らなかった。魔力を使い切るとこんなにも具合が悪いなんて……今度からは色々とセーブしながら使っていこう……
自力では動けなかったので見回りに来た親方に頼みリッカを呼んでもらい現在そのリッカに運搬されている最中である。
「もうイズミさんはあたしが居ないとダメなんだから」
「めんぼくない」
「帰ったらお礼として一緒にお風呂入ってもらいますからね」
どこか嬉しそうな声でリッカが問題発言を繰り出す。てか今までも何だかんだ言って一緒に入っていたよね?
ただ今回ばかりは何も言えず只々リッカに従うのみである。僕の胸の中もどこか暖かいものが広がっていく。
これは和泉が過ごした休日。騒がしくも何処か楽しい普通の休日。
今回の変更スキル:
鑑定3⇒5 バーゲンセール5 オーバーセール5 オーバーアタック3
マキシマムウェポンパワー3 金属製造3⇒5 斧製造1 両手剣製造1 槍製造1
筋力アップ(小)⇒(中) 魔力消費減少3⇒5 魔力回復3⇒5
消費P:
Jp:535⇒335
Bp:100⇒50




